掴んだ手の中で何もかも消える。
 積み上げたものが失われる。
 「怖い」というのとは違う、ただただひどく虚しい思いに振り回されていた気がする。

 ただしどこまでも器用な銀さんは、真面目に絶望してしまう前に頭の隅で自覚していた。あーこりゃ夢だ。そのうち醒めるから気にすんな俺。
 残念ながらそうしおらしく自省などする男ではない。もしも悪夢というものが無意識の与える警句なのだとしたら、さぞかし忠告し甲斐のない相手だろう。

 それに万が一、本当に怖い夢を見たとしても。





「…銀ちゃん、銀ちゃん、起きて。大丈夫?」
 ゆさゆさと肩を揺さぶられ、意識がゆっくり浮き上がっていく。ほぼうつ伏せに近い横向きで丸くなっていたつもりなのに、ふと目を開けるとすぐ鼻先から大きな丸い目がこちらを見ている。自分がどちら向きに眠っていたのか一瞬わけがわからなくなった。
 かぶき町にある小さなだんご屋。ここはその奥の狭い部屋だ。本格的に布団まで敷いて、銀さんは優雅に昼寝をしていた。思ったとおりに胎児のポーズで。
 よく見てみればなんのことはない、傍らにひざをついたが上半身だけ布団へ突っ伏し、目線を全く同じ高さに銀さんを覗き込んでいるのだった。おかっぱ頭のよく似合う顔を、枕の横へぺたんと寝かせて。

「銀ちゃん?」
「…おう」
「よかったあ。うんうんうなってるんだもん。心配しちゃった」
 声が返るとはふにゃりとうれしそーに顔をゆるませた。花のほころぶ笑顔につられて銀さんの鼻の下まで伸びる。
 だらしなくニヤけた顔をしながら憂鬱で居続けることは難しい。たった今までざわついていた胸もすっかり穏やかにされた。
「へへ」
 銀さんはぬっと手を出すとを布団へ引きずり込んだ。
 渋々されるがままになる。だがすっぽりと抱きしめられれば案外簡単におとなしくなった。

 銀さんの胸へ顔をうずめさせる。すると銀さんの鼻面が、の頭のてっぺんへちょうど突っ込めて収まりがいい。
 ふんふん鼻をひくつかせると黒髪はしっとり湿っていて、ほんのり焦げた砂糖ではなく作り物っぽい花の香りがした。
「あれ?今何時よ。おめー仕事は?」
「なーに言ってんの。そんなのとっくに終わったよ」
 布団からの手先だけが出て、そこらへ放り出されていた携帯電話を探り当てた。銀さんの写真が待ちうけになった恥ずかしい画面の真ん中に、今の時刻が表示されている。仕事どころか夕飯もいつもならとっくに終えている時分だ。
 そういえば腕の中の身体は抱きしめていると温かく、ほっぺたもほかほかほてっている。
「銀ちゃんきもちよさそーに寝てたから、先にお風呂も行ってきちゃった」



「銀ちゃんごはんは?おなかすかないの?」
「あぁメシな。んー、うまいうまい」
 つるんつるんに磨いた頬に大きな口を開けて食いつくと、が呆れた顔をした。

 銀さんのその舌の上に苦味のようなものが広がる。
「おいおいお前。風呂上りになんか塗るんなら、もっと銀さんのお口に優しいイチゴ味かなんかのけしょーすいにしなさい」
「舐める前提の化粧水なんかあったらこわいわ銀ちゃんのばか」
 顔中べろべろ舐めまわすことをキスだと言い張る銀さんに、がぽかぽか反撃をした。

「そんでメシは?作りにいかねーの?」
「えっ?う、うん。…うん」
「なんだよ。銀さん力入れてねーよ?ほら、おめーの自由に出てっていーよ」
 言葉の通り銀さんはあっさり力を抜いていた。を抱いてはいるものの、その手はただ置かれているだけ。力は入れずにそっと抱きしめ、額へちゅっと口づけた。
「なに」

 すぐにも這い出すことができるのに、はなかなか動かない。
 しまいにぶーとくちびるをとがらせ、胸の中へごんと体当たりしてきた。
「なによう、わかってるんだから」
「なにが」
「ずるい、銀ちゃんずるいよもぉ…」
 分厚い身体に精一杯、の短い腕を回す。かろうじて届いた左右の手を組み、銀さんをぎゅっと締めつけた。
「ごはんはあとで。おふとん出ない」
「なんで」
「ここきもちいい…」
 …好き。

 の意味ありげな上目遣いが銀さんの目を捉えて見つめた。潤んだ瞳へなりにかなり頑張って色気を含ませ、声も一生懸命に艶めかしいのをささやいた。
「先にから、…食べていいよ」
「ぶはっ!」
「なんで笑うのーっ?!」





