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 陽気で賑やかな春の夜。
 職場や学校の歓迎会シーズン、ちょうど一次会が終わるくらいの時間とあって、かぶき町の表通りは筋のよろしい無害な酔っ払いたちであふれかえっている。
 は少し湿った髪の毛を夜風に吹かせながら、二次会を目指す彼らとは反対方向へ歩いていた。
 銭湯からの帰り道だ。真新しい浴衣を着てこざっぱりとした姿なのに表情の方は思わしくない。渋くなったり沈んだり、その顔は街のネオンにも負けないくらいにころころと色を変えていた。



「やっぱり…するのかな、するんだろーな…」
 ずるんぺたんと彼女らしくもなく下駄を引きずり歩きながら、はわざとらしく腕組みをしている。その方が物思いにふけっている気分が盛り上がるような気がして。
 物思いとは他でもない。銀時とちょっとしたケンカをして、実は今夜がそれからきっかり91日目。
 初日にの言い渡したサービス停止・使用中止…つまりセックスおあずけの謹慎期間が、明けて最初の夜になるのだ。

 「ならタダでできるのに、女買うなんてバカバカしい」だと?
 銀時の吐いた暴言への怒りは海の底のように深かったのだが、ついに今夜まで指一本挿入させることもなく、初志貫徹して気は済んだ。そこは後腐れなく水に流してあげようと思う。
 それに、90日は長すぎたかなとだって反省していないでもない。
 だから今夜は仲直りとお詫びのしるしに何をされようと銀時に逆らわないつもり。


 となると今度は大きな問題が浮上してきた。一体どんな顔をして「再開」を切り出せばいいのかと。

 そもそも銀時と顔を合わせるタイミングからして大いに悩ましい。のこのこから出向こうものなら「さあしてください」とおねだりしているようなものだ。
 それは気まずい。絶対に良くない。
 うっかり下手に出てしまったら図に乗った銀時に何をされるか分からない。

 そうでなくとも今夜はここぞと意地悪されるに決まってる。
 存分に虐め倒せるように、ホテルへ連れて行かれてしまうだろーか?ホテル代はちゃんと下ろしてあるけど。
 家でするなら電気は点けたままだろうか。おもちゃを使うなんて言われるかも。コスプレはやっぱり銀時お気に入りのナースだろうか。
 あるいは軽く縛られるくらいのことは覚悟していた方がいいかもしれない。

「でも銀ちゃんはドSったってそういうふぃじかるなのじゃなくて言葉責めとかが好きなはずだけどね!」
 知らず知らずに大きな声に出していたようで、髷を結った若いサラリーマンがすれ違いざまぎょっとしていた。うら若い娘の口からマニアックな言葉を聞いてしまった、新人広告マンの驚きは想像に難くない。
 もっとも、自分の後姿を呆然と見送る会社員など、不安の尽きないの視界にこれっぽっちも入るわけがなく…。



 だがそう考える一方で、同時に疑問もきざすのだった。の思いつく程度のことを銀時が考えているだろうか?
 90日も我慢したなら100日も120日も変わらないと、一周して放置プレイという可能性も十分ありうるんじゃなかろうか。が泣いて謝りに行くまで今度は銀時が意地を張って…。
 そうなったらどうすればいいんだろう。
 ああ見えて銀ちゃんは難しい人だから、駆け引きなんてやり始めたらきりがない。
「あーもうめんどくさ…」
 あ、言っちゃった。

 答えのない問いにハマりこんでしまったようで、の歩調はいつになくのろのろ、自然下駄の歯もすり減らすことになるのだった。



 それでもやがて家が見えてきた。店の横から路地へ入り、は裏側の勝手口へ回った。中から灯りは漏れていない。
 留守の間に銀時が来ていて待っているかも、とも思ったのに、しんとして人の気配もなかった。
 さあどうしよう。今から万事屋を目指そうか。でも…。

 と、が油断をしたその時。
 背後から伸びた太い腕がを羽交い絞めにして抱き上げた。
「ぎゃーっ?!」





「こらぁっ!」
 思わず悲鳴をあげたを後ろから低くひそめた声が叱った。
「何叫んでんの聞こえの悪い!ご近所に悪い噂がたったらどーする!」
「え?銀ちゃ…うわっ」
 身体をふわりと持ち上げられたまま真っ直ぐ家へ運ばれる。地面から10センチほど浮き上がった足をはばたばた暴れさせた。
「な、なに、どーすんのっ?」
「はいはいはいはい、いいからいいからもうなんも言うななんも言うな」
 あわてふためくを無視して銀時は木戸を開けさっさと部屋へ。片手で後ろ手に鍵をする。
「銀ちゃん…」
「なんも言うなっつってんだろー」
「あひゃっ!」
 うなじをむちゅうっと強く吸われるとそれだけでの背筋に鳥肌がたった。
 間髪入れず銀時はたっぷりの唾液をからませて耳たぶをしゃぶる。吸う。かじる。耳から少し下りた首筋にも同じことを繰り返した。
「は…、銀ちゃん…んあ…」
 の手足がぶらんと力なく落ちた。

