そんな時間、そんな場所は、本来の行動範囲じゃなかった。
 一流ホテルの化粧室。時間は亥の刻、要するに午後10時。
 出張で江戸へ出てきた父親に夕食をとろうと呼び出され、なんだかんだと引き留められて今まで帰してもらえなかったのだ。
 長々と近況報告と業務連絡をさせられて気疲れしきったは、とにかく人のいなさそうな、空いていそうな化粧室へと立ち寄ったのだった。

 ばしゃばしゃばしゃと手を洗い、手ぬぐいで拭いてはほうっとため息をついた。鏡の中には自分じゃないような、すかしたお姉ちゃんが立っている。明るい花束模様の振袖に濃い目の化粧。短い髪をむりやりまとめて花かんざしまで飾っていた。は手ぬぐいをかばんにしまって鏡のお姉ちゃんに背を向けた。早く帰ってお茶漬け食べよう。慣れない晴れ着を汚しやしないかとそればっかりが気になって、ご飯をいただくどころじゃなかった。
 ところがはいきなりぴたりと足を止めた。表の通路から声をひそめて言い争う声がしたからだ。半分廊下へ出かけた足を、さっと素早くひっこめて、外の様子をうかがった。音をたてないようにこっそりと出口に貼りついて聞き耳を立てる。悪趣味と言われても仕方ないけれど、そうした理由もなくはない。

「もぅ、ほんと勘弁してください。あたしそんなつもりで来たんじゃありませんからぁ」
「ここまで来といてそりゃないだろ?な?な?いいじゃないか。上に部屋とってあるから。な?行こ?な?な?」
「やだぁ、そんなの聞いてないしぃ、社長さんがご飯食べさせてくれるって言ったからぁ」
「何を小娘みたいなことを」
「アタシお店出ないとぉ」
「あんな店で働かなくても、俺が店一軒持たせてやるっていつも言ってるじゃないか、だからな?な?」

 やりとりからが推測するに、おそらくキャバ嬢の店外デート。あるいは同伴。でもが思わず聞きいったのはそんなものが珍しかったからじゃない。
 どちらも野太い、男の声だ。
 「お姉さん」じゃなくて「おネェさん」が、客の男に言い寄られているのだった。
 は目を閉じ腕をくんで二人の会話をふむふむと聞いていた。いやあ、男が男を必死で口説くところなんてなかなか珍しいもんに遭遇したわ、なんてのんきに考えながら。まとまるにせよ別れるにせよ、どちらにしてもなんとか話をつけてくれないとはここから出るに出られないし。
 はひょいっと婦人用の化粧室から顔をだした。ピンク色の花吹雪を散らしたような、派手だけれど安物の衣装を着たお姉さんと、高そうなスーツのおそらく客が、声を殺して揉み合っていた。
「可愛がってやるから、な?いーだろ?そうか初めてか?まかせなさい俺はうまいから」
「いやいやいや、ちょっとちょっと!社長さん何するんすか!」
 ホステスは一応気を遣って遠まわしに断ろうとし、客の方はそれに気づかないふりで実力行使に及ぼうとしている。客の手が着物の裾に割り込んで、ホステスのごつい太ももを撫で回していた。男と女のせめぎあい、リアルバウトが目の前に。所詮はひとごと、わくわく見ていただったが。
 背中を向けたお姉さんの、横顔が見える一瞬前に、は不穏な気配を感じた。あれ?まさか。
 お姉さんの髪は銀色のぴょこぴょこハネたツインテール。そう思って聞くと声にも覚えのあるような。

 一瞬後にはその「まさか」だった。

「銀ちゃんだ…」

 の声に振り向いて、男二人が硬直した。
…っ?」
「ごはっ!?」
 はずみでうっかり手加減を忘れて、銀時のひじが客の上あごに勢いよくぶち当たった。
 せっかくの上客は泡を吹いて悶絶し、毛足の長い絨毯の上にくたくた音も無く崩れ落ちてしまった。








