「なんだか…。もうちょっと、なんか…」
 は居心地悪そうに薄暗い部屋を見回した。かぶき町でも裏通りに建つ、あつかましくも名前ばかりは「御殿」と立派な宿の一室だ。
 壁はけばけばしい赤に塗られ、明かりはランプがひとつきり。部屋に飾られた金屏風には春画の拙い…そのぶん生々しくいやらしさを増した写しが描かれている。
 そのうえ部屋の一画は全面鏡張りにされていた。
 いかがわしいホテルは初めてじゃない。けれどさすがにこうも古式ゆかしいのは珍しい。連れ込み宿とか待合茶屋、そう呼んだほうがいいようなレベルだ。のいる寝床も円形で、今は壊れてしまっているが昔はぐるぐる回せたらしい。どうかしている。
「ラブホはいいけどもうちょっとさぁ…」
 回転ベッドのふちに掛け、はくちびるをとがらせた。
 銀時はというとその傍らで、途方に暮れるの様子にいやらしく目を笑わせている。
「ほら」
 と、ぽんぽんひざを叩くので、呼ばれたはひょいとその上に座りなおした。


 するといきなり後ろから強い力で抱きすくめられた。
 おかしな気配だ。は思った。抱くというより動きを封じられた気がする。試しに身をよじってみても、やはりぴくりとも動けない。
「なあに?銀ちゃん、ちょっと痛い。手ぇゆるめて」
「おう、わりぃわりぃ」
 言えば力は弛んだものの、それでも銀時の腕はを縛りつけて離そうとしない。やがてこっそり右手が外れ、懐から何かを取り出したのだがそれもには見えなかった。

 つまみ出されたのは大きさはピンポン玉くらい、中に詰まった真っ赤な液体のきらきら光るガラス玉だ。
 わずかな照明に玉をかざし、銀時はまた声もなく笑った。





 今日の昼間。ついに銀時のところへも、遠くの星からやってきた行商人が現れたのだ。最近巷で大層話題の松紀世星の薬売り。この万事屋の周囲でもさんざん怪現象を起こしてくれた。
 玄関先で銀時は、自分の腰までしかない天人を胡散臭そうに見下ろした。
「それはどーいう術?」
「はい?」
「お前さんほんとはどんな見てくれしてんの?」
「あら」

 催眠術か、それとも擬態か。おそらくこの天人達は売り上げ向上をはかる為、客がどうしても断わりにくい姿かたちをとってみせるのだ。
「これ、売れないとおやかたに怒られちゃうの…」
 口惜しいが効果は覿面だ。からくりをおおよそ見抜いていても、銀時の胸はきゅんと詰まった。
 いいとも、薬なら買ってやる。何度か身をもって試させられたが、安全性も効き目も抜群。効果も長くて一日で消えるとわかっていれば、こんな楽しい遊びはない。

「じゃあさお前さ、こーいうクスリ持ってねぇ?」
 希望の効能を説明すると、さらっさらの黒髪をふたつに結った生意気そうな女の子は、いたずらの共犯者のように笑った。
 にひっ。
「もちろんあるよう。おかいあげありがとうございまーす!」





 逃げられないようを抱きしめ、銀時は薬を床へ叩きつけた。薄いガラスは簡単に砕けて空気に触れた中の薬剤が一瞬のうちに気体と化す。
「やっ?!なに?これ、またっ!」
 抱きしめておく必要はなかった。迫る煙に驚いたは自分からしがみついてきた。


 目の前が白く曇っていたのもそれほど長い時間ではない。ガスは爆発的に立ちのぼり、爆発的に消え去った。
 気づけば白煙はあとかたもない。ふたりは何も変わらぬ姿勢で、それまでと同じ姿かたちで、ベッドの端に腰掛けていた。

 ただ、薬を撒いた当の銀時が何故か呆然と目を見開き、
 一方銀時に抱きついたが、腕の必死さとは裏腹にその目をえらく輝かせている。


 先に叫んだのは銀時のほうだ。
「な、ななななななに?なにこれ?なに?えええええ?ええええええええ?!」
 を手放し両手を見つめ、その手でぺたぺた頬を挟んだ。ひざはぴたりと合わされて、どこかその仕草が女々しく頼りない。
 反対には威勢良くベッドへ飛び乗った。
「おおおお!マジで!?いや、効き目は信用してたけどコレマジでぇぇ?うお!すげぇぇぇぇ!」
 甘く甲高いの声が品のない男の言葉でしゃべり、あまつさえあぐらをかくのを見て、銀時は愕然とするばかり。

