<<< 風邪ひき銀さん続き
今度は足が、すうすう涼しくて目が覚めた。布団はかぶっているものの、寝間着はおろされどうやら下着も脱がされている。
ということは…と右足を上げるとなんなく動く。やはり足枷は外されていた。二の腕、肘、その少し下で両腕をがっちり縛めた太い革ベルトはそのままだったが。
薬のあとのひと眠りが効いたか、身体はずいぶんと楽になっていた。頭痛も今はなりをひそめたし、熱をはらんで霞んでいた目も嘘のように冴え冴えとしている。
ただ、風邪の気だるさとは異なる刺激が、せっかく目覚めた銀時の頭をふたたび朦朧とさせていた。
下半身のごく一部がやたらと熱い。しっとり湿った温かい場所に銀時自身が包まれている。へにゃへにゃと力の抜けてしまいそうな、けれどもとても心地よい…
熱く濡れそぼったの中。
露わに剥いた銀時のものを、の口が一心に慰めていた。
「…こらぁ。なんてもったいねーことしてくれてんの?」
そーいうことは銀さんが起きてる時に始めなさい。
足の間にがうずくまっている。掛け布団越しのその声は、早くも蕩けかかっていた。
「銀ちゃん…すごいよぅ?とーっても元気…風邪でもここは関係ないんだね」
「…バカ」
銀時からは山なりに盛り上がり、もぞもぞ揺れる布団しか見えない。が、その中。自分の股間に居るのことは見るまでもなく目に見えた。
両手でそれを包むように支え、は猛った肉の先端をすっぽりとのみこんでいる。棒をくわえた唇は強弱をつけてすぼんでは弛み、裏側には舌をちろちろと這わせた。
下腹部に触れるさらさらの毛先がこそばゆい。いつものようにその髪を撫でてやろうと手をのばしかけて、銀時は拘束された両腕に気づいた。
「なぁ?」
「………」
返事に時間がかかるのは、よだれをすすり上げながらでないと口が離せないからだ。
ほどよい重みが身体の上を這い上がり、布団のきわからがひょこりと顔を出した。
「なぁに?」
「なぁこれ取って。銀さんにもさわらして」
「だーめぇ」
残念でしたぁ、とでも言いたそう。にぃっと白い歯を見せた悪戯っぽいの笑みが、今だけは淫魔のたぐいに見えた。
近づいてきたその唇から、銀時はなぜか顔をそむけた。唾液より粘度のわずかに濃い、透明な液で濡れ光るの赤い唇。のものならどこの汁だろうと甘露だが、自分の先走りなど舐めたくもない。
「だーめ。ちゅーするのぉ」
「ちょ、うぇ…」
に頭を抱えられ、否応なしに唇を合わされる。伝わる苦味に顔が歪んだ。
だがその一方の指が下半身へと伸ばされると、途端に「そこ」以外のことはきれいさっぱり頭から消えた。男の性感はなんとも即物的だ。
体調のせいか薬のせいか、感覚はいつもより鈍い気さえするのに、種の本能とやらなのかの言うとおりそこだけは元気がいい。男根は既に天を向き勃ちあがり、わずかな刺激にも反応した。
裏側をそろりと撫でられては腰が浮く。濡れてぬめった先端をくすぐられては身体が震える。
情けなく喘ぎ声が漏れそうなところを、と話して誤魔化した。うわずる声はこの際仕方ない。
「こ…っ、こらこらこら…銀さんこれでも、病人だよ?…なんつー仕打ち、してくれんのぉ…?」
あながちその場しのぎでもない。軋むベルトは火照った腕に今もって食い込み続けている。
「なぁ、なんにもしねーから」
「やぁだ。銀ちゃんこわいもん」
「怖いってなー」
「こわいこわい!」
ふふっと笑い、がふざけて布団へ潜った…とほぼ同時だった。
はくっ!と銀時は息を飲んだ。
それきり銀時のよくしゃべる口が、ぱくぱくとしか動かない。
「…ぁ、あっ、あのな…っ、…は、あ…、、こら…っ…」
ぞぞぞぞぞっと全身の毛穴が震えたつ。が大きく、大きく口を開け、噛みつくほどの激しさで銀時を根元までくわえこんでいた。じゅるーっときつく吸い、絞り上げる。先端まで吸い上げ口を離すと、きゅぽっと音だけは可愛らしく鳴った。
「ね…」
またぱくり。喉の奥につかえるほど深く飲み込む。その内側とも変わらない、同じくらいに熱くなった指が、幹を締めつけゆっくりとしごいた。
背骨を走り抜ける悪寒と頭をかき乱す快感に耐え、銀時は必死に息を逃した。それでも時々の舌に思いがけない場所を責められ、びくんと腰は高く浮いた。
くんとのけぞり喉をそらす。のどぼとけはずっと震えている。荒い息を吐くだけは自分に許した。それまで我慢しようとすれば、逆にあんあんみっともなくよがることになってしまう。
