ちょうちょ結びにしただけの帯は手先を軽く引っ張るだけですぐにほどけた。浴衣の合わせがはらりとはだけて、今にも肌が見えてしまいそう。部屋の明るさには身をすくませた。
 できれば真っ暗闇にしてほしいけれど、ぜいたくは言えない。銀時が、ようやくその気になってくれたのだ。


 浴衣の中に銀時の大きな手が這入ってくる。肩から腕へ、着物をはがしながらゆっくりと動く手のひらは、どこか物言いたげにには感じた。とても意味ありげなイヤらしい手つき。イヤらしいことをしてるんだから当たり前か。
 時々ぞっと悪寒がしたり、反対にぞくりと背筋が粟だつ。反射的に銀時の手を払いそうになることもあったけれど、は目を閉じ黙って堪えた。何をされても我慢しなくちゃ。
 1時間か2時間か、ほんのそれくらいの辛抱なのだ。そうすれば銀時はに大きな借りを作ってくれることになる。
 こんな子供の体を奪って、女にしてしまうなんて、きっとものすごく責任を感じてくれるに違いない。この人はそういう人だ。
 には手持ちの札と言ったって、自分の体くらいしかないけれど、それでも一応若い娘の手付かずの体。
 せいぜい高く売りつけて、そのやましさにつけこんで。
 これからずーっと一緒にいてもらうのだ。だけのものになってもらう。いいじゃないそれくらい。
 は他には自分の物なんか何一つ持ってないんだもの。


 銀時が深くじっくりとキスをくれた。舌が口の中を這い回るのが、ふざけて遊んでいるようだった。別れ際には唇が、の唇をしゃぶって離れた。
 それから頬にしゃぶりつく。それをキスとは言い難かった。ちゅうっ、と音がするほどきつく吸って、ぺろりと舐めて、もう一度吸って、時々噛みつく。反対の頬にも同じように。場所を変えまぶたにも額にも。
 留守番させられていた犬がご主人を出迎える時みたい。顔中をべたべたにされてから、ついにからふふっ、と小さな笑いがもれた。

 薄く目を開けると、焦点のあわないほどのすぐ近くに、じっと自分を見つめる顔がある。
 二人でおやつを食べながら冗談でも言いあう時のような、悪戯っぽい銀時の笑顔。なのに、目だけはほんの少し真剣。
 それを見ての震えが止まった。
「あれ」
 不思議に思って手のひらを見た。震えが止まってから初めて、は自分が震えていたことに気づいた。それまで自分がとても緊張していて、顔も体も、それから心も、ずいぶんとこわばっていたことを知った。


 本当を言うと怖いのだ。これを最後にたちはそれぞれ変わってしまうんじゃないかと。
 男の人と女の人の関係になってしまったら、それまで兄のようだった、父親のようだった、弟のようだった銀時はどこにもいなくなってしまうのかと。

 その顔を見て安心した。たちは、多分なんにも変わらない。
 今より少し仲良くなるだけ。

「しょーがねぇよな、お前銀さんが大好きなんだもんなー?」
 言われては微笑んだ。その通りだ。は小狡くて計算高い娘だけれども、今までずっと、これからもずっと、銀時が大好き。それは嘘じゃない。
「うん」
 ぎこちなく、自分から口唇を合わせた。上手なやり方なんてまだ知らない。



 銀時の口唇があごから首に移動して、次は鎖骨を這うように舐める。
 浴衣をずらして肩。少し戻ってわきの下。顔と同様に、舐めて、吸って、かぷりと甘噛みする。身体も唾液でべったりと汚された。
 すぐに浴衣はすっかり脱がされ、豊かな丘が薄明かりに映えた。
 それを待ち焦がれていたように、荒々しく性急に、乳房のふもとに吸い付かれた。行為そのものより、そんな部分に触れられているということに、は鳥肌がたった。
「や…」
「イヤ?」
「い、いやじゃないよっ」
 そう言うしかない。こんなところでやめられてしまったら困る。やっとここまでこぎつけたのに。

