ソファに浅く浅く腰掛け、の目はどこを見るでもなく、ぽかーんと辺りをさまよっていた。

 自分の部屋と変わらないほど、すっかり馴染んだ万事屋事務所。目の前にある机の上には昨夜ひろげたおやつや飲み物、ジャンプが雑然と散らばったままだ。
 もう日もかなり高いというのには寝間着を着替えてもいない。その寝間着だってどんな寝相をしていたのかと疑うほど、乱れに乱れまくっている。あんまり寝ていないせいか、洗いざらした浴衣の柄が二重三重に揺らいで見えた。

 窓の外からは朗らかな人の声。それがまた、真面目に商売に励んでいる物売りとおかみさんのやりとりで、は後ろめたくなった。
 銀時に抱かれては疲れてうとうと。目が覚めたらまたして、またまどろむ。
 いくら休みの日とはいえ、こんな自堕落なことでいいのかなあ。



 考え事はその声に、というより、声に喚起され滲み出た鈍い快感に遮られた。
 手も足も濡らした銀時が床にべったり足跡をつけながらやってくる。
「風呂わいた」
 銀時も片手で腰をさすり、やや前のめりに歩いている。一歩一歩大儀そうに足を出し、疲れた身体をやっとのことでソファまで運ぶと、の身体をクッションのように目がけて倒れこんできた。
 たちまち雨のようなキスがの顔中に降り注ぐ。

 額に、頬に、もちろん唇にも、口付けるのではなく舐めまわすよう。よだれで顔中がべたべたになるし、まるで食べられているような扱いにはも戸惑わないでもないが、大人がするキスというのはこういうものなのだと銀時には言われた。早く慣れなきゃな、と思う。
 身体中を揉みしだく手に応え、も銀時の首に腕を回した。
 多少のぎこちなさはあるものの、教わったように唇を合わせる。混ざりあう唾液に気持ちが逸って、つい苦しいほど吸い付いてしまう。
 くふ…と自然に漏れた声を銀時はからかうように笑った。
「へぇ、そんなに気持ちいい?」
 肯定の意味で大人しく目を伏せたのに、銀時には不満な顔をされた。照れて大騒ぎするを見たかったらしい。
 だってそうそう喜ばせてばかりはやれない。悪いけどそんな元気もないのだ。



「なぁ風呂、一緒に入らねえ?」
 吹きかけられた吐息が背筋を震わせた。くだけそうになる腰をは懸命にこらえる。耳をかじりながらささやかれると、言葉の方は半分ほどしか届かない。
「…おふろが?なんて?」
「ん。身体洗ってやんよ」
「えぇぇ…?」
 今度は逡巡を伝える為に、は目を伏せた。
「電気つけたまま、だよねぇ…?」
「なに、田舎じゃ暗くして風呂入んの?」
 笑われてしまった。


 なるべくならは明るいところで脱ぎたくないのだ。
 理由は端的に「恥ずかしいから」
 言えば銀時は今よりもっと笑うだろうし、だって自覚はしている。「何を今さら」ってハナシだ。の部屋もこの万事屋も、外の明かりが差し込んで夜中でも決して真っ暗にはならないから、薄明かりの下とはいえ裸ならいつも見られている。
 しかも銀時になだめすかされて、既に2、3日前には明かりの下で裸に剥かれた。
 昨夜はもっともっと恥ずかしい部分も、じっくり観察されたんだけども。
 でも、三度や四度経験したところで簡単に慣れることじゃない。

 真っ赤な顔はもう昨夜からずっと火照りっぱなしで、どんな顔色だったか忘れるくらい。答えられずにいるを銀時が面白がっているのがわかる。大人の彼にバカにされたくない一心で、一生懸命今まで背伸びをしてきたけれど、すればするほど空回りして銀時を笑わせているような気が最近はしてきた…。

「な?」
 耳元に口付け、合い間にささやく。はされたことがないけれど、口説かれるってこういう感覚だろうか。
 けれど直後には思わず笑ってしまった。
「銀さんがの身体、きれーきれーしてやるよ」
 その言い方ったら。

「赤ちゃんみたい」
「いや?」
 笑わされたらもう負けだ。その顔に銀時も手ごたえを感じたか、が頷きやすいように誘う。
「俺先に入ってっから、あとからタオルでも巻いてきな」
「んー、まぁ…」
 それならいいかなぁ。





