台風一過の晴天の下。百鬼夜行に見送られ、結野・巳厘野邸を後にした万事屋一行。
豪邸ばかりが軒を連ねる閑静なお屋敷町を出たところで、銀時がぴたりと足を止めた。
「新八ィ、悪いけど俺ぁここで抜けさせてもらうわ。二人で先に帰ってな」
「は?どこかいくんですか銀さん?」
「あ〜コラコラ訊くな訊くな。そこにお子ちゃまもいるってのに」
「誰がお子ちゃまアルかァ!ユッケも塩辛も食えるぞコルァ!」
「お子ちゃまには内緒…って銀さんまさか…」
メガネの向こうで半目になって危ぶむような新八へ、空にも負けない晴れやかな顔で銀時はきっぱり言いきった!
「おう!復活した銀『玉』試運転してくんよ!!」
「サイテーだなアンタっ!!」
既に新八はぬかりなく神楽の耳を塞いでいる。
「そ、そんなこといったってさんはまだ仕事中でしょ?」
「はァァ?!試運転て言ってんだろがボケっ!いきなりでヤれるわけねーだろ。ヤってみてうまくいかなかったらどーすんだよ!一生のトラウマもんじゃねーか!」
「はぁ…」
ということは。
「おめーらも今度は絶対黙っとけよ?バレたらまためんどくせーことになるからよ」
「浮気しに行くアルか銀ちゃん」
「バーロー!プロのお姉さんで発散するのは断じて浮気とは言いまっせんっ!」
もちろんその逆は執事喫茶でも許さないのだ。身勝手極まりない男の論理なのだ。
「るせぇ!じゃーな!いってきまーす!」
だだだだだ!着物をはしょりガニ股気味に、土煙を立て走り去る。見る間に小さくなる後姿を取り残された新八神楽がぽかーんと口を開け見送っていた。
それが本日。まだ日の高いうちの話。
…が。
「…ダメだったそうです」
ずず―――――――――――――ん…。
仕事を終えてが万事屋へ夕食の支度に来てみたら、銀時が和室に引きこもっていた。
事情を説明する新八も、呆れかえって照れる素振りすら見せない。一応童貞君には未知の、色めいた話と言えなくもないのに。
「『あはははお兄さん何しに来たのぉ?アタシは楽できていいけどさ〜』…ってお店の子に笑われちゃったそうですよー」
妙に達者な女の子の声真似。だがそれ以外の部分は冷ややかな棒読みだ。
あまりに勢いこんだのがいけなかったのか、心の底に微妙な不信と不安と気後れがあったせいなのか。試運転に失敗した銀時はまんまと要らぬトラウマを作り、逃げ帰ってきたというわけだ。
「じゃあ行こうか神楽ちゃん」
「え?新八くん神楽ちゃん帰っちゃうの?」
「おう!あとはにまかせるネ。明日までにアレどうにかしとくアル。あのまんまじゃ使い物にならねーヨ」
「いや、任せるって言われてもね…?」
控えめに異議を申し立ててみるが、有無を言わせず新八達は「あとはよろしく」と行ってしまった。
一人になると、和室から漂う重たい空気がひときわねっとりまとわりつく。一体にどうしろというの。
「銀ちゃーん…?」
そっと和室の襖を開ける。明かりも点けない暗い部屋の中、布団の上に大きな丸い塊がある。掛け布団に頭までくるまって、魂の抜けた銀時だ。
「銀ちゃん、ぎーんーちゃん」
返事はない。しかばねのよう。
枕元へ腰をおろし手をのばす。こんもりと丸まった綿布団を、ぽふぽふ叩き、撫でてやる。
「銀ちゃん、よしよし、いいこいいこ。そんなとこにいないで出ておいで。がなでなでしてあげる」
嫌がるような様子もないので、布団の中へ手を入れてみた。くしゃくしゃの髪を探りあて、直に優しく何度も撫でた。
するとそのうち布団の内側がわなわなと不気味に震えだした。うううっと低く唸り声も。
やがて布団ががばっと派手に跳ねのけられ。
「うぇぇぇぇぇぇ〜!!」
中から飛び出てきた銀時がに抱きつきしがみついた。見る影もなくやつれた顔を柔らかな胸にぽふんと埋め、ふにふにと頬をすり寄せる。
「よしよし、いいこいいこ怖かったのねー、もう怖くないよ怖くないからね〜?」
「ウソうそ、怒ってんだろお前絶対怒ってんだろ?銀さんがヨソの女としたから…」
「え?できなかったんでしょ?」
ぎゃいんっ!!
