がなにやらよからぬことを企んでいる。うまく隠しているつもりだろうが、銀時の目は誤魔化せない。いつもより少し呼吸が早いし、視線は手元の本の上へあまりにも揺るぎなく定まり過ぎて、ともすればうろうろ泳いでしまうのを逆に無理やり留めているようだ。
 がそこそこの嘘つきであることは認めるが、口から生まれたこの銀さんをハメようなど二百年早い。


 お江戸のとあるだんご屋の、週に一度の今日は定休日。朝から銀時とのふたりは店の裏手にある四畳半で何をするともなく過ごしていた。
 買い物に出る出る言いつつ先延ばし。昼も結局アリモノで済ませてもう数時間。銀時は片腕を枕に寝そべり、はその横で本を読んでいる。

 ところがそれが、やがてちらっちらっと。
 頑迷に本へ注がれていたの目が、時折こちらを窺い始めた。その目がやけに熱っぽいことも銀時は敏感に見てとっていた。
 既に午後も相当深い時間、日差しは傾きつつあった。どこか物寂しい夕暮れ直前。幸せな休日の終わりを感じて人恋しくなる頃合いだ。いつもなら、どちらからともなく身を寄せ合い、「そうなる」こともままあるところ。

 けれども今日は様子がおかしい。
 が生意気にもよからぬことを企んでいる。



「そうだお茶…」
「あ?」
「銀ちゃんお茶飲む?飲もう、うん」
「は?」
 胡散臭そうに片眉を上げた銀時とは目も合わせずに、はいそいそ台所へ立つと頼みもしないお茶を淹れ始めた。
「俺がしてやろーか」
「ううん、いい」
 カマをかけてみたら案の定。はあきらかに銀時を台所から遠ざけたがっている。
 しゅんしゅんと湯の沸く音に足音を紛らせ、銀時はそーっと気配を消しての背後へ忍び寄った。「台所」とは名ばかり、部屋の片隅に小さな流しとコンロが据え付けてあるだけのスペースだ。に知られずそばへ近づくのはかなり骨の折れる仕事だった。銀時でなければ成し得なかったろう。

 肩越しにばっちり見られているとも知らず、は懐から何かを取り出した。見れば小ぶりのガラス玉だ。薄いガラスのその中にはきれーな桜色の液体が詰まっている。
 どうやら中の液体を銀時の湯呑みに注ぐつもりだ。


 触れる直前まで気配を殺し、がっ!と背後から銀時はの手首をつかんでやった。
 前触れもなしに突然の衝撃。現場を押さえられてしまったの驚きといったらない。「ぎゃっ!」と短い悲鳴を上げて、飛び出る心臓が目に見えるようだった。
「な、な、な、なにぎぎぎぎ銀ちゃん?!」
「そりゃこっちのせりふだろーが。なにそれ。そのクスリ?みてーなの」
「いや、ち、ちがうよ。これは違うよ、クスリとか、そんなんじゃ…」
「じゃあ何」
「…しょ、しょうがエキス」
「ウソつけぇぇぇっ!」

 手首をぎりぎり締め上げてやると、すぐにの手から力が抜けた。力なく開いた手のひらから、すかさずガラス玉を取り上げる。
「あああっ!だめっ!それ捨てちゃダメぇっ!」
「そーか捨てられちゃァ困るんだな?!」
 底意地悪く笑うが早いか、部屋から一段低くなった土間へガラス玉を叩きつけてやった。薄いガラスがぱりーん!と薄っぺらな音とともに砕け散る。
 だが、ざまーみやがれとほくそ笑んだところで思いがけないことが起きた。

「な…っ?!」
 中の液体が瞬時に気化して銀時を包みこんだのだ。
 前も見えないほどの白煙に、とっさに口元を覆ったが遅い。驚いたはずみに銀時は思いきり煙を吸ってしまっていた。
「かっ!かはっ…?!」
 喉と鼻の奥が灼けるように熱い。

