愛されてるのはわかってる。
 だとしたら、その「され方」が自分の望む形でなくとも、文句を言う権利はないのか。
 こんな時は考えてしまう。


 窓辺から射す朝の日は部屋をくまなく明るくしている。今日も絶好の行楽日和だ。
 それなのにもう何十分も、はベッドへ泣き伏していた。
「えっ、うえっ、えっ…、うっ、ううっ、うっ…」
 糊のききすぎたごわごわのシーツは文字通り涙に濡れていて、それでもの大きな目からは次から次から滴があふれる。痙攣続きの胸は熱をもち、嗚咽と交代で恨み言がこみあげた。
イヤだって、ほんとに、ほんとに、どうしても、ぜったい、そこだけはイヤって…、やめてって、本気で…」

 無理に開かれくだらない遊びを尽くされた場所が、ずきずき鈍く疼いていた。今も中には何かが入っている気がする。挿入された時の圧迫感は前とはくらべものにならなくて、猛烈にせり上げた吐き気の名残がいつまでも消えてくれなかった。
 なによりも、心の底から哀願したのを無下にあしらわれる絶望ときたら。

 ここへ来るときも銀ちゃんは、おそらく嫌がるであろうを口で説得する手間を惜しみ、当て身をくらわせ気絶したところを有無を言わさず運び込んだのだ。「だあぁぁぁぁぁってお前、銀さんがもう一泊しようっつってもどーせ聞いちゃァくれねーじゃあん?」
 鬼か。



「もーお前いつまで泣いてんの。そんだけ泣きゃあいいかげん気も済んだろ」
 銀ちゃんはなおも泣きじゃくるをぬいぐるみのように抱きしめた。が嫌がり背を向けるのを、かまわず後ろから包むように添い寝る。けれどその声からは、そろそろの泣きべそに辟易しているのがうかがえた。いつのまにやらがわがままで困らせているようなことにされている。
 確かにこうも泣き続けるのは無言の抗議にほかならないが、この様子ではいくら粘っても銀ちゃんは堪えそうにない。それどころか逆ギレして怒られそう。

 しかたないここらが潮時か。
 自分は少しも悪くないのにそんな計算をしてしまうことを、は情けなく思いながらも渋々寝返りをうった。


「なによお前泣くほどヤだったわけ?そりゃ悪かったよ」
「………」
 横からは腕に、上からもあごで重しをされる。銀ちゃんにまるっとくるまれた格好だ。思った通り反省の色もない居直り同様の謝罪だったが、繭のようなこの温かさには不本意ながら和んでしまった。
 ぐずつきながら顔をあげると泣きはらしたまぶたはぼってり重たく、目は半分も開けられない。まるで数字の「3」のようだと銀ちゃんはげらげら高笑いした。
「ひどいぃ…」

 銀ちゃんは少しも悪びれない。今を指して笑ったことも、起き抜けに乱暴したことも。
、あれだけは、ほんとにイヤって…、本気でやめてって言ったのに…」
「そうかそうかそりゃあかわいそうに。泣かすなんざひでぇ野郎だ」
 いけしゃあしゃあとひとごとのように。

「けど銀さんはが泣いてもわめいても、どーしてもしたかったんだよなァ。の『初めて』が欲しくってェ。ほんっとどーしてもヤりたかったんだわ。それでもおめーはヤだって怒んの?」
 の初めてなんかもうとっくにうさぎのしっぽに奪われてるよ!
 思ったけれど言えなかった。
 思いのほか優しく言い聞かされて、気づくと口元は弛みかけていた。
 銀ちゃんに求められてしまったら。

 がほだされつつあることを銀ちゃんはめざとく察知して、ちゅっと髪の中へ口づけた。
「まだハラ立つ?」
「………」
「もうアレか。銀さんキライになったか」
 ずるい。またそれを言う。は無言で首を振った。
「ん?なに?キライ?」
「………好き」
「銀さんが悪かった?」
「…わるくない」
 宿の寝間着を大きくはだけた銀ちゃんの素の胸板に、はむにゅーっと顔を押し付けた。
「悪くないよ、銀ちゃんは悪くないの、いいの、銀ちゃん大好きだよっ」
 口にしたとたん本当にそんな気になるのがいつも不思議だ。