 大きなタオルを巻きつけて身体をしっかり隠したは風呂場の扉からまずは首だけ出してみた。
 中を覗くと銀時は湯船に手足を伸ばしてくつろいでいて、急に羨ましくなった。考えてみれば昨夜からの身体もべたついている。ほかほかの湯気ときれいなお湯が気持ち良さそう。も一緒にさっぱりしたい。
 えいっ!と思いきって湯に浸かった。もちろんタオルは巻いたまま。お風呂の掟にあるまじきことだがこの際それは致し方ない。

 湯船の底にぴたっと正座して銀時と向き合う。
 やってみたら意外になんてことはなかった。銀時は手ぬぐい一枚身につけていない全裸で、そこは気になるけれども大丈夫、下の方を見なければいいのだ。

 すぐに後ろを向かされて、はぴたりと抱き寄せられた。んーっと気持ち良さそうに喉を鳴らし、の髪の毛の中に銀時が頬をすり寄せる。

「好き」
「かーわい」
 真っ直ぐで飾り気のなさ過ぎる言葉が、照れくさくて何も返せなかった。


「さ、洗おっか」
「ここで?このまま?お風呂の中で?」
「あんま見られたくないんだろ?」
 ぺしん、と背中をはたかれて、はその場に膝立ちにさせられた。タオルが邪魔だと剥がされたけれど、背中の方なら見られても構わない。かな。
 たっぷりの泡を立てたタオルが、小さな背中をまずはひと擦り。したところが。
「ぃぎゃっ!」
「ええぇっ?!」

 叫んで弓なりにのけぞるに、銀時は驚いて手を離した。
「えっ?わりっ…?え?なに?」
 つうぅぅぅ…。はしばらくその体勢で固まった。背中がひりひり、痛くてすぐには動けない。

「あー悪い悪い、え?痛かった?うそ、今のが痛ぇの?なんだそれなんか怖ぇな」
 自分の身体を洗う時の半分も力を入れていないのに。これはうっかりしていたら、ぽっきり折ってしまうかも。
「えーっと、じゃあこれは?」
 そっとタオルを肌にすべらせる。今度は弱すぎてくすぐったいとが身をよじって逃げた。


 それでも探り探り洗われるうち、の身体もほぐれてきた。銀時にされるがままになっている自分が、まるで息のないモノにでもなったような、やけに安らかな気分だ。
「こっちきな」
 銀時が湯船のへりに腰掛ける。を立たせ、腰を抱き寄せた。後ろから抱え込むように、泡まみれのタオルが身体の前面を洗いはじめる。首元から鎖骨をかすめ、やがて乳房を。
 銀時の手は厚手のタオルに包まれて直接肌には触れないし、手際もてきぱき、いたって事務的。それなのにの胸の奥は、なんだかもやもやとざわめいてきた。
 銀時にぴたりとくっついたお尻に、さっきから熱くて硬いものがごりごりとあたっている。せっかくほぐれた身体が強ばる。緊張して心臓の音は速まり、顔も上げられなくなった。


 真っ赤な顔を俯けるを、振り向かせて銀時が唇を合わせた。そうする内にも泡を塗り広げるように、胸を揉み、腹を撫で。その手は下腹部のもっと下へ。茂みを泡立てた指は、なだらかな恥丘に這っていく。
「やっ…」
「どして」
「だってそこ」
「ここがいちばんべたべたして気持ち悪いんじゃね?」
「そりゃ、そーなんだけど…」

 膝の裏に銀時の手が添えられた。
「足広げて?」
「う…うん…」
 開いた片足は湯船の縁に。銀時に身体を預けて、倒れないようバランスをとる。

 タオル越しの指は石鹸のおかげでなめらかに動いた。滑る指が谷間を丁寧に探る。ひだの一枚一枚は摘まむように、中心の突起はこりこりと指一本でこするように。
 ただ洗われているだけのはずが、何度もぴくぴく腰が浮いた。
 しながらうなじをついばまれる。風呂嫌いの子供をなだめるような、歯の浮く声がずっとしていた。
「きれーにしような?」
のだいじなとこ」
「ほーらきれいきれい」
 花芯からひろがる痺れのようなかゆみのような感覚と、銀時の声のギャップとが、をいたたまれなくさせた。

「は…っ」
 たまらず熱い息が漏れる。やがて耳には巡る血液の音以外には聞こえなくなってしまっていた。
 慣れない身体も反応をはじめる。腰がかすかに円を描き、後ろに触れるあるものに切なげにこすりつけていた。
「ぎんちゃん…」
 すがれるものを探して手がさまよった。とっさに触れた銀時の肌は、とても熱かった。とも変わらないくらい。
「ぎんちゃん」
「ん?」
「ね、もする…。おねがい。させて?」
 だって、銀時を触りたくてたまらない。