 そしてもうひとつ。身体の芯に大きく重たい熱の固まりが生まれていた。



「あーあ。だから壊しちゃだめって言ったのにぃ〜」
 下半身にむくむくと持ち上がる異常。戸惑う銀時の背後では、うって変わって悠々と、が微笑みこちらを見ていた。たちまち赤く火照った顔や、うっすら首に浮かぶ汗…銀時の様を楽しげに。
「まさか…てめ、最初っから俺がああすることまで狙ってやがったのか!」
「さあ?」
 はっと表情を変えた銀時に、はぎゅうっと抱きついてきた。にっこり可憐な笑みを浮かべて
「うふふ、銀ちゃんだぁいすき!」
「………ん、ひっ…?!」


 …驚いた。ただの手に触れられただけで、背筋に甘い痺れが走った。身を串刺しにされた気がして、銀時の目がしろくろした。
 おそるおそる見下ろすと赤い唇が、やけになまめかしく半開きにされ、中に濡れた舌が覗いている。
「熱いでしょ。銀ちゃん松紀世星って知ってる?お薬の行商で有名なとこ。このあいだお店に来てくれた薬売りさんから買ったんだぁ」
「なにを…」
 着物の端をつかんで引き寄せ、自分はつま先立ちになり、は銀時の疑問ごとびったり唇を塞いだ。隙間から差し入れられた舌先が唾液をひと舐めしてすぐ離れた。
「ね?身体が熱くて熱くて仕方ないでしょ?もさっき吸ってみたから知ってるよ」
 また口づける。今度はすぐには離さずに、ぽってり厚い銀時の唇をの唇は優しく挟み、心ゆくまで味わっていた。

「ちょ、おま…、いったいどーいうつもりで…」
だってむらむらするときがあるの」
「だ、だったらなにも、こんなまどろっこしいことしなくても、言やァ銀さんがいっくらでも可愛がってやんだろーが」
「ほーらそうやって、をいじめて遊ぶんでしょ。銀ちゃんいっつもにばっかり恥ずかしいことさせるんだもん。そーいうのはヤなの」

 間近に見える唇の動きが頭をくらくらさせていく。全身に血の巡る音がとくとくとくとくやかましすぎての言葉がよく聞こえない。
「だからね、ね、銀ちゃんに、よりもーっとむらむらしてもらおうと思って」


 いたいけな顔にそぐわない妖しい声でささやくと、はその身体を銀時に強く密着させてきた。胸も腹も、銀時の本能をまるで煽るように、これでもかと擦りつけられる。
 心地よさに息が詰まりそうだ。
 押せばそのまま包まれる柔らかさ、染み着いた砂糖のいい匂い。自分たち男のものとはまるで種類の違うの肉が、それを自分でもよく知ったうえで激しく迫りたててくる。
 一息に吸った薬のせいかどこもかしこも敏感で、分厚い木綿の普段着越しでもの丸みがありありとわかった。
「お顔真っ赤だよ銀ちゃん」
「てんめぇ…」
「怒っちゃやだ。いーっぱい気持ちよくなって」
「あのなぁ…」
 それでも濡れた唇をついばまれると抗えない。のなすがままになってしまう。
 立っているのもつらいと感じ、それで銀時は自分が棒立ちにつったっているのを思い出した。


 ぐったり畳に腰を下ろし、足を開いて投げ出した。がすかさずしなだれかかり、うれしそうにまた口づける。
「すごーい…、お口の中、熱い…」
「…誰かさんが妙な薬盛ってくれたからな」
 あてつけがましく言ってやってもは悪びれもしなかった。
「そーだよ。お薬のせいだから、どうなっても恥ずかしくなんかないのよ銀ちゃん」
「生意気言ってんじゃ…はひっ?!おっ!おまえなァ!」
 さらりと股間を撫でられて思わず声が高くなった。

「気持ちよくない?怒ってる?」
「…う、…え?いや、そりゃあ…」
 急にの声がしゅんとしおれた。すがりついて見上げる不安な瞳を、まともに見せ付けられてしまっては。
「…あーもう」
 銀時は何も言えない。