 だが銀ちゃんの腕からもあきらかに緊張が解けていた。これでもを泣かしたことを本当は気にしていたらしい。
「お、そーだ駅前に良さそうな店があったわ。浴衣でも買って着替えるか。おめーもこの暑いのにいくら冷房きいてるからって毎日おんなじ着物はヤだろ」
 声は少しだけうわずって、まっすぐを見ようとはしない。らしくもない下手くそなご機嫌取りが、とても可愛くて笑ってしまった。

 まんまと機嫌をとられたわけだが、それならそれでもかまわなかった。
 が銀ちゃんのやることに、しのごの異議をとなえるなんて、やはり贅沢なことなのだ。
 愛されてるのはわかってる。
 だとしたらそれがどんな形であれ、喜びに換える努力をしなくちゃ。
 いわゆる「惚れた弱み」ってやつ。
 え?違う?


「そうときまりゃー行こ行こ!かわいいおべべに着替えて帰ろ!早く支度しな。チェックアウトすんぞ」
 そう言うと銀ちゃんは部屋に作りつけのクローゼット…の天井板を一枚ずらし、うんと手を伸ばして奥のほうから紙袋をひとつ引っ張りだした。中身はの着物と下駄。
 念の入ったことにこの男は、が勝手に部屋を出ないよう、着物も履き物も隠していたのだ。
 今また「着替え」なんて言われては警戒してしまったが、銀ちゃんの口から帰る話が出てひとまず胸をなでおろした。





 がロビーへ降りた時には一足先に銀ちゃんが支払いを済ませてくれていた。
 家を飛び出してかれこれ4日目。移動も宿も、お金はぜんぶ銀ちゃんのお財布から出ている。パチンコに少々勝ったくらいでまかなえる額か不安だったけれど、ここは昨日の宿よりもだいぶそっけないホテルだし、部屋も中途半端に狭かった。きっと格安プランなのだと無理にも思っておくことにした。

「行くか」
「うん」
「違う違うそっちじゃねぇ」
「?」
 正面玄関へ向かいかけたのを、襟首をつまみ止められた。
 フロント脇の階段を抜け、連れて行かれたのは地下駐車場だ。片隅の二輪置き場から、銀ちゃんは自分が乗っているものとおんなじ型のスクーターを見つけた。
「おうこれだこれだ」
「なにそれ。どうするの?」
「レンタルだよ」
「レンタル?」
「そ。おめーは寝てたから知らねぇだろーけど、駅までけっこう距離あるんだわ。送迎バスがホントはあるんだけど、さっき出ちまったばっかりなんだってよ。そしたら今フロントにいた兄ちゃんが、コレどーぞって言ってくれてぇ、駅前の案内所に乗り捨ててくれればいいっつってぇ」

「レンタルぅ?」
 息もつかせぬ説明的なせりふが怪しい。
 それとなくバイクを見てみたが、コード類が違法に連結されている様子はなかった。だが銀ちゃんが取り出したエリザベスさんのキーホルダーには、いくつもの鍵がじゃらじゃらと…。
「…ねぇほんとにレンタルなの?一緒についてんのそれアパートの鍵かなんかじゃないの?」
「んなわけねーだろバカ。んだよ疑り深いなー!出るとこ出てもいいんだよ?フロント戻って聞いてみるか?連れが泥棒してませんかって聞いてみるか?いいよ?恥かくのはどっちだろね!」
「い、いいよ。いいよごめんが悪かったよ」
「おら行くぞっ!」
 乱暴にかぶされたヘルメットは、頭をぽかりとされるようだった。








 外へ出てみるとそのホテルは、景観的に自然保護的に大丈夫かと心配になるような砂浜のきわに堂々と建っていた。
 対岸はそれほど遠くないから、海ではなくて湖だろうか。向こう岸にはこちらと違い建物がみっしり密集していて背の高いビルもいくつかあった。
 たちの部屋は違ったけれど、水辺に窓の向いた部屋からはさぞかしきれいな夜景が見れるのだろう。

