小春日和のかぶき町。
 珍しく「朝」のうちに起きた銀時は、頃合をみてふらふらと表へ出た。
 どこへ出かけるというわけじゃない。「万事屋銀ちゃん」の看板の上、手すりから身を乗り出して前の通りを眺めているだけ。
 思ったとおり、そこへ立って10分も経たないうちに、が歩いてくるのが見えた。軽く弾んだ独特の足取り、頭のてっぺんを糸で吊られて引っ張られているような、文字通り浮き足立った歩調に銀時から知らず笑いがこぼれる。
 が来るのは分かっていた。約束なんてしていないし、用事があるわけでも勿論ない。けれども今日は週に一度の休日だし、だったら来ないわけがない、というわけだ。


 だがしかし。
 もうあとほんの数メートルで万事屋にたどり着こうという場所で、はばったり出くわした男と立ち話を始めてしまった。
 あーらら。最近うるせーなあのガキ。銀時は店でもよく会うその若者に腹の中でひとしきり悪態をついてから、大人げない自分を一応戒めた。
 いやいやも、あいつも仕事だからね。お客に会えば愛想のひとつも言わないとね。そうそう。
 銀時からは男の背中と、の横顔がよく見える。何の話をしているのかころころとほがらかに笑いながら、時々は男の肩を親しげにぺたぺた叩いていた。
 いつまでたっても話の尽きる気配はない。
 しまいにはそいつについて、くるりと方向転換してしまった。

「えっ?」
 連れ立って消える後ろ姿がその目で見てもまだ信じられない。
 えええええ?
 えええええええ?!!


 結局が万事屋に来たのはそれから1時間もしてからだ。








「こんにちわぁ」
 大きくふくらんだビニール袋をぱりぱり言わせ、が玄関に現れた。
 ところが出迎えた銀時は上がりがまちに仁王立ち。腕組みをしてを冷ややかに見下ろしている。ぼそぼそとつぶやく声は低すぎて、には最初聞こえなかった。
「…きょーつけ…」
「ん?」
「きをつけっ!!」
「はっ、はいっ!」

 勢いに圧されてがびしっと姿勢を正す。指の先まで真っ直ぐ伸ばして、まるで新兵さんのように。
「そこに手ぇつきな」
「は?」
「早くっ!」
「はいっ!」
 銀時の指はの真後ろを指していた。はくるりと後ろを向いて、玄関の引き戸に両手をついた。
「腰曲げて」
「はい…」
「そんで突き出す!」
「はぁ…?こ、こう?」
 なになに?と何度も後ろを振り向きながら、納得のいかない顔をしながら、それでもは言われた通りの姿勢をとった。軽く腰を屈めて銀時にお尻を突き出すような。

 薄く目を伏せ銀時の命令はまだ続く。
「着物と下着めくって尻出しな!」
「はい!」
 着物のすそに手をかけて、ぺらっと膝までまくりあげ…
 …と、そこまでノッてあげてから、満を持してはツッコんだ。
「………って、できるかあぁぁぁっ!!」





「何させんのよ!真っ昼間から玄関先でっ!」
 ぷくっと頬をふくらせて下駄を脱ごうとするを、銀時が身体で押し戻した。そのまま裸足で玄関へ下りたち、自分と玄関扉の間にを挟んでむぎゅうと潰す。
 ばしゃん、と引き戸が大きく揺れた。
「きゃっ?!」
 はずみで提げていた袋が落ちた。ばららららっとたたきに散らばる沢山の駄菓子。
 あ〜、とはそれを名残惜しそうに眺めた。せっかく銀ちゃんに買ってきたおみやげなのに。

 いつもなら大喜びするはずの銀時が、いっぱいのおやつに見向きもしない。それどころか、スナック菓子の小袋を邪魔っけに蹴飛ばしてしまうのを見ては表情を曇らせた。どうしてだか、銀ちゃん今日は機嫌が悪い。


「目と鼻の先まで来てんのにどこいってたの」
「あぁ、なーんだ見てたんだあ?」
 はけろりと笑って言った。
「そこでお客さんに会って…」
「あの子とは遊んじゃいけませんって、銀さんお前に何べんも言ったよな?」
「え?」
 を押さえつける力が増した。

