一睡もした覚えはない。
 自分の足でここまで歩いてやってきたのは間違いない。

 けれどどうして今ここにこうしているのかわからない。なのに不安も疑問もないのが不思議なはずだが気にもならない。
 胸を満たすのはただひたすらな幸福感だ。わけもなく楽しくて幸せで、は今にも笑ってしまいそうだった。たとえるならお酒を飲んだ時の「ほろ酔い」気分に似ているかも。お酒を口に入れてから気分が悪くなってしまうまでの、飲めないにはほんのわずかしか与えられない幸福な時間。「お酒の神様の祝福」が、ずっと続いているような感じ。
 とはいえもちろんお酒だって、一滴も飲んだ覚えはない。

 ぱたーんと両手両足をは大きく伸ばしてみた。大の字になってみて初めて、自分が寝ていることに気づいた。その手触りから、これが自分の布団でないことも。
 ぴんとシワひとつなく張られたシーツ。寝返りをうつと体が弾む。スプリングのきいたベッドの上だ。
 体が軽くて楽だと思ったら着物どころか襦袢も脱いでいた。丈はひざまでのさらしの肌着。むきだしのふくらはぎにシーツが触れて、その感触がさらさらと心地良かった。
 広い室内は足元のランプで淡く柔らかに照らされている。ベッドのほかに窓辺にはソファ、磨きこまれたサイドボードに小ぶりな絵画と置き時計の飾り。シンプルながら選び抜かれた調度だ。

 ふわぁ、と感嘆のためいきが漏れた。なんてすてきなお部屋だろう。初めてのような気がしないけど、家族旅行で泊まったことでもあったかな。
 分厚い織りのカーテンは開けっ放しにされていて、真っ暗な空に浮かぶお月様が寝転ぶからも見てとれる。ビルもネオンも、宇宙船の誘導灯もない夜はひさしぶりだった。

 ごろんごろんとはベッドの端から端へ寝返りをうった。右の端から左の端までぱったんぱったん3回転半。往復して真ん中に戻ってくると無性に可笑しくなってきた。
 抱いた枕に顔を伏せ、はこみあがる笑いを押し殺した。


 やがてほのかな明かりの一部が白く四角く切り取られた。遠くで開いた浴室のドアから、こちらは機能性一点張りに煌々と明るい照明が漏れたのだ。
「お?起きてんの?」
 うわぁ銀ちゃんだぁ。銀ちゃんだぁ。大好きな人の姿を見つけてはまたしても楽しくなった。腰にタオルを巻いただけのお風呂上がりらしい銀ちゃんは、身体の周りにまだほかほかの湯気をまとわりつかせている。ろくに拭かずに出て来るものだから、歩いた跡がびしょびしょだ。
 びしょ濡れのままベッドへよじのぼり、きしきしうるさく軋ませながら銀ちゃんはそばへにじり寄ってきた。
「もしもーし。ちゃん起きてますか〜?」
 つんつん、ほっぺたをつつかれる。は「起きてるよ」と言いたかったのに、最初に出た声はひどく間延びしてろれつもまわっていなかった。
「おきてぅよぉぉ」

 下からぎゅうっと抱きつくと、温かな湿り気が肌着を濡らす。
 ふんわりただよういい香り。くんくんとは鼻を鳴らした。
「んふふ、いいにおい」
 濡れた身体から、髪からも、澄みきった花の香りがした。

「あ?ニオイ?これか?今使ったせっけんか?」
 銀ちゃんは少し慌てた顔で、自分の身体をくんくん嗅いだ。
 髪もせっけんで洗ったのかこの男。そんなんだからくしゃくしゃなんだよ。
「あのねぇ、ねぇ、このにおい知ってる。知ってるよう?あのねぇ、なんだったっけー?」
「なんだァ?さん今日はごきげんですなァ」
 「ですなァ」ってなんだよ。
 「ですなァ」ってなんだよ。
 なんで今2回も言ったんだよ!

 ダメだもうがまんできない。くすっとひとたびこぼれると、笑い声はころころ止まらなくなった。
 銀ちゃんはそんなを抱きしめ、ごろんとベッドへ横になった。



「お前風呂は?」
「うん」
 そうは言ったものの、この快適な腕の中から出るのはもったいない気がして、は投げ出した足をぱたぱたシーツの海でバタ足させた。
「もういーや」
 一日涼しい場所にいたからあんまり汗もかいていない。
「ん?」
 そうなの?

