体で押してドアを開け、もつれあうように部屋へ転がりこむ。重い体を全身で支えながら、は銀時の顔色の変化を少しも見逃すまいとしていた。
「大丈夫?痛い?大丈夫銀ちゃん?」
 返事はない。眉根にシワを寄せ、伏せられたままの目には青ざめた。やっぱり無理させるんじゃなかった。平気平気と頑張っていたけれど、病み上がりの体にちっちゃなバイクでの長距離走行がこたえなかったワケがない。

 の家を逃げるように飛び出してからおよそ3時間。小まめに休憩を挟んでいたのに銀時の身体は次第にふらつき、後部シートのにもわかるほど震えはじめた。
 それなのにが怒ったのを気にしているんだろうか。銀時はひとことも休もうとは言い出さなかった。
 ぐらり、と何度目か車体が揺れて、ついにの方が音をあげた。
「ねえ、次どっか見つけたらそこ泊まろう?銀ちゃんもう休憩しなきゃダメ!ね?」

 それからほどなく、何もない街道筋に突然出現した明る過ぎる一帯。
 ふたりはそこで道を外れ、その手のホテルとしてはわりとシンプルな、白くて地味な建物にこっそり原付で乗りつけたのだった。



 ドアが後ろで閉まった途端、銀時がの背中にすがりついた。
「銀ちゃん、銀ちゃん大丈夫?」
 回れ右をして体を支えて、は自分こそ泣きたいくらいだった。銀時の体がに抱きついたままずり下がる。ひざをつきそうになるところを、は精一杯の力で抱き止めた。
 けれど下向きに屑折れる体はとても重く、抱き上げるどころか支えきることもできない。とすん、とは、あえなくしりもちをつかされた。
「ま、待って、そこ、すぐベッドだから、今、連れてくから…」
 すぐ奥に白い寝台がある。キングサイズのひろーいベッド。普通のホテルでこのサイズのベッドのある部屋に泊まろうと思ったら大変だ。
「…いい」
「え?」

 どこにこんな余力があったのかと、疑問に思う素早さだった。銀時は、言うなりの首筋に吸い付いた。
「きゃ…っ、わ、わわっだ、だめっ」
 首はいけない。こんな時だというのに、強く吸われるとそれだけで鳥肌がたつ。力の抜けてしまったところを、はあっさり押し倒された。
「じょ、冗談やんのやめてっこんなときに…ゃあ!」
 頭を抱きかかえられ、乱暴に唇を奪われる。触れるだけでは許されず、中まで深く這入りこまれた。舌が分け入り歯列をなぞり、怖がるの舌をからめとる。
 片手はすぐに胸のふくらみに伸ばされた。その手が性急に下へ下へ。腰を撫で太ももをさすり、着物のあわせから足の間へしのびこんだ。
「やんっ!何すんのぉ」
「言ったろ?」
 耳もとでささやかれては震えた。ぞわぞわと。
「身体がぼろぼろになるとしたくなるんだって」
 言い終わる前に耳をかぷり。耳たぶをそっと口にふくまれて、くちゅくちゅと音を立てしゃぶられた。声も出ないほど、は、きもちよかった。どうしよう。
「や…っ、あ…」
 銀時はの反応に満足そう…というか、なにより、元気そうだ。
「ね、ぇ…銀ちゃん、怪我、は…?」
「久しぶり。なぁ、もっと声きかせて」
「怪我はどーしたコラぁっ!」
 怒鳴り声にも耳を貸さずに、銀時はしみじみとつぶやいている。ひさしぶり。やっとだよ。
 やーっと二人きりになれたよまったく。
「銀ちゃん…」

 そう言われてしまうと、の怒りもしぼんでしまう。
 最後に二人きりで抱き合ってから、確かにずいぶん日が経っていた。
 ついさっきまで居たの家では、こんな甘やかな接触はとても許されなかった。
 朝も夜もずっと側にいながら、だってどれだけもどかしく物足りなかったことだろう。
「なぁ?」
「…うん」
 耳元へ、再び口付け。同時に吐く息で責められる。
 耳の穴に舌を挿れられ、舌が内側を這い回ると、水音がぴちゃぴちゃ頭に響いた。
「は…、銀ちゃん…、あ…ん」
 入り口のドアを入ってすぐの狭い隙間。
 それも安物のじゅうたんの上で、目の前に扉を見上げながら。
 理屈じゃないところで感じる微少な嫌悪感が、それすらちりちりとの背筋を粟立たせる。