「あ、遊んでなんかないよ?そこの駄菓子屋さんで、アイス食べただけ…っんんっ」
 ぎゅうぎゅう押されて息もできない。苦しくて顔をそむけただけのが、銀時にはいたずらを見つかって気まずくしているように見えた。
 最後まで言わさず唇をふさぐ。首だけこきっと上に向かされ、筋の痛みにが眉間に皺をよせた。
「か…はっ?」
 の中を大きな舌が這い回った。異変でもないかと探るように、隅から隅まで丹念に。怖気づいたの舌が奥へ逃げても、おかまいなしにからめとられた。
「んー…っ、んあっ、んっ…」
 がばんばん扉を叩いて降参の意思表示をしてみせると、たらりと水気をしたたらせ、とりあえず口唇は離してくれた。


「あぁ、ホントだ。ソーダ味。ホントにアイスは食ってたんだ」
 銀時は口の端のよだれを甲でぬぐった。
「何?それ、どういうイミ?」
「で?なんで一緒にアイスなんか食ってんの?」
「やぁだ銀ちゃんやきもち…」
 また最後まで言わせてもらえない。
 噛みつくような銀時のキスがは次第に怖くなった。


「そ。妬いてんの銀さん。なんで男とアイスなんか食ってんの?」
 銀時はまだ、いつでもかじりつける近さでに睨みをきかせている。何もやましいことはないのに、怯えたはしどろもどろだ。
「…し、仕事で。仕事で何か、ヤなことあったらしくて、それで…、愚痴きいてほしそうだったから、それで…」
「なんで?」
「なんでって…、だって、ほら、銀ちゃんも知ってるでしょ?つらい時に限って空元気するじゃないあの子。かわいそうで見てらんない…」
「そーいう優しさはカンチガイされるから。マジこれきりな?わかった?」
 有無を言わさぬ高圧的な口調だった。

 これにはも頭にきた。
「な、なによう!なんでそんなこと言われなきゃいけないの?!の友達なんだかっ………んんんんっ!
 く、くるしー、おもっ、重いよ、つぶれるっ、ごめんっごめんー!」
 のしかかってきた銀時の重さは冗談でする意地悪の範囲をとうに超えていた。ばんばんばんと背中を必死にタップしても今度は許してもらえなかった。


?」
 不意に呼吸が楽になった。銀時がやっと身体を離してくれて、声も一転、優しく変わる。
「お前さぁ、銀さんのこと、なんでもお見通しの大人だとか思ってね?」
 銀時の目は怒ってはいない。ただ、真っ直ぐを見つめている。

「銀さんけっこーコドモよ?醜いヤキモチ妬いちゃうよ?ホントはめっさ縛りたいんだよ?」
 鼻先にちゅっ、と口付けられた。
「いっぺんちゃんと言っとくわ」
 銀時の顔が近づき、すり抜け、の耳元で止まる。ふぅっと吐息でくすぐられると、はもうそれだけで腰がくだけそうになった。
「銀さんいつも、ホントはすっげー妬いてんだからね?」





 の着物の合わせ目が、銀時の手でぐずぐずになるまで崩された。
 はだけた胸に顔を埋め、銀時が白い肌を吸う。
「こういうこと、そいつにはさせねぇよな?」
「あっ、あたりまえじゃん!何いってんのぉ?!」
 なだらかなふもとをかぷりと大きく緩く噛む。がくいっ、と喉を反らせた。
「ひゃ…んっ」
「してない?」
「するわけ、ないよう…」

 力任せに揉みしだくうち、片方の乳房だけがぽろりとこぼれた。その頂点を指でつまむと蕾はすぐに硬く尖る。
 嫌がってみせるの声にもそのうち媚びが混じりはじめた。
「あ…」
「きもちいい?」
 頬を染めながらも、は素直に頷いた。時間はまだまだ早いけれど、けれども今日は休日だし、だってそのつもりがなかったわけじゃない。
 だからも、銀時の腰を抱き寄せて甘えた声でねだったのに。
「…あっち、奥の部屋、いこ?お布団で、しよ?…ね?」
「イヤ」
 返された言葉はにべもなかった。