 銀時はのふくらみにしゃぶりつき、時々とても大切そうに、弾力のある白い丸みに頬をすりよせた。それからついに唇が、先端の突起で遊びはじめる。口に含んで転がされ、舌でちろちろと弾かれた。
 「くすぐったい」にとてもよく似た感覚だった。よく似ているけれど正反対で、くすぐられているのに泣いてしまいそうな感じ。快感かと訊かれるとよくわからない。違和感なのは間違いない。
 それでいて自分の気持ちとは関係なく、時々びくりと体が震えて喉の奥から張りつめた声が漏れる。
「んっ…」
「勃ってきた」
「へん、なこと言わないでよっ…」
 それでなくともはかちかちに緊張してきている。銀時の愛撫がの胸から、次は腹部へ、順に下へと動いている。迷わずの大事な場所を目指している。
 部屋は明るい。このまま「そこ」も、間近に見られてしまうんだろうか。どうしよう。それは、まだ、心の準備ができてないよう。

 の身体が再び震えだしたことに銀時も気がついたようだ。起き上がると意外に真面目に心配そうに、の目を覗き込んでくれた。
「…どした?」
 がなんにも言えずにいると、少し困った顔になる。
「えーと…、やっぱ、怖い?」
 そうじゃなくて。
 返事をしようと思ったのに、とっさに声の出ない自分に驚いた。そんなに緊張してしまっているとは。
「あの…、あっ、あのね…」
 どもってしまって後が続かない。かっこわるい。どうしてもう少し余裕をもっていられないんだろう。大事な所でこれじゃあ台無しだ。
「ちょ、ちょっと…その、は、はずかしいだけ…です…」
 消え入りそうに、やっとそれだけを絞り出した。しかもなぜ敬語。
 の真っ赤な情けない顔も、きっと銀時には見えているんだろう。くくっ、と少し笑われた気がした。


「そっか」
 銀時が身体ごと上にずりあがり、と目と目を合わせて訊いた。額に軽く唇が触れる。
「これは?恥ずかしい?」
 ううん、とは首を振った。
 次に唇と唇を合わせた。が薄く口唇を開けると銀時の舌が分け入ってきた。小さな舌をちゃぷちゃぷと、からめとられて吸い込まれる。いつのまにか大きく口を開けさせられていて、そしてなかなか閉じさせてもらえなくて、端からよだれがひとすじ垂れた。それもそんなに恥ずかしくはなかった。
「じゃ、これは?」
 のけぞった喉に吸いつかれると、の身体がはっきりと震えた。
「恥ずかしい?」
「ん、ううん、それは…、はずかしくはない…」
 ただぞくぞくする。

 銀時の口唇が移動して、もう一度乳房にたどりついた。先端は今もまだつんと上向きに勃っていて、ぺろっとひと舐めされただけで声が出た。まだそれほど艶っぽくはならない、吐息ともあえぎ声ともつかない音。
「は…ぁっ」
 片方は口唇で、片方は手で、両方のふくらみを丁寧に愛される。たぷっと重みのある肉を持ち上げるように何度も揉まれる。
 中心を指先でぐりぐりと押しつぶされた。反対側は軽く噛まれた。左右を同時に責められると、片方ずつされた時の何倍も強い刺激が脳にまで届く。ともすれば刺激に意識を持っていかれて何も考えられなくなる。ぽかん、と頭の弱い子みたいに口元がだらしなく開きっぱなしになってしまう。
 弛みきったそんな顔を見られたくなくて、は両手で顔を覆った。