「でも、どうしても、銀ちゃんとしたくて…。だけど昼間っから、こんなこと言ったら、絶対笑われちゃうと思って…」
「ねぇ、ここ。さわってみて。もうこんなんなんだよう?」
 手を取り、裾の中へ誘われた。火照った太ももの隙間を割り、しっとり蒸されて熱い部分につぷりと指先が埋まった。とろっとろに蕩けた入り口は、たちまち指の付け根まで引っかかりもなく飲み込んだ。
「は…ぁ」
 せつなげにの眉が寄る。
 だが今の銀時にはそのをもっといたぶってやろうとするより、自分自身の反応を焦る気持ちの方が大きかった。これも盛られた薬のせいだ。
 にだけは触れられたくなかったことを、情け容赦なくは言った。
をさわったら大きくなるのね」

 ぷいと目を逸らした銀時にが恍惚と命じる。
「もっといじって。ね、銀ちゃん…、いじってもっと、おっきくしてよ」
 聞いてやるつもりはなかったのに、指は言われるまま動いていた。あとからあとから湧きだす露をかきだすように壁を引っ掻く。鉤に曲げた指が天井をかくのをもはしたなく悦んで、あさましい反応を隠そうともしない。伏せがちにしたまつ毛を震わせ、ひっきりなしに唇を舐めた。
「ん…気持ちいい…。それ…いい…、もっとぉ…」
 さっき試したとか言っていたから、にも薬が効いているのだろう。中の熱さもそのことを裏付けているような気がした。


 やがてはごしごしもどかしげに、衿の合わせをゆるめて乱した。露わにされた白い谷間へ銀時が黙ってしゃぶりつく。何を考えることもなくそうした。もじんわり汗ばんで、甘い匂いもいつもより濃かった。
 なりふりかまわぬ不思議な姿勢だ。ふたり向き合って座りながら、抱き合っているわけではない。なのにある場所は隙間なく寄り添い、ある部分はひとつに混じりあっている。
「んっ…」
 ことさら下品に音をたて、よだれまみれの乳を吸う。鼻面で邪魔な着物をかきわけ、薄桃色の突起に噛みついた。
「ふぁん…、銀ちゃん…んっ…」
 「きゃうん」と媚びた鳴き声に銀時の身体がかっかと火照る。下腹部のそれにも血がゆきわたり、みるみる硬く膨張した。
 の手がぱたぱた銀時を伝い、ズボンの腰紐を探りあてた。腰を浮かせて助けてやると、下穿きもまとめて手探りに脱がされ、ぽろんと半勃ちの肉竿がこぼれた。
 待ちきれなさそうにがそれを握った。


「あ…ぃ、痛っ!」
 根元へ叩きつけるように乱暴に手を上下させる。にこうまでされるのは初めて。いつもこわごわと壊れ物にふれるように、舌でも指でもやんわり包んでくれるのに。
「いや?」

 けれどもゆっくり首を横に振る。が無茶苦茶にしごくので、そのたびどこかの皮が引っ釣れてぴりぴり痛みが走るのだが。
「いて、い、いててっ…、無茶すんなコラ」
「でもほら」
 股間のものはぱつんと張りつめ、の手にはもう余る太さで堂々たる形を誇示していた。
「気持ちいいんだね」
 銀時がぎゅっと目を閉じた。

 眉間には深いしわが刻まれる。思わず漏れてしまった溜め息は、けれど快感を隠しきれていない。
「こんな痛いのが良かったんだ。知らなかったぁ。銀ちゃんへんたい」
 ついついそこにばかり気をとられ、に返事をするのも忘れた。
「ほら、見てみなよ。こーんなに」


 不意にが手も身体も離した。畳へ手をつきしげしげとそそり立つ銀時を見つめている。
 つんとイタズラに一本指でくびれの裏側をつつかれた。
「んっ…、こらぁ…っ!」
「あは、ぴくってしたよ。気持ちよさそう」
「そりゃあ、薬が…、だからだろ…」
「お薬効いてる?」
「…あぁ」
「気持ちいい?」
 さすがに言葉を濁したら怖い顔をして睨まれた。
「ちゃんと言って」