銀時はかいしんのいちげきをくらった。
「あ、ごめん」
「ぜったいわざとだよおそろしいこ…」
「ちがうよう」
うらめしそうな上目遣いをする銀時をは暖かく抱きしめた。だがその顔は、ほんの少しだけ面白くなさそう。
「ちっとも怒ってなんかないけどさ…」
「けど?」
「心外だよ。が弱った銀ちゃんを笑うと思われてたなんて」
ヨソの女なんかで試さず最初っからとすればよかったのに。
それにはごにょごにょ、煮えきらない答えが返ってきた。人差し指での胸に「のの字」を描きながら
「え〜でもぉぉぉ、万が一でもにかっこ悪ぃトコ見せたかねーじゃぁん…?」
「見栄っぱりぃ」
「男ってなそーいうモンなんです!」
「バカ」
笑いまじりにつぶやくとはくせ毛に口づけた。ちゅ。
抱きしめている身体から緊張がほどけていくのがわかる。
気持ちも和み弛んでいくのがまるで目に見えるようだった。
「どうかな〜?とだったらできっかもな〜?できるかもしれねーんだけどな〜?」
ぐずぐずと甘えた声を出し、銀時はこれ見よがしにモノ欲しそうにしてみせる。
「そりゃできるよう。いいよ?する?」
「がいろいろサービスしてくれりゃできるかもしんね」
「なぁに?またナースのコスプレですか?」
「…お前とりあえずナースって言っときゃ銀さんが喜ぶと思ってんだろ」
違うのか。
だが今日はどうやら「ナース」の気分ではないらしい。への指示は単純なものだった。
「脱いで」
「はいはい」
しかし帯締めにのばそうとした手は、はたき落とされた。
「ちがーう!ちゃんとそこに立って!銀さんに全身よーく見えるように!」
「こう?」
「もっと恥じらいながら〜」
「めんどくさいなーもぉぉ」
布団の上に立ち上がり、渋々は着物を脱ぎだす。言われた通り、銀時にいちいち見せつけるように、たくさんの部品をひとつひとつ目の前で解いていく。帯締め、帯揚げ、帯枕…。
帯本体が解けてしゅるるっと足元へ落ちる。くるくるとした山ができた。
結果から言えば恥らう演技など必要なかった。
熱心な視線を感じながら、身につけたものを剥いでいく。たったそれだけのことがこんなにも恥ずかしいなんて。の頬は知らず知らず赤く染まり、目はじんわりと熱を持った。
そしてするりと着物も落とすと、その下は隙なくきっちり着付けられた淡い色の襦袢。
続いて腰紐に手をかけようとした時だ。
「いい、そのままでそこ座んな」
「ん」
声に操られるようにふらふらとは腰を下ろした。うっかりまくれた裾を直そうとして、それもまた銀時に止められた。襦袢の色の隙間から、真っ白なひざがわずかにちらり。
「衿ゆるくしてみな」
「えり?こう?」
細かい発注にも従順に応える。銀時がよしというまで衿の合わせをごしごし弛めた。豊かな胸はこぼれそうだ。
足を崩して座っていると、全体にだらしなく着崩れた、とてもしどけない姿になった。
どきどきと胸が高鳴るのを認めながら、は正直に訴える。
「ね、脱いだよ?銀ちゃんさわって」
「ん〜…」
頭の上からつま先まで舐めるようにじっくり上下して、銀時の視線は最後にはだけた胸元で止まった。
「あぁやっぱまだ怖ぇな〜。おめーが自分で触ってみせてくんない?」
「へ?」
こう、と手をとり、の両手を自身の胸の上へ置く。柔らかな手に同じ柔らかさの肉を、やわやわとつかませ揉みしだかせた。
「ちょ、やだ、やだぁこんなのぉ」
「えぇぇぇぇぇ?それ見せてくんねーと銀さん勃たねぇ」
「ウソばっかり!またそんなこという!」
「いやいやいや無理無理絶対無理だし。お前銀さんが今どんだけ自信失くしてると思ってんの〜?」
けれどそう言う銀時の顔は既ににやにやへらへらとして、もはや完全に見物の態勢だ。ちょっと甘い顔をしてみせたらすぐそうやって図に乗って。
ううう、とはためらうけれども、期待に満ちた目に逆らえない。こんな自分が悪いのはわかってる。けれど頭の片隅で、銀時がそれで喜ぶのなら、と考える自分も確かにいるのだ。ダメだこれ。
ううううう。さんざん、さんざん迷った末に、あきらめてはもみっと両手を動かしはじめた。
もみ。もみ。もみ。力をこめると手のひらの中で乳房はたゆんと形を変えた。
持ち上げてみる。
寄せてみる。
襟元からのぞく谷間はとても深い。ここにアレを挟むという遊びもあるとかないとか。どこかから仕入れた知識をもとに、想像していやらしさに目を回しかけた。
