一瞬でも離れてしまうのが嫌で、背中に抱きついてみただけだった。
結果としてそれが銀時を上手い具合に邪魔したようで、電気を点けそびれた部屋の中はそれからずっと暗いままだ。
頼りの明かりは出口近くの常夜灯だけ。お互いの顔も体も輪郭くらいしかわからない。
ちょうどよかった。これならも恥ずかしくない。何をするのもされるのも平気。
下着まで残らず脱がされるのも、その格好で銀時の足のあいだにうずくまるのも。
もう覚えるくらいに見られて、見てもいるけれど、互いの体を隅から隅まで明るいところで曝すのはにはやっぱり馴染めなかった。
どうしてもって言われたら。
そりゃあ、言うこと聞くしかないんだけれども。
そっと両手で銀時のものを包み、は舌先を遊ばせた。
このまま挿れてもいいくらい、それは既に大きく張りつめている。先触れの汁がもう滲んでいて舐めると少し苦かった。
が舐めようとする時には銀時はいつでもこんな感じだ。もう十分に熱く硬くて、がすることは唾液でたっぷり濡らすくらい。
「そりゃーそうだろ…」
が小さくつぶやくと銀時はかすれた声で応えた。肘をつき上半身を少し起こして、の顔から目を離さない。
「が銀さんのくわえてるってだけで俺ぁいきそーだよ」
言葉と同時に大きく息を吐きながら、懸命に気を逸らそうとしている。余裕をなくした苦しげな声が愛しい。
「はふ」
突然のフェイント。口に含んで強めに吸い上げてみた。銀時の腰がびくん、と浮き上がる。んんっ、とひときわ情けない声も。
それがなんだか可愛くて、もっともっとと吸いついてみたら不機嫌な声が降ってきた。
「こらァ…」
口にしたままは上目遣いに訊いてみた。
「いっひゃう?飲んれあげるよ」
「ヤだ」
子供みたいに銀時は言っての体を引っ張り上げた。
「あのなぁ、一晩に2発も3発もヤれるほど銀さんもう体力ねーの」
「そうだっけ」
ひじを掴んで引っ張られ、は銀時の上に跨らされた。
何も言われなくとも銀時のさせたいことはわかる。真上を指して反りあがった部分に位置をあわせて体を沈めた。何度も何度も教えられ慣らされてしまった作業だから、こんな暗がりでも、目をつぶっていても難しくはなかった。
「…んっ」
ちゅぷっ、と淫らな水音がして、自分のそこも既にねっとり蕩けていたのがわかった。指一本触れられてもいないのに、期待だけでこの有様。
かろうじて残る冷静な自分が自分のことを笑っていた。呆れて、でももうあきらめ半分に。なんて仕方のない子だろう。
くつくつと銀時も喉の奥で笑っていた。
「気持ちいいんだ?」
一度だけうなずいて、それきりは黙りこくった。明かりがあればとても真剣な顔が見えたはず。熱く硬いものが自分を侵す感覚を、身動きするのも忘れて噛みしめている。
の中は銀時でいっぱいに満たされていた。満たされて初めて、そこがいままでからっぽだったことに気づく。
気持ちと一緒だ。は銀ちゃんにくっついていないといつも寂しくてしかたがない。
「…は」
やがてぱたんとベッドに両手をつき、はゆっくり腰をしならせはじめた。下から銀時の手が伸びて頬から喉を撫でてくれる。
銀時が好きなようにさせてくれるので、は自分の気持ち良いところだけを、じっくり集中して探った。すぐに気持ちよくなってしまうのも、だから当然といえば当然。
「ん…っ、はぁ…、銀ちゃん…」
名前を呼びはするけれど返事が欲しいわけじゃなかった。あんあんあえぎ声を出すのは恥ずかしいから、意味はなくとも口にするだけだ。
「お前それさァ」
とは逆に、すっかり余裕を取り戻した銀時が突き放すように笑った。でもそれだけで腰がぞくりと痛いほど痺れる。
「俺のモン使って、一人でしてるよーなもんだろ?」
声がどことなく意地悪かった。嬉しくてさらに腰が震えた。
「やだ…へんなこと、言わないでよ…」
「だってそーだろ?いやらしー子だよ。それだけあれば銀さんなんかいらねぇんじゃね?」
「…なこと、ないよう…」
「嘘つき」
つながっているとの嘘なんかすぐばれる。の内壁は銀時をきゅんきゅん締めつけて、何を言おうと真実味がない。