「あははははははは!ひーっ!キャハハハハハハハハ」
 はその場にしゃがみこんで、腹をかかえて大笑いしていた。夕食の席で緊張していた反動か、笑っても笑っても馬鹿笑いがまだ止まらない。
「ね?ね?あれが黙ってたらもしかしてヤられちゃってた?あはははははははは!」
「なんでこんなとこにいんのお前…」
 目の前で銀時は腕組みをして、をむすっと不機嫌に見下ろしていた。苦虫を噛み潰すとはこのことか、というような顔。しかし女装を見られたからじゃない、男に言い寄られるのを見られたからでもない。我に返ってしまったからだ。

 拉致監禁も同様に「かまっ娘くらぶ」なるオカマバーで働かされたのが、すべての始まりだった。
 ところがこれが慣れると結構ボロい商売だったもので、解放されたその後も、銀時は時々バイトに入るようになった。源氏名パー子ちゃんのけだるい接客にハマる客も続出。先ほど肘鉄をくらわせた某中小企業の社長をはじめ、入れあげて貢いでくれるお客も数人ゲットした。
 愛されると女は変わる。そうなるとメイクに衣装もついつい熱心に研究したりして。シフトもがんがん増やしていって、今月なんてライバルヅラ子の数倍の金額を売り上げて、鼻高々で出勤していたのだ。

 …って何やってたんだ俺ぇぇぇぇぇ?!どこの花道歩いてんのぉぉぉぉ?!
 夜の世界の水の中にどっぷり浸かってはしゃいでいた自分が、あんなこともこんなことも甦る。正気に戻った今、どれもが壮絶に恥ずかしい、そしていたたまれない。いっそ死にたい。このブタ野郎を殺して欲しい。
 ましてそんな姿をこともあろうに、に見られてしまったとは。
「………」
 銀時は爆笑し続けるを見た。…これはもう、逆ギレしてうやむやにするしかないんじゃね?


「あはははすごいね!お店持たせてくれるんだって!銀ちゃん才能あるんじゃね?すげーかっこいい!あっはははは!」
 それに銀時も苛々してきた。人の気も知らねーで、いい加減ちょっと黙れやこのガキャァ!
 銀時はしゃがんだの手首をつかみ、引きずるように立ち上がらせた。
「あははは、なに?なに?」
 黙ってぐいぐいとに詰め寄り、壁際にぴったりと押さえ付けた。最初はふざけて笑っていたも、つかまれた手の異様な痛さに次第に表情を曇らせた。
「…あ、あれ?すいません…、ちょっと、もしかして笑いすぎました?あの…」
 はきょろきょろと助けを求めるように辺りを見回した。けれどロビーは遠く、時間も時間。そもそもここは人の流れから不思議に外れているせいで、ぽっかりとできた隠れ家のような場所なのだ。知っていて使う銀時のお客のような者でなければ、誰かが偶然通りかかることなどあまりない。だってわざわざ人の少ない方へ、流れ流れてたどりついたわけだし。
「あの…」
 銀時がの体にずっしりと自分の重みを乗せて寄りかかる。眉を寄せて目を細めた、怒った時の顔をしていた。
「ご、ごめんなさい…」
「本当に悪いと思ってんの?」
「う、うん。ごめん。調子のってました、ごめんなさい…」
 目をあわせられずに足元を見て、は小声で謝った。
 上目遣いに様子を見ると、銀時は手の甲で口紅を拭きとって、ツインテールの付け毛も外すところだった。もともとメイクはナチュラル系、すっかり男の表情に戻って、床に転がる「社長さん」が握る、ここのホテルのルームキーを拾った。
「それじゃあおわびに、どうにかしてもらおっか」
「な、なに?」
 銀時は真鍮のキーホルダーを指先に通してくるくる回した。部屋番号は3115。わざとクラシックな作りの鍵が、ちゃりんちゃりんと音をたてた。
「銀さん男にセクハラかまされてぇ、男としてのあいでんてぃてーっつの?揺るがされちゃってんだよねぇ」