 そんなことより、温もりの遠ざかったのが思った以上に心細かった。もっとのそば近く触れていたかった。
 着物越しではもう足りない。自分も脱いで、も脱がせて、生の肌同士をぴったりと。
 とっくに崩れきっていた着物をくしゃくしゃに丸めて放り投げ、ついでにシャツも脱ぎ捨てた。夢中での帯をとくのをは抵抗こそしなかったが、一糸まとわぬ姿にされて押し倒され覆いかぶさられ、抱きしめられると耳元で笑った。
「さっきの答えがまだだよ銀ちゃん」
「………っ」

 んぐぐと銀時は喉をつまらせた。快楽とプライドを秤にかけて。男の、それに大人のプライドも。こんな子供にいいようによがらされるなんてそんな情けない。
 しかし一物は立派に勃って、抱きしめたの下腹部に先走りの汁をなすりつけている。口でどう言おうと一目瞭然。
 それを知ってか知らずになのか、が下から腰を突き上げた。膨れあがった銀時の性器を下腹の肉で押し潰した。
「あ、ああっ、くそっ!てめぇいい加減に…」
「うわぁ…熱いのおなかに当たるよう…?ねぇねぇ、早く挿れたいんじゃないの?」
 と銀時の身体の間に行き場のない熱が溜まっている。誘うようにの言う通り、早く埋めたくて仕方がない。熱く潤んで、窮屈で、けれど柔らかく熟したの中。
 強引に犯すこともできるはずなのに、どういうわけかそれには思い及ばないのだ。

「いいね、このお薬。こんなに効くとは思わなかった」
「ちくしょ、ちくしょう、てめー覚えて…」
 ちゅう。
 優しく唇を奪われて、なけなしの虚勢もそこまでだった。



「気持ちいい?」
 とうとう素直に銀時はうなずいた。

「だめ。ちゃんと言うの。きもちいい?」
「…すげえイイ、です」
「うん」
「挿れてぇ」
「もう?」
 からかう声に頬が染まる。
「悪いかよ!おめーは銀さん欲しくねーのっ?」
 甘えて拗ねて、唇をとがらす銀時の頭をがいとおしげに撫でた。かわいいかわいい、焦らすように。

「な?なぁそろそろ。マジ無理。この薬すげぇんだって…」
 はっはっ、と短く息を切らし、ただ銀時は腰だけをかくかくの腹にこすりつけている。
 何も答えずはぐらかしていると、業を煮やした銀時の頭は突然の下半身へ動いた。
「はわっ?」


 くせ毛がの内ももをくすぐった。足の間にうずくまり、両親指でつけ根を広げて、濡れそぼる中心へ銀時がキスをした。
「や…んっ…」
 一心不乱な奉仕の始まり。肌に貼りついた下の毛から、順番に舌が舐め上げていく。開ききった縦割れをなぞり、その上に息づく花芯をしゃぶった。
 ぷっくり大きく膨れた粒を口に含んで転がすと、の下腹部がひくひくと見てわかるほどに痙攣した。

 だが感心なことにそこまで。
 「よし」の合図が出されるまでは挿入しない忠犬銀時。
 口の周りを自分のよだれとの愛液まみれにしてでも、健気にの許しを待っている。

「なぁ?これ、どうよ?ここ、お前好きだろ?」
「ん…ふっ、うん…。すごぉい…きもちいーよ…」
 の陶然と蕩けた瞳が、股間にしゃぶりつく男を見下ろした。
「銀ちゃんたら必死だねぇ…。じぶんの格好見てみなよ。女の子のあそこ必死でぺろぺろして、そんなことして恥ずかしくないの?」
「なぁ?これ、いーだろ?ほら、おめーもそろそろ欲しくなってきたんじゃね?ここ…」
 通じているようで脈絡のない会話。下の口へ舌が挿れられると、びくんとが腰を反らした。
「は…、恥ずかしーんだぁ…。そんなににつっこみたいの?」
「ん…む。ほら、な?ほしーだろ?おめーも銀さんほしくなったろ?なァ?」
「あ…ん、そこばっかりぃ…だめだめ、ヘンになっちゃうよう…」
「おぉぉ…すっげ、あふれてきた、いいって、我慢すんな?な?早く、なァ」


