銀時がに頼みごとをする時には、いくつかパターンがあって。

 なんでもないことなら遠慮もなにもない。下手をすれば目すら合わせない。「なー飯まだ?」「肩もんで」
 困ったように照れ笑いして下からのぞきこんでくるのは、大きめのお金を貸してほしいとか、のつて(そんなものもあるのだ一応)を頼りたいという時。
 人を頼るのが本当は苦手な銀時がを頼らざるをえない、その苦しさをもわかるから、そういう時は何も聞かずに出来る限りのことをする。

 ところがその日。万事屋事務所を訪ねたを喜びいさんで出迎えたのは、さらにまた違う反応だった。にとってはいわば最悪のパターン。
 いかにも待ちかねていたという風情で出迎えに飛び出てきた銀時は、喜色満面上機嫌、はしゃいだ顔を興奮のあまり火照らせて
 そして一段高い声を張り上げた。
「銀さんに頼みがあるんですけどー!!」
 は何も聞かずに回れ右した。



 びびゅん、と突風が吹いたと思うと、銀時が行く手に先回りしていた。にやけた顔でとおせんぼして、後ろ手に玄関へ鍵をかける。
「なになになになんで逃げんの、愛する銀さん置いてなんで逃げんの?」
「イヤです」
「ええぇぇぇ?なんにも聞かずにそれはねーだろ?ほらお話しよう、ちゃんとしよう?人とのつきあいの基本はまず対話だよ」
 へらへらと笑いながら言葉数も多い。これはもう間違いない。
 は意気込みで負けてしまわないように、ぷん、と両手両足を突っ張った。
「イヤったらイヤっ!」
 その顔は絶対、エッチなことを狙っている顔だ!





「これ着ろって…?」
 に大きな包みを渡して銀時が力いっぱいうなずいた。昼なのにどこか薄暗い、日当たりの悪い万事屋の和室。部屋の隅へ寄せた万年床にあぐらをかいて。
 子供のようなきらきらした目が正直憎い。

 結局は銀時をはねつけることができなかった。渡された包みを抱きしめて脱力した肩がしょんぼりと落ちた。
 パーティグッズのようなものだろうか。包みの中はコスプレ衣装。バイト先で余っていたものをもらってきたそうだ。わざわざ着せようというからにはどうせバカみたいに露出の多い衣装なんだろう、はうんざりため息をついた。
 どうして自分はこう言いなりになってしまうのか。こんな時はいつも思う。素直に従ったからといって、銀時がお返しに何をしてくれるというわけでもないのに。
 もっともそんな銀時なんてまるでイメージがわかないが。「銀さんの言うこと聞いてくれたら代わりにデートでもなんでもするから」ないない銀ちゃんはそんなこと言わない。


「あ、うさぎだっ」
 けれど包みの中を見て、うかない顔は少しだけ晴れた。袋の中からまず現れたのはうさぎの耳の髪飾り。他にもふかふかした毛皮がたくさん見える。
「な?お前好きだろ?喜ぶかなーと思って銀さんお前のためにもらってきたんだぜぇ?ほら銀さんいつでも仕事の時でもちゃーんと頭ん中にのことが「ちょっと黙っててくれる?」「はいすみません」
 は冷たく言い放ち銀時を神妙に土下座させた。うさぎは可愛いし大好きだけどもそんなことで懐柔できたと思われては困る。

 ただ、嫌々ながら着替えを済ますとの表情はもうひとつ晴れた。意外とおとなしい服だ。もっとはしたない格好をさせられるものだと思っていたら。
 まずは足。ふわふわの白い毛で覆われた、ひざまでの履き物。これがきっとうさぎの足のつもり。
 それからミトンのようになった、これも同じくふわふわの白い手。残念ながらうさぎなので、手にも足にも肉球はなかった。
 メインの服は背中を紐で編み上げた黒いワンピース。さすがにこれは肩が丸出し、胸の谷間はそもそも隠そうという気がない。丈もお尻が見えそうに短いけれど、とはいえ銀時の前だけで着るならもこれくらい抵抗はない。
 仕上げにうさぎの耳をつける。本物のうさぎにはあまり似ていない、ぬいぐるみっぽく丸みをおびた耳だった。


 不思議なことにその耳は、の頭にくっついた途端にぴくりと震えた。
「わ、なにこれ動く!?」
 が驚くと耳もびっくり。けものが耳を澄ますように、ぴょこんと高くそばだった。
「見て!見て!これ!銀ちゃんすごい!面白いよ!?」
「そうそう、すげーだろ?その耳そう見えてけっこーハイテク。内臓チップが微弱な脳波を感知して、それに合わせた動きすんだって」
「やぁだなにそのせんたん技術のむだづかい!ばっかじゃないの?」
 けれども口ではそう言いながら、うさぎの耳はぴょこぴょこ楽しげに揺れている。の機嫌も上向きという証だ。
 すぐに表情が追いついて、はころころ笑い転げた。



「はぁい。着たよ?これでいい?」
 くるりと一回転したは銀時に首をかしげてみせた。サービスに、媚びた笑顔のおまけつき。
 銀時が大喜びで手を叩く。
「おー、いいじゃん可愛い可愛い。着てみてどうよお前は」
「まあまあねー」
 だがうさ耳はぴくぴくしている。あながち気分は悪くないらしい。