 だがお言葉に甘え遠慮なく、ふっくりつややかな唇に銀さんはぴたりと唇を重ねた。合わせる時も、離したあとも、じっとの目を見つめながら。
 恥ずかしがってが身を引いた。
「な、なあに…?そんなにじろじろ見ないで」
「食っていーんだろ?」
「うん、いいけど、でも」
 話が違うとでも言いたそう。

 の頬からあごの先へ、銀さんは指をすべらせた。その指先の動きもやはり目でしっかりとなぞりながら。
「知らねえ?目で味わうって言うだろ?よーく見ながら食ったほうが、何食うんでも美味くなんの」
 頬へむちゅうと吸いついて、唾で濡れたそこもまじまじと。は居心地悪くてしかたない。
「もうっ」
 銀さんを目隠ししようと手を出す。しかしなんなくその手は捕まり、爪まで視線の餌食にされた。
 ついでにがぶり。
「ひやっ?」
「んー」
 しゃぶしゃぶ。
「さすが風呂上り。あんま味がしねーな」
 銀さんはの素の甘さが好物なのに。
「や、もう…、銀ちゃんへんなことばっかりぃ…」
 よだれで濡れたの手は頭の横へ張りつけにされた。

 銀さんがの身体をまたいだ。布団がずるりとずれ落ちて、小さな体を隠すのは銀さんの影ばかりになる。
 からめた視線を決して逸らさず、唇はふたたび合わさった。
「ん」
「ん…ふ…」
 初めは触れるだけ。やがて深く。舌を差し入れ中で遊ばせる。一度離れてを見てみると、その目は薄く開かれている。人には「見るな」と言うくせに、もいつだってこうしてとろんと銀さんの行為を眺めているのだ。
 視線に気づきが目を伏せた。早々にその気になってしまっている自分がきまり悪そうに。
 やがて自由になった両手では蕩けそうな顔を覆った。顔を隠すのは禁止なのだが、銀さんも今だけはの好きにさせてやることにした。


「やだ、電気消して」
「だーめ。このまま」
「あっ…」
 の浴衣がはだけられる。手を離したのはこの為だ。少しでも肌を隠そうとよじれる身体を押し戻し、をまっすぐ横たわらせた。不服そうにこちらを見上げるものの、そのうち白い肌は火照り、せわしく肩で息をしはじめる。
 ただ見られているだけだというのに。
「ねえやだぁもう…、暗くしてよう…」
「いやでーす」
 帯をほどくと軽い浴衣地は身体をすべり落ちていく。最後に残った下着も剥ぎ取り、どちらも遠くへ放ってやった。

 煌々と白い明かりの下にの裸体が露わになる。
「手ぇどけな」
「や」
「はい、早くどける」
「や…」
 が逆らわないことは知ってる。にっこり余裕で銀さんは待った。

 恥ずかしい顔を覆っていた手は、やがてゆっくり身体の横へ。布団へ押しつける自分の力で、拳はぷるぷるわなないている。
 それでもせめてと閉じていた目が、ついに観念して開いたところで、銀さんはにんまり笑ってやった。
「はーい。そんじゃあ、いただきまーす」





 唇が音をたて離れた。
「んっ…」
 喉笛を痕がつくほど吸われてが大きく身を震わせる。獣には急所のはずなのに、歯を立てられても怯える風もない。にとってはその場所は、ちゅーしてもらうとぞくぞくする場所だ。
「ふわ…、あ…銀ちゃん…」
 こぼれる息はせつなげに細い。覆いかぶさる銀さんの重みを、苦しそうに、だが恍惚と、は悦んでいる。

 やがて銀さんの舌先は喉を伝って鎖骨から肩へ、虫の這ったような光る跡をつけた。
 そうして胸の丸みを頂上へ。ぴんと勃っても小粒な突起を飴玉のように含んで転がした。こりこりに硬くなるまでしゃぶり、指でも弄り、つまんで、こねた。
「うぅ…」
 ここを責められるとは不思議に困った顔をする。
「なんだ、ここ嫌い?」
 すぐさま首を振りはするけれども、眉は寄せられ、途方にくれたよう。
「ちがうの、へんなきもちになるの。あのね、さわられるのが、きもちわるいとか、きらいじゃなくて、とにかく、へんなの…」
「ふーん?はまんこいじられるほうが好きですってか」
「!」
 困った顔が火を噴いた。

