「はぁい、じゃあがんばって〜」
 「総悟」の声に背中を押され、がこちらへ這い寄ってきた。薄暗がりに浮き上がる涙も乾きたての顔が、総悟の目には不覚にも健気な少女に見えた。
 その泣き顔が照れくさそうに「銀時」を見上げ、それから背後の「総悟」を振り返り、ふたたび総悟の「銀時」に向き直る。小さな手が「銀時」の頬に添えられ、ゆっくりと顔が近づいてくる。
「じゃあ、するね」
「は?え?あ、いや…」
 越しに「自分」の顔を窺うと、にやにや意味深に笑いながら「総悟」は片手をひらめかせていた。に任せておけという意味か。
 ぎこちなく笑ってみせてから、は静かに唇を重ね合わせてきた。



 理不尽に追い詰められたあげく、が本気で泣き出した時には、これはもうシャレにはならないと胸が重たくなったのだが。
 とんでもない。
 なにをどう言いくるめられたんだか、すっかり泣き止んだの態度はうって変わって従順だった。
「このバカ女…」
 結局銀時にまんまと乗せられ、趣向のツマにされた気がする。「とヤらせてやる」なんて口車に引っかかった自分が総悟は口惜しくてならない。惚れた弱みとまでは言わないが、少なからず心は動かされたのだ。



 深く口づけ舌をからませ、間にの手は「銀時」の浴衣の裾を割って入った。
 下着にもぐりこんだ指が、中の一物をきゅっと握る。握りしめたり、弛めたり、既に半勃ちだったそれにあっという間に血が行き渡った。
「脱ご?」
「あ、あぁ…」
 の声に腰を浮かせると、するりと下着が脱がされた。鮮やかな手際にどぎまぎさせられる。ポーカーフェイスが保てているか、総悟はずっと気が気でなかった。
 他の人間の目のあるところでうろたえるなんて、そんなことはプライドが許さない。せめて情けない声だけは上げまいと、代わりに何度も唾を飲んでこらえた。
 …にもかかわらず、えぇぇぇぇっ?!と、あやうくみっともない悲鳴が出るところだった。
 下着を脱がすや、が股間にうずくまったのだ。

 みにくい肉の塊にはためらうことなく口をつけた。
 根元をしっかりと両手で締めつけ、口いっぱいに入るだけ飲み込む。口の中では先端を、舌が一心に舐め続けていて、もちろんもっと上手な女を総悟はいくらでも知っているけれど、がしていると思うだけで頭はくらくら、気が遠くなる。
 なによりの手も口も舌も、丁寧でとても優しかった。自分の(じゃないけど)股間で、自分のもの(でもないけど)を、大切に大切に扱ってくれている。
 心臓に次から次から空気が詰まって破裂しそうに膨れた気がする。風船なんて薄っぺらくやわなものじゃなく、自転車のタイヤほど分厚いものが無理やり膨らまされているような。

 時折不安げに目を合わせ、が小首をかしげてみせる。これでいい?とでも訊ねるように。その仕草も仕込まれたんだとしたら、万事屋のダンナはとんだドスケベだ。いや、そうじゃないかとは思っていたけど。 

「ご、ごめんね?あんまり?きもちよくない?」
 見上げるの気遣わしそうな目。唾液で濡れた口の端に、きゅうっと胸が締めつけられる。違う違う見ればわかるだろーが。股間のものはぴんと天を向き勃ち上がっている。今使っている「銀時」の身体は総悟の若い身体より、ずっと反応も鈍いのに、それでさえこのていたらく。
 万が一これが総悟自身の身体だったら、なんて考えるだけで恐ろしい。少なくとも既に3回はの口の中へ出しているはず。

「あり?てことは…」
 の向こうを窺うと、銀時の「総悟」がシーツに突っ伏しうめいていた。
「なにこのカラダ…若ぇぇぇ…」

 前屈みになった身体には、少しだけ同情しなくもない。





 やがて「銀時」にまたがったは、しかし浴衣のはだけた裾が気になって仕方ないようだった。何度も何度も合わせ直すが、大きく足を開いているのでどうしてもぱっくりめくれてしまってきりがない。
 困り果てた目が「総悟」の方へ助けを求めた。
「銀ちゃん…」