 自分の思ったことで気づかされる。は涼しいところにいたのか。
 そういえば朝からどうしていたのかも記憶にない。朝だけじゃない、昨日のこともその前のことも。今のこと以外わからない。
 少し落ち着いて思い出してみようといったん目を閉じてみたけれど、銀ちゃんのおかげで気が逸れた。
「ふぁ…?」
 おでこにちゅうっとされていた。

 ほんのちょっとだけ照れくさかった。べろをつっこまれるキスと違って、これではまるで犬か猫のように可愛がられているみたいじゃないか。
 上目使いにうかがうと、何も言わなくとも雄弁な瞳が愉快そうにを見つめていた。
「じゃ、銀さんが代わりにきれーにしてやろか」
「どーやって?」
「こう」
 ぺろりとほっぺたを舐められた。

 ほっぺたの次は鼻の頭、あごの先、のどを伝って胸元へ。肌着をはだけて鎖骨のあたりへ、這い回る舌がくすぐったかった。
「ほい、きれいきれい」
 ほんとにけものの毛づくろいのよう。
 だったらもお返ししなくちゃ。そう思って銀ちゃんの頭をつかむと、濡れたてっぺんをぺたぺた舐めた。
「なに、お前もしてくれんの」
「うん。銀ちゃんも、きれいきれい」
「いいよ銀さんは。俺ァ今風呂入ってきたとこだもん」
 それもそーだ。

「はぁい、そんじゃあお手々あげてー」
 そして両腕を上げさせると、銀ちゃんは大きく脇まで開いた袖口から嬉々として中を覗きこみ
「ふはは横チチ、横チチ!」
 バカみたい。


 それでもは少しも抵抗しなかった。銀ちゃんに身をまかせきり。
「いいよぉ銀ちゃん、きれーにして」
 どうぞ気がすむまでぞんぶんに。
 「抵抗しない」というよりも、「抵抗がない」というのが正しい。
 銀ちゃんがきれーにしやすいように肌着のひもを自分でといた。あらわになったお腹を舐めながら「よーしよーし良い子」とほめられて、鼻高々なくらいだった。





 そのうち銀ちゃんはもぞもぞとの下のほうへ移動した。太もももひざも通り越し、なんと足先にうずくまる。身を竦ませる隙も与えず、の足首を堅くつかむとつま先をぱっくり口に含んだ。
「ふわあっ?!」
「ぅあ?」
 足の親指をくわえたまま、銀ちゃんがきょとんとを見返した。
「銀ちゃん、銀ちゃん、銀ちゃん、それは…」
「ん?くすぐったい?」
「そうじゃなくて…」
「だって今日汚れたのってここぐらいじゃね」
 それまでなぞる程度だった舌にじゃりじゃりとやや力がこもる。素足に下駄を履く足は今日もきっとほこりまみれだろうし、ほかより皮も丈夫で硬い。お手入れだって行き届いていたかどうか。
 それを銀ちゃんはふやけるほど丹念にねぶりつくしていた。指の一本一本がアイスキャンデーかなにかのように。指の間へも順に舌を差し入れ、終わると次はかかとを舐める。
「う、うわ、うわぁ、そんなの、うわぁ」
 まるで自分が暴君のようなこの状況がいたたまれなくて、はつかまれた足を支点に身体をひねってうつ伏せになった。
 早く銀ちゃんの気が済みますように。ぎゅっと縮こまり嵐の去るのを祈る思いでいたけれど、
 そんなことしなければよかった。


 確かにの両足を心ゆくまでべったべたにすると、銀ちゃんの興味は別の場所に移った。
「あとはぁ、そうだなァ」
「え、なに…なに…、えっ…?」
 すでに肌着は腰までまくれあがっていた。お尻が丸見えだと気づいても、あわあわ泡をふくばかり。逃げだそうにも銀ちゃんの腕がすでにの腰を抱きかかえていた。

 たぷたぷのやわらかい肉に、かぷりと甘く歯がたてられた。
「ううぅぅ…」
 ぎゅっと目を閉じ、さっきしていたのと同じように恥ずかしいのをがまんする。どれだけぺろぺろされたってこんなとこ気持ちよくなんかないのに。
 水の中の生き物に似た感触が、徐々に中心へ這っているような気はしていた。けれどその先を予想すらしなかったのは、やはり頭がぼーっとしていたからだろう。