 が、予想していた声はない。「ばっ!ばかっ!なんてこと言うのっ!」とか。
 耳から首まで赤くしながら、それでいては瞳にちらりと期待と興奮をよぎらせているのだ。
「…なんで笑ってるの銀ちゃん」
「え?笑ってる?」
「笑ってる」
 恨みがましくはなじるが、ここで真顔でいようというのはかなりな難行だと思う。


 ご期待に沿うて銀さんは、身体ごとうずくまるようにの下腹部へ顔を埋めた。しまりのない肉にぽよんぽよんと顔の弾むのが心地よかった。
「はふ、くすぐったい、やめて、やめて」
「ああ?」
 天パがくしゅくしゅ下腹をくすぐっていたらしい。はいやいやと眉をしかめた。淡い茂みに顔を突っ伏しても、言いようのない顔をした。
「好き嫌い言うんじゃありません」
 銀さんはを好き嫌いなく全部いただこうとしているのに。


 いよいよたどり着いたそこで、銀さんはぴったり閉じた足をつついた。
「ん」
 身体を起こしてをにらめば、感心なことにそれだけでおとなしく力が抜ける。
 その太ももに指先を食い込ますよう掴んで開いた。風呂上がりでどこも薄かった匂いも、ここからだけは濃く香った。
「うぅぅぅぅぅっ!」
 思いきり深呼吸したら、抗議のうなり声が来たけれど。

 さらに内側、ふっくらとした土手も押し広げて間近にじっくり作りを眺める。閉じていたひだが左右に割れて中心に濡れた秘裂が見えた。
「んーきれいきれい。まだまだぴんく色してるわ」
 人差し指でこちょこちょすると、上で息をするに合わせて下の口もぱくぱく開いて閉じた。
「もう、やだ、見ないで、もう見ないでようっ…」
「食べてっつったのは自分だろ?」
「た、食べてもいいけど、じろじろ見ないでっ」
「食うのはいいわけ?そんじゃ遠慮なく」
「…っ!」
 いきなりそこへむしゃぶりつかれてがぐるぐる目を回した。

 左右から指を添えよく開き、目の焦点がちゃんと合うようほどよい距離を保ちつつ、そこがだんだん水気をたたえて、次第にぱっくり開いていくのを穴の開くほど見つめてやる。
「まあ穴はもう開いてるわけだけども」
 最低のオヤジギャグはさておき。


「んっ、んふ、うう、銀ちゃん、ね、銀ちゃん…」
 やがて下腹がひくひく引きつり、の腰がうんと高く浮いた。入り口がゆるみ、きゅっと縮むたび、こぽりと透明な液が垂れた。まださらさらと粘りもない蜜だ。
 後ろへ流れていこうとするのを銀さんは唇をつけて吸った。
「んーうめ。もっと舐めさして」
「やっ、あやっ!あんっ、も、もうっ」
「お?ここか?ここいじると出てくんのかな?」
 とろみを塗り広げ、肉芽をこねる。かわいそうなほどにぶっくり腫れたそれを皮まで剥いて舐めた。顔を出した種を強めに押すと、の身体はびくびく跳ねた。
「痛い?」
「う、ううん、うっ、い、痛くない…」
「そっか」
 そんなはずはない。痛みさえも快感にしているだけだ。


 羞恥にこわばっていたは、あっという間に軟らかく溶けた。愛撫にうっとり身をまかせ、そこを銀さんに見せつけさえする。悪い薬でもきめられたように、ろれつのあやしい声を上げた。
「うにゃ、にゃぁん、銀しゃぁん、やらやら、もっとぉ…」
「もっと、何?」
「う…、もっと、食べて…」
「はぁいよろこんで」
 口の周りをびしょびしょにして銀さんが無心にしゃぶってやると
「はっ、あっ、ああっ、うん、うん、それ、それ、だぁいすきぃ…」
 爪先を伸ばし、髪を振り乱し、無防備には流された。このまま行かせてもらえることを微塵も疑っていない様子で、銀さんに身体をゆだねきって。
 もうあと少し、ほんの少しで頭の痺れる絶頂が待っている。

 ところがの昇りつく寸前、銀さんは不意に身体を離した。
「ふわっ…?!」



 昇るではなく落ちるではなく、の身体は行き場を失くした。絶頂間際で足をすくわれ、銀さんを見る目は怖い。
「やあぁっ、もう、ばか、ばかばか、銀ちゃんのいじわるっ」
「へへ、わりぃわりぃ、こうだっけ?」
 反省の色もないニヤケ面がすぐまたそこへ口をつけた。同じ高みへ昇りつめるのもすぐ。たちまちの声は裏返り、口にはうっすら笑みさえ浮かぶ。
「あ…、あっ、うん、うんっ…は…、、もう…っ!」
 それをすぐまた突き放された。
「ああああああんっ!」
 も今度は悲鳴まじりだ。
「もぉぉっ!ばか、ばか、ばかっ、きっ…」
「ん?き?『き』がなに?」

