ある晩秋の日暮れ前。お江戸はかぶき町の片隅で、地味にこじんまり商うだんご屋。多くの客が入れ替わり立ちかわり一日賑わっていた店も、そろそろのれんを下ろそうとしていた。
 ひとたび傾き始めるとこの時期の陽はみるみる沈む。あっという間に陰った店内で、けれど客達はまだまだ元気だ。
 それというのも看板娘がいつにもまして笑顔なもので。

「どしたのお姉ちゃん。今日はご機嫌ねぇ」
「うっふふふー?えええ?そうですかぁ〜?」
 最後に残った客のひとりが看板娘のを冷やかした。もちろんわかっていて言うのだ。ここの娘が浮かれるといえば理由は他に考えられない。
「コレだよねぇ?」
 連れのおばちゃんも親指を立てた。大変品のない仕草だがここは天下のかぶき町、下品の基準がよそとは違う。これくらいのことは堅気の奥さん方もする。

 そしておばちゃん達の見込みは拍子抜けるほど正しかった。


「うーい。終わった終わった。おーい、なんか甘いモン食わして〜」
 店中を幸せ気分にさすほどがにこにこしている理由。
 その原因が、歩いてきた。
「あっ、銀ちゃん!きゃー!いらっしゃ…」

 ところが元気に振り向いたが、そこでぽかんと立ち尽くす。
「…へ?銀ちゃん…?」

 頭を鴨居にぶつけないよう腰を屈めてのれんをくぐるのは、つぶらな瞳の大きなくまさん。
 ふかふか素材の着ぐるみだった。






「ぐあぁぁぁ疲れたぁぁ…。これ夏じゃなくて良かったわ〜。真夏だったら死んでるわコレ」
 ひと抱えはある頭を脱いで、銀時はぷはー!と息をついた。首から下はくまさんのまま、だらしなく足を広げてひとやすみ。が気をきかせて持ってきた大きなコップになみなみの冷たいお茶で喉を潤した。
「なんなのお兄ちゃんそのカッコ」
 物珍しそうに客が寄ってきて銀時の姿をまじまじ眺めた。くまさんは少々擬人化されていて、明るい茶色の毛皮の上から赤い吊りズボンを穿いている。頭は頑丈に作りこんであるが、首から下はゆったりしたツナギだ。その手もミトン状とはいえ物を掴む程度のことはできる。
 実際に着て働くことを重視して作られた衣装だった。

「仕事よ仕事。大江戸スーパーの玄関前でガキに風船くばってたんだよ」
「仕事?あんたスーパーに勤めてんの?」
「違う違う助っ人。風船くばりでもたこ焼き売りでも、頼まれりゃなんでも請け負うぜ」
「ああ、あんたも万事屋さんなんだ?」
「あんなヤツより銀ちゃんのほうがずーっと頼りになりますよっ!」

 勇んで割り込んだのはだ。いっぱしのマネージャーづらをして、おばちゃんふたりに名刺を握らせた。「万事屋 坂田銀時」の名と、連絡先としてこの店の電話番号が書かれている。
「犬の散歩にどぶ掃除、お勝手の棚も作ります!今月いっぱいお試し期間ってことでお値段も割引中ですよー!」
「へぇぇ?そーだ、あんた水道の蛇口って直せる?こないだっからどんだけ締めてもぽたぽたしちゃってさぁ」
「おお。まいど〜」


 とんとん拍子に依頼はまとまり、明日の朝一番の修理をとりつけ客は機嫌よく帰っていった。
 それを深々とお辞儀で見送り、は店じまいを始めた。洗い物をして机を片付け、ぱたぱたほうきを振るう間もその顔はずっと幸せそうだ。
 なぜなら今はこの店の裏にくっついた狭い四畳半が、と、それから銀時の「家」だ。晴れて始まったふたりきりの暮らしにほっぺたは弛みっぱなしだった。

 あの調子なら仕事のほうもいずれ軌道に乗るだろう。もともと「万事屋銀ちゃん」だって、開業したてのしばらくは依頼など無いも同然だった。ここの用心棒を名目に日がな一日だらだらするうち、顔と名前が売れていったのだ。
 きっと今度も同じようにできる。元通り「街の便利屋」として市井に埋もれて暮らしていこう。
「つまりげんてんかいきってやつよ!」
「原点回帰な」
 たっぷりあんこを盛りすぎておはぎのようになっただんごを、大口開けて頬張って銀時も楽しそうだった。