「だぁめ、ちゃんと銀さんにお顔見せんの」
 銀時がその手をどちらもつかんでどけた。抵抗しようとするものの力が少しも入らない。銀時はの顔を嬉しそうに見下ろした。
「きもちよさそーな顔しちゃって」
「きもちいい?」
 ひとつ覚えた。そうか今のこれが。
 銀時の顔がぼやけて見える。頬と目と頭がどこも熱く火照っている。ほわほわと身体は浮き上がりそう。それからもっとしてほしい。おかしいな。さっきまですごく恥ずかしかったのに。何もかもどうでもよくなってきた。
「もっとさわっていい?」
 はうっとりとうなずいた。よしよしと満足そうに、銀時は頭を抱いてキスしてくれた。
 そのまま銀時の指だけが、の体を下へ這う。よかった、見られないならも平気だ。
 顔は変わらずすぐ目の前にある。かすかにあごをあげておねだりすると、優しく何度も口唇を合わせてくれて嬉しかった。

 銀時の指が下腹部をなぞるように通り過ぎて、太もものつけねに届いた。
「は…にゃぁ」
 おかしな声が出てしまったけれど、それももうどうでもいい。
 大きくて骨太いのにやわらかな指が、の下の毛をさわさわと撫でた。これからされることを考えての胸が鳴る。それまでに体中を触られたのが麻酔のように効いていて、ためらう気持ちはもう薄い。
 銀時がこうしてのことだけを見ていてくれて、のことだけを考えてくれているのって素敵なことだ。

 銀時の指はの奥深く忍び入り、小さな二枚のひだをなでた。にはどこを触られているのかよくわからない。自分でも見たことなんかない部分だ。
 その指は、ぬるりととても滑らかに動いた。
「濡れてる」
 銀時が言って、指の動きに弾みがついた。何度も上下に指先を動かし続ける。そのうち指にとろみがまとわりついてきたことが、にも少しずつわかってくる。そしてその粘液がの中から湧き出ていることも。
「外まで、あふれてんのな」
「んぅ?」
「ここ…」
 ひだをかきわけ銀時の指が、奥の方まで撫でていく。離れ際にちゅぷっ、と大きな水音がした。
「ここから、とろとろ、いーっぱい、出て、こっちの方まで…」
 縦にゆっくり割れ目を撫で、お尻の後ろまでなぞられる。
「こっちの方まで、たれてきてんぞ」
 低くささやかれる。お前けっこう水っぽいな。
 いいことなのか悪いのか、それもにはよく分からない。銀時が喜んでいるようだからどうでもいい。
 触られるうちにの身体もうずうずと落ち着かなくなってきた。時々指がどこかに当たると足の先までしびれが走る。くん、と腰が浮き上がる。お腹がひくひくと痙攣する。
「イヤ?」
 何度もそうやって銀時に訊かれたけれど、今では少しも嫌じゃない。
 は銀時の頭を抱え込んで、夢中でキスをして返した。銀時にされたように唇をしゃぶり、舌を吸って、舐めてみた。濡れた口唇を離すと、今度は銀時から舌を吸った。もまた同じことをして返す。二人の唾液がからみあう音とあそこの水たまりを触られる音が同時にくちゅくちゅ大きく響いた。


 の手が銀時の股間へ誘われた。下着越しに硬くて熱い塊に触れる。男の人のそんなところ、触るなんてもちろん初めてだ。
「ふわ…」
 の手を上から包むように、銀時は自分自身をゆっくりと撫でさせた。
「わかる?これ」
 とろりと物憂げにがうなずいた。
「今から何されるかわかってんの?」
 銀時がの花びらをぱっくりと広げた。押さえる手がなくなっても、は銀時のものから手を離さなかった。
「今からここに…」
 いちいち聞かせて楽しんでいるみたいだ。いやらしくささやかれるたびにの目が期待に熱く潤むのをとっても楽しそうに見ているのだ。はもうなんかもうせつなくて息が止まりそう。
 だって知ってるもんそれくらい。今からひとつになるんだよ。


