知り合いの社長が営むホテルということで、男女三人での入室を特別に許可してもらった。
眠り続けるを担ぎ、似たような扉の並ぶ廊下を銀時は迷うそぶりもない。そばには共犯の九兵衛が一緒だ。いかがわしい宿という以上に、おそらく生まれて初めての「安い」建物なのだろう。規格品の電灯や薄っぺらな壁紙を物珍しそうに眺めていた。
「でも、やっぱり、いくらなんでも君が可哀想すぎやしないか…」
やがて何度目かの気遣わしい声。と一夜をともにしたという芝居を打ってもらう約束なのだが、九兵衛はここへ来てもまだ、気の進まないようだった。
「確かに君には、できる限りの埋め合わせをさせてもらうとは言ったが…」
だからといって何の罪もない女の子を騙す手伝いなんて。
傍らで揺れる黒髪を見上げると、半刻前まで同じ酒席で楽しく笑っていた顔がそのまま目だけを閉じている。すやすや安らかな寝顔は楽しい夢でも見ていそうなのに。
「だいたい君は、彼女の、その…」
謝罪のつもりでに手を伸ばすと、髪を撫でる寸前に逃げられた。意識のないが動くわけもない。銀時が不意に歩みを早めたのだ。
「その銀さんがいいって言ってんの。だいじょーぶだよ。お前さんにゃあ迷惑かけねえって」
睨まれたと見えたは気のせいか。涼しい顔で銀時は笑った。ちょうど到着した目当ての部屋でカード型の鍵をちらりとかざし、開いた扉へ一歩先に立つ。
「じゃ、脱がしてくっから」
「えっ?君が?脱がせるのか?」
「は?なんで?」
驚いたら逆に驚かれて驚いた。予想もしないことを訊かれたと言わんばかりの銀時の表情。その意味する所をやっと察して九兵衛の頬が朱に染まった。とっさに視線を走らせると、を担ぐ腕は遠慮もなしに丸っこい尻を抱いている。銀時は彼女へふれるのになんの躊躇もないのだろう。
「そ、それもそうか…」
ふたりは恋人同士なのだった。
「なに想像してんのやーらしっ」
「やっ!?ぼ、僕は、別にっ…!」
銀時はしかしこともなげに言う。
「いまさら裸なんかどってことねーって。付き合いももう長いからァ、言っちゃなんだけど空気っつかさァ」
「そ、そうなのか…」
「そうそう」
「そうか…」
なぜか九兵衛はほっとしていた。そういう仲良しもこの世には在りうるのか。できることなら自分もパートナーとはそんな関係を築きあげたいものだ。
「そんじゃ悪いけど、10分ほどで済ますから」
「ああ」
目の前で扉がばたんと閉じて、九兵衛はひとり残された。
「よっこいしょ、っとぉ」
ぴんと張られた白いシーツは見るからにひんやり冷たそうだ。けれどそんな上へ寝かされても、は目を覚ますどころかまつげの一本も震わせなかった。さすがは忍びの用いる眠り酒。銀時自身同じ物を盛られて、一晩裸の老婆の隣で夢も見ずに眠ってしまっていたのだ。いまいましい。そしておぞましい。
自分もベッドへ腰掛けると、足から下は外へ残したまま銀時はに覆いかぶさった。そのくらいの時間はあるだろうと、小振りな唇にむにゅと口づける。年末年始の帰省を挟み、久々に近く感じた吐息はほんのり酒の匂いをさせて、そんなが可笑しい。かみ殺された笑い声は、しししっと歯の隙間を縫って聞こえた。
規則正しい寝息がすうすう、銀時の頬を撫でていく。その唇に頬をくっつけ、これはほっぺたにちゅーさせたつもり。お返しに銀時も同じだけキスした。
大人げのない意地悪に九兵衛は気がついただろうか。思わず撫でたくなるのもわかる、はぽかんと口を半開きの幸せそうな寝顔をしていた。明日の朝から大変な騒ぎが始まるとも知らず。
これを不安で歪ませるのはしのびない気もしたけれど、そうしなくてはがもっと泣く。
決して銀さん自分の不祥事をうやむやにしようと企んでいるわけではなくて!