 ばしん!と、ひときわ大きく扉の揺れる音。
 は身体をひっくり返され両手を扉につかされた。裾をまくられ白い尻もあらわに。
「きゃああっ!ちょっと、ちょっと銀ちゃん、やだ、こんなとこで、無理っ!」
「何言ってんの、濡れ濡れのくせに」
 ほら、と銀時は割れ目から前に指を差し入れ、ぐちゅぐちゅと動かし音を聞かせた。指は確かにあっというまに粘液にまみれた。
 腰をひねって逃げようとするを銀時の手は許さない。わがままで、傍若無人極まりない指がすぐに中心を探り当てる。
 初めは一本、すぐに二本がを侵し、何度も無造作に往復した。もっとゆっくり、やわらかく触ってやるべき部分を。
「やっ、それ、それ痛いっ」
「痛くしてんの」
「いたっ!」
 乱暴に花芯の皮を剥かれ思わず本気の悲鳴が出た。

 だが銀時には悪びれる様子もなかった。
「だってあふれてきたもん。もーべちゃべちゃ。痛いの好きなんだ?」
「す、好きじゃないよっ」
「うそ」
 ぱっくりとひだが広げられた。入り口に、張りつめた肉の熱さを感じ、はびくんと腰を引く。しかし銀時の腕が細い腰をなんなく引き寄せ離さない。
「やっ、何すんのっ…?」
も好きなコト」
「だから奥で!ねぇ、ここじゃ、いやっ、いっ、んんんっ」
 
 壁に張りつけにするかのように、勃起がを背後から貫いた。
「あ…っひっ!」
「こら、暴れるなって、抜けちま」
「ばか…っ、ば、…いやっ、やだぁっ」
 ぐちっ、と卑猥な音とともに銀時がをかき回す。ぐらりとバランスを崩し、よたついたは支えを求めて引き戸にすがった。
「やぁぁっ、やっ、ああんっ、やめてよっ、こんなぁ…」
 扉は銀時の腰が動くたびに、がたがたやかましく枠ごときしんだ。
 格子に嵌め込まれた擦りガラスからは、うっすら向こうの景色が覗ける。ということは外からも同様に。
 今ここに誰かが来たらと思うとの身体は不安にすくんだ。
「お?締まったよ?なに?こういうシチュエーション燃える?さんつくづく淫乱ですねぇ」
「違っ…バカっ!」



 腰を大きくのけ反らされた不自然な姿勢が苦しかった。の大好きな銀時のモノも今は異物にしか思えない。
「つらい?」
 優しい声に、これで許してもらえるのだとはほっとして頷いた。
「けど、だーめ。がイクまで今日はこのまんま」
「きゃっ、ああんっ、やっ、ああっ、ああんっ」
 がたがた扉ががなりたてる。
「んあっ…、無理っ、そんなの…、無理ぃ、無理よう…」
「え?無理?よくない?気持ちよくないの?えー?銀さん自信なくすわぁ」
「ちがっ…いいの、いい、けどっ…、だめぇ…」
 こんな不安定な姿勢でイケるわけない。

「そーか、そんじゃあ手伝ってやろっか」
 二人が繋がる接点の部分で、二本の指が芯をこねる。反対の手は乳房へ伸ばされ乳首をつまみひねり潰した。
 痛みに限りなく近い刺激に頭の奥が真っ白く痺れた。
「痛いの、やだっ、やだったらぁ…」
 同時に舌が、の耳を、首筋を這い回る。ぞわぞわと鳥肌がたつほどに、そちらは気持ちいい。いいけれど。

 頭の中はふわふわするし、耳への愛撫は震えるほどの快感をもたらす。
 抓られて痛いはずの場所は次第に蕩けて別の感覚を呼び起こした。銀時をくわえ込んだあそこもぴくぴくとリズミカルに痙攣して、もっともっと奥まで挿れて欲しがっている。
 疼痛と快感が背骨の途中で混ざり合い、徐々に思考を乱していった。

 けれどそれでも。
 はどうしても感じきれなかった。少しでも昂ぶりそうになると、踏みしめた足に気を取られ気持ちがそこで萎えてしまう。それ以上溺れることができない。
 とうとう情けない泣き言が漏れた。
「こんなのぉ、こんなのやだあ…」
 だってもっと気持ちよくなりたい。



「ホントにイヤ?」
 銀時が耳元で甘くささやいた。やんわりと耳たぶに噛みつかれ、同時に乳首は抓られる。
「ふぁ…っ、あぁんっ…、もう、も…やだぁ…」
 痛みと快感がさらにわかちがたく溶けあった。