 がおとなしくなったのを見て、銀時は着物を順に脱がせにかかった。
 しかし気が逸り手が焦り、どうしたことか思うようにいかない。そのあいだもから離れるのが惜しくて、唇を合わせ、離してはまた合わせた。心なしか今日の銀時には、すがりつくような切実さがある。が自分で手伝わなければ帯締め一本ほどけなかったかもしれない。
 ようやく長着だけ剥ぎ取ると、襦袢はそのまま、銀時はせわしなくを探り始めた。すそをはだけ白い足をむきだしに。閉じられてしまわないように、足の間にひざを割り込ませる。
 襟元を力任せに広げ、中の素肌に口づける。ちゅううっときつく吸いつくと、赤い跡が次から次に増えていった。



「あ、待って、…、お風呂、いれてくる…」 
 突然の様子が変わった。さりげない風を装って腕の中からすりぬけた体を、銀時が捕らえなおして抱きすくめる。硬い床の上に押さえつけ、がっちりと動きを封じた。
「ね、お風呂入ってからにしない?ね?」
「ん。風呂入ってから、も、する」
「やだもぉっ」
 ももの上まで這い上がろうとする聞き分けのない銀時の指を、がつかんで必死に邪魔する。じたばたと腰をよじらせて、身体のとある一点を触らせまいと守っている。
 身のかわし方を見ていたら、が何を嫌がっているのか銀時にはおおよそわかってきた。
「ん、やっ、やっ、やっ…!」
 嫌がれば嫌がるほど銀時が喜ぶということを、は時々うかつにも忘れる。
 わざと手を抜き泳がせて、の抵抗を存分に楽しんでから、銀時はの身体の中心をそっと中指で窺った。
「やぁぁっ、あっ、だめっ!」

 思ったとおり。奥まで探る必要はなかった。軽く表面にふれただけで、銀時の指は熱い液にまみれた。
 の小さな谷間には、たっぷりの蜜が湧き出していた。
「…へぇ」
 揶揄するように銀時がつぶやくと、はのぼせ上がって目を回した。あわわ。だから!だからお風呂に入りたかったのに。どうしてだか、いつのまにか染み出していたとろとろを、知られないうちにきれいに流してしまいたかったのに。
「なにこれ」
 指先で奥をひと撫で。わざとちゅぷっと音を立てた。あふれそうに満ちていた粘液が、指をつたってとくんとこぼれた。
「…ご、ごめんっ」
「別にごめんじゃないけど?」
「だって」
 銀ちゃんは怪我をしてるのに、それなのにずーっとイヤらしいことを考えていたみたいだ。決まり悪くて顔を正視していられなかった。
「いつから?」
 訊かれて目を伏せ、黙り込む。わかんない。いつからだろう。
「今?床で犯されそうになって、そんでこんなんなってんの?」
「…わかんない」
「もっと前?」
「知らな…あ、やっ」
「ほら」
 銀時がの目の前に濡れた中指を差し出した。濡れているなんてどころじゃない。指先に粘度の高い液体がまとわりついて、大粒のしずくを作っている。
 は顔をそむけて逃げたけれども、その指を唇になすられた。
「んーっ…」
「お前のだろ」
 中指が口唇をこじあけて、強引に口の中を犯す。の舌に甘ったるい味が広がった。自分の味だ。
「舐めてくれる?アレ舐めるみてーに」
 指先をくいっと曲げて指図される。濡れた唇を光らせて、が情けない顔で銀時を見上げた。
「な?」