気づけば身体をずいぶん乗り出し、を完全に下敷きにしていた。胸に腹にやんわり沈む感触を全身で堪能していたら、あっと言う間に時を忘れた。
控えめなノックが教えてくれなければ、いつまでもを抱き枕にしているところだった。
とんとん。
「あぁ、いけね」
そうだ九ちゃんを待たせていたのだ、そうのんびりもしていられない。
まずは帯を留める組み紐から順に、銀時はを脱がすことにした。
手慣れた様子でてきぱきと、とはいえを裸に剥くのに楽しまないのはもったいない。紐の一本を解くたびに、一枚剥いで身軽になるごとに、いちいち顎を引き腕を組み、全容を検分するかのように、視線はを舐めまわした。
一度着物を引き抜く時に、腕が少しだけベッドからはみ出た。肘と手首の中間という半端な場所からその先がぷらんぷらん。まともな者なら気持ち悪くて反射的に手を引っ込めるはず。
だがはそのまま。
本当に意識がないのだと、おかしなところで実感させられた。
なにをしようともされるがままだ。まるでお人形さんのように。
それが銀時の腹の底をイヤに熱っぽく疼かせた。
最後まで残った肌着を剥ぐと、精一杯明るくしてあるライトがの身体をくまなく照らした。酒のせいなのか薬のせいか、肌にはほんのり赤みがさしている。
手足は力なく投げ出され、もちろんどこも隠そうとはしない。丸まりもせずひねりもせず、自然な幅に足も開いて限りなく「人」の字に近い格好。こんな時でもなかったら、まず拝めない珍しい姿だ。
は身体を見せるのを好かない。いつもできるかぎり部屋は暗くするし、できるだけ着たままつながろうとする。脱げる寸前まで乱れた寝間着も、それはそれで色気があって嫌いじゃないが。
「なんだろね、こーんなにかわいーのになァ?」
言いながら片足首を掴み、股をおっぴろげてやったのはほんのイタズラ心というもの。ついでにくるぶしをぺろりと舐めた。
お世辞にも引き締まったとは言えないが、その柔らかさが銀時を和ませる。それなりに腰もくびれているし、出るところは文句なく出ている。腰から尻へ、太ももへ続く丸みには思わず顔を埋めたくなるほど。
欲求のまま顔を突っ伏して、甘い体臭に酔いかけた。
うはぁ…と謎の感嘆が漏れて、手のひらは勝手にをまさぐった。
とん、とん。
二度目のノックに殺意を感じたのはいたしかたないことだと思う。どうにかから顔を上げたものの、気弱なものなら見ただけで泣き出しそうな銀時の怖い顔。
こんなことなら九ちゃんは明日の朝来てもらえば良かった。実際に泊まってもらった方がタダならぬ雰囲気も漂うだろうと、なまじリアリティにこだわったばかりに!
とんとん…。
「はいはいはいはい!今行きますっての!」
死ぬ気で身体をから引き剥がし、抜けそうに引かれる後ろ髪をこらえ、銀時は渋々ベッドを降りた。未練がましくべちゃべちゃとキスしてようやく扉へ足を向けると、
その背にの声がした。
正確には、声ではなく単なる「音」だったのだろう。なにかのはずみに喉が空気を震わせた…というだけの。
ところがそれが、銀時の耳にはこう聞こえた。
「や…」
しかもそれは頭へ到達する間にとても都合よく肉付けされて、結果銀時にはがこう言ったように思えた。
『行っちゃイヤ…』
引きつった顔がこわごわ振り向く。
空耳は百も承知でも、まぶしさにきゅうぅと瞳孔が縮む。
そして下腹のあさましいものが、見る間に熱を帯びていった。
ばたん!
ようやく開いてくれた扉に九兵衛は心底ほっとした。待つのは一向にかまわないが、他の客に万が一鉢合わせしたら…とそれだけが気が気でなかったのだ。
ところが扉は薄くしか開かない。銀時は体を半分も出さずに
「悪ィ、ひもが固くてほどけねぇんだわ。もうちょっと待ってて」
「はぁ…」
確かに顔は汗だくで、上気した頬は相当な悪戦苦闘を思わせる。
なので言ってみた。
「僕でよければ手伝うが」
これでも女物を脱ぎ着したことが全くないというわけではないから、何かの力になれるだろう。
なのに返事は形容しがたい苦笑いだった。
「それは…なぁ?ははは…」
「でも」
重ねて申し出ると言いにくそうに目をそらされた。
「いや、あの、気持ちはありがてぇんだけど、やっぱ女の子同士とはいえさァ、薬盛られて意識のないうちに裸見られてたなんてショックだろ?」
「あっ…」
その通りだと九兵衛の身は竦んだ。僕としたことが、そんなことにも気づかないなんて!