がホントにイヤなことなら、銀さんは絶対しねーよ?」
「ふ…ゅん…」
 甘くいやらしい声にの頭はぽうっとなる。
 の耳を唾液でぴちゃぴちゃに汚しながら、その心を読んだかのように、銀時の声はさらに続けた。
「イヤ?」
 は黙った。銀ちゃんの声、もっと聞かせて。もっともっと。

 扉についたの手に、銀時は上から自分の手を重ねた。すぐにの手は銀時と指をからませた。
 大きく奥をえぐってやると、の悲鳴はそれまでよりも幾分か色めいて聞こえた。
「イヤ?」
 は真横に首を振った。
「じゃ、銀さんの言うこときいて、がんばってみる?」

 また振った。今度はゆっくり縦向きに。



「ん…んくっ…、くっ、んん」
 それでもは歯を食いしばり、懸命に声だけはこらえていた。
「いいよ、もっと力抜いて、声も思いっきり出しちまえ」
「でも…、誰か…来たら…聞こえちゃう…」
「ダメなの?」
 どうして「ダメじゃない」のかにはわからない。ダメに決まってる。してるのがバレちゃう。
 けれど耳元で低い声は言った。
が銀さんに愛されてんの、知られたらは恥ずかしい?」

 どくん、との内側が中の肉塊を締め上げた。
「ん…っ」
「銀さんは、おっきな声で、教えてやりてーんだけど?」
 銀時の声もかすかにうわずっている。早くこの中に搾り出したいと、焦る身体を押しとどめ、前後に、上下に、もったいぶって円を描いた。
「やは…っ、あぁんっ…」
は銀さんのモンですよぉ、…って、なっ!」
「やあぁんっ!」
 腰の動きは突如速さと激しさを増した。ばんっ、ばんっ、ばんっ、との身体ごと扉に叩きつけるように。

「んふっ、ん、んっ、んんっ、んうっ」
 がたがたする扉、震えるガラス。物音との嬌声が交じり合う。誰に聞かれても文句の言えない玄関先で。
 でもこれは、じゃなく銀時の欲望だ。
 銀時の言いなりにこんなことまでできる自分が、は反面誇らしくもある。
 言われたとおり、声を我慢するのもやめた。



「ああっ、あんっ、…は、はぁっ、あっ…ああっ!」
「はぁ、いーよ、上手、気持ちいいとこ、自分で、わかるな?」
「んっ、わ、わかるぅ…、ここっ、、ここ、好きなのっ…」
 の下半身が細かく小刻みに角度を変えた。腰を振り、揺らし、こすり付け、感じる場所を自らさぐった。
「ぎ、銀ちゃ…、銀、ちゃっ…、んんっ、んあっ、そこっ、、いっ、いいっ、いっ、」
「イク?いけそ?」
「うんっ、ん、うんっ、」
かわいー、見てるだけで銀さんもいきそ…」
 背中から抱きすくめてもらえたのが、息が止まるほど嬉しかった。
 もう銀時を気にかける余裕もない。は扉に顔を伏せ、こらえるどころか外へ向かって叫ばんばかりに喘ぎ声を上げた。
「はぁっ!いっ、いいのっ、銀ちゃぁん、、あっ、ああっ、あっ、あっ…」
「あぁ、俺も…、一緒に、いくから、な?ほら、っ」
 崩れ落ちそうになる体を、太い腕が掴んで支えてくれた。心置きなく身体を預けた。
 快楽を邪魔するものが何もなくなった。

「ああっ…!」
 むき出しの神経に直接触れられてしまったような、ひりつく性感がを突き抜けた。
 ばんっ、と扉を全力で叩く。指の先までぴんと突っ張る。
 何度も何度も、扉をつかみ、揺さぶり、声を上げ、は銀時の望み通り、そこで、立ったまま絶頂を迎えた。
 収縮しきった胎内が、一瞬遅れて中へ放たれた精を感じた。





「はあ…」
 荒い呼吸をひとつして、の背中に弛緩した銀時の身体が投げ出された。
 やがてぬるりと、萎えた銀時がから抜ける。蓋がとれるとそこからふたり分の粘液がこぼれ、ぼとっ、ぼとっ、とたたきにいくつもの水溜りを作った。

 達したばかりで霞む目に、染みの広がる足元を映しては深く満足した。
 銀ちゃんの言うとおりにちゃんとできた。
 他に比べようもないくらい、胸にあふれる充実感。

 がなんでも言うことをきけば銀時は安心してくれる。だから。
 銀時に従わされるのは、にとっても最大の幸せだ。





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