 たかだか指を、一本舐めさせているだけのことが、不思議に銀時の気持ちを奮わせた。
 両手で銀時の手をささげもって、は言われた通りに奉仕している。指の腹を舌でねぶり、時には指先をきつく吸い、時には奥まで深く呑みこむ。ちゅくちゅく音をたてながら。
 そのうちは銀時の目にもよく見えるように、より念入りにしゃぶりはじめた。
 指を這う、の拙い舌の動きが、細く微かに股間へも伝わる。その二箇所が糸で結ばれているかのようだった。
 がじ、と突然歯を立てられて、銀時は驚いて指を抜いて逃げた。
「う、は…っ」
 にしゃぶりつくされた中指は青白くふやけていた。

 この指で、まだまだ口の中を犯したかったし、けれど唇も重ねたかった。蜜の詰まったはちきれそうな身体を、力任せに揉みしだいてもやりたかった。
 何から手をつけようか、迷うあまりに手が震える。
 情けない。何をそんなにがっついているんだろう。初めて抱くわけでもあるまいし。
 うろたえる自分を隠すために、銀時は意地悪くに訊ねた。
「なに?そんなに欲しいの?」
 そうやって言えばいつものように、が照れて怒り出すはずだった。「ち、ちがうもん、そんなんじゃないったらっ」
 をつついて乱してしまえば自分はすぐに余裕を取り戻せる、そのつもりでいたのに。

 ところがの熱い目は、銀時をじっと見つめ返し、消え入りそうにうなずいたのだった。
「…うん」
 …うそだろ。

 胸と頭が締めつけられてきゅんと痛んだ。興奮で目が霞みの顔が見えない。
 重ねて虚勢を張るものの、声はみっともなくかすれていた。
「早く、挿れたい?」
 いつにも増して顔を赤らめ、今にも泣きそうに照れているのに、それでもやはり、は同じようにうなずいた。
「…うん」

 胸の痛みが激しくなる。またがって犯したい。今すぐに。下着の中で熱い肉塊が存在を主張しはじめる。見て確かめるまでもない。
 …でも。

 もっと辱めてやったらは一体どうするだろう。同時に心の別の部分から、灼けるような欲望がせり上がった。
 早くの中に突っ込みたくて、焦れに焦れているこの状況を、銀時は愉しみ始めていた。焦らせば焦らしただけ、繋がった時の快感はいや増すだろう。限界まで引っ張ってみるのも悪くない。

 銀時は優しくささやいた。ふやけた指での唇をなぞりながら。
「なあ」
のあそこ、今どうなってんの」
「教えて」
 はぴくりと怯えた目をして銀時を見返した。言葉で言うことさえ恥ずかしいのに、銀時が望むのはそんなことじゃないとすぐに解った。


 銀時がじっと待つ前で、の太ももの力が緩んだ。軽く足をひろげ、それからは右ひざだけを少し立てた。
 の目を見てわざと訊ねる。
「見してくれんの?」
 手のひらではなく、は両腕で顔を隠した。こくりと息を呑む白い喉に、銀時はまたしても目が眩んだ。

 銀時はの足の間にひざまづいた。まくれあがった襦袢から、たゆんとやわらかいクッションのような太ももが伸びる。つけねに淡い翳りがわずかに見え隠れしていた。
「それじゃー中まで見えねえ」
 自分の手を使う気はない。はさんざん迷ってから、足の角度を少しだけ広げた。ぱさりと布が傾いて落ち、のその部分が姿を見せた。
 瞬間、甘い匂いがしてすぐ消える。
「もっと広げて」
 は意外なほど素直に言うことをきいた。