「…ま、まさか…。銀ちゃん…?まさか…」
「おう、どーよこれ!大成功〜!」
 ががははと大笑いした。


 ご覧のとおり。
 銀時は天人の薬売りに、「心と体の入れ替わる薬」をオーダーしたのだ。



「う、うそぉ…?そ、そんなぁ…」
 中身はの「銀時」が大きな体を縮こめる様を、「」の姿をした銀時がここぞとにやにや眺め回した。着物の裾は豪快にはだけて、その表情と格好に「銀時」がこぶしをぶんぶん振った。
「やだあっ!やめてよ銀ちゃん!はしたない!そんなカッコやめてっ!足閉じてっ!」
 堂々たる大人の男の声でその口調もなかなかのものがあるのだが。

 そんな自分にわずかばかり頭痛を感じながら、それでも「」の銀時は浮かれた顔で「銀時」に訊ねた。
「なァどんな気分よ」
「知らないよもぉ…」
「へへへそう言わずに遊ぼうじゃねーの。な?」
 早速「」が両ひざを立て、自分の股間をのぞき込んだ。
「まんこ見てやろ」
「きゃああっ!なんてことすんのよぉっ!?」
「ぎゃーっ?!!」


 いったい何が起きたのか、とっさに「」にはわからなかった。
 頭に激しい衝撃が炸裂して、直後天地が逆さになった。次の瞬間には突き刺さりそうな勢いで顔からベッドにダイブしていた。
 「銀時」に思いきり突き飛ばされたのだと理解したのはかなり経ってからだ。
 もしも床の上ならどうなっていたことか。

 「銀時」もしばらくきょとんとしていたが、血相変えて「」を助けにきた。
「ご、ごめん銀ちゃん大丈夫っ?」
「いでででででっ!?」
「ああっ!ごめっ…」
 またもや悲鳴を上げられて、「銀時」の手がびくりと引っ込む。なにげなく肩をつかんだつもりが、その力もあまりに強過ぎて「」を危うく潰しかけていた。

 痛みにぷるぷる悶える「」に、「銀時」はこわごわ、今度はそーっとふれてみた。
 壊れものにでもするように、自分の掴んでしまった跡を撫でた。
「ごめん…だいじょうぶ?」
「あ?あぁ」


 広げた自分の手のひらを「銀時」がまじまじ見つめていた。
 やがて再挑戦、注意深く頭を撫でにくる。
「これは痛くない?」
「ああ、まーな」
「へへへ、そーかぁ」
 「銀時」なのにその顔は、まるでのようにふにゃりと微笑んだ。
「そっかあ。銀ちゃんはさわるのに、こんなに加減してくれてたんだぁ」



 何が幸いするかわからない。今のでの態度が変わった。状況を理解し、ひとまず受け入れ、楽しむことにしたようだ。
「な?どーよおもしれーだろ?」
「…バカ」
 そう言いながら目は笑っている。とてこれでもお江戸の人間、そして意外にお調子者。そうと決めれば興味津々だ。
 「銀時」の身体で起き上がり、鏡の前へ立ってみる。顔より身体が気になるようだ。手を伸ばしては大きく振って、時々腰にひねりが入った。へー?ほおお?と、そのたび間の抜けた感嘆をもらしつつ。
「ねぇ、脱いで見てもいい?」
「ああいーよぉ?そのかしおめーもあとで脱ぐからな」
 銀時としては願ってもない展開だ。
「うん、いいよ」

 いつもの着物が足下へ落ちる。中に着たシャツとズボンも次々に、いちご模様の勝負パンツ…ではなく、地味なグレーのトランクス一枚を残し脱ぎ捨てられた。
 鏡に映した半裸の自分を「銀時」がいかにも興味深そうに見ていた。まずは太い腕をぎゅっと折り曲げ、力こぶを盛り上がらせてみる。鍛えたというほどわざとらしくない、力仕事で自然についた筋肉は確かににないものだ。物珍しい気持ちはわかる。


 ひとしきり身体を動かして「銀時」はベッドへ戻ってきた。「」に背を向け腰を下ろすと、しばらく考え躊躇っていたが、思いきったのかあぐらをかいた。
 そしてトランクスのゴムを引っ張り、中をのぞきこんでひとこと。
「ふーん」
「どーいうイミだコラ」