 やがて銀時の見えないしっぽが、根っこからちぎれそうに振れた。
 にとくべつお許しをいただいて。
「いいよ、銀ちゃん、…おいで」



 次の瞬間には銀時の肉塊は深々とに埋められていた。一瞬たりとも余分な間を空けない、入り口を探った様子すらない。気づけばは奥まで貫かれ、身体はびくびく仰け反っていた。
「あっ、ああっ、銀ちゃん、銀ちゃんのっ…太いの、すごい…、入ってる…んっ」
 その声も聞こえているのかどうか。真上で銀時は歯を食いしばり、無言で腰を動かすばかり。その顔はいっそ険しいと言っていい。
「ね、気持ち、いい…?」
 下から訊かれてもこくこくと首を振るのが精一杯。けれど人形のように揺れた頭をは見つめてうれしそうだった。内臓に届くほど激しく突かれ、自分も眉を寄せながら、離れないようぎゅっとしがみつく。

 しゃくりあげるような短い呻きが、やがて銀時の喉へこみあげた。
「は…っあ…ああ……悪ぃ、けど、これ…」
「いいの、いいのっ、好きなよーにしてっ…、だって、…あっ、薬…、お薬のせいだもん…」
「あ…ああ、そ、そう…、そうか…」
「そーだよ」
「ん、うん、だ、だよな…?」


 せめてを先によくしてやろうとか。崖っぷちで銀時を留めていたものが砂粒のように崩れて消えた。ぐんと深く深く奥をつき、自分ひとりの快感に耽る。
 突かれて喘ぐの声ですら、耳を愉しませる音でしかなくなる。「んっ、んふっ、銀ちゃんっ、ああっ、いいっ、いいのぉっ…」
 肉棒をねっとりからめとるの奥、通路のかたち、締め付けやぬめりを、ひとつもこぼさないように銀時は欲深く貪った。

 背中にの爪が立っていた。痛みでわずかに気を持ち直し、見下ろすと呆けた顔がある。
 半開きの目と、口の端から、だらだらと汁を垂れ流している。

 気づけばその口にふるいついていた。

「ああ、…、っ、やべぇ、それやべーって、もう、ああ、もう…っ!」
 ひーひー耳を引っ掻くようなの鳴き声に背中を押される。
 ぱんと眼の底が白く弾けた。
 深く、また深く、もう一度深く。それしか知らない若僧のようにの行き止まりの壁へ射ち続ける。ごぽりと白濁があふれてもかまわない。
 の膣をからっぽの穴のように、自分の精で満たしてやった。






「はぁ…っ、はーっ…」
 しばらくは肩が大きく上下していた。
 そのうち息が整うと同時に、心も身体も嘘のように凪いだ。
 一時の高揚が過ぎ去ってしまうと恥ずかしさといたたまれなさとでの顔も見るに見られない。顔を突っ伏しぐったりと銀時は力尽きたふりをした。

 の息は銀時以上に切れ切れ、当分おさまりそうにはない。力の抜けたよろよろの手が、やっとのことで銀時を撫でた。
「もう、いいの…?まんぞく、した?」
「…いや」

 くしゃくしゃのくせっ毛ははっきり横に振られた。
 中身を搾りきられた性器は頼りなく萎え下がっているのに、に触れたい衝動だけが今になっても止まらないのだ。
「ひゃっ?こんどはなに?」
「…うるせーよ」
 有無を言わせずを抱きしめた。乳房には頬を、腕は背中へ、太ももはの太ももと、思うさま肌を触れ合わせた。
 それまでの猛烈な飢えとは違う、けれどきりのない欲求に、突き動かされてみることにした。