「いつまでそれ着てるの?暑くないの?」
「んー?ああこれな」
 閉店作業の総仕上げに入り口へ分厚い木戸をはめると、店は暗がりに閉ざされた。
 銀時はやっとだんごをたいらげ、なのにまだ着ぐるみを着たままだ。首をかしげるににやりとして、着替えるどころかくまさんの頭までかぶりなおしてしまった。
「?」

 丸いお耳につぶらな瞳。優しいお顔のくまさんが立ち上がった。
 不思議そうに眺めるの前で、おどけておどる。ゆーらゆら。
 あまりきびきび動かないほうが着ぐるみは可愛らしく映る。普段と同じにしているのに、やる気なさげなおっさんが今は愛らしい森の仲間だ。
「あっはは!かーわいい、くまさんくまさん」
 よろこんで手を叩くに、くまさんは両手をぱっと広げた。「やあ!くまさんだよ」とでも言うような。
 衣装を着けたらもうしゃべらない。それが着ぐるみの「内臓」たる者のたしなみだ。


 椅子と机を脇へ寄せたので、狭い店だが今は真ん中にちょっとしたスペースができている。ちょうどくまさんとがふたりで向き合ってダンスできるくらい。
 「真似をしろ」と手招きされたので、もぎこちなく同じポーズをした。
「こう?」
 ぐーに握った両手を腰へ。右へ左へ身体を揺らす。
 手をひらひらと振りながら、右足を前へ。今度は左。
 くまさんの手にエスコートされて、くるりとターン。
 これでひとくさり。

 次はそれをもっとリズミカルに。

「あははっ!あはっ、あはっ、あははは…んきゃっ?」
 手を取りくるくる回されすぎて転びそうになったのを抱きとめられる。もぎゅうっとくまさんを抱きしめた。
「銀ちゃん大好き!くまさんも!」


 の頭の単純なこと。それが銀時であることは十分理解していながら、目に見える姿に引きずられて、同時にそれは「くまさん」でもある。
 おかげで普段銀時には言えないことも言えてしまった。
「あのね、くまさん?くまさんはのこと好き?」
 くまさんはその大きな頭で、こっくんと深くうなずいてくれた。
「ほんとっ?おしえて、おしえて、どれくらい?」
 くまさんは両手を大きく広げ、うーんと体をそらしてみせた。
「きゃー!ありがとう!も大好きー!」

 ぴょんと首っ玉にぶら下がった身体をくまさんは軽々抱き上げた。
 をお姫様抱っこして、軽やかにのれんをくぐると奥へ。そっと畳へを寝かせるとふかふか起毛素材でできた全身でおおいかぶさった。
「きゃっ?」
 慌てる身体が抱きすくめられる。の顔よりも大きな手に、襟元を撫でくりまわされた。くすぐったがりの首筋にさわさわくまさんの毛並みが触れてはたまらず笑ってしまった。
「うひ、あひゃ、ちょっ、やだぁ、くまさんたらぁ」
 その手は次に胸の丸みへ。着物の上からではあるが、怪しい手つきが揉みしだいた。
「やーん、えっちぃ、あははははっ」

 がどこまでものんきなのは、なにぶん相手がくまさんだからだ。黒くて大きいビー玉のような目は相変わらずくりくりと。そこだけ白い鼻面にはにっこり笑った口が描かれている。こんな無邪気な動物さんに何をされようとも冗談としか思えない。
 だがくまさんはいつの間にやら下へ下へとずり下がっていた。の太ももを抱きしめて、親指以外丸いだけの手が器用にすそをまくりあげる。頬ずりするのは生の足だ。
「もー!」

 それでも笑っていただが、不穏な気配にふと気がついた。
 つぶらな瞳がはだけた着物の、さらにその陰を凝視して動かない。
 動きを止めたくまさんはどこか不気味な物体に映った。その全身から放たれるのは、勘違いでなければ猛烈な「飢え」だ。
「あは、あは、あはは…?」
 さすがに笑いも力なく引っ込む。落ち着いてよーく耳をすますと、くまさんの閉じた口の奥から男の荒い息が聞こえた。
「!!」