 ごそごそと布の擦れる音。下着を脱いだ銀時がの足の間にひざをついた。



「きゃあぁっ?!」
 銀時がのひざをつかみ、大きく両足を広げさせた。は瞬時に正気に引き戻されてしまった。
「やだやだっ、だめっそれはだめっ!」
 が暴れても銀時の手はびくともしない。手を離してもらえたところで真ん中にどっかりと銀時の身体が居座っていて、どのみちそれ以上足は閉じない。
 中心に視線を感じて縮こまる。の水びたしになっているという恥ずかしい場所を、ついに見られてしまっている。は精一杯腰をひねって銀時の視線から必死で逃れた。

「やっ、やだ、お願いだめっ、そこ、見ちゃやだっ」
「バカ、見なきゃ、挿れらんねぇ」
「でも、だめっ見ちゃだめっ」
「こらっ」
 いつまでもじたばたするを銀時が手荒に引き寄せた。今まで聞いたこともないほど、声が冷たい。銀時が急に別人のようだ。
 甘く見ていた。が本気で嫌がることはするわけがないと思っていた。引き返せないなんて思ってなかった。一瞬、自分から懸命に誘ったことなど全て忘れて後悔した。

 銀時はの顔も見ず、真剣な顔での場所を探り合わせている。
 中心に焼けつくような何かが当たって、直後にはのけぞった。
「いっ!」
 つぷっ、と、大きく硬い異物が体のすきまを無理やりに押し広げていく。
「痛ぁっ!」
 すぐに異物は抜けて出て、安堵した身体はいったん弛んだ。もう謝って逃げ出したい。もちろんそんなこと無理だ。がっちりと足を固定されてぴくりとも動けないし、あとそれに、銀時に怒られそうでそれが怖い。

 銀時は大きく息を吐いた。すぐにまた熱い塊が侵入してきた。んんんっ、とは目を閉じ歯を食いしばった。
「もすこし、力抜いてみな、ほら、おーきく、息してっ」
 銀時の声はやはり低くてとげとげしい。怖ろしくて言われるままに深呼吸をする。すーはー。

 銀時はしばらくの間、の入り口だけで前後に運動していた。狭くてそれ以上入れないでいる…というよりは、まるでその部分を丹念に調べているようだった。
 はひじをついて頭を少し起こしてみた。
 ひざを立てがばっと広げられた、自分の足がまず目に入る。醒めてしまった頭にあられもない格好を見せつけられて、は気が遠くなった。
 下半身の向こうでは眉を寄せた銀時が、今も怒った顔をしてと自分のつながった部分に見入っている。

 けれどもの視線に気づくと、銀時は一転してとても弱々しく、の顔色をうかがう目をした。
「…無理か?」
 どちらが痛くされているのかわからないくらい、不安でいっぱいの顔だった。


 よかった。大丈夫。銀ちゃん怒っていたわけじゃなかった。安心と、甘えた憤りでの胸が詰まる。なによう、怒ってないならまぎらわしい顔すんなよう。気が弛み思わず涙ぐむ。
 痛くて眉のさがったまま、は涙の溜まった顔で、無理に笑って首を振った。
「ううん、へーき…っ」

 のその顔を見た銀時が、驚いたような泣きそうな、おそろしく情けない顔をした。
「…なあに?」
「あぁ、もう…」
「どしたの?」
「あぁもうっ…!」
 片手で顔を隠し、何かをふっきるように頭を振る。それから身体を前へ傾け両手をの肩についた。動けないように押さえつけ、一気に腰を中へすすめる。
 の息が止まった。
 猛ったものが奥の奥まで挿れられた。
「…っ」
 ぷつんと身体の奥底で、はちきれるような音がした。

「はっ」
 小さく短く息をして、銀時が一気に腰を突き上げた。
 が声にならない悲鳴をあげてもお構いなしだ。より苦しそうな顔をして、無我夢中で腰を振った。
 大きく一度、それから続けて、さらに止まらず。ぐんぐんぐんっとを貫き、二人はそのたびに深く繋がった。最も深いところまで交わりあったと思ったのに、まだ奥がある。くっつける限界まで隙間なく重なる。