 肉付きの良い両のふくらみが、むにっと指で開かれた。
 やっと銀ちゃんの意図を理解してさすがに抵抗したが遅い。それにふりほどける力もない。
「はわわわっ?!はわっ、そ、そんなとこきたない、きたないよう、やだやだ、やだぁ、やめてっ、やめてっ」
「へーきへーき」
 奥の奥のすぼまりに舌が這わされた。
「!!!!!」

 はとっさに声も出ない。いやいやと頭を振るのがやっと。
 無言で、けれど力いっぱいもがいた。悪寒が背中を粟立たせた。してはいけないことをさせている、胸がざわめき気持ち悪くなった。
 なのに銀ちゃんのすることはがいやがれば嫌がるほど度を越す。穴の中へ舌を突っ込まれ、悲鳴をあげたをけたけた笑った。
「だめぇ、そこっ、そこはだめ、だめだめ、おねがい、おねがい、やめてっ、なんでもする、なんでもするからっ」
「なんでも?そんじゃしばらくおとなしくしてな」
「ひ…っ」
 ぴちゃぴちゃ舌先をなすりつけられ、そのたび身体が縮みあがる。滴るよだれがひとすじ流れて別の場所まで濡らしていった。


 暴れる気力もそのうち尽きた。銀ちゃんがをいたぶるかたわらずっと優しく声をかけてくれるから。「よしよし、へーきへーき。かわいいかわいい」
 甘いその声は何を口にしても呪文のように、からまともな思考を奪う。
「かわいくなんか…、そこ、だめ…、それはだめぇ…」
「なんで?足の裏だって銀さん舐めたろ?」
「う…うん…」
「足の裏舐めていいならケツの穴だっていいじゃねーか」
「で、でも…」
「なに、銀さんがしてぇってことにお前逆らうの」

 声の調子がかすかに険しくなったので、はあわてて首を振った。
「さからうとか、ちがう、ちがうよ、ちがう」
「へぇ、逆らうの。銀さんなんかに大事なトコ舐められんのヤだってこと?あっそ、銀さん嫌いってことか」
「ちがうぅ、ちがうよう」
「じゃもっとケツ上げな。よーく見せて」
「そんな…、そんなっ…むり…」
「あっそ」
「いやあぁぁん!ちがうぅ!すき、すき、銀ちゃんすき!」
「じゃ言ってみ。『のおしりの穴舐めてください』って。銀さんがもっと舐めやすいよーに自分で広げてみせんだよ」
「ううっ…?う…?うううう…?」
 なんでこんなことに?



 結局言うとおりにさせられた。

 心の大事な部分を折られて、ようやく解放されたというのにはぐんにゃりボロきれと化していた。もうなにもかもどうでもいい。
 力の抜けてしまった身体を裏返されてもなすがまま。両足を大きく広げられ、そこをまじまじ観察されても。
 だっておしりの穴までなめられちゃったのだ。いまさらなにをどうされたって。
「あーダメだこりゃ。べとべとじゃねーか。こっちもきれーにしてやんなきゃなァ」
 張り上げる声の震わす空気が、感じられるほど唇は近い。すっかり力尽きていたはずのが、細かにおののき息を吹き返した。


 だが待っても待ってもなにもない。
 気がつくと銀ちゃんは身体を起こしての様子をうかがっていた。
「どうして?…しないの?」
「あぁん?なんだよさっきはやめろやめろって泣いたくせによぉ。ここはいーのかよ」

 それとこれとはちがうもの。銀ちゃんがここを舐めるのはいつものことだし、きもちいいからも好き。
「うん。いいよ。して」
「なにを」
「なにって…」

 でも、正直に言うのにためらいはなかった。もっと恥ずかしいことをたった今されたばかり。あれにくらべれば。
 は両足を広げると、突き上げ気味にそこを見せた。
「ここ」
「なに」
「…なめて」
「どこを」
「だからぁ…」
「どこよ。ちゃーんと教えてくんねぇと」
「ここぉ…」
 自分の指で、望みを示す。大切な場所はかるく撫でただけで鳥肌がたつほど敏感になっていた。
「ふうん?そこ?」
「うん…」
 縦になぞる指が止まらなかった。ひくひく痙攣しはじめるを銀ちゃんは止めもせず眺めていた。