 銀時が初めて言葉をつまらせた。
「いや、それは…」
 思わぬ反撃をくらった顔だ。

「あ、いや、いやいいって。あれよ?近くで見るとけっこーグロいし、怖くなっちまうよ?」
「だいじょーぶだよ。にも全部みせて。ね?」
 それはいつもなら銀時がに言うセリフだ。そう考えるとおかしかった。
「う…じゃあもこっち向くか?」
「んー…」
 そうきたか。
 迷って、だがすぐは頷いた。銀時に触れたい気持ちが勝った。
 火照る頬をぺたぺた押さえながら、銀時の方へ向き直る。タオルも何もない真っ正面。身体中に塗りたくられていた泡はもう風呂場の湿気で溶け落ちて、素肌を隠すものはほとんどない。
 …が、自分が見られていることなど、考えていられたのはわずかな間だ。


「うわぁぁ…。こんなんだったんだ…」
 呆然としたその声に銀時が決まり悪そうに目を逸らす。
 銀時の足の間にひざをつき、は思わずそれを間近に眺めてしまった。暗がりで握らされたことはあっても、こんなに明るくした場所で色までまじまじ見たのは初めて。凶暴そうに赤黒い性器は支えもなしにそそり立って、今は裏側をに見せていた。

 おそるおそる指先で棒の中心あたりをつついた。くわっと開かれた眼の中で、銀時の目がぐらぐら泳いでいた。思ったよりも激しく反応するもののようだ。
「お、おめーは何がしてーのっ?!」
「え?うん、えっと、えっとね…」
 何がしたいかといえば「良くして」あげたいだけなんだけれど。それにはどうすればいいのか。困って銀時に助けを求めた。
「どうすんの?」

 銀時には生殺しの生き地獄だ。自分の股間から子供じみた顔が好奇心たっぷりに見上げている。薄く開いたその口に今すぐ突っ込んでやりたい。
 そんなことができるわけもなく、銀時がの手を一物に導く。焦りのあまり突き放すような怖い声が出た。
「こう!」


「こう?」
「そ!」
 言われたように両手で握ると、込めた力の分だけ張りかえしてきた。負けじとぎゅうっと握ったり、離したり。上から添えられた銀時の手が、の手を使って自らをしごいた。
 するうちますます質量が増す。表面の皮がぴんと張りつめて、針でも刺せば風船のように破裂しそう。
「うわぁ…」

 がまたしても頭を悩ませる。これを舐めればきっと銀時をもっと喜ばせてやれると思う。
 思う。思うけれど、それはさすがに勇気の要ることだ。

 怖気づく自分をは懸命に励ました。お風呂の中だし、お湯できれいになってるわけだし、きっとへーき。汚くないきたなくない。
 思いきって先端をぺろりと舐めてみた。
「こらぁぁぁっ!?」
 叱られたけれど気にしない。勢いづいたは目を閉じ、含めるだけ口に含んでみた。よかった、お湯の味しかしない。


 それに驚いた。これ以上にはならないだろうと思ったのに、銀時のものはさらに口の中で膨張していく。
 一度だけ口を離し、銀時に確かめた。
「こんなかんじで、いい?」

 答えがない。銀時は途方にくれた顔だ。困らされるのはいつもばかりだったから、銀時のそんな顔がとても嬉しい。
「…銀ちゃん?」
 むむむと銀時は片手でべったりと顔を覆って、表情を見せずにうなずいてくれた。

 不思議に抵抗もなくなって、は再び銀時をくわえた。両手で根元を握り締めながら、先端にはぺろぺろと舌を使う。
 やがて切れ目からじんわり、苦い液体が滲み出した。



 初めての夜からこの一週間、には身に染みたことがある。
 自分の「理性」なるものは、快感を前にするとひとたまりもない。最初はどれだけ恥ずかしくて、もう無理やめてと思っていても、たくさん触られているうちに、最後には何もかもどうでもよくなる。
 銀時にされることならなんでも気持ちよくなるし、命じられればどんなこともできそう。我ながら少し危なっかしい。

 けれどもそれは銀時も同じだ。
 銀時はをからかうし、意地悪を言って遊ぶけれども、正気の時ならが本気で嫌がることは絶対にしない。
 それがある点を境にして、気遣いなどはるか彼方へ消えてしまう。欲望にまかせてなんでもする。が泣こうが嫌がろうが。