「こーいうイミ」
 「」が肩越しにのぞきこむと、パンツの中で銀時自身がゆるやかに勃ちあがりかけていた。
「うわ、あのね、これ。おなかのこのへんもやもやしてると思ったらこんなんなってた!」
 妙にはしゃいだ声で言われて「」はむっつり渋い顔だ。
「…そりゃなるだろーよ。そのつもりで来てんだからよ」
「でもさ、大変だよね。いやらしいこと考えてるってすぐわかっちゃうよねコレ」
「やめてくんない。そーいう根本的なコトあらためて言うのやめてくんない!」

 「銀時」はさっさと下着も脱ぎ捨て恥ずかしげもないすっぱだかになると、その半勃起状態の自身をいきなりしごきはじめた。やわらかさを残していたものが、何度か強く握りしめられ上下にこすられるうちにむくむく膨れ上がっていく。目に見えてわかる反応に「銀時」の漏らす声は感動すらしていた。
「ほおおおおお!うわわわ!すごいすごいすごい!」
「ちょ!おま!何やってんだコラァ!」
「なるほど!」
「なるほどとかやめろ!ぶっころす!」

 そのうち「」が何を言っても生返事しか返らなくなる。見れば「銀時」は作業に没頭して、
 よーするに気持ち良くなっていた。
「猿かァァァァァ!」


「ちょ、やーめーろーやー!んなトコで一発抜いてんじゃねぇ!弾はもっと惜しめ!すぐに二回戦やれるほど銀さん若くねーんだよコラァ!」
 「」が必死の形相で言って「銀時」の腕をつかむのだが、悲しいかなその手を止める力がない。しまいに困り果てた「」はぽかぽか「銀時」を叩きはじめた。普段のがするのと同じだ。ばかばか!銀ちゃんのばかばかばか!
「あははは!銀ちゃんなにやってんのー?かわいい!」
「てめぇのツラ見てかわいいだの言ってんじゃねーよボケ!」
 だがその声は涙まじりで、さらにげらげら笑われた。


 必死の訴えが通じたのか、やがて「銀時」の手は止まった。
「ん。たしかにそうだね。おもしろいけど、これでイっちゃうのはもったいないね」
「おもしろいとかゆーなクソっ」
 しかし「銀時」のこちらを見る目がすっかり熱く潤んでいて怖い。
 とっさに不穏なものを感じて素早く逃げ出したまではいいが、身をひるがえしたその足をいともたやすくつかまれた。
「ぎゃーっ!ちょ!離せてめぇっ!いいから離せって!」
 「自分」が近づいてくるだけのことがどういうわけか怖くて仕方がない。
「いやいやいやいやなんか違ぇ!そうじゃなくてもっと銀さんはァ、『いやーんどうしよう、こんなのやだぁ』って泣いてるおめーを好きにしたかったわけで!知り尽くしたてめぇのツボを責めあげて、銀さんになったをめろめろのへろへろに…
 つーかお前はなんでそんなに順応してんのっ?!」
「順応じゃないよう。これはこうきしん。それに言うほど気持ちよくないし」
「へ?」
「銀ちゃんかわいそう。あそここんなにぎゅうぎゅう握っても、こんなもんしか感じないんだねぇ」

の気持ちよさはこんなもんじゃないよう?まかして!ちゃんとしてあげる!だよね、銀ちゃんの言うとおり。の気持ちいいとこならがいちばんよく知ってる」
「おいィ?!」
 知らずにうっかり墓穴を掘っていた。「」もなりふり構っていられず四つん這いでベッドの向こう岸へ逃げる。

 しかし逃亡は成らなかった。よいしょ、と適当に掴んだ足を、なんなく引きずり戻される。
 身体の動かし方というものをまるで知らないにすら、簡単に捕まえられてしまう。そのくらい圧倒的な力の差がふたりにはある。
「あああああああ…」
 シーツに爪をたててはみるが所詮むなしい悪あがきだ。
「ちょっ!待て!無茶すんなコラおめーの身体だろーが!いでででで!」
「あ、ごめん」
 悲鳴を上げたその時だけは力が抜けるがそれだけのこと。


 とうとう「」は組み敷かれた。両手は頭の横に磔だ。
「くそ、あー!もうっ!」
 もがこうがあがこうが話にならない。腕はぴくりとも動かせないし、かろうじて自由になる足をばたつかせても、「銀時」にかすりもしなかった。
「も…っ、もうっ!くそ、てめぇ…っ」