「薬がよーく効いてんなァ」
「おくすり?なんのおくすり飲んだの?」
「ううん?なんでもね。こっちのハナシ」
 濡れたの指をとりあげて、代わりに銀ちゃんがしてくれる。
 もものつけねを乱暴にわしづかみにされどきどきした。ちゅっと中心にキスされた。はむはむとくらいつく口の中で、舌は肉芽を探っていた。
「あ…ん、は…ふ…うんっ…」
 もじもじとはシーツを蹴った。
「きもちいい?」
「うん…、うん…、いい…、すごく…」
 唇を離した銀ちゃんは指でぱっくりひだを広げた。片手が奥まで暴いたそこを、反対の手がこねまわした。こんこんと湧くとろみはかきだされ、花びらの上端にぽっちり息づく花芯に目一杯塗りたくられた。

 はふ、とは熱い息を逃した。
 ぽちぽちとボタンが押し続けられる。規則正しく単純な刺激に自然とが歩み寄った。少しでも自分が良くなれるように、角度を変えてそこを差し出した。
「あ…っ、あ、あは…っ、ああん、銀ちゃん、銀ちゃん、もう…」
「ん?もう?」
 の声が高くなるにつれ、舌と指の仕打ちも激しくなった。皮をひっぱり剥いた種をちゅーっときつく吸い上げる。
 ゆるやかな坂をまっしぐらに、昇っていくような落ちていくような。ただ、頭はふわふわ糸の切れた風船のよう。どこか遠くへ飛ばされる。
「は…っ!うっ、う、ううっ、うっ…」
 うあんっ!と子犬の鳴く声が出た。
 きゅーっとつま先までひきつらせ、は最初の頂点へ達した。


 すは、すは、短く浅い息が半開きの口から休みなく漏れていた。
「まだまだ全然イけんだろ?」
 銀ちゃんは顔もあげようとしない。達した瞬間にたっぷりこぼれた濃い味の蜜をおいしそうに吸った。唇をつけてずずずっと。その刺激がをもう一度追い立てるのを重々承知してのことだ。
「ああんっ!ふあんっ!…、、だめ、だめ、そこ…っ、ああん、いく、いく、いくっ、いくのっ」
 少しの休憩も許されず、次の絶頂へ追いやられる。そのうえ今度は
「だめ、止まんない…」
「おっ?まだいいの?」
 こくこく、小さく何度もうなずき、シーツに爪をたて掴んだ。かと思うとその手は顔を覆い、次の瞬間髪をかきむしっていた。
「うっ、う、う、う、だ、だめ、だめだめだめっ、いけちゃう、いけちゃうの、なんか、へんなの、へん、へん、どうしようっ…」

 ひやりと冷たい感触に腰から下が竦みあがった。
 そこにはとろりとしたものが、上から一滴垂らされていた。銀ちゃんが床へぽいと何かを放り捨てているところが見えた。
 より濃厚な液体が、剥き出しにされていっそ痛々しい粒へと浸透していった。銀ちゃんがさらにそれを指の腹でぐりぐりとよく擦り込んだ。最初は冷たく感じていたのに、次第にじんじん熱くなる。かゆいような、ひりひりするような。
 もっともっとと銀ちゃんの指をねだってしまって恥ずかしかった。
「クスリのせーだろ」
「そ、そか、そっか…、そ、そだね…」
 おくすりのせいじゃしょーがない。

「ん、言ってみな。どうされたい?銀さんにどうされんのがイイ?」
「あっ、あ、あはっ、はっ…、そ、そこ…」
「そこじゃわかりませーん」
「うぅっ、い、いじわるぅ…」
「はっきり言わなきゃダーメ。これなんてゆーのか知ってんだろ?銀さんにいじくられてでっかくなってんの、これのなに」

 は大きくはっきり答えた。
 きっとこれだっておくすりのせい。それから銀ちゃんがヘンなことをして、のりせいを折ってくれたせい。
 だからこんなのどうってことない。

「クリトリスぅ…、の、それっ、痛くして、いっぱい、つぶして、むちゃして」
「こう?」
 ぐり!と望み通りにされた。
「きゅううううっ!」

「もっとぉ!それ、もっとして、もっと、あぁんっ!あっ、ああっ!銀ちゃぁんっ!」
 なりふりかまわず腰を突き出した。きもちいいところをなめてなめてと、何にもくるまず素直に欲しがった。
 銀ちゃんの目に女の子の部分をさらけだす。
 とてつもなくはしたない格好が、なぜだかとてもすがすがしい。禁忌をおかす心地良さなのか。その一線を踏み越えるたび、快感に甘美な彩りが注した。