「きゃっ!?」
 客室に引きずり込まれたは、ベッドの上に投げ出された。
 高層階の広い部屋。猫足のついたアンティーク調家具と、部屋にふさわしい大きなベッド。カーテンを開ければ、大きな窓の向こうにターミナルの美しい夜景もよく見えるはず。銀時の客はずいぶん張り切っていたらしい。
 がおそるおそる見上げると、ぼんやり明るい間接照明が銀時の不機嫌な顔を照らしていた。それでもこの時はまだまだ、今この状況を甘く見ていた。幸い今日は大振袖の重装備。もたもた脱がしているあいだにどうせ怒りも鎮まるだろう。

 ところが銀時はいきなりに覆いかぶさり、足の間に自分のひざをねじこませた。最初からを脱がす気なんてさらさらなかった。
 いかにも邪魔そうに荒々しい手で着物のすそだけをまくりあげ、の素足を付け根まで一気に明かりの下にさらした。
「うそ、なに?銀ちゃん、もうちょっと…」
 銀時は自分の着物もさっと捲った。素早く下着も脱ぎ捨てて自分のものを取り出すと、腰ごとにこすりつけた。ふにゃり、とぐいっ、の中間くらいの、生暖かく柔らかな感触がの太腿に直接触れる。たとえ銀時のものだって、心構えも何もなしに触らされればぞわっと鳥肌が立つような抵抗を感じる。
「や、やだっ!やめてっ、そーいうのっ」
 銀時は聞かない返事もしない。が両手で押し返しても、もちろんびくともしなかった。銀時がその気になればなんか動けるわけがない。普段は気にせずに済んでいる当たり前のことを、図らずも身をもって思い知らされた。せめてもの抵抗に、ぱしぱし銀時の顔を叩いてやったら、うっとおしそうに両手をとられて頭の上でひねりあげられた。
「んやっ、やだやだ、ちょっとぉ!何する気!?」
 の両手を片手でベッドに押さえつけて、銀時は反対側の手でベッドのまわりをぱたぱたと、何か探しものをしているような。
「ま、いーかこれで」
 どうやら探しものはあきらめて、代わりに自分の帯に締めていた帯締めをしゅるっとほどいた。暴れて逃げるの手首をきっちり揃えて固く縛る。絹の組みひもが肌に食い込んで、は痛みに顔をしかめた。
「何よこれっ?」
 の両手を封じると、銀時は心おきなく続きに没頭した。他にやり方を知らない初心者みたいに、ひたすらの股間に自分のものを押し付けて、熱く膨張させていく。銀時は自分の手でもそれをしごいて、ひとりで息を荒くしていった。の顔など見もしないまま。
 まるで自分の身体が道具代わりに使われているようで、はさっきから気分が悪い。今の銀時にはの反応も何も要らなくて、ただ女の体とぬめった穴でもあれば足りるかのようだった。それともわざとそう装って、を苛める趣向なのか。そうであってください。お願いします。は縛られた手の指を、お祈りするように組み合わせた。