言われた通りだ。は銀時を道具のように好きに使って、勝手に自分を慰めていた。
だからって別にどうでもいい。頭の中には靄がかかり、顔は火照り目が霞んだ。考え事はまとまらない。そろそろ昼間の自分はどこかに消えて、はものすごくだらしない娘になる。
いつしか名前を呼ぶ声も止まり、荒い息だけが喉をつく。息の間隔がどんどんどんどん狭くなり、の限界を知らせていた。
「ね…?いっていい?」
それも返事なんて求めてはいなかった。ダメとは絶対言われないと分かっている。
がなりふり構わずよがればよがるほど、銀時は喜ぶ、はちゃーんと知っている。
そのはずなのに。銀時は突然腰を引いた。
「やっ、は…っ?」
「まだダメ」
両脇に手を差し入れられ、軽く身体を持ち上げられた。姿勢を崩したの中から愛液にまみれた銀時自身がぬるんと姿を現した。
「やぁ…ん」
抗議の声は弱々しい。の気持ちも溶けかけた身体も、どちらもすとんと落ちきってしまった。
ひどい。あと少しでは終われたのに。
銀時はをベッドに仰向けに寝かせ、両ひざをつかんで大きくひろげた。ぺろりと自分の親指を舐めると、その指で押さえつけるようにの芯に触れる。
「あ…んやっ…」
ぴりっと甘く心地よい痺れがの全身を突き抜けた。
丁寧に丹念に、前戯だったなら嬉しいくらいに敏感なところを擦られたけれど、今の体はそんなものを求めていない。
空ろになってしまった場所に早くもう一度銀時が欲しい。浅ましくうねる下半身は自分の意志では止められなかった。別の指でひだをひろげられた途端、熱い粘液がとろりとこぼれた。
「お前どっちかっつーと、中が好きだもんな」
その声は、どちらかといえばに言い聞かせるようだった。
「…んんっ」
やっと挿れられたのは中指が一本きり。溜まった蜜をかきだすように、指は前後に行き来した。
でもこれもが欲しいものとは少しだけ違う。もどかしくて何度も身をよじる。
「これじゃあ物足りねーか」
安いベッドが軋むほど、こくこく精一杯頷いたのに、わかっていて見えないふりをするのだ。
「指じゃ足りない?」
「ん…、うん、足りない…指、イヤ」
「そ」
消え入りそうな声で、けれどしっかり言葉にして答えると、銀時は小さく頷いた。
の両足を肩に抱え、身体を大きく折り曲げさせ。そして、にその味を覚えさせるように、ゆっくりと中へ体を進めた。
二度目の坂を駆け上がるのは驚くほどに簡単だった。醒めた体にまたすぐ熱は行き渡る。
「んっ、も、もう…ねぇ、ねぇ、銀ちゃん、ねぇ」
「いきそう?」
「うん、うん、ね、いって、いい?ね?」
の声が裏返りそうになったところで銀時がぴたりと動きを止めた。
「やだぁもうっ!」
あられもない叫び声は怒りではなく哀願だ。はまたしても中途半端なところへ置き去りにされた。
たまらず銀時を抱き寄せる。物欲しそうなその指が肩に刺さって食い込んだ。
「痛い痛い、何?」
ゆるく口の端をあげて銀時はにやにやと笑っている。
わかってるくせに。
「ちゃんとお願いすんの」
「もっとぉ…」
「何を?」
「うぇ?」
教えたものを、今度は思い出させようと、銀時はの奥を突いた。
「ん中に入ってる、これは何?」
「んぁっ…ん…言えないよぅ…」
「へえ?言えないようなモンが入ってんだ?」
軽く腰を引く。
「ああんっやっ、やだっ、抜いちゃやだぁ…っ」
がわめけばさらに浅く。ただし身体の火は消してしまわないように、首すじを噛み、鎖骨から乳房を唇で攻め立てた。
時々抱きしめては深く押し入る。そしてまた抜く。をちりちりあぶるように何度も与えては取り上げた。
熾き火のままでいつまでもいつまでもくすぶらされて、はもう頭がぱーんと弾けそう。
突然銀時が始めた話など、最初は本気でどうでもよかった。
「手ぇつないでたんだろ?可愛いねぇ、そんなことで真っ赤だったって?きららちゃん」
「ふぁ…?」
浅く焦らされ続けた後の、何度目かの深い挿入の時だ。小刻みにの体をなぶりながら、銀時が始めたのはそんな話だった。の胸がなぜか重たくなった。
「やめてよ…」
「どんな話したの?デート面白かった?」
「あとで、それ、あとで、話すからぁ…やめて、今…いやっ」