 自分の力の遠く及ばない存在が銀時は純粋に恐ろしくなった。ほんの小さな子供の頃以来、長らく感じたことのない恐怖だ。
 もしもが、いつでもこんな不安な状態で、それでも銀時に身体をゆだねているのだとしたら。
 その度胸には恐れ入る。

 相当情けない顔をしていたのか、「銀時」が表情をやわらげた。
「ごめんね銀ちゃん。こわい?」
「…別に」
 「」が拗ねたように顔をそむけた。
「大丈夫だよ。もうこわくしないよ」
 追いかけて目を合わされて、「」がまたぷいとそっぽをむく。

 気づいたのはやってしまってからだ。
 まるで女のやることだと。
 けれどそうやって拗ねるか媚びるしか抵抗のしようがないのも事実。おぞましい自分の顔にキスをされても、頬を鼻面を舐め回されても、力では避けることも叶わない。


 けれど首筋を吸われた瞬間、それまで感じたことのない悪寒が身体を走り抜けた。
「きゃんっ!?」
 まぎれもない女のよがり声がして、遅れてそれが、自分の出した声だとわかった。
「…っ?!は、なに…」
 「」は戸惑い焦っていたが「銀時」は何もかも心得た顔だ。腕をしっかりと押さえつけたまま執拗に喉元を責めた。

「ふ…っん…ん、ごほっ!ごほっ!ごほっ!」
 身体を細かな震えが走る。自分の声がこっぱずかしくて、無理な咳払いでごまかした。
「バカね。なに照れてんのよ」
「てめ、銀さんの…」
 「銀さんの声でオカマのような口をきくな」と、それも皆まで言わせてもらえず、かぷうと甘く歯を立てられた。
「んひゃぁんっ!」
 今度は腰がなまめかしくよじれた。

「はーい、銀ちゃんも脱がしてあげるね」
 帯を解く手はさすがに手際がいい。毎日自分で結ってほどいてしているものなら当然か。
 すうっと胸が涼しくなった。何重にもなる締めつけをなくして、ぷるんとこぼれた自分の胸を「銀時」のがじろじろ見ている。
「そうかぁ、こんな感じかあ。鏡で見るのとちょっと違うねぇ」


「ん…っ、ん…は…あ、だからぁ、やめ…っ、ちげーってぇ…こんなんじゃぁ…なくってぇ…」
 「」がおかしい。声がこぼれるのを止められない。いや、そういえば、はこういうものだったかもしれない。
 とろけた語尾を「銀時」が笑う。
「あん、かわいい」
「だからぁ…、てめーのツラをぉ、かわいいとかぁ…」
 …ダメだ。とろけきっている。
 揉まれ、舐められ、吸いつかれるたび、全身が深みへ引き込まれそうな、甘く、恐ろしげな感覚に苛まれる。
 いつしか「」はおとなしく「銀時」のするにまかせていた。



 だがそれもわずかな平穏だ。「銀時」の指が下へ伸びると、とても黙っていられなくなった。
「ひゃっ?や、たんまたんまっ!ちが、そーじゃなくてっ!はっ、はふっ?」
 太い指が一本、ぶしつけに潤みを確かめていく。
「よしよし、だよね。濡れてるよね。まだなんにもしてないけどね」
 「」の頬には朱がさすのに、知ってか知らずか「銀時」はこちらが逆に恥ずかしくなるほど屈託がない。
 自分の身体を見てもそう。
「わあすごいや。ちょっとのことさわってただけなのに、銀ちゃんもこんななっちゃった。あははえっちぃ〜」
 反り返った肉棒を笑う余裕すらある。

 んー、と小首を可愛くかしげ、しばし考える素振りをすると、「銀時」はやにわに「」の両足を掴んで広げた。
「ごめん。早く挿れてみたい。いいよね」
「ぎゃああああああああっ?!」


「おめー前戯は!いつも銀さんもっといろいろしてやってんだろが!」
「そう?こんなもんじゃない?」
「あああっ!深ーく傷ついたぁっ!てめーそんな風に思ってたのっ?!」
「わかったわかった。いっぺん挿れてからあとでしたげるよ」
「前戯ってどーいう字ぃ書くか知ってるう?!」

 銀時だってなにもねちこい愛撫がされたいわけじゃない。ただ挿入を先延ばしにしたいだけ。
 けれど抵抗はやぶへびだった。
「注文多いなあ。わかったよ。こう?」
 股間に「銀時」の顔が埋まった。ちゅうっと優しく口づけられて目玉が裏返りそうになった。
「きゃあああああっ?!何すんだこらぁっ!てめーのまんこよくも舐められるなてめぇっ!」
「なんでー?自分の身体じゃない」
「だーっ!ムリムリムリ!てめぇのちんぽ舐めたり俺はぜってー無理っ!信じられねぇ!不潔っ!淫乱っ!このエロ娘っ!」