 おとなしくなったをゆさぶり、履いていた下駄を土間へ落とす。
 銀時は静かに畳へ下ろしたに、やたらめったらキスの雨を降らせた。
 「なだれこむ」とはまさにこういうことだろうか。問答無用に、有耶無耶なままで、しかも無我夢中。に口をはさむ隙も与えてくれない。それが逆ににはありがたくもあったけれど。
 確かにこうされた方がいっそ気楽。銀時もきっとと同じことを悩んで、が同じことで悩んでいることも承知していたのだ。さすがは銀ちゃんだ。
 だよねお互いそのつもりなんだもんねっ!
 は心の中で他人事のように、自分を揉みしだく手に声援を送った。そうだがんばれー。やっちゃえやっちゃえー。



 もちろんからもちゃんと応える。銀時の首に腕を回し、自分からも唇を求めて引き倒す。
 電気もつけない部屋の中に、ごそごそ布地の擦れあう音と、はぁはぁゆとりのない息が聞こえた。抑える気もない荒い呼吸、やがて唾液のからみつく音。
「は…っ」
 中の暗さに目が慣れればお互いの表情くらいはわかる。窓から差し込む外の灯りはかなりの量だ。
 でもなるべく何も見ないように見えないように、は目を閉じ銀時の手に身を任せた。
 力強い手のひらが乳房をつかみ、痛みを覚えるほど深く指を食い込ませている。反対の腕は頭を抱え、身動きのとれないの顔に手当たり次第に唇が触れる。

 そして銀時が、の手に自分の股間を撫でさせた。
「うわ、すご…」
 思わず漏らしてしまってから、恥ずかしくなっては口をつぐんだ。銀時のその部分は既に服の上からでもはっきり分かるほど膨張していた。手のひらで包むように力を加えると、ぴくぴくと脈打つ。硬さも大きさももはや一刻の猶予もないというほどに差し迫っていた。
「誰かさんのせーで溜まってっから」
「自分で抜いたりしなかったの?」
「女の子がなんつーこと言うのっ?!」



 たったひと言ふた言だったが、馴染んだリズムのそのやりとりでお互いの気持ちが少しだけ落ち着いた。
 目を合わせあらためて、二人はくすくすとこらえきれないように笑いあった。わずかに残っていたぎこちなさも笑い声がさらりと流し去ったようで、肩の力も素直に抜けた。
「ごめんね」
「もっと謝れこのやろー」
 悪いのは銀ちゃんだけどね。それももうどうでもいいか。
「ごめん。ごめんなさい。ごめんね怒ってる?」
 が謝りながら唇を重ねる。角度を変えては、何度も何度も。舌先をしのばせると、応えるようにからめとってもらえて嬉しかった。


 帯を解くのももどかしいのか着物の上から力任せにいつまでも胸を揉みしだく銀時の手。もその手を自分の大切な場所へ誘った。白い足が付け根まであらわになるのも躊躇わず、指が奥まで届きやすいよう着物のすそを自らはだけた。だって今夜は銀時の喜ぶようにすると決めてる。
「ね…」
「お…?」
 軽く開いた足の間に銀時が即陣取って、上着はそのまま、ズボンと下着だけをさっさと脱ぎ捨てた。
「え?いきなり?」
「前戯なんか要るかコレ?」
「ばか…」
 真っ赤な顔でうつむくものの、銀時の言うとおり。
 のその場所も温かく蕩けきっていた。迷うことなく中心部を撫でた銀時の指は、滴る粘液にまとわりつかれて容易く根元まで埋まった。とくんとくんと際限なく蜜があふれだしている。
「な、とりあえず、一回挿れさして。な?もうムリ」
 散文的な口説き文句には苦笑を隠せなかったけれども、は黙って頷いた。
 自身が早くつながりたい。どこもじんわりと熱っぽく、頭も身体も一緒になって銀時を待ち焦がれている。自分がこんなに欲しがっていたなんて、今夜こうなるまでは知らなかった。



 位置をあわせてからの分泌液で先端を湿らせる。上下に何度も表面をこすり粘液を塗りこめる。
 時々勢いにまかせて先端を挿入し、銀時は自分自身を徐々に粘液にまみれさせていった。
「あ、あれ…?」
 ところがなんかへんだなと、その時は違和感に気づいた。
 銀時のものがぬるりと分け入る。そして抜ける。するとなぜだか腰が引けてしまう。
 あれ?