「もふもふして」
「もふ?こう?」
 手を引かれ、布団の上に座らされる。のふわふわしたうさぎ手が銀時の頬をふんわり包んだ。
 もふもふ、ふもふも。着ぐるみの両手で挟まれ優しく揉まれ、銀時がふにゃーと幸せそうに相好を崩す。
 なーんだ銀ちゃんこんなことがしたかったのね。そんなことでとろけそうになっているのが可愛くて、は精一杯もふもふしてやった。



 可愛い可愛いと言われ続けて嬉しくなって、キスをしたのはの方からだ。
 ちゅ。最初は行儀良く閉じた唇が、表面だけそっと触れ合った。
 正面から一度。顔を傾け、もう一度。やがて唇がやわらかくほぐれて時折控えめに舌が出る。ちろちろと銀時の唇を舐めるのも、にしてみたら親愛の表現くらいの気持ちだ。
「ね、銀ちゃんもにして」
「ん」
 されるままだった銀時がに応えて遊んでくれた。舌先だけを互いに舐めあう。軽く顔を引き唇を濡らしあう。また口付けて舌をからませる。

 唇は次第に深く合わさった。いつのまにか大きく開けさせられた口に銀時がむしゃぶりついている。我にかえったが行き過ぎを修正しようとしても、その時にはもう銀時にしっかり抱きしめられてしまっていた。
「んん…」
 銀時の腕の中で身をよじり、顔をそむける。うさ耳もぺったんぺったん嫌そうに銀時の頭をはたいた。うさぎの耳というよりは、猫のしっぽのような動きだった。
「もぉ、だめだったら…」
「だめじゃねぇの」
 相手にもされない。銀時はの頭をしっかりと抱え、動けなくしてさらに口付けた。

「やぁん…っ、もふもふするんでしょー?」
「それはもうした」
 唇は頬に、また唇に。の顔中を飽きるまで味わい、そして首筋に下りてくる。うなじをきつく吸われると、うさ耳がぷるぷる細かく震えた。
「よーくできてんなァその耳。まさかいじったら感じたりとか?」
「あんっ」
 人差し指と親指で耳のつけねをやんわりつままれた。背筋がぞくぞく震えたのは、きっと錯覚というものだ。
「おっ?」
「ちがうっ、ちがうったらっ」
 不意討ちに本物の耳を噛まれる。腰にまで一気に痺れが走り、うさ耳がぴーんと立ち上がった。


 が大人しくなったのを見て、銀時の手が場所を変えた。唇を合わせながら、首筋から肩を優しく撫で下ろし、やがて手のひらは胸へ。
 重たい乳房をふんわりと包み、押し上げるようにゆっくり弧を描く。もどかしいほどゆるやかに揉んでいるだけと見せかけて、さりげなく指の腹は頂点を刺激し続けている。つんと主張する突起の形が布越しにもそのうち目立ってきた。
 わしづかみにされこねまわされ、もちもちとした丸みが形を変える。そのたびワンピースの胸元が少しずつだがずり下がった。もともとぎりぎりの位置で、ようやく留まっていた布だ。
「わわっ」
「だぁめ」
 あわてて前を隠そうとしたうさぎの手を銀時はなんなく両方掴んだ。
 はずみでぽろりとこぼれたふくらみを逃さず唇がとらえる。硬く尖りかけた蕾に吸い付き、銀時はそれを丹念に口の中でもてあそんだ。右と左を気まぐれに。ちゅぱちゅぱと聞こえよがしな音をたて。

「ちょ、もう…やだあ。銀ちゃんヘンっ、今かわいーって言ったのにぃ…」
「うん」
 ちゅるっ。
「すげー可愛いよ?」
 ちゅぱ。
可愛い」
 ちゃうううううっ。

「や、や、やっ、もうっ、いやいやっ」
 歯を立てず甘く突起を噛まれ、は必死に髪を振り乱した。両腕をしっかり封じられて他に快感の逃がしようがない。
 胸に埋まる銀時の頭に、は上からもふっと顔を伏せた。ほっぺたが熱い。目の中も。白くかすんで何も映らなくなりそうだった。
 銀時の舌先でくすぐられるたび、ぴりぴりと下半身へ電流が走る。奥の方がじんじんと恥ずかしく疼いている。入り口をとくんと粘り気の濃い液が通り過ぎた。もうやだ。濡れてる。

 体の変化を隠そうと無理して口をきいたつもりが、から出た声は自分で聞いてもどきっとするほど艶めかしい色を帯びていた。
「かわいーのに、なんでいやらしーことすんのよう…」

 顔を上げた銀時の口元は、唾液で濡れ光っていた。それを目にしての胸がまた高鳴る。どきどきしながら目が離せない。
 銀時が小さく口を動かす。にたりと吊りあがった向こうに悪戯っぽく白い歯が覗いた。
「誰かさんが可愛いのにいやらしーから」

 うさ足がびくりと慌てて閉じた。がもじもじ太ももをすりあわす。その中がもうどういうことになっているか、余裕の声は何もかもお見通しという風に聞こえた。
 首まで真っ赤に染まったは消え入りそうに縮こまり、しんなりうさ耳を萎れさせた。



 だがその時。
「じゃあそろそろしっぽもつけようか」
「しっぽ?」
 は恥じらいも一瞬忘れ、きょとんと銀時を見返した。





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