 晴れているのにもやのかかった淡い水色の空の下。少し走ればなにもない田舎道になった。左右のひらけただだっぴろい空き地へ、それだけはやけに立派な道路が敷かれている。ときおりぽつぽつ遠くの方には真新しい一軒家が見えた。
 開発に失敗した別荘地だろうか。歩く人はもちろん、どれだけ走っても対向車の一台にも行きあわない。
 は嫌いなさびれた場所だがそれほど寂しく思わないのは、きっと銀ちゃんと一緒だからだ。

 二人乗りならも慣れたもの。銀ちゃんの腰へ腕を回し、背中へぴたりと身体を預けた。



 ほとんど変化のない道を10分も走り続けた頃だ。銀ちゃんが声を張り上げた。そうでもしないと話せない。
「そーいやこのバイクだけどさァ!」
「うん!?どーしたの?!」
「レンタルっつったけどもちろんウソだから!」

「……………………はい?」
 バイクはなだらかな丘を頂上へ走り続けていた。うぃぃぃぃぃぃ…とエンジンが甲高いうなりをあげていた。

「実は銀さんお前が来る前に駐車場ふらふらしてたらさァ!ちょうどホテルのバイトらしいのがコレで出勤してきたってわけ!」
 すれちがいざまその男に、うっかりぶつかってしまったら。
「あーら不思議!手の中に鍵が!」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「そいつの仕事終わりまではバレねぇと思うんだけどォ!そのあとどうすっかなァ。ま、その頃にゃ俺たちこの町出てるかァ!だったらいいかァ!」
「いいわけないでしょお?!すぐ!すぐに引き返すのよ銀ちゃん!すぐ返すんだよ!もとあったとこにバイク置いて、拾ったとかなんとかてきとーに言って、フロントに鍵届けるんだよっ!」
「ええ〜?ここまで走ってきたのにぃ〜?めんどくせーなーもういいじゃーん。そのまま帰ろうぜぇぇぇ」
「銀ちゃんんんんんっ!」

「えぇぇマジで?マジでホテルまで帰んのぉ?また引き返すのめんどくせーなー。マジでけっこう距離あんだよなー。わざわざホテルに帰るんなら、銀さんもう一泊していきてーなー。万事屋銀ちゃんの夏休み〜ってなー。
 でもはイヤって言うんだろーなー。
 冷てぇよなー。
 絶対イヤって言うんだろーなー。
 ふたこと目には仕事が仕事がってさァ」

 銀ちゃんは全力でアクセルを握りこんだ。 
「アタシと仕事とどっちが大事なのよっ!」

 急加速された反動での首がこきんと後ろへ折れた。「ふぎゃっ?!」危うく舌をかむところだった。
 倍の速さで景色が流れていく。ものの輪郭は流れ崩れてにはぼやけたきみどりしか見えない。
「スピード出過ぎ!出し過ぎ!銀ちゃん!止めて!止めて!わかった!泊まろう!違う『止まる』じゃなくて『泊まる』!しゅくはく!もう一泊!お願い!」
 風切り音に負けないようにはお腹から声をふりしぼった。
銀ちゃんともっと旅行したいっ!!」
「マジでか!」

 銀ちゃんはめちゃくちゃ晴れやかな笑顔で、腰からひねってを振り返った。
「いやあぁぁぁぁお願い前見て前ぇぇぇぇ!!」
 なおも速度は増す、なのに銀ちゃんはいまや片手運転。の目はあわてふためきぐるぐる。
「銀ちゃん前!前前前ぇっ!」
 もはや速度計も振り切って、ゆるいカーブが曲がりきれない。たがの外れた原付バイクは一直線に空へと飛んだ。
「きゃああああああああああっ!」



 ふわーっと身体が浮かんでいた。
 恐怖には堅く目を閉じる。
 抱えてくれる腕を信じていた。銀ちゃんがに怪我などさせるはずのないことはわかっていた。
 でも、
 だからって!









