もう何度目か。
 執拗にえぐられ続けたその部分から、悪寒にも似た性感がぞくぞくと高まってくる。鳥肌の立つ寒気が腰から這い上り、背骨を伝っての頭をどろどろに乱し蕩かしていった。
「あっ…あぁっ、あっ、は、あぁっ…」
 弛みきった口は端からよだれを垂らしっぱなし。深く奥まで貫かれるたび反射的に喉をつく喘ぎは、声ではなしに既に音。意味のとれないいくつかの母音か、そうでなければうわごとのように、銀時の名前を呼ぶしかできない。
「銀ちゃん…銀…ちゃん…っ」
 分厚い肩に腕を回した。爪を立てる力も今はなく、指の腹をかろうじてひっかけて留めた。

 窓からの明かりを背に受けて、わずかに翳った銀時の顔。振り乱した前髪が汗で額に貼りついたのを、鬱陶しそうにかきあげていた。
「銀ちゃん…」
 回した指に力を込める。
 大好き。

 けど。



 規則正しく前後していた銀時が、ぴたりとその時動きを止めた。すう、はあ、何度も大きく肩で息をして、達してしまいそうなところを無理にとどめてこらえている。
 これも今夜はもう何度となく繰り返されていることだ。
 既にだけが、先に絶頂を迎えさせられている。だからもうあとは心おきなくということなのか、銀時は完全に自分のペースで、を使って自分一人で愉しんでいる。放つ寸前で射精をこらえ、鎮まればまた楽しんで、危なくなったらまた止まる。注意深く自身を調節し、もうずいぶんと長い時間を遊んでいた。
 狩った獲物を食べる前にまだいたぶって遊ぶ、けだものか何か。息も絶え絶えな風情のを、味がなくなるまでしゃぶり尽くそうとするかのよう。

 自分の身体が銀時をそんなに夢中にさせていると思うと、オモチャのように扱われてもはむしろ嬉しくてならない。それだけで気は昂ぶって、今も今にも昇りつめそうだ。

 けど。



 の両脇にひじをつき、銀時がべったりと身体を倒した。汗ばんだ肌と肌とを伝い、高速で刻まれる鼓動がの心臓にも伝染した。とくとくとくとく、まで動悸が止まなくなる。
 そのうえ耳のすぐそばへ。
「これ…、好き…」
 の大好きな甘ったるい声が。その声も、疲れ果てて語尾がゆるかった。

「なぁ、おめーが、何べんも、イった後の、ココ…」
「中が、やーらかくなってて…」
「すげぇ好き」

 ざわわっ、との背が粟立った。

 こみ上げた衝動にまかせ、は銀時の唇に吸いついた。すぐに開いてを迎え入れてくれた口へ、がむしゃらに舌をねじこんでがつがつと中を貪った。口のまわりはお互いに、どちらのものか、どこのものかも知れない粘液ですっかり汚れ、べたついている。今さら唾液がしたたろうとも二人とも少しも気にならない。
 攻守を換えて、今度は逆にを喰らいはじめた銀時に、くんと高くあごを反らしてもっともっととはねだった。上と下、二箇所の粘膜で繋がりながら、それでもとても足りないと下から身体中をすり寄せる。

 からぼたぼたあふれた液体で布団にはいくつも大きな染みができていた。

 けど。



 だらりと太い糸を引き、濡れた唇が離れた。間近に見えた銀時の目は欲情に熱く滾っていて、なのに同時にとても優しく笑っていた。
「締めつけてんじゃないよー」
「ば…、ばかっ…、銀ちゃんが、ヘンなこと、言うからじゃん…」
「ヘン?」
 くいっと浅く、中で動かされた。
「ふぁ…っ?」

「銀さんが?を好きって言うのが?へぇ?それ、ヘンなの?」
 くい、くい?と口と同時に膣内にも訊ねられ、そして責められているような。
「や…っ、やっ、あっ、あっ、ぃやっ、あっ…」
 違う、違うよ、というつもりで、懸命には首を振った。
「ちゃんと言って」
「ないよ…、ヘンじゃない…もぉ、銀ちゃん大好きぃ…」
「なにが?は?銀さんの何が好き?」
「えっと、ね…あ、あのね…、ねぇ…」
 頭も口も回らずに、ろくに答えられずにいても、銀時の表情はいつもと違う。こんな時、をいたぶる時に浮かべる意地の悪い笑みは、今はその顔の上にはない。

