秋の長雨なんてものが朝からずっと降り続いている。
 さぁぁ…と細かい水音が、いつも喧しい通りの雑音をきれいに消してくれていた。

 子供ふたりは出かけてしまって、ふたりっきりの事務所はとても静かだ。
 面白くもないテレビは消して、銀時はジャンプを、も可愛い絵のついた、買ったばかりの文庫本を開いている。
 ところが半分も読めないうちに、はぱったんと本を閉じた。疲れて読んでいられない。今日の本は本格?ミステリー。大好きなシリーズものの新刊だったけれど、今は頭がぼんやりとして、探偵の操る言葉遊びになんだかとてもついていけない。
 顔を上げるとテーブルを隔てた向かいのソファで、銀時がジャンプをめくる手もつまらなさそう。
 じっと見ていたら目があった。

 はずいぶん人恋しそうな顔をしていたんだろう。
 黙って銀時がを手招く。内心それを待っていたは文庫本を置いて、テーブルを回り嬉しそうに銀時の隣に移った。
 銀時もそれを待ち構えていたように、の肩を抱きよせてくれた。

「具合は?」
「んー。平気」
「そ」
 ぶっきらぼうに短いけれども声は優しい。は気だるい体を銀時にまるっと預けきった。
 銀時の腕に抱かれると、ちょうど一枚上着を羽織った代わりになる。ほどよく温かくていいかんじ。
 この数日急に肌寒くなって、年中裸足のふたりには床の冷たさがだんだんつらくなる頃だ。


 の顔を横からのぞきこむように、銀時が軽く口づけた。もあごを上げて応える。
 最初は唇を合わせているだけだったのに、ところがというか案の定というか、次第にキスはねっとり水っぽくなってきて、は左右に顔を振って逃げた。
「なにすんのぉ…」
「暇だし」
「暇つぶしにちゅうすんな」
 構わず口をふさがれた。銀時の舌が這入りこみ、の舌をぺろぺろ飽きもせず舐める。
 気がつくと大きく口を開けさせられていた。あふれる唾液が口の端からこぼれないように、じゅるっと強く吸いこまれた。
 ソファの背もたれにぴたりと体を押し付けられる。上から銀時が覆いかぶさりを身動きとれなくして、じっくり念入りに遊び始めた。

「んんん…やぁん」
 身をよじるに銀時は、口の中をかき混ぜてくちゅくちゅとたてる音で返事に代える。
 朝からずーっと鈍く重たかったはずの体が、ふわふわしはじめては困った。
「ねー、だめ。昼間っからぁ…誰か来るよう…」
「誰か来りゃわかるだろ」
 銀時の言うとおり。玄関に現れるにはまず階段を上らないと。がんがんぎしぎし軋む音が、鳴子の役をして実に便利だ。
「階段の音、したら離れりゃいいって…大丈夫」

 どうせ今日はこのままことに及んでしまうわけにはいかないのだ。着物はちゃーんと着せたまま、こうして遊ぶくらいならなんてことない。


 しつこく口の中を侵し、たくさん唾を飲ませてやるうちの目がぽやんと焦点を失くしてきた。最初は逃げていた舌が、今では自分から銀時を求めてくる。
 口を離して次は頬。餅菓子みたいなぷるんとした肌に何度も吸い付いては離した。
 それから耳。
 耳の穴に舌を入れてちゃぷちゃぷ音を聞かせてやった。は真っ赤になってぎゅっと目を閉じぞくぞく体を震わせている。
 着物の上から太ももをなでると声をあげて銀時の背にしがみついた。
「ホントは銀さん、こんなんじゃ全然足りねぇんだけど」
 耳元でささやいてやる。それだけで体を硬直させて、背中に爪をくいこませる。の反応に気をよくして、声が一層甘くいやらしくなった。さっきまでガキっぽい格闘マンガを読んでいた男とは思えない。

 ももとひざ、あたりさわりのないところをあたりさわりなく撫でていた手のひらが怪しく動いた。
「や…だ、だめぇ」
 がどれだけ腰を引いても手はためらいもしない。
 足と足を閉じ合わせた部分。股間の一番大切なところを、銀時は着物の上から軽く撫でた。
「ホントはさァ、ここ、さわりてぇ」
「…んっ」
 耳たぶをかぷりと甘く噛む。
 銀時の声がの頭に甘ったるく響き、余韻が長く後をひいた。

「ホントは、じかに、触りてぇんだよ?」
のあそこ、ひろげて、中まで指突っ込んで」
「そしたらいっぱい垂れてくるだろ?いやらしーとろとろがさァ」
「指になすって、べったべたにして、もっといじんの」
「ぴちゃぴちゃ、お前に、自分の音きかせてやりてぇ」
 中指の腹でそこをひっかく。がびくんっと体をのけぞらせた。

 実際に触られてしまえば、それはそれだけのことなのに、ささやかれる言葉はたくさんたくさん想像を膨らませてしまう。前に触られた時のこと、いつも触られているやり方。実際に触られる百倍くらい、銀時に触られている気分だ。
 こうしていやらしい妄想をたくましくしている自分が恥ずかしくて、また身がすくむ。悪循環が止まらない。

「舐めんのもいいな。お前は嫌いみたいだけど」
「明るいとこで、奥までぜんぶ見てやろーか?」
「お前が泣いても、謝っても、絶対離してやらねーの」
「知ってる?お前のあそこ、すげえ甘くて、美味いんですけど」
「舐めても舐めてもあふれてくるし」
「ぎ…、銀ちゃぁん…」
 銀時の体にしがみついて止めた。それ以上聞かされているだけなんて、頭も体もどうにかなってしまいそうだった。


 我を忘れてすがりつき、自分の胸に顔をくしゅくしゅ擦りつけている。の仕草に銀時は思わず横を向いてふきだした。
「もー。弱いよお前」
「…ちゅーする」
「ん」
 ねだられるまま唇を重ねてやる。の方から濃密に舌をからませてくる。目が熱く潤みきっていて、欲情している幼顔が銀時をそそった。

「『気持ちいい』に弱すぎるだろ。そんなんでどーすんの」
「…なんとかして」
「昼間っから?」
「鍵、かけてきて」
「お前アレだろ?」
 は銀時の着物をぎゅうっと握り引っ張った。なにも初めてのことじゃない。既に何度か同じ状況を経験(させられ)済みのだったけれど、はしたなくて自分からはとても言い難い。
 続きはそっちが言ってくれと目で訴える。

 もちろん気づかないふりで、銀時はにやにやとただ待った。
「どうすんの?」
「前もした…」
「どうしたっけ」
 は消え入りそうに俯いた。
 雨の音より小さな声で、それでも言わずにいられないほど、我慢がきかなくなったらしい。
「お、お布団の上、なんか敷いて…」
「あー、なに?銀さんに血まみれになれってコト?」
 銀時がわざとらしく言うと、は情けなく顔をゆがめた。
 あまりからかってが怒り出す前に、ひざの上によいしょ、と抱き上げてやった。

「さあ、どうしよっかなー」
 もちろんしてやってもいいし、焦らして延々おあずけするのもそれもまた楽しそうだ。
 しとしと雨音に隠された密室が、無性に銀時を浮き立たせる。


 どこにも行けない雨の日も、二人でいれば暇をもてあましたりなんかしないのだ。