「やっ…?」
 の左足に、銀時が軽く自分のひざを乗せた。
 何をするのかと思う間もなく、の右足はしっかりとつかまれて斜めに大きく持ち上げられた。両足があられもなく全開になって、茂みも、さらにその奥の場所も丸見えにされた。
「やぁんっ!」
 必死で腰をひねって隠そうとしても、半身は銀時の膝がしっかりと押さえつけていて、そちらもぴくりとも動かせない。
 銀時は片手で自分のものに手を添えて、その先端で、まだ固く閉じているの割れ目をこじ開けた。準備のできていないに、自分の先からにじみ出た先走りの液をぐりぐりと無理やりになすりつける。そして張りつめた性器の先端だけを、の乾いた入り口へ無慈悲に突っ込みすぐに抜いた。
「…ひ…んっ…!」
 抜けた先端は少しだけ、滑らかな粘液をまとっていた。繰り返し先端だけを抜き挿しする。そのたびにの中はひりつくような傷みを訴えた。
 けれども内部から強引に掻きだされた粘液で、秘所はかろうじて潤いはじめる。銀時は遠慮なく全てをに埋めた。
「い…たぁっ!!」
 の身体の中心に、裂かれるような痛みが走った。少しは濡れているとはいえ、充分にほぐされていないせいで、入り口も中もきしきしときしむ。初めての時にだってこんなことはなかった。
「ん、んんっ、いっ、いたっ、」
 ぎゅっと目を閉じ顔を歪ませる。銀時はにかまわず腰を進めた。少し伏目がちの、考え事をしているような顔で、奥まで突き入れ、さらに深く犯す。途中でやめてくれる気もなさそうなら、の話を聞く気もなさそう。声が聞こえているのかも、からすれば怪しく思える。
「やだっ!やだあ、もう…、ね、ねえ、怒ってんの?そんな、にっ、怒って…んんっ、」
「いっ、…ん、ねえごめんって、もうっ!もういやっ!ごめん、なさっ、…ごめんなさいっ」
 強く突かれるたびに声をつっかえさせながら、はバカみたいに繰り返し何度も謝った。なんでもいいから返事をさせたかった。銀時に口をきいてもらえないことが、こんなに怖いことだったなんて。
「もうやめて、やめてっ!ごめんなさい!ごめんなさいっ!」
「もー…、ぎゃーぎゃーうるさいよ…」
 銀時は片手での口をふさいで、さらに激しく一心に腰を動かし続けた。
「んんーっ!」
 身体が傷つかないように、気持ちとも快感とも関係なしに湧き出した粘液で、だんだんと二人の体はスムーズに交わりはじめた。はぬちっ、ぬちっと耳につく、自分のイヤらしい音を聞いた。感じてるなんて思われてしまったらどうしよう。ただの生理現象なのに。
「は…あ」
 銀時は一人勝手に腰を動かし、勝手に盛り上がって気持ちよさそうにしている。は痛くて滲んだ涙のせいで、つられて気持ちまで悲しくなってきたというのに。怖くて悲しい。そして銀時はいつまでもを見てくれない。
 終わって、早く終わってと、ひたすらそれだけを思うことにした。







 ふーっ、と大きく息をついて、銀時はの上にがっくりと体を投げ出した。気がつくと下に敷かれているは、縛られたままの両手で顔を覆い、すんすんしゃくりあげている。
「な、なんで?なんで泣いてんのぉ?お前も最後濡れてたじゃん、ちょっとは良かったんじゃねーの?」
 の思ったとおりだった。ほらやっぱり。なんにもわかってない。
 けれどもその調子から普段の銀時に戻ったようなのを見てとって、は少しだけ元気になった。怖い思いも悲しいのも、自然と消えてなくなっていく。
 その代わりにじわじわと。
 腹が立ってきたんですけど。
「あぁ、銀さんだけイっちゃって怒ってんのか、ごーめーん、指でイっとく?」
 中指を入れようとしてきた銀時に、ついにはも本気で怒った。振り子のように一旦引いて、銀時のすねを思いきり蹴飛ばしてやった。
「いっでっ!!」
「このエロ天パっ!」
 さらには顔を覆ったまま、は大声で泣き出した。
「きらい、きらい、バカっ、変態っ、イヤって何回も言ったのにー!」
 何度も何度も蹴飛ばしても、の蹴りなんかでは銀時は痛くも痒くもないようだった。わざとらしく心外そうに、にねちっこく訊ねてくる。
「ええぇぇ?銀さんのことキライぃ?えええええ?」
 ああ憎い。顔を覆って目を閉じていても、銀時が半笑いのムカツク顔で言っているのがにはおおよそ予想がつく。泣いているを見るのすら、楽しそうにしているはず。悔しい悔しい。けれどもは。

「………………好き」
 ぷっ、と笑って銀時は、の両手をずらすと目の端の涙を舐めてくれた。そして頬にも、とても優しく口付けられた。はうっすら頬を染めた。
「そーいやお前、今日いい着物着てんじゃん」
「今さら…」
 寝転がってさんざん暴れたせいで、せっかくきれいにまとめた髪も、着物もなにもくしゃくしゃだった。どうせならもっとちゃんと見て欲しかったのに。
「かわいー」
 口唇にちゅっと正しくキスされた。褒め言葉もキスも心地よくて、は容易くほだされた。くいっ、とあごを持ち上げてみせたら、銀時はもう一度、今度はもっと長い時間、口唇を丁寧にあわせてくれた。口へのキスをおねだりしたことを、ちゃんとわかってくれたことが、にはとても嬉しかった。
 銀時はふにゅっ、との胸を揉んだ。
「んー、よしよし。今度はちゃんとしてやろーな」
「レイプのおわびがセックスってどういうことよぅ…」
 力なく文句を言いはしたけれど、すぐにどうでもよくなった。銀時の舌がの口唇をちろりと舐めて、内側へそっとしのんでくる。応えた舌をからめとられて、くちゅり、と軽くしゃぶられた。同時に優しく胸を触られ、甘い鼻声がから漏れた。
「ひゅん…」


