風呂上がりのがいつまでも部屋中をうろうろしていた。
 おとなしく座っていたかと思えばおもむろに台所へ立ってみたり。急に思い出したというような顔で、湯船のフタが閉まっているかをわざわざ確認しに行ったり。
 ソファに寝転びテレビを見ている振りをしながら、こっそりそれを横目で眺めて銀時はほくそ笑んでいた。すげー可愛い。そして面白い。
 可哀そうなくらいうろたえている。

 銀時と「そういう」関係になってしまってから今夜でおよそ1週間。昼間の顔と夜の顔がの中ではまだなだらかに繋がらないのだ。
 どこかでスイッチを切り替えようと頑張っているらしいが、その切り替えについても悩みが尽きない。つまり今は、切り替えるべき時なのかどうか。
 万事屋へ来て風呂を使い、このまま泊まるということは、これからセックスするということを意味する…
 …んだろうか?
 それは果たしてイコールなのか?そう思っているのが自分だけだったらどうしよう。もしかして一緒には寝ても、ただそれだけという可能性もあるのかもしれない。振る舞い方を間違えばコドモと馬鹿にされると思って、それがイヤでは精一杯背伸びしている。
 その胸のうちが手に取るように分かってしまって、ついつい銀時も遊んでやりたくなるのだった。

「こらお前まだ髪濡れてんじゃねーか。こっち来な」
「あ…、うん」
 銀時はを手招きすると、大きなタオルを頭からかぶせた。ぐらぐら体ごと揺さぶるようにぞんざいな手つきで髪を拭いてやるとから少しだけ力が抜ける。
 完全にお子様扱いだ。今夜はこれでいいのかな?とようやく落ち着きを取り戻し、銀時の腕に体を預けた。

 そうして油断させたところへ、銀時は急に声色を変えた。
「布団行くか」
 抱きしめて背中に指を這わせると、それだけでは直立不動だ。
 笑いをこらえるのが大変だった。








 敷きっぱなしの布団の上にを座らせ、向かいに自分も腰を下ろす。ちゅっと触れるだけのキスをして、にっこり目を見て。
 そしてお願い。
 今夜はどうしてもにしてみたいことがある。
「見せて」
「は…?」
 なにを?ととっさに素で訊きかえしそうになって、意味ありげな銀時の笑いにもすぐさま思い当たった。「あ」の形に口を開けたまま、しばらくは声も出せずにいる。

「いや、いやっ、あのっ…、だ、だめだめだめだめだめだめっ、てか見たじゃん、見てるじゃん、いつも…、その…」
 やっとのことで返事はしたものの、詳しく想像してしまったのか顔から首から真っ赤っ赤。早くも見ごたえのある反応に、この先期待がふくらむ銀時だった。
 自分の顔もに負けじと火照りそうなのを、そこは大人の余裕というもので上手に紛らせる。銀時が冷静な顔で居ればいるほどは取り乱す。もっともっとテンパってしまえと思う。可愛いから。
「だーってありゃ違げーだろ。挿れる時はそりゃあ見るよ。見なきゃどこ挿れていいのかわかんねぇ。挿れるときは…」
「やめてぇぇぇ!」
 三角座りのひざの上には突っ伏し顔を隠した。


「な?見せて?」
「………」
 銀時はのひざと顔との隙間に頭をぐいぐい割り込ませた。真下から無理やり視線を合わせると、首をかしげて可愛く可愛く言ってみる。
のあそこがどうなってんのか銀さんに見ーせーてっ」
「………イヤ」
 はぷいっと横を向いた。
 もちろんこんなことは予想の範囲内だ。
「えぇぇぇぇぇ〜?」
 銀時は不平たらしい声をあげるとそれきりぴたりと口をつぐんだ。

 気まずい静けさが漂う。
 はこの手の沈黙に弱い。間がもたないのに耐えきれなくて、ついつい自分から話の糸口を差し出してしまう。接待にはともかく交渉ごとには向かない性格だ。
 今もそう。逸らしていた目でちらちら銀時の様子をうかがって、結局が一歩譲った。
「…部屋、真っ暗にしてくれたら…」
「それじゃなんにも見えねーじゃねえか」
 それなのに銀時は即却下して、再び沈黙が訪れた。