 ああなるほど。自分で挿れる瞬間をちらりとでも見られたくないわけか。手順を想像してみると、確かに相当はしたない図だ。
 自分で挿れられないというなら、総悟が挿れてやってもいいのに。濡れ濡れになっているだろうのあそこをじっくり拝ませてもらうことになるが。
 総悟としてはぜひともそうさせてほしいところ。「身体を見られるのは嫌だから、浴衣はずっと着たままで」なんて無粋な条件をがつけるから、いまだ総悟はの肌もろくに目にしていないのだ。
「そんじゃー俺が挿れて…」
 やりましょーか。ところが最後まで言えないうちに、急に目の前が暗くなった。
「は?」

 目に生暖かいものが貼りついている。乾いてがさがさで分厚くて、顔がこすれてひりひりする…。すぐにわかった。これは「自分」の手のひらだ。いつのまにか「総悟」が後へ回りこみ、「銀時」の目を塞いでいる。
「はいよ、今のうち」
「うん」
 腰の上での動く気配がした。

「ちょっ、な、なんでぇアンタら!目隠しプレイってかィっ?俺ぁそんな…」
「だって恥ずかしいもん。見ちゃダメ」
 むちゅっと唇まで塞がれた。こちらは柔らかい、の唇。いともたやすく総悟は懐柔されてしまった。


 自分自身が細い指でつままれていることが、見えなくとも総悟にははっきりとわかった。硬く屹立した先端を、は濡れそぼった入り口へあてがい、引っかくように前後させる。
 視覚を奪われてしまった分、触感がひどく生々しい。ぬるぬるして、熱くて、とても狭いところへ、先端がぬちゅっと飲み込まれる。続きをねだって腰が浮いた。
「待って、待って、今…」
 だがくびれの部分でおあずけをくらい、すぐに引き抜かれてしまう。もう一度、先端だけを挿入して、抜く。また途中まで挿入する。蜜にまみれた「銀時」のものは一度目よりも滑らかにの内部へ受け入れられた。
 はぁ…と吐き出したの息が頬にかかるのを感じた。少し緊張しているようだ。身体を慣らしているのだとわかったが、総悟には拷問でしかない。次を待ち焦がれて息が上がる。くいくいと勝手に突きあがる腰が、我ながら物欲しそうであさましかった。
「は…、早ぇとこしゃーがれ」
「ん…」

 さんざ焦らされに焦らされて、やっとのことで根元深くまで挿れてもらえた。粘った音を聞くまでもなく、したたるほどの愛液がから湧いているのがわかる。湯の中にいるような温かさ、周囲の壁は柔らかいのに、それでいて総悟を阻むかのようにきつく締めつける。
「ダンナ、目ぇ…」
「あぁ、はいはい」
 声が笑っていることに苛立つ余裕はもうなかった。目隠しが外されるとすぐ鼻先に、今にもぐずぐずに蕩けそうなの目がある。「銀時」のものはその目を見ただけで硬さを増した。
「ん…っ…」
 歯を食いしばり、大きく身体を震わせてから、その反応をがはにかむ。
「今ね、中で、おっきくなったから…」
 さらにもうひとまわり、膨張した。


「やっ、あっ…、だめっ、だめよ、もっとっ、ゆっくり、してっ…」
 の肩を抱き、身体を下へ全力で引き寄せる。同時に腰を突き上げて、ずっと深くまで結合させた。胸に顔をうずめしゃぶりつき、布越しだが思う存分唇を這わせた。
「は…っ、あっ…、ああんっ…」
 高い喘ぎ声にいよいよ滾る。も胸板へすがりついてきた。息苦しさを紛らすように、身体を「銀時」にこすりつける。応えて総悟も抱きしめてやる。
 もはや「総悟」の視線すら、忘れるほど没頭できていたのに。
「いっ、いいよ、…んちゃんの…好き…っ、銀ちゃん…」
 途切れてかすれがちなの声が、総悟に水を差したのだった。
「銀ちゃん…っ、銀ちゃんっ…」