 銀時自身も流されるまま、快感に身を委ねてくれているようなのが、は何よりも嬉しかった。

 けど。

 くしゃくしゃの頭をかき抱く。素肌をくすぐるくせ毛がこそばゆくて、それでまた内側がきゅんと縮まった。銀時に言われたとおり、これ以上なく狭まっているのにのそこは柔らかくほぐれて、銀時自身をねっとり包みからめとっている。
 細い通路がうねり、締め上げ、蜜はとめどなく湧いた。頭で、心で、命じるまでもなく、身体が勝手に銀時を精一杯悦ばせようとしていた。

 けど。



 ぶるるっと指先が震えた。唇を噛みしめ、せつなげに眉を寄せただけで、それは簡単に気づかれた。
「またイク?」
 まるで褒めてくれているような銀時の声が嬉しくて、素直には頷いた。正直にしたご褒美なのか、硬い棒で弱い部分を探られ、の中はそのたび小刻みな収縮を繰り返した。
 銀時の打ち込む楔に合わせて、はっ、はっ、ひたすら短い息を、細かく絶え間なく吐いた。吐き続けるばかりで吸うのを忘れ、空気が足りずに気が遠くなるまで。

「銀ちゃんも…っ…」
「俺はいーの」
「やだぁ…銀ちゃんも、一緒にぃ…ぃはっ!ああんっ!」
 礼儀を知らない肉棒が力づくでを黙らせた。ただでさえ残りわずかだった頂上までの距離を、は一息に昇らされる。
「やぁぁっ!あんっ!やぁっ!あっ!あーっ!!」
 かはっ、とかすれた音を最後に、あとは空気の漏れるような、すかすかの音しか出せなくなった。
「………っ!」

 口だけを開けて、出ない悲鳴を搾り出した。歯をくいしばり、喉をそらし、引き攣った足が布団を蹴飛ばした。
 ふわりと浮かんだ、その直後。
 指先まで、髪の毛の先まで銀時に満たされ、声も出せずには終わらされてしまった。



 …けど。







 今度はの足を担ぎ、銀時が再び腰を前後させ始める。
 が、間もなく止まった。動いているより、止まってこらえる時間の方が徐々に長くなっている。さすがに限界も近いのだ。決して認める気はなさそうだが。
 眉根に深く皺を刻んだどこか哲学的な顔が、懸命に深呼吸して、息を整え、気をそらしている。胸までぴったりくっつくほどにひざを窮屈に畳まれながら、は苦しい息の下、銀時の顔を見つめていた。

 この状況でを見るのは銀時にとって危険極まりない。当然逃げ続けていたその目がつい、ついうっかりと、の真上で留まってしまった。
 もの言いたげな瞳に気づいて。

「何?」
「…いい」
 嗄れて潰れてしまった声は、返事も最小限しかできない。けれど銀時にはその「いい」が、「もういい」ではなく「きもちいい」の「いい」だとちゃんと分かる。

「…けど」
「けど?」
 眉を上げ続きを促すと、やはり短くひと言だけ、ため息と間違えてしまいそうな、か細い声が返ってきた。

「……………長いよぅ」





 銀時の肩越しに、からはずっと窓が見えた。赤く紫なネオンサインが、始めた時にはちかちか瞬き、暗闇を飾りたてていた。
 が。
 そのうち灯りはひとつ減りふたつ減り、やがてひとつも見えなくなり。
 …今では外はほの白い。

 開かされっぱなしの足を、もそろそろ閉じないと戻らなくなってしまいそう。







 思いもしないことだったらしく、かなり長い間銀時は口を開きっぱなしだった。
 やがてどうやらの言葉をのみこむと、きまり悪そうにふてくされ、唇をとがらせ、頭をかいて。
 不本意きわまりないという顔で、の両足を担ぎなおした。


「早いならともかく、長くて文句言われる筋合いはねーよ」