 こじんまりと控えめな作りの花びらは、早くも真っ赤に充血して、分泌物で濡れ光っている。愛液は誇張ではなくしたたって、割れ目から流れて襦袢の上に大きな染みを作っていた。
「うわ。べっとべと」
 冷やかすようなその声にが両膝をわずかに閉じかけた。はあと張りつめた息を逃がし、震えながらもう一度足を開く。足の力を抜くだけのことに、とんでもない努力が要るらしい。
 ひだをするっと撫でてやると、入り口に溜まっていた水分が、表面の張力を破られてこぼれ落ちた。
 は咄嗟に全身を強張らせ、また意識して力を抜いた。
「…っう、」
「今こぼれたの、わかる?」
 の反応を銀時はひとつひとつ言い聞かせた。
「ここも、もう勃ってる」
 ろくに刺激も与えられていないのに、の最も敏感な部分は小さな肉芽をいっぱいに膨張させている。
「いやらしーな、ずーっと、こんななってたんだ?」
「ひやっ、ん」
 濡れた指を使って芯で遊んだ。火照った蕾をつまんでつぶす。そっと皮を剥いて優しくくすぐる。形をじっくり観察しながら飽きずにおもちゃにしていると、やがて裏返るの声。
「銀ちゃ…、あ、あそばないで、おねが、い…、…、もう…」
「え、うそ、もう?」
「ご、ごめん、なさい…だって、だってね…」
 だって、身体が、ふわふわ、浮くの、と。舌ったらずには呻いた。

「ふーん、いいよ?銀さんちゃーんと見ててやるから」
 小刻みに指で花芯を弾き続ける。微妙な力でととととと、と。の入り口が物欲しそうにぱくぱくしていたけれど、それは後からのお楽しみ。繋がるのはもう少しだけ後。それに指なんかじゃない。
「やっ、は…っあはっ、あっ、」
 粘液が溢れる。内ももの肉がふるふると震える。そのつど銀時はにその様を聞かせて煽った。
「またこぼれてきた」
「ひくひくしてる」
「あ、今ぴくって…」

「もうっ、やっ、あああっ…」
 腰が何度も浮きあがり、堅い床の上で跳ねる。両手で覆った隙間から、口だけが覗いてひきつった嬌声を漏らした。
「あっ、あ、あ、あっ、あああっ、だっ、だめっ、っ、もう、もうだめっ…っ!!」
 花芯から強引な快感が突き抜けた。ひざから上をきつく閉じ、腰を中心に弓なりにくん、と仰け反る。
 はほんの一部分への刺激だけで、半ば無理やり絶頂を迎えさせられた。






 の手をつかみベッドに乗ると、銀時は真ん中で仰向けになった。ズボンと下着だけを蹴り飛ばすように脱ぎ散らかして、を自分の上に引っ張り上げる。
 少し虚ろな目をしたが、促されるままよたよたと銀時の腰にまたがった。
「ん…っ」
 屹立した銀時はいとも簡単にの奥深く呑みこまれた。一度達してしまった身体は快感よりも異物感を強く感じるのか、は苦しそうに眉をよせ、銀時の胸にどんと手をついた。
「ててっ」
「ふあ…?あ、ごめん…」
 一応これでも、怪我が少しも痛くないわけではないのだ。銀時が苦笑いして眉をしかめた。

 それからは、は両手を注意深くベッドについて、反応を見つつゆるゆると動いた。
 濡れそぼった内部がそれ自体生き物のようにうごめいて、深く奥へと銀時を招く。
 最奥の壁に突き当たり、それ以上進めないほどに侵し侵され、乾きがようやく癒された。


 ぐずぐずに着崩れながらも、の襦袢は紐一本でかろうじて体に巻きついている。銀時が下からそれを脱がせて、丸い肩から腰に続くなだらかな曲線を露わにした。
 たぷん、と揺れる胸のふくらみに、力を入れずにそっと触れる。揉むというより重みを支えてやるような銀時の手。頂点の突起には決して触れない。になるべく刺激を与えまいとするようだ。
 もやんわりとゆるやかな刺激を銀時に与え続けている。
 このままずっとつながっていたい。少しでも長くこの姿勢でいたいと、お互いに同じことを思ったのかもしれない。
 気だるく、ゆったりと、二人はたわいない言葉を交わしはじめた。

「銀さん別に、床の上でしても、良かったけどな」
「やだよ…そんなのぉ…」
「レイプ、してるみたいで、燃えるかも」
「バカ」
 目を見合わせて静かに笑う。笑いながら交わるのなんてには初めてのことだったけれど、奇妙に和む行為だった。