 だが口をついて出かけた言葉を、は飲み込み唇を噛んだ。
「うそ。好き…」
 不平たらたらの顔をしていても。


「わかったわかった。こっちきな」
 身体を起こすと銀さんは、あぐらをかいた膝を叩いた。驚くほどの勢いでが這い寄り首に抱きつく。頭を掴んで動けなくして、顔中にちゅっちゅと口づけた。
「いれていい?ね?もういいでしょ?ね?」
「ああ、その代わり自分でな」
「うん」
 むしろ自分でできるのがうれしそうにが銀さんの腰をまたいだ。

 それまでで遊んでいながら、どうやら銀さんを駆っていたのは毛色の違う欲求だったらしい。股間のものはまだ軟らかさを残したまま。それを必死でつまんで支えて、は自分の中に埋めた。
「う、うふ、えへへっ…」
 よろこんで開いた口はだがすぐ、心もとなさそうに閉じてしまった。
「なに」
「う…、だって…」
 銀さんの腕がを阻んで、底まで身体を沈めさせてくれない。
 一転、失望にくれる。ころころ変わる表情が銀さんはとても楽しそうだ。

 そうしてあくまで自分主導での身体を貫いてやる。
「んくぅっ…」
 やっとだ。奥まで入った。だがは腰を押さえつけられ、自由に動かすことができない。それはもどかしいことだろう。
「ひゅん、うゅん、うう、ねえ、ねぇ、うぅ、もうっ、ううううう…っ」
 焦れて卑猥に振れる腰。なんともあさましいその姿に銀さんはご満悦だった。

「なぁ笑って」
「む、無理ぃ…むりだよう…」
「そりゃそーか、はは、そりゃそーだな」
 頬をすり寄せ腰をなすりつける、なりふり構わぬが可愛い。
「うぅ、あと、ちょっと、ちょっと、なの…、さっきから、銀ちゃんが、とちゅうでやめるから、、もう、あたまおかしくなっちゃうぅ…っ」
「あらあらそりゃあ大変だ。そんじゃあ上手におねだりできたらのいいようにしてやるか」
「うんっ、んんっ、いきたいよぉ、いかせてぇ…っ」
「銀さんどうしてやればいい?」
「いいいいじわるぅっ、わかってるくせにっ」
「いやあごめんネ。わかんねぇ」
「んもぉっ!」


 どんと突き飛ばされてしまった。けたけた調子っ外れに笑ってのするまま倒れてやる。
 銀さんへ馬乗りになったは、まるで首でも絞めるかのように喉元近く手をついた。銀さんが目で許してやると、安心したように腰を振りだす。通路をこするのか、芯をつぶすのか、腹の上で身をうねらせた。
「はっ、あ、ああっ、あはっ、いい?、いっていい?」
「おう、イケ。銀さんによーく見えるよーにな」
「うん、うん、目で、、食べるのね」
「そーいうこと」

 が甲高い嬌声をあげ、それで銀さん自身が気づいた。中で自分も膨れている。
「あっ、すご…すごいよ、ぜんぜん、ちがう…、さっきまでと、ぜんぜん…、これ、好き、、好きぃ…っ」
「だから好き嫌い、言うんじゃ、ありま…せんっ!」
「んきゃっ!」
 腰を突き上げ叱りつける。びんびんだろーがふにゃふにゃだろーが、なんでもおいしく食えっつーの。
「いっ、いいっ、いうっんっ、んんっ、もう、あああああっ!だめぇぇっ!」

 破れそうなほど激しく突かれ、が何度目かにびくんとのけぞった。
 銀さんの喉へ食い込んだ指がふにゃりと力を失った。

 くったり倒れたを抱きしめ、ずっと遅れて銀さんは、弛緩した中へじわじわと漏らした。





 たとえ本当に怖い夢を見ても。
 そう、銀さんにはこれがある。という夢中で遊べるオモチャ。銀さん自身の身体と同じに、あるいはもっと好き勝手できるすぐれモノだ。

 の重みと体温と、今銀さんの頭にあるのは射精の後の気だるさと。
 寝起きに見ていた不快な夢などすっかりどうでもよくなっていた。

 心のどこかに燻ぶる不安が自分に対して警鐘を鳴らす…それが悪夢なのだとしたら、我ながらつくづく銀さんは忠告し甲斐のない男だ。








リクエストありがとうございました!
A様から「凄いプレイとかではなく、ただただ銀さんがねちっこい感じの…」
ねちっこくお送り…できてますでしょうか(> <)