、…あー、もういいって。もういいから。もう止めな」
 このときも最初はずっと遠慮がちに、を遠ざけようとしてくれていたのに。
 知らないうちにどこかでぷちんとスイッチが押されてしまった。
 押したのはおそらく自身だが。


 口の中の膨張は止まるところを知らない。はそら恐ろしくなってきた。いったん離れようとして、ところがぴくりとも動かせない頭に気がついた。銀時にしっかりと掴まれ抱え込まれてしまっているのだ。
「ぁ…?」
 顔を股間に押しつけられ、大きく口を開けさせられたまま身動きもできない。
 逃げるどころか、ゆっくり頭を押さえつけられ、太い棒をもっともっと深く飲み込まされた。

「もっと」
 …無理。入んない。苦しいって。
 目での訴えは通じたものの、聞いてもらえなければ意味がない。
「おめーがしてくれるって始めたんだろ…?」
 銀時はうっとり目を細め、前後に腰をゆすり始めた。

 もうは自分では少しも動いていなかった。前後に繰り返し玩具のように、頭をつかまれ動かされている。
 喉の奥を突く肉棒が苦しくて目には勝手に涙がにじんだ。そうするうちにも口の中の塊は怖いほど硬く膨れ上がり、ぴくぴくと脈を打っている。限界が近いのがにもわかった。
 このまま口に出されようとしていることも。

「は…っ、…」
 銀時の声にもそろそろ余裕がない。は真っ直ぐ銀時の目を見た。これもこの数日で気づいたことだ。いきそうにしているとき目を合わせると、背中を押してあげられる。
 思った通り視線がかち合うと赤茶けた瞳がぐるぐる回った。
 ほら。やっぱり。
「んんっ…!」
「んゃっ?!」
 頭をぐいっと引きつけられた瞬間、口の中にどくんと粘液がしぶいた。二回、三回、腰が突き出て、残らず絞り出し注ぎこまれる。
 喉を突かれる苦しさに、はこみあがる吐き気を懸命にこらえた。



 精液の量などほんのわずかだ。恐れていたように、口の中を生臭い汁で一杯にされる…なんてことはなかった。
 けれど苦味が口中にひろがり脂汗がぷつぷつと浮いてくる。薬の苦さなら気にしたこともないなのに、苦いだけじゃなく甘さやしょっぱさ、わからない味がたくさん混じってその味はなんとも言い難い。
 早く吐き出してしまいたいのに。ずるんと萎えたものを抜いた後、銀時の大きな手のひらはその口をぎゅっと塞いでしまった。
「……ん?んんっ?」
「ダメ」
 がくん、と壁に押し付けられた。
 後ずさっては逃げられない。指を一本ずつ引っ張っても、どうしてもその手ははがれない。むぐぐ?と口を塞がれたまま、がもがいて抵抗をする。
 少し霞んだ銀時の目が期待たっぷりにを見下ろした。

「飲むの」
 手のひらがしっかり、口を塞いで離さない。いとも楽しげに、そして残酷に、銀時の口がつりあがる。

「ちゃんと、飲んで、銀さんの、味、覚えて」
 ぶんぶん真横に首を振っても、何をしても離してもらえない。
 広がる苦味は時を追って複雑さを増して、の瞳をしろくろさせた。


 数回、勢いをつけてはためらい、は何度目かの挑戦でようやくそれを呑み下した。
 喉のあちこちにひっかかりながら、ねばっこい体液が身体の底へおりていく。
 異物を嫌がり気管が痙攣、押し返そうと蠕動した。咳がこみ上げ止まらなくなった。

「うわぁ、やーらし。飲んじゃった」
「飲ま…、っ、げほっ!」
 げほげほげほげほっ!
 しゃべれない。「飲ませたくせに」それだけの言葉が。
「銀…っ」
 続く咳のせいで腹筋が引き攣れる。涙があとからあとから溢れる。ひくん、と今また喉がひきつった。


 ずるずると湯に沈みこみ、いつまでもえづいているに大きな身体が覆いかぶさる。
 銀時が抱きしめてくれた。ひくつく背中をよしよしと優しくさすってくれた。
 溢れる涙を残らず舐めつくしてくれた。

 そうか間違えた、とは思った。どれだけ没頭してしまっても、やはり銀時はが本気で嫌がることなんかしない。
 できるわけがないのだ。銀時にされることだったら、結局は何も嫌じゃない。



「もぉ…」
 見上げてみればその顔はまだ意地悪く笑っていて、でも満足そうで、優しくて、素敵。

 胸がきゅううっと締めつけられた。





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