「…か、懐中電灯で、見れば…」
「なんつー卑猥なことを思いつくんだおめーは」
 呆れる銀時にはくるくる目を回す。
「えぇぇっ?だってっ!だってっ、だってっ…」
「あのなぁ、よーく考えてみ?真っ暗闇で女の子の股間にうずくまって、男が懐中電灯で股間照らしてんだよ?どんだけ淫靡なシチュエーションよそれ?」
 銀時の脳裏にもその図が浮かんだ。赤いライトでおぼろげに、その部分だけを照らされる
「…おぉ」
 それはそれでいいかもしれない。いずれやってみよう。来週にでも。


「なぁ?見せてみ?見せてー?見ーせーてー?見ーせーろーやぁぁぁ」
 布団にごろんとひっくり返り、銀時は手足をじたばたじたばた、おもちゃ屋さんの店頭でだだをこねる幼児のようにばたつかせる。
「なぁなあなあなあ?」
 は困ってどうしていいのかわからずに、赤青白黒顔色を変えた。

 浴衣の下でふくよかな体が震えているのがよくわかった。この中身は3日ほど前に、煌々とした明かりの下でくまなく観察させてもらった。はそれも最初は嫌がっていたけれど、触れてキスして言葉をかけると、そのうちぐずぐずに蕩けた。
 この一週間というもの朝にも晩にも実験と記録だ。を抱くたび発見があって、知らなかった部分を埋めていくのが銀時は楽しくて仕方がない。
 なめまわすような銀時の視線に気がついて、がひょこんと飛び上がるように姿勢を正した。

「イヤ?」
「…あたりまえでしょー…」
「なんで?」
「き、きたないよ、そんなとこ…」
 の頬に唇を寄せて、甘い声がささやく。
「今風呂でぴかぴかにしてきたとこじゃねぇの?」
 そのままほっぺたに口付ける。手のひらで反対の頬をさすりながら、鼻の頭をぺろりと舐めて、遊びのように唇を重ねた。

 どれだけ抵抗しようとも銀時に逆らえないことはにも最初から分かっている。せめてそれならと羞恥で鈍る頭を一生懸命に働かせ、は銀時からどうにか譲歩を引き出そうとしていた。
「えっと、じゃあ…、ぎ、銀ちゃんも、全部脱いでくれたら…」
「なんで俺が」
 それも即却下。だけを裸に剥いた方がもっと恥ずかしくて良いに決まってる。だいたいが銀さんに交換条件を持ちかけようなんておこがましいというものだ。お前はご主人様の言うことを黙って聞いてりゃいいんですぅ。
「どうしろってのよぅ…」
 とうとうがくしゃっと顔を歪ませた。
「その足開くだけでいいんですけどぉ?」
「うぅ…」
 上目遣いに涙目が訴える。眉もくちびるもへの字に情けなく曲がっている。
 ぴたりと閉じたのひざを銀時は着物の上から優しく撫でた。
「ほら、開いて?」
「でも…」
「早く」

 がおそるおそる、立てていたひざをわずかに開く。
 けれども浴衣と太ももの影が合わさり、大事なところへ明かりが届かない。
「そんなんじゃー見えねぇよ?浴衣もめくって」
 銀時は手を貸さない。が恥じらいながら、自ら足を開くのを楽しみに待つ。
「ほら。ちらーってして。ちらーって」
 がひざの上で浴衣を握り締めた。きつく握りすぎた手が血の気をなくしてわなないていた。
「…や、やっぱり、やだぁ…」

 もちろんそう簡単にはいかない。当たり前だ。そうでなければ面白くない。
 銀さんだってコドモじゃないからぁ、女のそこなんて別に珍しくもねーの。そんなもんが見たくてやってるわけじゃない。
 見たいのはが困って嫌がる顔。それからあきらめて従う時の泣き顔だ。
 が最終的には自分に決して逆らえないことをわかった上で、いたぶる悪い大人の自分も好き。

…?」
 そのくせのためらう時間が自分の予想より1秒でも長いと、銀時はとたんに不安になった。泣かすのはいいけれど本気で怒らせるのは怖い。ましてや。
「もうイヤ?銀さんのこともう嫌いになる?」