 が想像していたようないやらしいあえぎ声なんか出なかった。ただもう苦しくて短い息がもれ続けるだけ。はぁ、はぁ、はぁ、は、は、は、はっ、はひっ。銀時にえぐられるたびに内側の壁がひりひりと痛む。
 脈が早まり、手足が突っ張って固まった。受け入れた肉の塊がの通路を圧迫する。
 息を吐いて体のこわばりを逃がしたら、一瞬だけ楽になって、でもまたすぐに窮屈になった。
 そうして気づく。きついのはの中が縮まっているからだ。くわえこんだ銀時のものをの方こそ押しつぶしそうにしているのだ。
「そんなに、締め付けんな、バカっ」
 わざとじゃないよう。どうしよう。

 銀時が肘で身体を支えながら、の真横に頭をついた。
「きつぅ…」
 耳のすぐそばで声を漏らす。
「お前ん中、すげぇ、きつくて、熱くて、」
 それにものすごくやわらかいと。

 反射的にの入り口が狭まった。
「ね、だめ…、銀ちゃんなんにも、言っちゃだめ、…」
 声を聞かされるだけで体が勝手に反応する。それ以上されたらどうなってしまうかわからない。それなのに銀時はやめてくれようとしない。腰を振るのも声を聞かせるのも、中で大きく膨れ上がるのも。
「なあ、お前今、何されてるかわかってんの?」
「まっさらな体が、俺の、きたねーもんで、かきまわされてんだぜ?」
「わかる?」
「これから、どうされちまうか、わかってる?」
 銀時の声からも余裕が失せた。のあそこがひくひくときつく緩く、規則正しく銀時を締めあげるのを、目を閉じてじっくり味わっている。
「あぁ、すげぇ、なに、これ」
「銀ちゃんもう、黙ってぇ…」
 ぐにゃりと視界が涙でにじんだ。恥ずかしい。痛くて苦しいだけなのに、身体だけ銀時に応えている。は本当に、少しも気持ちよくなんかなっていないのに、身体は銀時を歓迎していて恥ずかしい。恥ずかしさに頭がおかしくなりそう。

「なあ、もっと、汚していい?」
 べったりと身体を倒しきって、銀時がを抱きしめた。下半身だけがうねるように前後に動き続けている。が痛そうに顔をしかめると、銀時はより気持ち良さそうに深く突いた。
 でももうもそれでいい。痛いのが嬉しい。痛ければ痛いほど嬉しい。両腕で銀時の頭を逃がさないように抱きしめた。
「いいよ、何しても、いいよ、」
「怒る?」
「怒んない、よぅ」
「俺のこと嫌いになんじゃね?」
「なんないぃ」
「好き?」
「好き…ぃっ」
 ああもう、好き好き。大好き。
 バカみたい。

 腰の動きが速くなる。乱暴に突き上げられて息もできない。体の中心が裂かれるように痛むのを、抱いた頭にしがみついてこらえた。
 ずっとささやき続けていた銀時の声も、言葉にならなくなってきた。きれぎれに息を吐くばかりになった。
「んぁ、はぁ、んっ、ん、んく」
「…っ、んっ、く…」
「くは、はぁ、やっべ、イキそう…いっ…」

 銀時が最後にひときわ深く、それ以上行けない行き止まりまで、を思いきり突き刺した。
 ぱんぱんに膨れ上がっていたものが、の中で何度も痙攣する。
 くはっ、と大きく息を吐き、と同時に限界まで高められていた欲望が破裂する。
 銀時は二度、三度と大きく腰を打ち付けて、溜まったものを一滴残らずの中に注ぎ込んで果てた。