 たった今まで深くつながっていた部分が、急に頼りなく物足りなくなった。閉じかけていた目をが開いた。
「ねぇ…銀ちゃん?」
 腰を揺らして「銀時」を急かす。その仕草は息も止まりそうに艶めかしかったけれど、総悟はせいぜい冷たい目をして言ってやった。
「俺のこたぁちゃんと総悟って呼びなせぇ」


 はっとして、すぐさまが目をそらした。
「それは…」
 思ったとおり、これほど積極的なのは、総悟を完全に「銀時」に見立てているからか。
「じゃあここまででさ」
 つかんだの腰を浮かせる。自分も限界まで腰を引く。ぬめりが逆に手助けをして、今にもずるんと抜けてしまいそう。はあわててうろたえて、抜かれまいと必死で腰をひねった。
「やっ、やっ、やっ、やっ…」
「だったら『総悟』でさぁ。そーうーご。あんたぁ今ダンナじゃなくて、俺に突っ込まれてんですぜ。ちゃーんと認めなせぇ」
「んっ…、やっ…でも…っ」
「ん?」

 なかなか言おうとしないので、一度だけ激しく突き上げてやった。きゃうんっ!と、蹴られた仔犬と同じ声がした。
「んっ?」
「そ……くん…」
「聞こえねぇ!」
 ぱん!ともう一度。
「やあああんっ!そっ、そーごくんっ!そうごくんっ!言ったよっ、だからぁっ…」
「まだでぇ。おねだりは?ちゃんと言えたらお望みどおり、もっと突っ込んでやりまさ」
 なぜか裏切られたような目でがこちらを見上げた。肩ごしに「総悟」へも助けを求めるが、あちらからは何も返ってこなかった。

 しばらく考えこんだのは、頭の中にそれらしい理屈で言い訳でもしていたのだろう。どうせ名前なんて口先だけ、身体は「銀時」、とかなんとか。
 やがてぽそりと、は口にした。
「そーごくんの…、そーごくんの、もっとちょーだい…」



 よし、とベッドへを投げ出す。乱れたすそを直そうとがばたついた。しかし総悟はかまわず布地をまくりあげる。
「やっ、だめっ!着たままって言ったでしょっ!」
「うるせーや」
「やだぁっ!銀ちゃん、銀ちゃんなんか言ってようっ」
 残念。「総悟」はさっきからこちらをにやにや眺めるばかり。ダンナ好みの展開らしい。あの男を喜ばせるのは癪だったが、総悟もここは乗っかることに。
「はーい、今は俺が『銀ちゃん』でさ」
「ちが…なにいってんのぉ!?」
「あーうるせぇ」
 うつぶせにして黙らせる。は身体を見られることをどうも嫌がっているようだが、それほど気にすることなんかないのだ。ぎりぎりまで照明の落ちた下ではどのみちぼんやりとしか見えなくて、あらわになった白い足もまるで人形のようなのに。

 肉付きのいい尻を抱え、総悟は後からを貫いた。びくんと背筋が弓なりにのけぞり、甘い声が耳障りな悲鳴をあげた。
「ああんっ、やだぁっ、それっ、それきらいっ」
「へぇ、意外。あんたコッチのことにゃずいぶんと文句が多いんだねぇ」
 なんと甘やかされちまってまぁ。「総悟」に目をやるとに夢中で他のことなど眼中にない。自分の女が「自分」に犯されるのを見て興奮している。ややこしい変態だ。