 ぎゅううっとまぶたを硬く閉じ、大きく深呼吸をして、は浴衣の裾をもちあげた。
「………好き」
 あぁ銀さんもが大好きだ。



 ひぁ…っ、と声にならない声をあげ、がわずかに身じろぎをした。
「わ、かわいー」
 銀時は布団に寝そべって、間近にじっくりそこを眺めた。淡い茂みに覆われたふくらみに小さなひだが隠れている。耳たぶのような柔らかさのそれを指でつまんで、まずは手触りを楽しんだ。
 重なり、閉じていた花びらをかきわけ、さらに内側を見えるように曝す。粘膜はきれーな桃色。大丈夫、自分の他には誰にも触られていない。
 銀時はを見上げて訊いた。
「ここにちゅーしていい?」
 うぐぐと唸り声がする。それでもなんとか逃げ出すのをこらえて頷いたに銀時は。
「じゃあ言って」
「…な、なに?」
「舐めてくださいってお前が言うの」
 声もなく口だけがぱくぱくした。なにかおかしいと違和感だけは感じるのだが、もいっぱいいっぱいで銀時の要求につっこめない。

 のかぼそい声が漏れた。
「…舐めて」
「あー悪りぃ。聞いてなかった。もう一回」
 ショックで青ざめた絶望的な顔をは両手で覆い隠す。
 けれども指の隙間から、今度ははっきりと声がした。
「舐めて…。の…」
「…ん。の?」
「あそこ…、舐めて、ください…お願い…っ」
 じわじわと潮が満ちるように、広がる征服感で銀時の胸が詰まった。きゅーっと。



 小さく舌を上下させ、丁寧に舐めてそこを湿らす。それだけでは肩で細かく息をしはじめた。
 すう、はあ。火照って赤い頬を押さえ、早く銀時の気が済むようにと祈っているに違いない。内腿には銀時の髪が触れて相当くすぐったいだろうに、緊張してとてもそれどころじゃない。
 舌は中心に息づく粒にたどり着き、大切なものを扱うように優しい力でちろちろ転がした。傷つけないよう大切に、唇で挟んで押しつぶすとの腰が何度も跳ねる。
 硬く勃起してきた種子の表面をよく濡らしてから指で剥く。顔を出した芯に吸いつこうとするとがびくりと硬直した。いつだかそこをさわられて、痛かったことを覚えているらしい。

 やがて奥からとろりと、甘い味のする粘液が湧き出した。
「濡れてきた」
「ちが…、それ銀ちゃんの…」
「銀さんのよだれはこーんなねっとり濃くありませんー」
 は自分の反応に戸惑っている。そんな子供に自分のしていることを思うと銀時の背中は総毛立つ。


「…ここ」
 銀時は愛しげに、中指の先をの中へつぷっと押し込んだ。ほんの先端、爪がようやく隠れるくらい。
「まだ痛い?」
「…うん」
「このあいだオトナになったばっかりだもんなー」
 もう少しだけ奥まで押すと、その先はが勝手に飲み込んでくれた。
「やっ…いっ…」
 痛いと言われる前に指を引き抜く。がほうっと緊張を解いた。

 はあはあ荒い息を吐くのをしばらく休ませてやってから、再び指先だけをに抜き挿しし始める。粘液が指を追いかけて、とくんとくんととめどなく溢れた。
 挿れては抜き、順に深くまで慣らしながら、抜いては挿れてを繰り返す。はじめは第一関節まで。それから第二間接まで。
「ほーら、入ったぁ」
 付け根までぐいっと飲み込ませても、はもう痛がらなかった。
「中、すげぇ、あったかいわ。きもちいい」
 温度と収縮を味わいながら、ゆっくりと指を前後させる。壊れるほど激しくしたくなるのを、抑えて静かに。その代わりしつこく何往復も。
 のひざから力が抜けてはしたなく大きく開かれていく。あれだけ必死に隠していた部分をぱっくりさらけ出してしまっても、今では何も感じないほど我を忘れてしまっている。
 吸って吐くだけだった呼吸にはすすり泣くような声が混じっていた。まだ上手に喘ぐことはできない。
「は…、…あっ、…っ、はっ…」
変になってきてんよー?」
「うぁ…っん…」
 からみつく愛液のおかげで指はいよいよ滑らかさを増した。だが中の指は反対に窮屈に締めつけられてくる。
 はうなだれ、頬にかかる髪を夢中でかきむしっていた。がむしゃらにその手を動かして、快感にすくわれそうになるのをかろうじてこらえているらしい。
 もっと乱して恥ずかしくさせて、銀時の前でなにもかもさらけ出させたい。二度と逆らえなくなるくらい。
 ずるりと指を引き抜いて、こぼれた甘い蜜を音たててすすった。