 そうだこのくまは銀ちゃんだった!
 がようやく正気に返った。


「あ、あっ、あ、もう、おしまい、おしまいね、そうだ早く晩ごはんしなきゃ…」
 ずりずり後ずさろうとしたが遅い。両膝は既にくまさんの腕にまとめて抱えこまれている。そうしておいてくまさんは、性的な匂いのまるでしないお顔をの下腹部へこすりつけた。
「あふんっ、やんっ、銀ちゃん、ちょっ、もおおっ?!もおふざけないでー!」
 ふざけてなんか。

 くまさんはの手をとると自分の股間へ導いた。フリーサイズのたるんだ毛皮は思っていたより薄っぺらい。布の上からでも中に隠れたモノの形まではっきりわかった。
 身体の中心で熱を持ち、硬く勃ったそこの形まで。
「え、ええええええっ?なんでぇぇぇぇっ?」

 くまさんが邪悪に笑って見えたのは逆光でできた影のせい…だろうか?
 次の瞬間足を引っ張られ、はずみをつけては裏返された。ぺろんと腰まで着物をめくられ真っ白な尻がむき出しにされる。
「ひやっ!えっち!ばかぁっ!も、もうおわりっ!おわりだったらっ!」
 終わりどころか銀時のくまさんは自分の下腹をごそごそしだした。この衣装は背中のファスナーの他に、くまさんの着ている吊りズボンの前も開閉できる仕組みになっていた。
 力任せに広げると、縦に並んだスナップボタンがぷちぷちぷちっと弾けて飛んだ。

 股間の窓から中身が覗いた。高く屋根の張ったトランクス。
 すきまから手を突っ込むと、くまさんは下着をずりおろした。

 まさかと思う隙もない。
 抗いようのない腕力での下半身は抱えこまれ、着ぐるみの股間から出た先っぽをぴたりと押し付けられていた。
「ちょっ?!やあぁぁぁぁぁぁぁっ!?なにすんのーっ?!」
「しーっ!しーっ!聞こえる!ご近所に聞こえる!」
「あーしゃべった!くまさんなのにしゃーべった!い、いけないんだっ、そういうのが子供の夢をこわすんだよっ」
 子供の夢などどうでもいいのだがも取り乱して支離滅裂だ。銀時は銀時で「内臓」の掟をいとも簡単に放棄している。
「いいからいいから。おめーかわいいの大好きだろ?うさちゃんじゃねーけどかんべんな」
「そ、そういうもんだいじゃ…、あっ、ああんっ!」

 逃れようともがく尻をつかみ、くまさんは腰を前へ突き出した。の大切な、繊細な場所に、着ぐるみなんぞの指で触れるわけにはいかないし、かぶりものをしていては舌も使えない。唯一露出した生の自分で肉の割れ目をよくなぞった。
 やがてそれはを濡らしで濡れる。
「お、いけるいける入りそう。すげーな。前戯いらねーのな。あ、違うか。くまで抱っこしたか。えええ〜?つーかお前すごくね?ぬいぐるみで発情できるって…」
「ばっ!ばか!ちがうもん、ちが…ぁ、ひんっ!」
 頭の部分が秘裂に分け入った。抜き差しすると亀頭にそのたびとろみがまとわりついていく。けれどどんなにぬめりを増しても挿入されるのは頭までだった。

 焦れたわけではない、ないけれども、怪訝に思っては見上げた。
「ん、んんっ、またぁ…そーやっていじわるするぅ…」
「いや違ぇって。そーじゃなくて」
 一生懸命布をたぐっても、「そこ」だけ出すのがやっとのくまさんだ。それ以上深く挿れようがないのだ。
「おめーも協力して。もーちょっと腰上げて。あぁほら、抜ける抜ける!」
「は?もぉ、もぉ、ばかあっ!やんっ、あっ、だめ、もうっ」

「あーあ…」
 ぬるんとすべり出てしまう。腰を抱えてやり直し。
「だからもーちょっと腰上げて…」
「んー?」
「そうそう、そんで銀さんも角度を…よし!」
「…んっ」
 少しだけ今より深く突かれ、短く息をのみはしたものの。
「ん…、ふふっ、んくっ、くくっ、ぷっ…、あははははっ!もうっ!」