 いつの間にか外はすっかり暮れて、代わりに空はネオンで薄明るい。瞬く明かりにちかちかと、照らされ、陰るの身体で銀時はふたたび遊び始める。
 これも薬のせいなら仕方ない。
 なんてよく効く薬だろーか。












 数日後。の営む小さな茶店。朝から平和な一日で、用心棒の出番はない。
 店の最も奥まった席で銀時が暇を持て余していると、そこへ一人の客がやってきた。

 現れたのは天人だ。のれんをくぐってきたその姿は二足歩行するウサギそのもの。
 背丈は大人の腰ほどで、裸(?)に黒いチョッキを着ている。懐中時計でもぶらさげていたら、完璧に某童話のキャラクターだ。
「ごめんください。みたらしだんごをひと皿ください」
 ウサギは背中に背負ったつづらをよいしょと足下に下ろすと、手にしたかごをその上に置いた。
 ちらりと見えたかごの中身に銀時は思わず釘付けになった。中はガラス玉が山盛りだ。赤青ピンク、色とりどりのきれーな液体が詰まったガラス玉。
 忘れもしないあの時のアレ。
 このウサギがなんとか言う星の薬売りとか言う奴か。

「はぁい!あっ!うさぎさん、いらっしゃいませー!」
「このあいだはありがとうごさいました。おかげで親方に叱られずにすみました」
「いいんですよう。そう毎回はわたしも無理ですけど、どうしても困ったらまた言ってくださいね」

 「いいんでちゅよう〜」じゃねーよよくねーよ!腹の底での声真似までして、銀時は思いきり毒づいた。なるほどあれにはも逆らえまい。大好きなウサギのナリにほだされ、ろくでもない薬を買ってやったわけだ。
 おかげでこっちは酷い目に遭わされた。

「効き目はどうでした?」
「ええ、すごかったです!身体がぽーっと熱くなって…」
「おい!?セールスマンになんて話してんだアバズレ団地妻!」


 が、吠える銀時を怪訝そうに、ウサギとは顔を見合わせた。
「そうでしょう。冬は生姜に限りますよ。身体が芯から暖まりますからね」
「よその星でも生姜なんて食べるんですか?」
「もちろんです。でも、地球産のものがやはりさいこーです。紅茶に入れてもえぐみがなくて、風味が増しておいしいんです」
「わたしはしょうが湯が好きですねー。葛でとろみをつけたやつ。お砂糖たっぷり入れて甘くして…」
「ああいいですねぇ」
「ねーっ?」



「…ショウガ?」
 あんぐりと口を開きっぱなしの銀時を、ゆっくりとが振り向いた。
 その顔。
 お椀を伏せたよーな目で、にぃっと白い歯をむき出しに。銀時がよくするイヤらしい笑顔をまんま鏡に映したような。
最初っからしょうがエキスって言ってたのにねー?銀ちゃんたらどうしちゃったんだろねー?」

 にやーりと愉しげに唇が吊りあがった。口にはしないが目が語っている。
 「しょうが、しょうが、しょうがで欲情した単細胞〜」
 と、歌い躍って囃したてている。


「…え?」

 え?
 え?

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!

 絶叫のつもりが銀時の悲鳴は声にもなっていなかった。
 ぶわっと一気に脂汗が吹き出た。いやいやいやいや待て待て待て待てあの時の銀さんは薬のせいで…
 …ってえええ?しょうが?しょうがエキスぅぅぅ?
 いや、待て待てしかし、も薬を吸ったと言ってた。でもそれは生姜とわかった上のことで、はそれを承知で、でもそういえば別にあいつは最初から欲情を隠すつもりもなくて…。
 だから、
 つまり…

 …えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!



 ひとつだけ間違いなく言えるのは、次に薬を盛りあうことがあれば、水面下での疑心暗鬼はこんなものでは済まないということだ。










リクエストありがとうございました!
S様から「積極的なヒロインに押されまくる銀さん。攻められて困って焦ってびっくりしちゃう銀さんの裏が希望です」でした!
プラシーボばんざい。