夜もふけて。かぶき町のだんご屋「おだんご娘」。
 今からが本領発揮の街の中、数少ないカタギのお店であるところのこの店は、いつも暗くなる頃には閉店する。
夕飯もとっくに終わり、近所の銭湯でお風呂も済ませ、帰ってきたは奥の部屋で布団に寝ころんで、お気に入りの少女小説を読んでいた。
コバルト文庫の人気シリーズ「マリア様は知っている」。銭湯の帰りに寄った書店で見つけた今日発売の新刊だ。
 (うう。夕美お姉さま早く告っちゃえよー。瞳ちゃんだって絶対お姉さまが好きなんだってば。気づいてやれよ〜)

 けれど女学園に代々伝わる姉妹の契りに、儚くも麗しい少女達の純愛世界に、はそれ以上ひたることはできなかった。
 どすどすと勝手口の戸を叩く音がする。
 無視してページをめくっていたらもう一度、今度は板戸の下半分から音がした。
(蹴りやがった…)

「こんばんわぁ。俺俺。銀ちゃんですよ〜。開けて〜」
 イヤイヤながら扉を開けると、儚くも麗しくもない男がチョコレートひとつ持って立っていた。
「よ。昼間はごっそさん。これ手土産な」
「……」


「もしかしてパチンコの景品…?」
 ひとつ3万円のチョコレートバー。







「そのチョコ銀ちゃんが食べていいよ。お茶のお代わりは自分でね。『マリして』読んでんだから邪魔しないでよね」
 布団を片足で部屋の端に片付けて、湯のみをちゃぶ台にたたきつけるようにお茶を出すと、は銀時に背を向けて文庫本の続きを読みはじめた。
の肩越しに銀時がその本を覗き込む。
「何それ。その話まだ続いてんの」
「うるさい。読めないじゃん。何しに来たの?」
「何ってそりゃあ」

 銀時はの背中全体を包むように後ろから抱きしめた。

「 『銀ちゃんが知らない子達連れてきたわ!ヤダうっそー!どうしよう!』
 …ってがジェラシってるかと思って」

 セリフ部分の裏声が気に障って、胸にまわされた銀時の手をはたいた。

「バカ」
ジェラシってなんかいないもん。

「い〜?ホントかぁ?」
「ないわよ!平気だったら!」

 ほらほら。人の前では「私」とかなんとか言うくせに、二人きりになるといまだに自分のことを「」なんて呼んじゃうの。コドモかお前は。
 銀時の目が横にした三日月みたいなカタチになった。意味ありげなニヤニヤ笑い。
 
「はい、うそ〜。はお姉さんキャラ一生懸命作ってました〜」
「う」

 見透かされていた。腐った魚の目も時々こういうことがあるからあなどれない。
 わざわざお金渡したり甘いものを食べさせたり。あたしと銀ちゃんは君達の理解の外で深くつながってるのよー…なんて。
しなくてもいいアピールを、ついつい新八くんと神楽ちゃんにしてしまった。
 なんだか自分がとてもみっともないような気がして、三人が帰ってから少々自己嫌悪していたのだ。

「な。妬いちゃった?」
「…ふん」
 がふくれっつらで横を向くと、うしろから頬にキスされた。
ちゅっ、ちゅっ、と何度も音をたてられる。
耳にかかる髪をかきあげて耳たぶにもキス。そしてまた頬に。
がいやがって首をひねったら、瞬間あらわになった白いうなじを甘噛みされた。
「ん…。もう。なによ銀ちゃん…」

 真っ赤な顔で振り向くと、待ち構えていたように唇を奪われた。
ついばむように何度も触れて、最後にの下くちびるをちろっと舐めて離れる。
ちゃんたら銀さんがとられちゃうと思ったんですかあ?」
「もおっ」

 は体をひねって銀時の正面に向き直り、厚い胸板に頭突きか、というくらいの勢いで顔をうずめた。
着物のえりにしがみつき、照れ隠しに額を何度も銀時の胸にぶつけてみせる。
 銀時はそんなを笑ってぎゅうっと抱きしめて、子供にするように頭を撫でた。 