ふと銀時を見てみると同じく胸の深い谷間を穴でも開けそうな真剣な眼差しで見つめている。もしかしてと考えていることも同じだろうか。照れ隠しに慌てて口をきく。
「じ、自分でしたって、別にこんなの、気持ちよくなんかなんないよ…?」
「ふーん」
ふたたび銀時がの、今度は指をつまみあげた。
その指の腹に乳房の先端をさわらせる。ついでに銀時が襦袢の生地をぴんと張ると、布越しにくっきり突起が浮き上がった。
「や…」
「あれー?なにこれ。硬くなってんじゃねーの?」
「もぉ…っ」
はぁ、と力ないため息が出た。こんなことで都合よく気持ちよくなったりなんか絶対しない。顔が赤いのはただただ恥ずかしいからだし、身体の反応は機械的なものだ。
先端をさらに強く摘ままされ、ぶるっと悪寒が走ったけれども。
「は…っあ…」
こぼれる吐息も艶めかしく、頭もぼんやり朦朧としてこなくもないけれど。
なにもかも生理現象ってやつだ。
「ねぇ。もう、いいでしょ…?あとは銀ちゃんがさわってよう…」
「えぇぇ?まだ自信ねぇな〜」
「もぉぉぉぜったいウソだよぉ…だってなにようそのお顔ぉ…」
ずっとにやにやしてるくせに。
硬さを増した突起をいじるうち、頭の芯がしびれてくる。その痺れはの下半身に、澱のように重なり溜まっていく。銀時の潤んだ瞳に見られていると思えばなおさら。重たく伏せられたまつげの下で、の視界もいつしか熱く霞んでいった。
崩していた足をもっと楽に、人形のように前へ投げ出す。足を揃えていることもそのうち面倒に思えてきて、閉じていた膝はゆるっと無防備に開いた。
「」
片手を銀時に奪われた。とっさにから漏れたのは、くぅんと鼻にぬけた鳴き声だ。そんなつもりはまるでないのに、いいところを邪魔され抗議したみたいだ。
銀時がその手を下へ誘う。すそをかきわけ、その下へ。
「こっちも自分でさわってみ」
「もう…しょーがないなぁ…」
これもう絶対楽しんでるじゃん。ほんと転んでもタダでは起きない人なんだから。
言うなりになってさわる自分も相当どうかしてしまっているのに、は気づいていないらしい。
茂みをさわさわ辿りながら、指示どおり奥へと指を這わせる。
「あ…」
うつむき、うなだれ、は困って小さくなった。
「ん?」
「なんでもない…」
「言って」
そうは言われてもの喉からは、消え入りそうな声しか出ない。
「……………濡れてる」
輪郭を軽くひと撫でしただけで、あふれる蜜で指がぺとぺとにされた。
「気持ちよくなっちまった?」
「…うん」
そのわりに、案外素直にできた返事が自分でも少しおかしかった。
今ではを組み伏せんばかりに身を乗り出して、なのに銀時はそれでも手を出そうとはしない。キスしてくれるのかと思ったのに、限りなく近づいた唇は内緒話のようにささやいただけだ。
「なぁなぁ勉強の為に教えて?そこ、どうされんのが気持ちいい?」
「どうって…」
手を差し入れた襦袢の中はぎりぎり銀時には見えていないはず。だからこそ大胆に内側で指をうごめかせることもできた。
割れ目をなぞり、まず一往復。
「どこ?」
「ん…と、ね…」
ぬめる中指をさらに何度か前後させる。ひだをかすめ、中心の粒へ行き着く。乳首と一緒だ。初めはなんの手ごたえも無かった部分が、擦り、つぶすうち精一杯勃起してその存在を主張する。
ぴりぴりと身体の芯を貫く電流、じんじん疼く感覚は、空いた左手にがじりと噛みついてこらえた。
「ここ、好き…真ん中の…」
「やっぱクリがいい?」
「ん…でも…」
「でも?」
実はそれだけでは物足りないと。
言ってしまってもいいんだろうか。
ん?と促す銀時の目も見るからに欲情でぎらついているせいだ。言っていいことと恥ずかしいことを確かに隔てていた壁が、限りなくあいまいに薄れかけている。
乾いた喉を唾で湿し、は唇をぺろりと舐めた。ここにいるのは銀時との二人きり。お互い同じだけおかしな気分になっているなら、何も憚ることはないのかも。
もういいか。言ってしまおうか。
「あのね、でもね、ほんとは…」
「ほんとは?」
「あ、あのね…」
銀時の目がきらりんと輝く。わくわくと躍る声音が次を命じる。
「指挿れてみな、指」
しかしそれだけはとは首を振った。
「それは銀ちゃんがしてくんなきゃイヤ」