 その時だった。




「……!…!…………!」
 ピンポーン、ピンポーン、ピンポンピンポンピンポン、ピポピポピポピポどんどんどどどど!
 ドアの向こうからくぐもって聞こえる、切羽詰った人の声。ドアホン連打では飽き足らず、扉をがんがん叩く音まで。銀時はの上にかぶさったまま、うるさそうに振り向いた。
「なんだァ?」
「さっきのお客さんじゃないの?」
「えー?社長さん立場もあるしぃ、泣き寝入りすると思うんだけどぉ」
「やめてくんない、風俗嬢に戻って言うのやめてくんない!」
 こちらは取り込み中です、と無視するつもりでいたが、いつまでもドアホンは鳴りやまない。銀時は渋々起き上がってドアへ向かった。ドアにチェーンをつけたまま、覗き込むように薄く開ける。
「はー…いぃっ!?」
 その途端、外から強い力と勢いでドアが引かれた。10センチほど空いた扉の隙間にがつっと革靴が突っ込んできた。地検の手入れか税務署の査察か、そんなものを彷彿とさせる激しいアクションだった。

 驚く銀時の声が聞こえた。ホテルの部屋は入り口からすぐには奥を見渡せないように作ってあるので、逆にベッドの上のからも、何が起きているかはわからない。数人の騒ぐ物音が聞こえるだけだった。やっぱりさっきの客が目を覚まして、文句を言いに来たに違いない。はそう思ったけれど。
「この男です!間違いない、こいつが娘を!!」
 本日二度目の声だった。でもなぜここに。
 はゆっくり体を起こした。
「お父さん?」

ちゃんっ!ちゃん、そこなのかっ!?」
「ちょっ!ちょっと、なにアンタっ!」
 がっちゃん!と大きな金属音がした。ドアチェーンがペンチで切られた音だろうか。銀時が制止するのが聞こえたけれど、足音はかまわず部屋に突っ込んできた。
ちゃん…!」
 年は30そこそこの、人畜無害な文系大学院生みたいな男。男は自分を羽交い絞めにする銀時を引きずったまま、青い顔でベッドの前に立ちすくんだ。
「なんて…なんてことに…」
「はい?」
 男をぽかんと見ていたは、自分の姿がどう映るか、気がついて顔を蒼白にした。あきらかにコトの終わった感丸出しの乱れたシーツの上で、両手は縛られ着物ははだけ。おまけに泣きはらして真っ赤な目。ああああっ!?これじゃあまるで!
「あ、これは、これは違うんです!お父さんこれは…」
 あとで聞いたらと銀時がエレベータに乗るところを、彼は見かけていたらしい。オカマに連れて行かれる娘を見たら、そりゃあ半狂乱にもなるだろう。
「…………っ!!」
 逆上したお父さんは銀時の顔面にきれいな右ストレートを決めた。
 銀時がぐぎゃっ、とつぶれた悲鳴をあげて、もんどりうって壁に転げる。作りつけのライティングテーブルに頭をぶつけて、もう一度げっ、と声が上がった。




 はこの後起こるだろう面倒を決して考えないように、努力して懸命に気をそらした。
 わあすごいすごい、吹っ飛んじゃった。やっぱり男の力だなー。が蹴っても殴っても銀ちゃんはびくともしないのにー…。

「ぃてて…、お父さんって何コイツ!?おい!?」
?!なんなんだ貴様馴れ馴れしい!ちゃん、この男は君の知り合いか?!」

「ははは…」
 虚ろに笑う。知らない。知らない。

 知ーらない。






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 なんかもう、いろいろ、すみません。