「よしよし。だから銀さんフォローに来てやりましたヨ」




 
「すぐにエッチでごまかすんだから」

「?何か言った?」
「もういいよ」

 は読みかけの本を置いた。穢れのないお姉さまとの純愛はちょっとだけおあずけだ。








 雑に敷きなおした布団には寝かされた。

「あ…銀ちゃん」
 帯を解かれ、着ていた浴衣を脱がされる。
 窓から入り込むネオンの明るさで、部屋の灯りを消しても中はまだ薄明るい。
ぼんやりとさらされた裸体が恥ずかしさにこわばった。

 銀時の口づけはずっとやむことなく、からだじゅうを這い回るやわらかい感触に胸がどきどきする。
自分だけいやらしい気持ちにされてずるい、とは思った。
銀時はのからだにキスするのがよほどお気に入りらしい、がたまらなくなっておねだりするまでいつも口唇と舌だけで責めつづけるのだ。

 銀時はの上に覆いかぶさると、手をとって指先をちゅるり、と舐めた。
手の甲から腕へ、順番に身体の中心へ近づく舌先。上腕の内側のやわらかいところへ。そして脇へ。
やっと胸のふくらみにたどり着いても、敏感な部分はわざと避けてやわらかい肉に吸いつくばかりだ。
 くすぐったいような、もどかしい愛撫に、は身体をよじらせた。
「ん…」
「イヤ?」
「イ…イヤじゃない…よ」
 けれどたまらずには銀時の頭を抱いた。乞うように自分の胸をすりつける。
 銀時は焦らしに焦らしてようやく頂上の突起をひと舐めした。
「ふぁっ…」
 桜色の乳首はゆるやかに与えられ続けた刺激のせいで、少しだけかたくなっている。
音をたてて吸われ、舌でつつかれると、の背筋にぞわり、とした感覚が走った。
 玩ばれているのは胸だけなのに、もっと違う部分にまでぴりぴりと電気が流されているみたいだ。
「あ、…あんっ」
「気持ちいい?」
「ぅ…ん…」
「おっぱい気持ちい?」
「うん…おっぱい…気持ちいーの…もっと」
 即物的なことばにも、次第に抵抗がなくなってくる。
 抵抗どころか。

もっと言ってみたくなる。
恥ずかしいことをしてみたくなる。

「ね、銀ちゃんの…なでなでしたい…」
 おそるおそる銀時の股間に触れると、そこは布越しにもわかるくらい、熱を持って固くなっていた。
「あ?ちゃん大胆ですねえ」
 を見下ろしてにやりと笑ってみせた銀時だが、思わず出た熱い吐息に微かな興奮が隠せない。
は嬉しくなって、ズボンの上から手のひらで包むように銀時の膨らみを撫でてやった。
「こらこら。そんなエロい娘は…」
「きゃっ?」
 
 銀時は素早くからだをずらし、の足のあいだにはいつくばった。
ご奉仕させるのもキライじゃないが、今日はひたすらをいじるつもりだ。
「お仕置き、…です、…よっ、と」
 両ももをつかんで大きく広げさせると、銀時は最奥を隠す薄桃色の花弁に強く吸いついた。
「きゃあっ」
 
 花びらはまだつつましく閉じていたが、合わせ目からはもう透明な粘液がつたっていた。
下から上へ粘液をすくうように何度も舐めあげると、そのたびにじゅるっ、じゅるっ、と卑猥な音がたった。
  逃げようとする腰をしっかりとおさえつけて、ふっくらした花びらが唾液でべとべとになるまで味わいつくす。

 そうして銀時はいったん顔を離した。
 とろけきった秘所を今度はじっくりと眺めながら、人差し指で花びらをなぞりはじめる。 
 すぐに粘液まみれになった指で、奥に隠れていた敏感な芽をさぐり当て、押してみた。
 押すたびにがびくん、と身体をしならせた。喉からは言葉にならない甘い声が漏れつづける。
「や…、あ、あ…、…んぁっ、あふっ、やっ」
「ふふ。これかあ?」
 親指も加えて、赤く充血した花芯をきつく揉みつぶした。
「ひっ…!」