 重い身体が無言でぐったりの上へと倒れこんできた。はつぶされそうにされながら、銀時の様子をうかがった。細かくはぁはぁ息を吐いて、全力疾走した直後に似ている。もしかして今のが終わりの合図だろうかと考える。
 萎えた性器がぬるりと外へ圧し出された。粘り気のある温かい液体がの股間を伝い落ちる。
 完全に解放されて、はしばらくぶりのような気がする大きな深呼吸をした。

 これで最初の考えどおり、銀ちゃんに貸しを作れたはずなんだけど。
「うん…」
 そんなこともそういえば考えていたな、と他人事のように思った。
 はやっぱり、何か違うものになってしまったかもしれない。






 ところがそれで終わりじゃなかった。

 の上からどいた後も、銀時はまだ離れがたそうにを抱きしめていた。腕枕をして添い寝しながら、後ろへ回したもう片方の手がの背中を撫でている。
「あー…あれだ」
 目をそむけ、の顔も見ずに言った。
「…ごめんな、痛いだけだったろ」
 決まり悪そうな声がかえっても照れくさい。
「ううんー、でも、気持ちよかったよ、銀ちゃんがで気持ちよくなってくれたの、すごいうれしい」
「いやいや」
 いやいやいやいや。銀時は寝たまま器用に肩をすくめて首を振った。照れ隠しなのか笑っている。

 そしてその手が再度の下腹部にのばされた。
「ひゃ…何よ?」
 ぴったり閉じた足の間に、手のひらを差し入れて強引にこじ開ける。片足をからませて、閉じられないよう固められた。
「わわ…、だから、何?」
「自分でしたことあんの?」
「な、ないよ、ないよそんなのっ、あるわけないでしょっ」
「ここさわったことは?」
 奥へ割り込んだ指がそっと花芯に触れた。びくっと身体が跳ね上がる。さっき触られていた時に、時おり腰が浮いてしまったのは、ここを触られたせいだったのか。
「ないよ…っ」
 銀時が少し挙動不審。声も顔も気だるく眠そうにしているくせに、をなぶる指先だけは貪欲だった。

 は軽く開かされた両足を、そわそわとよじらせていた。汗と粘液での股間はぬかるんだままだ。潤滑液にまみれた銀時の指は、最も敏感な部分を少しばかり強めにひっかいても、に痛みを与えなかった。
 痛みどころかそこをいじられると、どこを触られるよりも力の抜けてしまうような、おかしな気持ちにさせられる。もれそうになる声を我慢して殺した。代わりに何度も、んくっ、んくっ、と喉が鳴った。
「いや?」
「イヤじゃ、ない…けどぉ…」
「痛い?」
「…へーき…ぃんっ」
 銀時はにいちいちしゃべらせて、声が次第にとろけてくるのを面白がって聞いている。

 くちゅっと大きな音がして、中指が一本だけ挿れられた。太ももが少しだけ緊張してこわばった。
「ふ…っ」
「もうこれは痛くねーよな?」
「うん…、痛くない、けど…」
 痛くなくてもいいんだろうか。はむしろそんな自分を警戒する。
「ね、もう、終わったんでしょ?なんで?そんなことすんの?ね?もう、…あんっ」
 またどこかがの芯に触れた。中指で膣をゆるやかに犯されながら、敏感な蕾をしつこくこすられている。
「どう?」
「どうじゃ、ないよう、もう、いいでしょぉ?そんなのぉ、もういいからぁ…」
 声はいよいよとろけてしまりなくなってきた。ぴりぴりと、腰から背筋を不思議なしびれが這った。
「ね、もう、いいって…」
「だぁめ」
 にやぁと笑われる。
「…やっ、もう、いいっ、やだぁ…」
 指の動きが早められる。
「う、うそつき、うそつきぃっ、いやって言ったらすぐにやめてくれるって言ったっ」
「だーって全然イヤそうじゃねぇもん」
 親指でぐりっと押さえつけられる。中の指と外の指とで挟んでつままれる。
「やだぁっ」
「ほら腰が」
 の腰はずっとのけぞって浮きっぱなしだ。
「やっ…、やっ、あっ、あっ…やだ、やだ、やだっ」
 嫌がると銀時はよけいに喜び、の中で指を曲げて上側の壁を掻いた。
「ひんっ」
 はこらえきれなくて、銀時の胸に顔を伏せた。この顔だけは見せろと言われても絶対に抵抗しようと思った。幸い見せろとは言われなかった。
 泣きそうなのに甘えた声が自然に出て、銀時にごしごしと顔を擦りつける。
「もぉ、やだぁ、やだぁ、もう、いやぁ」
「何?もうイキそ?イッちゃう?」
「わかんないぃ…」
 知らない。それがどういうことなのか、はまだ知らない。そんなこと言われても。