 その言われようにはもむっとした。
「銀ちゃんうるさい。そんな言うとこうだから」
 指でむりやりに包皮を引っ張り、剥き出しにしたクリトリスを舌でつついてやった。
「いっ?!」
 痛くはなくとも身が竦むはずだ。思った通り「」が固まったのをいいことに、既に真っ赤に腫れ上がっていた粒をたっぷり慰めてやる。
 唾液をためた口に含み、中でちろちろ舌をそよがせるとたわいなく「」の腰が浮く。
「あっ!あ、あああっ、ちが、ああっ、やめっ!やめ!やめ!それっ!」
「へいきだよ」
 よだれと愛液にまみれた蕾をじぷじぷ音をたててすする。
 がくんと「」のつま先が反った。


「んや…っ、あっ、あ、あ、あっ…」
 熱心に割れ目を舐められて、かと思えば最も感じる場所を泣きたくなるほど強く吸われる。
 快感の質は同じでも、自分の身体で感じるものとは濃さと深さがケタ違いだった。
 いつからか、意識を何度かさらわれかけて銀時は必死に「銀時」を掴んだ。落ちれば二度と戻れない暗闇を感じて恐ろしかった。
っ!っ!なあ!ストップ!たのむからっ!」
 声色があまりに切迫していて「銀時」のも顔をあげた。
 だが「」を見て、それがすぐさまくしゃっとほころぶ。自分はどんな顔をしていたんだか銀時は恥ずかしくなった。

「わかったよ。ごめん。ちょっときゅうけいね。でも、今のは怖くないんだよ。まかせてくれていいんだよ?」
 そんなでたらめが信用できるか。「」がぶんぶん首をふる。
「かわいいなあ。銀ちゃんほんとかわいいねえ」
「だから…、てめぇのことかわいいとか…」
「かわいいのは銀ちゃん」
 頬へむちゅむちゅ降る口づけから顔をそむけて抗議した。

 構わず耳たぶにしゃぶりつき、「銀時」の声がささやき続けた。
「わかるよ。銀ちゃんはいつもこんな気持ちなんだね」
「かわいい」
「かわいいね」
「だぁいすき」
 呪文のような言葉を聞くうち、信じられない、不本意ながら力が抜けてきた。
「へーきだよ。こわくないからね」
「いつもしてるの知ってるでしょ?」

 言葉たくみに、いつのまにやら大きく足を開かされていた。足の間に「銀時」がいて、そこはさすがにぎこちなく位置を合わせている。
 「」は息もつかずそれを見ていた。
 赤く暗いはずの部屋にいるのに、視界はなぜかまぶしいような、ふしぎに白くかすんでいた。


 そして「銀時」が、入ってきた。
「ん、ふっ…!!」



 奥まで深く交わらせ、は感極まったかのように「銀時」の身体で天をあおいだ。だらしなく口は開きっぱなし、端からよだれもしたたりそうだ。それまでの余裕が失せている。
 腹の底から快感に満ちた声が漏れた。
「ふあぁ…あぁそーか。そうか、わかったぁ…。これは気持ちいーや…」
 「」がきゅうきゅう締めつける。
「うわあ…。これはいい…気持ちいい…」

 身体に感じる刺激や快感はそれほど激しいものではない。
 だがこの満足感、征服感ははかりしれない。
「銀ちゃんが、にえらそーにするのわかるよ。あはっ、あははっ…、そーだよね、これはもう、お前俺のモノってそりゃ思うよねぇ…」
 中で「銀時」が膨れると「」がかーっと赤くなる。もちろんは見逃さない。
「あははっ、今のわかったよね?知ってるよ。中でぴくぴくしてるのもちゃーんとあそこでわかるんだよ」


「ん、しょ、こう…かな?」
「はんっ!あっ、あ、ああっ…」
 奥の壁、どちらかというと上側だ。大好きな場所はわかっても、そこを正確に擦ってやるために少し手間取った。何度か腰を前後させ、「」がきちんとよがっているのを確認する。
「は…、あ、あ、あんっ、そ、そこ、やべぇって、なぁ…」
「うわぁぁ…中で早く出したいよ。銀ちゃんの中にいっぱい出したい。ふわー。銀ちゃんの中がでいっぱいになるんだねぇ…。ねー今銀ちゃんは?どんなきぶん?でおなかの中いっぱいだよ?どんな気持ち?」
「あ、あっ、ば、ばーろ、んひゃんっ!」
 ちょっと強目に突いてやっただけで刃向かうポーズもあっけなく崩れた。そのまま中をぐりぐり探ると、二度と抵抗されないどころか「」の手は「銀時」の腕に、ほとんどない爪を精一杯立てた。