 おいで、と手を引きを横にする。銀時は片腕での頭を抱きかかえ、自分の中に小柄な体をそっくり包みこんだ。
 熱くなった頬に唇で触れる。ついばむだけでは足りなくてぺろり。舐めるだけでもまだ足りなくて歯を立てずに噛む。いっそクリームでも塗って食べたい。
 がもぞっと足をこすりあわせた。
「ん?」
 顔を上げてが唇をねだる。しゃぶりつくように重ね合わせて、指では望みどおりに続きを。上からも下からもくちゅくちゅと水の音がした。
「ふ…、ん…っんんっ」
 の体が小刻みに震える。時おりひくっ、と大きくのけぞる。そろそろ限界も近いと見て、銀時は指の動きを早めた。
「気持ちい?」
「うん…、うん、きもちいい…」
 目を伏せ、遠くに思いを馳せるような、心ここにあらずな表情。だらしなく開きっぱなしになった口からよだれがもれそう。口で封をして一滴もこぼさないように飲んだ。

「あ…っ、あのね…、また…、また…、あれ…」
「前ん時みたくなる?」
「うん…変なかんじ…」
「イキそう?」
「ん…い、いきそう…っ」
 新しい言葉を覚えたにご褒美。壁の上側をこすってやると手のひらもびしょびしょになるほど溢れた。
「これ好き?」
 こくこくこくこく。首を振るばかりでもうは満足に返事もできない。銀時にしがみつき、ひたすらにふるふると髪を振り乱している。
「んんっ、ん、ふっ、んんっ、んっ、」
 つま先がぴん、と引き攣った。くわえこまれた中指は締めつけられて血がとまりそうだ。
「イク時言って?銀さんに教えて?」
「は…っ、あ、ああっ、う、んんっ」
 何度もうなずくがわかっているのかどうか。銀時の襟が爪を立ててつかまれ、中の皮膚にまで痛みが走った。
「い…」
「イク?」
「うん…、んっ、ああっ、い…っ、いっちゃう…っ、っ、いっちゃうっ…」
 中で動く指とリズムを合わせ、びくんっと何度もつま先がのけぞる。そのたびの内壁は飲みこんだ指を緩急つけて絞り上げた。






 くったり銀時にもたれかかり、上がった息を整えながら、がその指をこそっと伸ばした。銀時の腿に。
「こらこらなにすんの」
もしたい…」
「は?」
も、銀ちゃんにしてあげたい」
「あ〜…」
 さりげなく銀時が腰を引く。思っていたより鈍い反応をは意外そうにした。
「どうして?そーいうのはさせたいとか思わないの?」
「あぁはいはい、まぁそういうのはまた今度な〜」
 さらりとそう言ってやりすごしたつもりが。
 ぽつりとこぼれたの声に銀時は言葉を失った。

「でも、その…、…、銀ちゃんのだったら…、お口で…」
 したいな。
 いくらなんでも慎みがないと思ったのか、最後の数文字は聞こえるか聞こえないかのか弱さだった。


 銀時は何も答えない。
 答えられない。ひとことも。
「あっ?なに…わわっ?」
 自分の顔を絶対見られないように、を胸の中に抱きしめた。
 有無を言わさずのしかかり組み敷いて、今度はの乳房に吸いつく。戻ったばかりのの呼吸が激しく乱れ、たった今の会話はうやむやになった。
「は…っ?あっ、なぁに?へんなこと言っ…、あっ、なに?」

 言えるか。この口でフェラなんてされたら暴発しない自信がないとか。
 照れながら言った今のの顔を見ただけで、ささやかれたその言葉だけで頭が沸きそうになっているとか。
「ど、どうかした?銀ちゃん」
「…なんでもっ!」

 まだしばらくは余裕ある大人でいさせてくださいっ!





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