同時にかぶとを脱ぐ思い。こう見えてやはり銀時は彼女をとても大切にしているのだ。
「すまない。君の言う通りだった」
「や、わりぃわりぃ、そんじゃもうちょっとだけなっ!」
そそくさと首が引っ込んで、愛想もなしに扉が閉まった。
ばたん!
ほとんど小走りにベッドへ戻ると、は全く変わらぬ姿勢で同じところへ横たわっていた。薬は本当によく効いている。
今から何をするも自由だ。
「ば、ばーかちげーよ、おめーが欲しがって、そんで銀さんを引き留めたんだろ?」
いいがかりにもほどがある。
靴を脱ぎ捨て這い上がり、思う存分まずは唇から奪った。の頭をしっかりと抱き、奥まで舌を挿し入れる。反応のない、口の中でだらりと垂れ下がる舌を、すくって、吸って、かじってやった。だらしなくこぼれっぱなしのよだれはわざとしたたるまま放置。バカが100倍バカに見えていい。
くにゃくにゃ頼りないの身体を両膝で挟み固定する。涎まみれの愛撫はやがて張りのある乳房にたどりついた。指と舌先で集中的に片方の頂上だけを責めると、突起がぷっくり立ち上がった。
「おぉ」
意識がなくとも応えてしまう部分があるのか、面白い。
ならばと反対側の胸には爪をぎりぎり立ててみた。手の中で形を変えるほど激しくわしづかみに揉みつぶすと純粋に痛みからだろう、がかすかな呻きをもらした。
「んんっ…」
「おぉぉ〜」
なるほど。ここまで強くしてやれば反応しなくもないわけだ。
そのうち小さく、小さくではあるがもがく素振りをは見せ始めた。本能的に痛みから身を守ろうとする動きが、銀時の中に火をつける。
「へっへへ、逃がしませんよっと」
我ながら何がおかしいのか。ひひひと笑い、丸みのふもとに噛みついてやった。
かぷり、と遊びの甘噛みから、徐々に力をこめてゆく。くっきり歯形を残してやろうといつものようにやりかけて、すっかり忘れていたことを血の出るギリギリに思い出した。
「…あが」
歯形はまずくね?
いくらアイツがバカでもバレるだろ。これは銀さんの仕業だと。
「じゃキスマークにしとくか」
どういう理屈だ。
それもいつもはできない場所にと、えいやとを裏返した。反省したのか学習はしたのか。脳が沸いているのだけは間違いない。
毛先を軽くかきあげて、うなじに強く吸いついてやる。力が過ぎて白い首筋には赤紫の痣ができたが、銀時はいたく満足していた。
が起きていたらこんなことは絶対させてくれない。
『ばかあっ!衿から見えちゃうじゃない!これじゃあお外歩けないようっ!』
…再生された声にきゅんときた。
それは幻聴なんていう身もフタもないものではなくて、時間を少々無視しただけで正真正銘の声だ。
「だっておめー言うもんなァ?絶対」
タネあかしのついでに教えてやろう。そうしたら間違いなく言うはず。
しゃべりだしたは止まらなくなった。
『もうっ!見ちゃやだぁっ!ばかっ!でんき消してっ!』
『んんっ…、そこ、キライっ、ヘンなとこなめないでっ…!』
思えば意外に文句の多い奴だ。
たとえばこれも。
うつぶせの腰を持ち上げる。ももの付け根をぐに、と親指で押し広げてやる。閉じて隠れていたその場所がすぐ目の前へあらわにされた。
残念ながら、乾いて閉じた状態の縦割れ。両ひだを指で開いてみるが、中もさらさら。湿り気はない。
だからといって、ここまでにしてやるつもりは微塵もなかった。
は…と期待にこみ上げた息を逃がす。早く済ませよう。一応人も待たせていることだ。
両手を離すと支えをなくしたの身体はくたりとベッドへ落ちてしまった。下着ごとズボンをせわしなくずりさげ、もういちど腰を抱え直す。
全部は脱がない、これもは嫌がる。
『いかにもヤレればいいって感じ。そーいうのイヤ。ちゃんと脱いで』
「うるせーんだよ」
わがまま娘め。
生意気言うと、こうしてやる。
一番イヤがるお仕置きを。
「おめーは黙ってヤラれてりゃいいの」