「きもちいいでしょ。これ好きでしょ」
「や…っ、ムリっ、も…、マジ、やめっ…」
「うそうそ。身体はそんなこと言ってなーい」
「や…っ、てめ…ほんと、…た、タチ悪ぃっ…!」
 「」が怖がっているのは本当だろう。けれどもう身体は弓のように反って、その内側も「銀時」を決して離そうとしない。
「だいじょーぶだよ。怖くないよ、てばなしちゃってもへーきだよ銀ちゃん」
 手放すのは意識か、それとも理性か。身体ごと「」に突っ伏すようにおかっぱ頭を抱いてやる。耳元で絶えず声をかけ、こわばる身体をなだめてやった。
「あぁっ、あんっ、あ、あああ…っあっ」
 予兆が「」の肌に現れた。「」の一番好きな場所を一番好きなものでこすってやる。ほとんど息もしていないのに軽く動く「銀時」の身体が便利だ。
 ぐり、ぐり、ぐり、ぐり、と腰を送るたび、びく、びく、びくっ、びくぅっ、と「」が跳ね上がる。自分の動きに忠実に応える銀時がはいとおしくてしかたがなくなった。
「いいよ、銀ちゃん、もうイキそうでしょ?いいよイっちゃえ。こう?これがいい?」
「あ、ひ…っい、いいいっ!」
 ………っ!


 その瞬間に声など出なかった。
 「銀時」が眉をしかめるほど、ぎゅうっと強く爪がくいこんだ。とっさに「」が「銀時」の胸へ顔を伏せる。
 けれどその下で自分の顔が、だらしなく意地汚く溶けて、絶頂を貪っていることをは誰よりもよく知っている。
 大きく小さく、何度も「」が身体を震わした。
 「」を捕らえ、深く沈めた水がひくのを、は気長に待ってやった。


 やがて、また、ゆっくりと腰を動かそうとして、「銀時」は胸にほんのわずかな抵抗を感じた。
「ん?」
 「」の手が力なく突っ張って、「銀時」を押し戻そうとしている。
「も…、無理…」
「まさか。なに言ってんの。すぐによくなるよう」
 薄く開いた「」の唇にはたまらずかぶりついた。
「またすぐ次イケるからね、すぐだからね」
「ばっ、ばか…すぐに、こん、な、すぐ…んっ…は…っ、あ、うんっ、ん、んふっ…」


 確かに「本人」の言うとおり、「」の声音は休む間もなくなまめいた。










 お江戸はかぶき町の片隅にこじんまり営むだんご屋がある。
 構えは小さいが人気の店だ。その日も朝から大繁盛。くるくる働く看板娘が新たにやってきた客へ、大きな声を張り上げかけて…代わりに表情を和らげた。
 来訪者は客ではなく身内だ。それも最上級の近しいひと。
 この店の用心棒も務める、の大事な大事な人だった。
「いらっしゃい銀ちゃん!今お店いっぱいだから、奥に行っててくれる?」

 ところがいつもオーナー気取りで偉そうにふんぞり返っている銀時の様子がなにやらおかしい。
 死んだ魚の目をした顔が、を見るなり熱湯に突っ込まれた温度計のように、下から上へ赤く染まった。焦って、困った、泣きそうな顔が、けれども同時に、に助けを求めているような。

 大きく一歩近づいたが、自分よりずっと高くにあるくしゃくしゃ頭に手をのばした。
「どうしたの銀ちゃんどっか痛いの?」
「あ、ああ…、うん…あぁ…」
 人前ではいつも恥ずかしがって鬱陶しいと払うの手に、撫で回されても銀時はおとなしくされるがままになっていた。

「うふふいい子いい子。プリンあるからね、中で食べなね」
「…あい」


 消え入るように言ったきり、真っ赤になった顔が上げられない。
 あの後いったいどれほどの目に遭わされたのか。









リクエストありがとうございました!
N様から「ヒロインと銀さんの体が入れ替わっちゃうお話」でした!
一緒にリクエストいただいた銀さん攻め成分も少々…。