いたたまれなさに心が竦んだ。今はきららちゃんの話なんかしたくない。
彼女とは趣味が合った。着物や本の話をした。昔からの友達みたいな、いかにもお仲間のような顔をして。
よくもあんな顔ができたものだ。は本当は男の下で、こんないやらしい声をあげる娘なのに。
「こーんなイヤらしい娘が、澄ました顔で少年少女の初デートに紛れ込んでたわけだ」
「いっ…」
自分の感じた後ろめたさを、まさに突かれてが震える。
それでも急に規則正しくなった動きに、身体だけは否応なく反応した。
「いっ、イヤらしくなんか、ないも…「はい嘘ー」んんんんっ!いやっいやいやっ!」
完全に身体を離されそうになって、情けないことにその方がよほど辛かった。
せっかく気持ちよかったのに、もうちょっとでいきそうだったのに。
「な?ほら、お前もう欲しくて欲しくて頭おかしくなってんじゃねーか。
みんなが知ったらどうするよ?お前がこんな淫乱だって、知ったらみんな、どうすると思う?」
「ち、ちがう、もん…淫乱じゃないぃ…」
「嘘つきは銀さん嫌いです」
あっさりと、銀時のものが残らずから引き抜かれた。
「やあぁぁっ!いいっ、いいよ、いいよ、もう淫乱でいいよ、いいからっ…」
「何それ、そーゆうことにしときましょって言い方はー?そうじゃねーだろ?」
がどれだけみっともなく声を裏返しても、それだけではまだ気に入らないようだ。
ぱっくり口を開けた秘所に銀時は先端だけをあてがった。指で支えた自分の性器をくびれまで挿れて、抜いて、焦らして、遊ぶ。そのたび泣き喚くを見て笑った。
「こーゆうのホント好きなァ?お前」
そのひと言がの身をまた竦ませる。
「そっか、淫乱じゃねーなら銀さんのこれももういらなくね?」
「いるぅ…ちょうだい、ねぇ、ね、お願い…」
「それはちゃん次第ですぅ」
「ん…う、うん、うんっ…」
耳をくすぐる、銀時のとても甘い声が最後にの心を折った。
「な?はぁ、銀さん欲しがってよだれたらしちまうよーなイヤらしい子だろ?」
「うん、ん、うんっ…」
言われた通りに繰り返すと少しだけ奥を突いてくれた。もう最後まで逃げられないよう、は銀時の腰に足をまわした。
「うん…、はぁ、銀ちゃんが欲しくて、よだれ、たらし、っう…、イヤらしい子、です…っ」
「欲しい?」
「欲しい…っ、ほ…、欲しいの、ね、お願い、ちょうだい、ねぇ銀ちゃんのっ…」
「何を?」
は力いっぱい銀時の首を引き寄せた。
自分の身体も半分起こして、まるで耳元にかみつくように、は銀時の、望みどおりの言葉を発した。
ご褒美だとでも言わんばかりに、銀時が激しく腰を使い始めた。ぱんぱんぱんとわざと大きな音を聞かせて身体でも頭でもを追い詰める。
「ひ…あっ…ん、んんっ、ね、ねえ、ねえっ?ね?いい?いいっ?」
今度こそ。
「ああ…、好きなだけ、いっていーぜ、いきな、ほらっ」
「ん…っ、も、もうっ…、今度、やめたらっ、怒るからあっ…」
腕を巻きつけ首にすがる。銀時も二度とは止まらなかった。
「………っっ!」
白い喉が、つま先が反り返り、腰から下が何度も跳ねる。
頭の中が一度ぷつりと真っ白くなって、やがての中は快感だけで染めつくされた。
のすぐ後、銀時も中に果てたはずなのに、不思議なことにそこだけ記憶から抜け落ちていた。ほんの1分か2分のことでも、こんなことは初めてかもしれない。
気がつくとまつ毛が触れそうなすぐ目の前で、銀時が自分を見つめていた。たった今にしでかしたことなど忘れたような、優しいそして憎たらしい顔。
銀時の首に引っかかったままの両腕に、はどうにか下向きの力を込めた。
達した直後の身体はいつものようにとてもだるい。ほとんど力は入らなかったものの、銀時は腕立て伏せでもするように、ぴたりと身体をくっつけてくれた。
「ん…」
髪を撫で、頬をさすられた。ほっぺたを手で包みながら、親指はの目をぬぐった。
目尻に冷たい水気を感じてなんだかは悔しかった。
また泣かされてた。
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