「ま、待って…、待って銀ちゃん…」
「んなムリ…待てね」
「あっん…っだめ、待って、待ってっ…」
 いよいよ挿入しようとする段になって、が上方へずり上がって逃げる。のしかかろうとする銀時の肩を必死にとどめる。さすがに銀時の声にも苛立ちが混じった。
「お前なぁ、まだそういうこと…」
「違うっちがうの…っ」
「なに?」
「い、痛くて…」
「は?」
 このままされてしまうのはつらいけれど、正直に言うのもどうしようもなく恥ずかしかった。
「あ、あそこ痛いのっ…」





「へ…?」
 薄暗がりにぽかん?と間抜けに大口を開けた銀時が見える。だって同じくらいぽかんとしたい。けれどひりひりと鋭い痛みが顔を苦しげにしかめさせる。先端しか挿れられていないのに、の身体は限界を訴えている。
「無理っ、ぬ、抜いて、ごめん、いっかい、抜いて、だめ、痛い痛い痛い…」
 精一杯腕を突っ張って押しのけるのに、なのに銀時は勢いのままに奥まで一息に腰を進めた。喉から勝手に叫び声がでた。
「やぁっ!痛っ!」
 身体の中心が強引に開かされていく。裂けそう。初めての時みたい。
「やっ、や、や、やっ、動かないでぇっ!」

「嘘…?え?なんで?久しぶりだから?」
 根元までぎっちりとにくわえ込ませておいてから、やっと銀時は止まってくれた。
 も理由なんて知らない。銀時の着物を引きちぎりそうに握りながら、大きく息を吸って、吐いて、やっとのことで痛みを逃すことしかできない。
「けど、すげぇ、濡れてんよ?ぬるぬる…」
 銀時の声にこくんともうなずいた。抜き差しされると動きがとても滑らかなことが、それは自分にも分かる。奥から奥から粘液は潤沢にあふれ出る。でも痛みは別だ。
「中、熱い。いつもとおんなじくらい、締まってる、し、別に、おかしなとこ、は…」

 銀時はの顔をぼんやりと焦点の合わない目で眺めている。熱を帯びたその目を内心警戒していたら、案の定。
 やがて両手でがっしりと肩を押さえつけ、銀時はゆっくりと、だが決してを逃がさないように、前後に動き始めてしまった。
「いっ?バカ、痛いって、、言ってるのにぃ…」
「ご、ごめ…。悪ぃ、ムリ…止まんね…中すげーもん」
 確かにぐちゅぐちゅと、粘っこい水音がしている。銀時がことさら音のするように、たっぷり溜めてから腰を突き上げた。
「な?ほら…、聞こえね?ほらっ、」
 ぐちゅっ。
「いたっ、いっ、いたっ、んんっ、」
 内部をこすられるごとに、ぎしっと軋むような痛みが走る。身体が怯えて逃げようとしても、しっかりと組み敷かれそれは叶わない。銀時に止めてくれそうな気配はなく、それどころかリズムは早まるばかりだった。
 かくかくとカラクリのような角のある動きで、ひたすらに深い所へ肉棒をねじこむ。顔をそむけて嫌がるを見て自分一人息を荒げている。
「は…っ、はぁっはあっはあっ、わ、悪い、…、痛かったら、ムリ、しなくて、いーから…」
「うんっ、無理、もー無理っ…」
 銀時はそう言ってくれるのに、がどれだけ頼んでも、えぐるような動きはいつまでも止まらない。
「銀ちゃんっ、い、痛いってぇ…」
「うん、それ、もっと…」
「んっ痛っ…ん?」
 銀時は自分の困り果てたような顔を、ついに片手での視線から覆い隠した。
「もっと痛がってみせて…」
 そういえばこういう人だった…。


 言われるまでもなく、激しさを増す行為に我慢なんてもうしていられなかった。泣き声が勝手に喉をつく。それに、声を出せば痛みも少しはまぎれる。
「ん…い、いたっ、いた…っんんんっ、銀ちゃんっ、あっ、ああんっ」
 泣いて痛がるの様子に銀時はどんどん酩酊していく。目のふちが赤く霞んでいくのをは真下からじっくりと観察させられた。
 いつしか箍が外れたように、の悲鳴にもおかまいなく、むしろより泣き叫ぶ部分を探って選んでいるのかと思うくらい、乱暴に奥を突いてくる。
「うぁ…っ銀ちゃ…、銀ちゃぁん…」
 が涙で歪んだ視界に、銀時の目線を絡め、とらえた。


 きゅううっと、銀時はその瞬間に感極まってしまった。
「うあ、も、…これ、ダメっ、ダメだこれっ…」
 我慢して長引かせる気も今はなさそう。いまにもはちきれそうな男性器を引き抜くと、急いで身体の上を這い上がり、銀時はの顔をまたいだ。
「きゃ…っ?」
 ぬらぬらと光る赤黒いものが鼻先にそそり立っていた。生々しくグロテスクな物体を目の当たりにさせられては息をのむ。欲情しきった怖い目をして見下ろす銀時もおそろしかった。

 先端をの顔へ向け、銀時は自分のものを仕上げにしごいた。雑に握りしめごしごしと、心配になるほど機械的に。ただ出せればいい時というのはこんな風にするのかと、は舞台裏を見たような気分だ。
「目、つぶってなっ…」
 叱り飛ばすような剣幕にが咄嗟に目を閉じたとたん、顔にぼたっと熱い液体が飛び散った。





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