 草むらへ引っくり返ったタイヤが、空しくからから回っていた。
 そのすぐそばへ銀ちゃんも仰向けになって倒れていた。自分の身体をクッション代わりに、お腹の上へを抱いて。
 ごろりと世界の回る感覚。銀ちゃんが寝返りをうって、を草の上へそっと下ろしてくれた。

 どこへ飛ばされたかヘルメットがない。痛いところはなかったけれど離されるのが心細くて、今も震えの止まらない指を銀ちゃんの指にからませる。
 まだ目が回る。息がきれている。かつてないほど心臓はばくばく。おかげで草と土の上に直接寝かされていることも気にするどころではなかった。手入れされた芝ならカーペットだが、丈のばらばらなここの草は、いかにも雑然としている。緑にさわさわ頬をくすぐられたら、いつもなら飛び起きているところだ。

 は大きく深呼吸してまっすぐ前へ目をこらした。ベールのように広がる雲がもどかしいほどゆっくりと姿かたちを変えていく。
 どこからかぴるぴると鳥の声。風が細い葉を揺らす音。
 心臓の音がやっと静まると、耳を澄ましても聞こえるのはたったそれだけになった。


 やがて視界に影がさし、いたずらっぽいで済ますには邪悪な笑顔が現れた。
「銀ちゃん…」
 逆光で暗くかげった顔がゆっくりとへ降りてくる。避けるつもりはなかったけれど、無意識にした身じろぎができずに、それで自分の両肩が押さえつけられているのに気づいた。
 身動きできない唇が奪われ、その奥へ舌が挿しこまれる。
 はじめは茫然自失していておとなしく応えていただが、だんだん正気が戻るにつれて鈍い動作でもがき始めた。
「やん、だめ、だめだよ銀ちゃん、誰か来たら…」
 いくらひと気がないといってもどんと開けた野っ原だ。そこにバイクもひっくり返っている。誰が見つけて見に来ないとも限らない。

 ところが銀ちゃんはが嫌がるのを待っていたように、にんまり口の端を吊り上げた。
「なぁ、このままここでヤってみねぇ?」
「ばっ…!!」


「ちょっ、いやっ、やだ、もうっ」
 もぞもぞ、ごそごそ、がさがさと、虫のように這いずりからみあうふたり。草の汁で汚れるのもかまわず、は懸命に身をよじった。もちろんどこをどれだけひねっても、ばたつかせても蹴ってもぶっても、銀ちゃんの下から逃げられはしない。
 着物の裾がはだけられた。吹き抜けた風に膝が撫でられ、そして感じた日差しの直撃がはそらおそろしくなった。基本長着で暮らしているから手首足首顔より内側を日にさらすなんてことはない。
「なあ、どんな気分?すっとしねぇ?解放感っつの?なぁどうよ」
 ぶんぶん真っ赤な顔を振る。
「あっそ。もうちょい上まで出してみようか」
「きゃあっ?やっ!やだったらっ!」
 着物と襦袢、さらに下穿きと、三枚がさねになった布を力任せにまくり上げられる。帯で留められた腰から下はすべて明るみにさらされた。張りのある腿もふっくらした下腹も、恥ずかしい場所の淡い繁りも。
「や、ややっ、やだ、やだっ」
 とっさに堅く両足を閉じ、ひざを屈めて隠したが、白く浮き上がった生の下半身に銀ちゃんは唾をのんでいた。
「やだっ!ばかっ!えっちっ!」
「いいじゃねーかなんで隠すんだよ」
「かっ、隠すよ、隠すに決まってんでしょ!つかもういいでしょ、離してよ、着物直すからっ、どいて銀ちゃん」
「何言ってんの。言ったろ。ここでヤるんだよ」
 言うなり銀ちゃんは覆いかぶさってきた。体重での動きを封じつつ、せわしなく自分のものを出す。の足の間へ身体を割りいれ、広げた足を閉じられなくした。
 笑い混じりの口とうらはらにその手は真剣、本当にここで始める気だ。
 今朝身をもって思い知らされたことだ。
 こうなればは銀ちゃんの気が済むまで好きにされるしかない。

 ぺろりと舐めて濡らした指が乾いたそこへ埋められる。思い出したようにキスはしても、ほかへの愛撫はなにもなかった。キスだってきっと口封じだ。
「いやっ、や、いや、いやいやいやっ、やだ、もぉっ、痛い、痛い、痛いよっ」
 塞いでいないとうるさいから。