 それまでよりずっと荒々しい刺激がの全身を貫いた。
 どくんっ、と熱いものがあふれ出てしまったのが自分でもわかる。
 銀時が間近に見つめているところから。
「お?」

「や、だめっ!!」
 必死に身をよじるが、太ももをしっかり押さえられて足を閉じることなどできない。
じたばたすると却っていやらしい液が身体をつたって布団に染みをつくった。
「いやぁ…」

 けれど、こんな恥ずかしい姿を銀時に見られていると思うと身体はよけいに反応した。
奥から奥から熱いものが止まらない、止まらない自分が恥ずかしくて、さらにとろとろの粘液があふれる。

「自分でわかるんだ?のあそこ。いーっぱいよだれが垂れてきたぜえ?」
 じゅるっ、ともう一度、身体の芯を強く吸われた。
きつく閉じた目の裏が真っ白になっていく。

「だ、だめぇ…、ねえ、ね、銀ちゃん、もうだめだよう」
 の手が銀時の髪をつかんで引っ張った。
もう…。
 ね?
 ね?
 お願い…」
 
 銀時はゆっくりとから身体を離し、布団の上に座りなおした。みせびらかすようにベルトをはずし、ズボンと下着を脱いでいく。
 「これ欲しい?」

 涙まじりに首をふるに満足げにキスをした。
 見た目ほどの余裕は銀時にもなかったけれど。





「んふっ」

 銀時の熱い塊がに侵入する。待ち望んだ感触に腰のあたりからしびれるような快感が広がった。


「へへっ えっちぃ顔して」
「だって…っ、気持ち、いいの……、ん、んっ」
 ゆっくりと抜き挿しを繰り返されるそのたびに、の目が焦点を失い表情が緩んでいく。
 銀時は半開きになったの口にくらいついた。さっきしたようなじらし半分の軽いキスではなく、深く深く。
 舌で乱暴にの口内を侵してまわる。二人の口の端からは唾液がだらしなくこぼれた。 
「…んっ、く…、はっ」
 息苦しさにたまりかねてが銀時をふりほどいた。
けれど一度だけ軽く息を吸うと、今度は自分から求めて舌をからませる。
 両腕を銀時の背中にまわして必死にすがりつき、一生懸命に応えようとしている様が銀時にはいとおしかった。
「…お前、そんなに、銀さんのこと好き?」
 リズミカルに腰を打ちつけながら耳元でささやいた。

「ん、好き…。、…銀ちゃん大好き」
「こんないやらしーことされてんぜ?」
「好き…だも」
「これでも?」
  股間の昂ぶりを思いきりぶつける。が悲鳴をあげた。
「な、これでも?こんなこと、されたら、キライじゃね?」
「んっ、んんっ、ちが…、ぎ…んちゃ…あっ、 あんっ、好きっ、好…きぃっ!」
 次第にの内部がぎちっ、と窮屈になっていくのを銀時は感じる。
がちぢまるのか、銀時自身が膨張するのか。おそらく両方。
 気をそらしていなければすぐに波にのまれてしまいそうだ。銀時は大きく息を吐いて緊張を逃がした。
 
「は…あ、…銀ちゃん?」
 はうすく目を開けた。真上に見える銀時は少し目を伏せていて、どこか違うところを見ているようだ。
その顔を両手ではさみ、しっかりと自分に向けさせた。二人の視線がからみあう。
「こ、こらバカ!

 避けていたのに。
の顔をまともに見てしまった。
かーっ、と銀時の顔が赤くなる。頭に血が上る。

「あ…うっ、…やば」
 ぎゅっとにしがみついた。がむしゃらに、叩きつけるように腰をふる。
「やっ、?なにっ?銀ちゃ…」
「ばっ…か、もうっ、止まんねっ」
「あっ、あっ、ぃやっ  …あんっ!!」
「お前、顔っ、いやらしーんだよ」
「だってっ、んっ」