そこはぜったいゆずらないから。
無理にでもさせられるかと思ったけれど、見れば銀時の目は眩しそうに嬉しそうに細められている。
「んもぉ可愛いなァおめーはよう」
「可愛い?」
崩れた笑顔で頷かれ、まで嬉しくなってしまった。ろれつのすっかり回らなくなった口で返す。
「銀ちゃんも可愛いよぉ?」
「バーカ、嬉しかねーんだよ」
ちゅっとようやくキスしてもらえた。
幸せ。
もっと、喜ばせたくなった。
思いきって、快楽の波にゆったり流されることにする。はぁ…と熱いため息も、漏れるにまかせ漏らしてみる。
「ね、見てる?銀ちゃん、のこと、見てる?」
「ああ、見てるよ?エローい。自分でよくなっちまってんの?こんなこといつ覚えたわけ?銀さんがいねぇ時ひとりでしてんの?」
「ちが…しないよう、してないよぉ…」
言ったそばからくちゅくちゅぴちゃぴちゃと音がして、なにもかも言い訳にしか聞こえそうにない。とめどなく湧く愛液でどの指もとろとろと滴っている。その指でならどこへ触れても痛くない。
「んっ…」
剥いた蕾にじかに触れると、びくりとせつなげに眉が寄った。口元の指を強くかじった。
銀時にしてもらうのとは違って、寄り道ひとつすることなく、あっという間にあっさり頂点が見えてくる。腰のあたりがふわふわと浮く。腹筋が何度もひくひくと引き攣る。もうすぐ、なのが自分でわかる。
残りを一気に昇りつめてしまおうとして、けれど今度も寸前で銀時に手を取り上げられた。
「あっ!あっ、いやぁ、だめっするぅ…」
「だぁめ、そこまで。続きは銀さんがしてやっから、な?」
こてんと倒され、大きく足を開かされ、その真ん中に銀時が陣取る。なにが「自信ない」なんだか。着物と下着を手早く脱ぎ捨て、さらけ出された銀時のそれは赤黒く猛り勃っている。
期待にきゅーっと胸が詰まってそれだけでもうイってしまいそう。
屹立した熱い塊がいよいよへあてがわれた。
それなのに、なのに銀時はぴたりとそこで動きを止めて、どれほど待っても挿れてくれない。
「あぁっ、あんっ、やっ、ねぇ、やだぁ、早くぅ…」
あと少しだけ進んでくれれば一息に呑みこめてしまえそうな場所で、つんつんとほんの入り口を突くだけ突いて焦らされる。思うように与えてもらえない刺激に、泣いてねだりたい気分だった。その先端で触れられるだけで、はぞくぞく身体中が縮み上がるのに。ぞわぞわ虫が這うようなのに。
早く早くと腰が迎えに差し出される。自分で与える安易な快感に浸りきっていた身体には、ほんのわずかに焦らされることもつらい。
「ね、ね、銀ちゃん、早く…、もう、もうだめぇ…早くぅ…」
「中に欲しいって?」
「うんっ、うん、ちょーだい、の中に、銀ちゃんの、ちょうだい、ね、早く…」
「銀さんの、なに?指?」
「ばかあっ!おちんちんだようっ」
「お、おま…、あのなぁ…!」
卑猥な悲鳴に後押しされてか慌ただしく銀時が膣内へ押し入る。ずぶりと身体を深く突かれ、待ち焦がれていた快感に身体が跳ねた。感電した。ぱちん!と頭の上まで一気に。
「………っ!」
くんっ、とつま先が反り返った。びくん、びくん、と間断なく全身が跳ね上がる。喉からはじける嬌声を他人の声のようにして聞く。
挿入されたその瞬間に、は達してしまっていた。
「…っ!?」
ところがそれと、ほぼタイミングを同じくして、身体の上でおかしな声がした。「あわっ」とも「うわっ」とも「ふわっ」ともつかない、とにかく裏返った、銀時の声。
絶頂の余韻に浸る間もなくの中から銀時は抜け出て、直後に生温かいものが内腿にべったりとしぶいた。
「………?」
重たくてたまらないまぶたを上げると、銀時が自身の股間を見下ろし、どうしようもなく情けない顔でいる。
がっくり頭を抱えると、やがて銀時は呻いた。
「暴発って…?マジでかぁぁぁ…」
はぁはぁはぁと息も荒く、酸素が足りずに呆けた頭では状況がよくのみこめない。
ぼうはつってなに。
は不思議に思っただけだ。本当にそれだけ。
だから虚心に純粋に、首をかしげて銀時へ訊ねた。
「もう終わったの?」
ぎゃいん!!
それがその夜のとどめになった。
誓ってに他意はなかった。
ほんとだよ。
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