 どうせ許されないのならと無駄な抵抗はやめようとしても、初めて触れる濃い空気に足が竦むのはどうにもならない。
 あまりに頼りなさすぎる。壁も囲いもここには何もない。もっと鬱蒼としていればまだしも、目隠しというにはまばらすぎる草むら。かすみがかった太陽は形もおぼろげだったけれど、むき出しにされたの身体を映すには十分だった。
 真上からの視線がもしもあるなら、緑に映えるの姿、広げて投げ出された足と呆けた顔がよーく見えるはずだ。
 遠く先まで遮られない視界がいたたまれないったらない。
 壁や暗闇や密室はを誰かから隠すと同時に、の目からもよけいなものを隠す役割を果たしていたのだ。


 身体の中心に衝撃がきた。
 は歯を食いしばり声を殺した。
 が、不満顔の銀ちゃんに思いきり突かれた。
「ぅああんっ!?」
「声出すんだよ」
「やっ、むっ、むり、は、恥ずかしい、からぁ…っ」
「出せっつの!はいっ」
 中へずしずしと硬くて重いモノが入ってくる。
 それでもどこかでブレーキがきいて、どうしても声を押し殺してしまう。小刻みな息を吐くのがせいぜい。
「はっ、あん、あんっ、はっ、あっ、はっ、はっ、」

 少しも気持ちよくなんかない。明るい日の下で悶える自分が、ただただ奇妙に思えるだけ。

 ただしイヤとも思わなかった。
 銀ちゃんはにどうしてもこれをしなければいられないんだろう。
 ならいい。それなら、はいいよ。


 ふと目をやると銀ちゃんの顔は思っていたよりずっと頼りない。そっと手を伸ばし、くせ毛を撫でて慰めてあげた。頬へも指を這わせていった。
「なに、ちょっと気分出てきたの」
「ばか…」
 をからかってごまかしたりして。焦っているのが透け透けの浅い笑みなんか浮かべちゃって。

「そのへんに誰かいるんじゃね?ちんこおっ立てて見てっかもな。とんでもねぇアバズレがいたってうわさになるかもよ。へへっ、知らねぇヤローにオカズにされるってどんなキモチ?」
「もう、ばか、ばか、ばかぁっ…」

 うわごとのように繰り返すけれど、きっとの言葉は勘違いされてる。
 誰が見ていようがどうでもいいのに。顔も名前も知らない人になにを見られてもどーでもいいのに。
「銀ちゃん、大好き…」
「あ…?」

 大好き。
 にいちいち赦されないと自信のもてないバカなこの人が。
 どうしてそんなに不安なんだろう。はこんなにも好きなのに。





「ね…、銀ちゃん…」
 なぜかは自分でもわからない。そのときは小さな小さな禁をやぶった。

 愛されてるのはわかってる。
 でもたとえ愛されてなんかなくても、実はには関係ない。
 銀ちゃんを好きでいることはを支える唯一の軸だから、たとえ銀ちゃん本人の気持ちにも左右されることがあってはいけないのだ。
 だから決してからは、訊かない。求めない。確かめない。
 なのに今はどうしてだか

「ね、銀ちゃん…?銀ちゃんは…」
 銀ちゃんは


 お日様に背を向けているのに、銀ちゃんの目がまぶしげに細まったようにには見えた。
 ふっと口元がやわらかに笑った。
 唇がの頬をすべった。

 そして耳元で、大好きな声がささやいた。



 ぞく、ぞく、ぞく、
 身体の絶頂とは違う。激しい波がの中を、二度も三度も走り抜けた。
 昼なのに星。まばゆい星が瞳に散った。
 丸々と見開かれた目は、何度もぱちくりまばたきをした。
 首からきゅーっと広がる赤色。唇をまっすぐ引き結び、今にも怒りだしそうに、あるいは逆に、泣き出しそうに歪む顔。

 高い空からも丸見えのその情けない顔を、は銀ちゃんへぶつけて隠した。
「うん、うん!も!もだよ、も!」


 ふたりほとんど同時に果てるまで、それからずーっと休みなく、は耳のそばでたったふた文字を繰り返し繰り返し聞かされ続けた。










リクエストありがとうございました!
N様から「銀ちゃんとヒロインちゃんにアナルHを。これが内容的に不可能でしたら、野外ぷれいを見てみたいです。路地裏か、青空原っぱが希望です」
思いきって青空原っぱへ行きました。