 真剣に試行錯誤するくまさんがはだんだんおかしくて可笑しくて。


 きょとんと一瞬固まった銀時もやがてぷぷっと吹きだした。
「くそ、こらてめっ、しながら笑うんじゃねーよ」
「だって…くくっ、すごい、ばか…」
「ああん?なんだとぉ?」
 ふたりしてくすくす笑っているのに、さっきより確かに繋がっている。ぐいとくまさんに尻をなすりつけ、がいたずらっぽく目を輝かせた。
「えへ、こう…でしょ?」
「…あのなぁ」
 その声もやはり笑い含み。

 ぺったんぺったん。くまさんがどこか牧歌的に腰を振りだした。






「なあ?どうよ?くまさん。くまさんどんな味?」
「うん、うん、いい、けど、も、もぉ、いい…」
「なんで?もういいの?遠慮すんな、大好きっておめー言ったろ?」
「う、うん、言った、好き…」
「だろ?イイだろ?くまちゃんな?」
「ちが…あん、あ、あんっ、もぉ、くまさんはいいから、ああんっ、銀ちゃあんっ」

 がせつなげに腰を揺らした。規則正しく通路の半ばまで、執拗に責められおかしくなりそう。火のつけられてしまった身体が銀時を恋しがって疼く。
「もうふつーにして、おねがい、おねがい」
「ふつう?そーかわりぃわりぃ。お前ケツからされんのキライだっけ。ん〜、でもくまさんこのナリで正常位なんかできっかな〜?」
「そ、そうじゃなくてぇ…、んんんんっ、もぉぉっ!」


 鼻声でぐずるのすぐそばへ。その時ごっとんとくまさんの頭が落ちて転がった。
「あ…、はっ、はァ、やべ…」
 現れた顔はだがもう汗だくだ。は、は、は、はァと小刻みに、息がとんでもなく荒いのも当然。かぶりものをして激しい運動などするから。本当は呼吸もままならなくて、紫寸前の顔色をしていた。
「ね、早く、はやく、もういいでしょ、早くぜんぶ脱ぐのぉっ」
「へへへ、わかった。脱ぐ、脱ぐから。こら、そこつかんでちゃ脱げねぇって」
 そうは言いながら銀時は、必死に胸倉にすがりつくがそれほどイヤでもなさそうだった。



 着ぐるみも着物もくしゃくしゃになってそこらへ放り出されていた。深いところを繋げただけではどちらも全然足りなくて、ふたりは抱き合い身体をからませ、少しの隙間も惜しむように汗ばんだ肌まで貼りあわせていた。
「は、っ、あっ、もう、ばか、ばかなんだからっ…」
「なんだよかわいいつったくせに」
「んっ、ん、あんっ…」
「なあ?お前かわいいつっただろ?くまさんかわいいかわいいって」

 耳へ噛みつくように言われた。
 「かわいいかわいい」繰り返し。
「ん?」
 の中がきゅうと狭まっている。
「なに感じてんの」
「ん、だって、だって…」
「くまさんの話だよ?」
「んん、そ、そうだけど…なんか…なんだか…」
「なによ」

 わかってしているに違いない。銀時は極端な抑揚をつけて、甘い甘い声でささやいた。
「あぁかわいい」
「ひっ?」
「かわいいなァ?」
 すくみ上がるを見て笑う。
「だからくまさんが、つってんだろぉ?」
「うそぉ、ちがうもん、銀ちゃんぜったい、くまさんの話してないもん」
「じゃあなに。なんの話してんの。銀さんは誰がかわいいつってんの?」
「う…」
「あぁぁすげぇかわいい…たまんねぇ…。もうイク」
「うぅぅぅもうだめぇ…やめてようぅぅ…っ」

 指先爪先は言うに及ばず、銀時を迎え入れたあそこまで、大好きな声に撫でられるだけで身体は内側に搾られる。中がひくひくしてとまらない。
 密な間隔で迫る収縮と、それがもたらす快感にそのうち銀時も没頭した。それからはふたりの息遣いだけが互い違いに空気を震わす。



「なあ」
「ん…」
「あーんして」
「あー…あ、むっ…ん…」
 開いた唇へくらいつかれた。口の端からどちらのものとも知れない唾が伝い落ちる。

 隅に転げたくまさんの首が、やけにたそがれてそれを見ていた。









リクエストありがとうございました!
匿名様から「通常より砂糖5倍くらいの甘々な裏」でした。
砂糖5倍というよりもおばか5倍ですみません…