腰を引き寄せ、背後からあてがった。乾いてきしむのをゆっくりと、先端を使いこじ開けてゆく。
そのうち自らの先走りと、からにじみ出た最低限の愛液を薄くまとわりつかせたそれが、スムーズに前後しはじめる。ひと刺しごとに少しずつ深くへ。
ぬちぬちと水音のし始める頃、銀時はようやく根本まで埋まった。
「あー…」
自然と漏れ出る惚けた声。離さないようべったりと銀時はを抱きしめた。
中はぬるま湯につかるような緩さだ。薬で弛緩させられた身体はただひたすらに温かいだけ。きゅうきゅう絞りあげてくることはないが、おもちゃと思えばそれも一興。
ともすればぐでんと力なく沈んでしまうを、無理矢理持ち上げ欲望をぶつける。
自分よりを動かす方が、具合がいいと途中で気づいた。ほんとにオモチャだ。どっかで見たばかりの。
たまたま爪が引っかかったら、痛みのせいかの中が締まった。味をしめてそこらを手当たり次第つねりあげる。声もなく抱かれているをとことんモノと扱うことで、嗜虐心をスパイスに物足りなさを相殺してみた。
肉体よりも人間性を犯しているような後ろめたさ。それが銀時を昂ぶらせていく。
「はっ…」
眉間に深い皺が刻まれた。額を汗が一筋流れる。血の出るほど爪を食い込まされ、緊張するの膣内で銀時のものは膨張していく。
「…あれ?」
だがふと浮かぶ怪訝な顔。
中を窮屈に感じるのは、自分だけが理由ではなさそうだ。気を抜けば抜けそうだったが、気のせいか銀時を逃がすまいとしていた。
「…あっれぇ〜?ちゃん、なんで、締まんのぉ?」
実は台詞ほどの余裕はない。思わぬ刺激に不意討ちされたようなもの。
気のせいじゃない。の身体ははっきりと銀時に反応しはじめていた。
喉が不器用に痙攣し、くぅっ、くぅっと音を出す。呼吸は目に見えて荒く、肩を大きく上下させていた。薄い背中はうっすら汗ばみ、肌は細かく粟立っている。
ぎこちなく刻まれていた息は、次第に声へ変わっていった。銀時が奥を突くのに合わせて
「…はっ、あっ…、はあっ…、はぁっ…」
「あはっ…!」
一瞬毒気を抜かれかけ、まもなく銀時も我に返った。そうすると今度はおかしくて嬉しくて、それからがいとおしくて、しょせんは一人遊びだとどこか醒めていた最後の砦も、跡形もなく崩れていく。
「どうしようもねーなお前。寝てるくせに」
「アレくわえこんで離してくれないんですけどぉ?」
「なァ、もしかして感じてんの?そんなんでお前どーすんの」
「これ銀さんじゃなくてもわかんねーよな?」
「誰でもいいんだ?淫乱娘が」
『ち、ちが、違うぅ、ちがうよう、…、そんなんじゃないったらぁ…』
ならこう言う。
一言一句間違っていない自信がある。
ぺたりとへ身体を添わせ、むしろ自分を高めるつもりで、低く囁きかけてやった。
「そっかぁ、へぇぇ?銀さんの、あっついのが、そんなに欲しいって?」
「………っ!」
信じられない。が返事をした。中をぎゅううと締め上げて。
ふたたび呆気にとられた顔が、すぐさまだらしなく笑み崩れる。
腰が動いていた。
へらへら笑えた。
いつまでも止まらない。笑いも腰も。
「いーよ、ほら、これだろ、飲ませて、やる…よっ!」
壁を破りそうな激しいひと突き、望まれた通り吐き出してやると、が悦んで鳴き声をあげた。
溜め込まれていた塊が弾ける。一滴の残りもないように、ぐいぐい夢中で押し付けての中へと注ぎ込んだ。
にやにや、ついに笑ったままで。
今ではそこは柔らかくほぐされ、ぱっくり開いた口からは飲み干しきれなかった精液があふれてシーツを汚していた。どろりと固く粘った白濁に銀時は目を細めていたが、やがて頭を冷やすべく、大きく一度深呼吸した。
これでようやく人心地ついた。
けれども何か大事なことを忘れて…
「…あ」
から今もこぼれているのは紛れもない「男性」の残滓。
「…どーすんのコレ」
とん、とん…。
ためらいがちに扉が叩かれた。
>>>>>>> 107−1に続く