「ダンナはあんたのイヤって言うこたぁしねぇのかい?」
 後から突くぱんぱんという音がの鳴き声と入り混じった。
「しな…あっ、し、しないよう」
「じゃあ今のこれぁなんなんでぇ。あんたぁこんなことされてもイヤじゃねえんで?違う男に突っ込まれるのがイヤじゃねえって言うんで?とんだ淫乱娘だねぇ」
「ちが…っ、だって、ちがう…これ、銀ちゃ…」
「総悟だって言ってんだろっ?」
 きゃうんっ!とひと声、またも見事な鳴き声だった。

「ダンナに見せてやんなせぇよ。犬みてぇにケツからぶちこまれてるトコ見てもらいなせぇ、ほーら、ダンナも大喜びだァ」
 かすんで狭まったの目が「総悟」の銀時をかろうじてとらえた。すぐにシーツへ伏せてしまった顔を、総悟は強引に上げさせた。髪を引っ張る乱暴な仕打ちもサービスのうち。きっとこの女はこうされるのが好きだ。


「んっ…、んっ、んんっ、んっ」
 苦しげに眉を寄せ、だがの中は「銀時」をきゅうきゅう締めつけている。の頭下には「総悟」が膝をつき、溶けそうな目をして髪を撫でていた。
「気持ちいい?」
 なにも答えないを「銀時」が後ろから激しく突いた。
「ああんっ、きっ、きもちいーよ、いいよっ、んぁんっ、あっ、あっ…」
 けれど「総悟」と目が合うと、ぶんぶん必死でかぶりを振る。いやいや、見ないで。見ないで。
「なんで?」
「やだっ…見ないで、銀ちゃん…だめっ、…」
「なんで?銀さんにもっと見せてくれねーの?の顔見せてくれねーの?」
 耳元に口を寄せ何事かささやく。顔中を舐めるように口づける。「銀時」のものをくわえこんだ通路がさらにきゅうっと狭まって、絞り上げられるようだった。どんな嬉しいことを言われてるんだか。

 はぁ…、と「総悟」が息をついた。欲情をもてあました顔を振り
「どーしよ。もう限界。なぁ、俺のもしてくれる?」
 答えなど待たない。嫌がるわけがないとでもいうように。「総悟」は着物の裾をはだけ、そこに現れた肉塊をの口の中へねじこんだ。

 総悟の方が見ていてどうかなりそうだ。今度は、が、本当に自分のものをしゃぶらされている。の頬はりすのように膨れ上がり、くわえたものが中でどんどん膨張しているのだとわかる。
 さっきの感触は総悟ももちろんまだ覚えている。の口は温かくて湿っていて、時々かつんと歯が当たった。上下の口を同時に味わっているような、そんな錯覚に陥った。



「いっ?やっべ、もう?嘘だろ…っ?」
 ところがいくらもしないうち、「総悟」があわてて自身を引き抜いた。直後の口元に、どぽっと白濁が飛び散る。白く汚された顔が目に焼きついて、総悟の頭に血が上った。
 たまらず腰が、仕上げにとどめと動きを早める。解放されたの口から切羽詰った声がこぼれた。
「ああんっ、やっ、だめ、だめっ、もうっ…んんっ!!」
「はっ…やべぇや、俺も…っ」

 引き抜き、しごく。の尻へ総悟も放った。最後の一滴が滴るまで、仇のように絞り尽くす。
 粘る精液がどろどろと太ももを伝い流れ落ちた。





 全て残らず吐き終えると、下半身にはずっしりと重たい疲労がまとわりついた。
 ぐったり寝そべったの上に、総悟も倒れ、覆いかぶさる。そばで「総悟」がムッとしていたけど構うものか。
 抱きしめるとの肩も大きく上下していた。そういえば、ちゃんとイかせてやれたかどうか。うっかりをそっちのけで自分だけ先に終わってしまった。

 他にもっともっと大切なことも忘れているような気がしたけれど。
「…まあいいか」


 はぁはぁといつまでも荒い息の中、の背に顔をなすりつけ、総悟は言った。
「なぁ、次ゃ中で出していーかぃ」
「ざけんなボケっ」
 横からぺしん!と頭をはたかれる。
 さすが「総悟」は、息も完全に整っていた。





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