 リズムがさらに早まった。
っ」
「イっ… あっ、あっ…!銀ちゃぁん!イっちゃうのっ!!」

 が弓なりに反り返り、ひときわ大きく震えた。
痙攣する体内は何度も強く銀時を締め上げる。
 たまらず銀時はの中にその欲望を吐き出して力尽きた。










「はふ」

 ぎゅうっと音がするかと思うほどに強く抱き合った。
目的を達した銀時のものが、ずるりと力なくから抜けていく。
「銀ちゃん好き…」
「…」


 銀時は何も答えず、黙ったままいきなりの上で全身の力を抜いた。全体重でのしかかられて、つぶされたがうえっ、とうめき声をあげる。
「??重いよ〜?」
「これ銀さんの愛の重さだから」
「バカ」
 ふたりで笑って、銀時はの横に寝転がった。
いつものようにすりよってくるに右腕で枕してやる。
 
「バカはお前だ」



 お前こそ。

 俺がわざとらしく台所を使ってみせたり?
 甘えて金をせびってみせたり?
この女、銀さんのだからおめえらしっかり覚えとくよーに!的なさあ。
 
 うっかりガキ相手に、要らんアピールしちまうくらいテンパってたの、
気づいてないだろ?
 


 枕元にはが放り出した小さな本。
少女漫画のようなイラストのついた表紙が銀時の目に入った。

「お姉さまと純愛する前に、ジャンプ読んで少年の心勉強しろっ、つーんだバカヤロー」










 あなたのコンビニ。ローソンかぶき町店。朝7時。
店の前には制服を着てゴミ箱掃除をしている新八がいた。
 万事屋で働いてるとはいえ、それだけではもちろん食べていけない。金銭的に頼れるような雇い主ではなさそうだから、コンビニバイトはやめられないのだ。
 しかし深夜と早朝の数時間ずつ、時給の良い時間だけシフトに入ると自然に睡眠時間がけずられることになる。
新八は眠い目をこすって「ペットボトル」と書かれたゴミ箱に新しいビニール袋を装着した。

「なんか…前より生活苦しくなってないか?僕…」


 早朝とはいってもかぶき町。おつとめ帰りのお姉さんや、今からそのお姉さんをかっぱぐ気満々のホストやら、店はただれた雰囲気満載だ。
朝帰りらしいカップルの嬌声もあちこちから聞こえて耳障りなことこの上ない。

「いいじゃん、朝飯なんかさあ。帰って寝なおそうぜえ」
「やあだ。そんなこと言って、もっかいする気でしょ…ってやだぁ!もう、どこさわってんのぉ?」

 男の方が女の尻でもさわったらしい。でも女も口ほど嫌がってはいないようだ。

(ケッ!前戯は家でやれや、お前らアァ!)

 新八は声に出さずにツッ込んだ。本人は乱れる一方の江戸の公序良俗を憂いているつもりだ。
ひがみなんかじゃなく。
 
 そのカップルはいちゃつきながら店に入っていった。
顔も上げずに黙々と掃き掃除をしていた新八の耳に、女の方の台詞が一部分だけ聞こえた。

お腹すいちゃった…」

(かーっ!てめえのこと名前で『』とか呼んでんでんじゃねえよ!こういう女に限って腹黒いんだよ。
 キライな女子をハダカに剥いて、写メ学校中に一斉送信とか陰湿なイジメするんだよ!)
 
(…って)

(あれ?)


って言った?!


 あわててカップルの後を追って店に入った。ドアチャイムと、店員の「いらっしゃいませこんにちわぁ」
マニュアル通りのあいさつが新八を出迎える。


「ねえ銀ちゃん何が食べたい?」
「はい!はい!銀さんはちゃんが食べたいでえす」
「んもう、ばかぁ」

 
 新八は発見した。
 おにぎりコーナーの前で女の腰を抱いて、人目もはばからずいちゃいちゃしてる白髪天パのバカ男。

 ああ、自分がこんなにも誰かを軽蔑できるなんて。
 今までこの感情を知らずに生きてくることができた僕は思えばなんて幸せだったんだろう。
 でもそれも今日でおしまい。さようならいとしき日々よ。

 腹の底からしぼりだすような低い声が、新八から自然に湧き出た。



「何やってんスか。銀さん…」

 

「…あ」



 


 バイト入る時間増やそうか、いや、てゆーかむしろこっち本業でやるべきなんじゃねえの?
新八はしばらくの間本気で考えた。






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