「あ…、見て、見てね、の、いくとこ、う…、いくの、いくのみててっ…」
「ああ見ててやるよ。つか実況してやんよ。の恥ずかしートコ」
「んっ!」
 びく、びく、びく。銀ちゃんの声に身体が高ぶる。
「うお、ひくひくしてるわ。自分でわかる?」
「わかん、ない、そんなの、そんなの、そんなのっ」
 は夢中でかぶりを振った。
「穴のとこな、開いたり閉じたり、ぱくぱくしてんの。そっか、そーだよな。お前ホントはここにぶっといの突っ込まれるのが好きだもんな」
「い、いわ、言わなくていーよぉ…」

 銀ちゃんの声がの頭に突き刺さしていく鋭い刺激。次から次へどくんどくんと背骨を突き抜けていく電流。
 身体中の感覚がひとつのこらず子宮に収束し、濃縮されていく。
「ふっ、う、うっ、、だめ、いく、いくいく、いっちゃう、見て、見てね、見て、見て、あ、ああああんっ!」

 ぱんと白く染まる頭の中。それまでのものが偽物に思える精製された絶頂だった。
 頭の先から足の爪までベッドの上で全身がのたうち、やがてぴくりとも動かなくなった。


「おおおおすげぇ、これおもらしした?中からいっぱい漏れてきてんぞ。じょじょじょーって」
 ちがうちがう。おもらしなんかしてない。
 けれど弛緩しきったそこからは、とどめきれなくなった粘液があふれてシーツにしみをつくっていた。

 恥ずかしくて足を閉じようとして、は銀ちゃんの頭ごと思いきり挟んでしまった。
「いでっ!」











 いつからかは、真上で一心に腰を振る銀ちゃんの顔をぼんやり見ていた。
 はっはっ、と荒い息づかい。自分の口からも同じ間隔でかすれた声が吐き出されるのを、ひとごとのように遠く感じる。

 けれどそのとき、なぜか突然。いまだふわふわたゆたう身体と別物のように切り離されて、すうぅぅぅっと頭の中だけが急激に冴えわたってきた。

「………え?」
 この高そうな部屋はなに?
 近所によくあるラブホとは違う、びじねすユースの安宿でもない。
 どうしてはこんな所に?

 そしてを抱く銀ちゃんの苦しげに眉を寄せる顔。同じ表情を昨夜も見た。ここよりずっとずっとずっと狭い、山積みにされた布団の谷間…民宿の布団部屋の隅で。



 ぱぁぁっと頭の霧が晴れ、数百コマもの静止画が一瞬のうちに再生された。
 昨日遊んだ海。寄せる白波。派手なパラソルと珊瑚色の水着。
 おいしいごはん。親切なおばちゃん。
 自分のせいで帰れなくなったのに、なのに反省の色もない誰かさん。「へぇぇ。一畳ちょっとありゃァふたりじゅーぶん泊まれんだなァ」

 そして次の日、つまり今日。
 朝一番に飛び乗った電車。昼には帰り着けるはずだから、はそれからでも店を開けるつもりだった。


 ところが一息ついた座席で銀ちゃんのくれたお茶を飲んでからだ。
 記憶は確かに残っているのに、脳裏に残る画像はそこから急に輪郭をあやふやにした。


 電車を降りたのは日暮れも間近だった。
 四方に迫る山。背の低い古ぼけた街並み。耳に入るのは聞きなれない訛り。

 白いもやのかかったような目で、けれどもははっきり思い出した。
 隣で銀ちゃんがつぶやくところ。

『しょーがねぇよな?だぁぁぁってお前、銀さんがもう一泊したいっつっても絶対ダメって言うしィ』



 うっ、と重々しいうめきを最後に、銀ちゃんが崩れ落ちてきた。
 いつもなら幸せを感じるはずの、ぐったり力尽きた身体。
 それをがばっとはねのけて、は飛び起きた。

「ここどこよぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!」











リクエストありがとうございました!
P様から「ヒロインちゃんをいつも以上に執拗にいやらしーくいじめまくる銀ちゃん」でした。
「具体的には、挿入の前に指と舌だけでヒロインちゃんのクリ○リスをとにかく長く、ひたすらじっくりじっくり攻める愛撫で
しつこいくらいに何回もいかせる、というのが希望です」
ね?ね?そういうリクエストだったんですったらー