 体がしびれる。腰が浮き上がる。つま先もひきつる。蕾を強くこねつぶされて、じわじわと全身が浮き上がり続けた。
「やっ、ほ、ほんとにだめっ!それ、だめっ、やめてっやめてっ」
「何が?なんで?なんでだめって?」
 頭の上から声が降る。執拗にを責める声。
「だめぇ、それ、なんかへん、だもっ…」
「へぇ、もっとヘンになってみよーかぁ」
「んんっ」
 顔は絶対見られないように、ぎゅうっと銀時の胸に押し付けた。芯から伝わる快感が増して、漏れる声は短く切羽詰る。
「いやっ、やっ、ああっ、だめっ、いやっ、いやっ、や、や、やっ!」

「いやっ!!」
 きゅんっと体がひきつった。足の親指の爪の先から、頭の一番てっぺんに、しびれが走って通り抜ける。頭の中が白一色に塗りつぶされて、何も考えられなくなった。
「…ん、んんんんっ!!」

 ぴん、とつま先が反りあがった。続けて2回、びくん、びくん、と全身が震えた。
 さーっと潮がひくように、体の力が残らずどこかに奪われて、は銀時の腕の中に崩れ落ちた。



 重たい頭をゆっくりと上げて銀時を見た。偉そうに自慢気に見下ろされていて、それがなんだか少しイヤ。
 けれど腰のあたりには心地よいだるさがいつまでも残っていた。

 はもうひとつ覚えた。いや、覚えさせられた。痛くされた後は「これ」をしてもらえる。








 身体の奥には鈍い痛みと疲れが残っていたけれど、頭は妙に覚めていた。とても楽しい陽気な気分。
 二人で一緒に布団をかぶり、中で抱き合い互いの身体に触れながら、くすくすくすくす。たくさん話をして笑った。

 気がつくと窓の外は白々と明るい。
「…あ」
 夢中で考えもしなかった。
 朝がくれば、は今日も一日仕事じゃないのか。

「…いま、何時だろ…?」
「んぁー?…ほら」
 おそるおそる銀時に言ってみた。銀時はのそのそと枕もとの時計を取って見せてくれた。
 午前4時。
 どうしよう。少しは寝たほうが、いいかもしれない。

「ねぇ、もう…」
 寝る、と言いかけた口をキスでふさがれた。
「んふっ、んゆ、ら、らめ…」
 少しは、寝ないと。
 けれど銀時が、黙ってを触り始めた。やり足りないことがあったらしい。腰の上にまたがって顔中に口づける。もう一度最初のところから。


「は…、んあっ、もう…」
 胸元をきつく吸われながら、は片手で時計を取り上げた。文字盤を見て考える。お店には、8時に帰れば大丈夫だ。着替えと、身支度に必要な時間を逆算して、残り時間はあと…。
 睡眠時間はもう勘定に入れてない。
 一日くらい寝なくても平気なんじゃないかな。なんかわくわくしてしまって少しも眠くないし。
 は時計を枕元に放り出した。
 ももう一度してみたい。二回目はどんなかんじになるんだろう。


 目にくっきりと隈を作って、一日中お客さんに冷やかされることになるなんて、その時は考えもしなかった。





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