「お前いねえんだもの」
 とろりとした目で、が上から続きを聞きたそうにする。
「店行ったら、いねぇから、」
「置いていかれたかと思った」
 が上気した顔をほころばせた。
「寂しかった?」
 それには答えず、苦笑いして銀時は続けた。
「やっと、会えたと思ったら、あの家じゃ、お前別人だしさぁ」
 えへへとは甘えるように、体を倒して銀時に重ねた。分厚い胸板にの乳房がつぶれる。頬を寄せると銀時の身体は、温かいというより熱かった。

、も、ひとりで、ずーっと、寂しかったんだから」
 ここが?と銀時は冗談めかして、一度だけ大きく腰を突き上げた。
「違うっ、ようっ、バカっ」
 熱い内壁がきゅうっと縮まって銀時自身を締め上げる。慌てて銀時は腰をひいた。淫らにうねる通路の中に危うく放ってしまうところだった。
「うぁ…」
「やっ…、もうっ、あ…っ、あっ、もうっ、ダメじゃんっ…」
 それまでゆっくり、抑えに抑えて動いていたのに、その瞬間をきっかけに、の意識は違うところへ奪い去られてそのまま戻らなくなった。

「…ね、ねぇ…」
「ん…、ああ、」
 銀時は黙りこくって眺めている。自分の上で腰を振り、無我夢中で性感を貪る娘の姿。上半身を倒したまま、腰だけが軟らかくくねり、それはそれは卑猥な動きだった。
?それ、気持ちいい?」
「ん…、いい…」
 銀ちゃんは?と目で尋ねられる。銀時は笑ってやりすごした。幸いなことに、傷の痛みが銀時を冷静につなぎとめてくれる。
「後にとっとく。風呂入ってから、もいっかいしたい」
「やぁだ…、もう…、なにいってんのぉ?」
 は無理して笑ってみせたけれども、笑顔はすぐにせつなげに歪んだ。唇を噛みしめ、黙って腰をしならせ続ける。

 やがて静かに、重なり合った部分から快感がつたって、の脳髄を蕩かした。
「あのね…、」
 薄く目を開け訴える。
「ん…、っ、銀ちゃん、あのね…、」
 見てくれている。優しい目で。それだけでは昇りつめてゆく。

 名前を呼ばれ、頬をなでられ、その手の優しさに背筋が震えた。気を失いそうな快い痺れが爪の先にまで走った。
 足の指まで震える。引きつる。
 けれどさっきの一度目のように、走り抜けるような感覚じゃない。
 じんわりと体の隅々まで、水が満ちて溜まっていくような、あたたかな絶頂。
「あぁ…、…ね、あ…もう…」
 そして頭が真っ白になる。傷のことなどなにもかも忘れ、は銀時の胸にすがった。
 まるで背骨がなくなって、体が溶けていくようだった。







 ざばざばと、ガラス越しの水音を聞きながら、銀時はベッドの上でごろごろしていた。
 目に入るのは安いクロスの壁紙に、やはり安物の照明器具。目新しいところも特にない、よくあるホテルの部屋だったが、こうしてやっと一息つくまで、そんなものを見る余裕もなかった。

 そこへふらふらおぼつかない足取りで、がバスルームから戻った。
 ぽてんと隣に倒れこんだの、ほつれた髪を撫でてやる。はくたくたの体をひきずって、今、風呂に湯を張ってきたところ。そこまで意地にならなくてもと思ったが、最初に風呂風呂言っていたから軌道修正がきかないんだろう。

「風呂入ったらさあ」
 はあ、と僅かに息を荒げて、が銀時を眠そうな目で見た。
に頭洗ってもーらお」
「…いいけど」
 実家で介抱していた時には、が枕元へたらいを運んで、毎日さっぱりさせてあげていた。かゆいところはありませんか?
 …少しだけ、家の者の目が冷たかったっけ。
「あんなの楽しい?」
「楽しい」
 銀時がの頭をかき抱いた。
 ふうん、と興味もなさそうに言って、は目を閉じ銀時の胸に顔を埋めた。くあー、とひとつ、大きなあくび。
「へんなの…」



 そのままが寝入ったせいで、結局二人が風呂に入れたのはそれから何時間も経った後だ。





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