と違って銀時には譲れない面子というものがあるから、がいつでもしているさせられているように、そうそう恥も外聞もなく、あられもなく声など上げられないのだ。
「きもちいい?」
「…ん」
「ねぇ!」
言葉を濁す銀時に、焦れたがぎゅううっとお仕置きをした。どこでやり方を覚えたんだか痛みを感じるぎりぎりまで強く、ごしごし乱暴にしごき上げられ銀時の目はくるくる回る。
「ああ!ああ、イイ、イイってっ!ちょ、もう、お前なー!」
「もう、どくそでそう?」
「は?どく?」
眠る前に言ったことなどすっかり忘れてしまっていた。そうか「毒抜きしてくれ」とそういえば言ってから寝たんだったか。
深い深い息をまた逃がし、銀時はどうにか呼吸を整えた。
「あー…はいはい、降参。銀さんもうやべぇ…。出していい?」
「降参」というのが気に入ったらしい。またのそのそと顔を出したは、誇らしげに銀時を見下ろした。褒めて頭をなでられた時と同じ顔をしてにんまりと。
「…うん。出して」
ところがその目はすぐに逸らされ銀時を見ない。伏し目がちの視線はうろうろと泳ぎ、頬に突然差した赤みが見るまに顔中へ広がっていく。
「ん?」
「うん…出していいけど…」
布団の中ではもじもじと身をよじっていた。かさりとももをこすりあわせる小さな衣擦れの音がしていた。
はどこでもない一点をじーっとじーっと長いこと見つめ、やがて何かをふっきると思いきった実力行使に出た。
「おおっ?!」
のしっと身体を押さえつけられ、そそりたつ自身をまたがれた。
いつ入ったのかも分からないほどスムーズに、気づけばの違う口に、銀時は深く飲み込まれていた。
「は…あ、あっ…は…」
口だけで、浅く細かくが息をする。身体の繋がった瞬間、世にも嬉しそうに笑った顔が、銀時の目には焼きついていた。
「あ…、あは。いっしょでしょ。どこにだしても。の中に、出して、ね…」
「風邪うつってもしらねーぞ」
「今さら」
快感に眉を寄せながら、ころころ鈴を鳴らすように笑う。そんな時でもが浮かべるのは、あどけないとも言っていい笑みだ。
互いの視線がからみあった。ごくんと唾をのみこんだのは銀時とのどちらだったか。
の言うとおり、「今さら」だ。
真下から自分を貪る銀時を、扶けてが腰を揺らした。ぐちゅぐちゅと水音だけがいやらしいのは、ぎゅっと握ったこぶしを噛みしめ懸命に声をこらえているから。んっ、んんっ、んっ、とせつなく短いうめき声が断続的に耳をついた。
銀時にはそれが不満でならない。この手が動けばそんな邪魔な手、今すぐここでひねり上げてやるのに。
「なんで、?なんで、口、とじてんの…っ」
「あ、だ…、だって、だめ…、声…出ちゃう…」
規則正しい上下運動。腕の支えのない、腰だけの細かな動きでも、を昂ぶらせるには十分だった。時々を跳ね飛ばす勢いで、ぐいっ!と激しく突き上げてやると、深い底まで犯された身体は悲鳴を噛み殺しきれなくなった。
「やっ!あんっ!だめっ、出…、出ちゃうよっ…声…」
「出して」
「だめぇ…今日は、はいいの、銀ちゃんに、してあげ…あっ、あっ、やっ、だめ、それだめ…だってば…」
「銀さんが、おめーの声、聞きてぇの」
「ああっ、だめっ、ちが、ちがうのっ、銀ちゃんがきもちよく、なんなきゃ、だめっ」
「聞き分けねーなもー…」
けれど、思っていたほどには銀時の方にも余裕はなかった。
「あーダメだもたねぇ。わりぃ、…」
「ん、いいよ、銀ちゃんの、いきたいときにいって…」
うすく細めた目が微笑んでいる。すぐに目を閉じ、手をついて、無心に腰を振り始める。
「んぁ…っ、あっ、出る…?出ちゃう…ね、もう、出そう、ね?でしょ…?」
「…へぇ?…わかんの?銀さんイキそーなのわかるんだ?」
うなずくはずみに毛先が揺れる。銀時にもわかった。の中が熱く狭く苦しい。
「んっ、…もっと、動いて」
「は…、こう…?」
「そ。もっと…」
「ん…」
背をそらしそこをなすりつける。のけぞる喉、うなじから肩、くびれた腰から尻へ、腿へ、の身体が幾通りにも流れる曲線を形づくった。身体の線がねじれるたびに奥へ奥へと呑みこまれ、銀時は追い詰められてゆく。
そして目を閉じ、歯を食いしばる。
の中へ毒を吐きだす瞬間、眉間の皺はひときわ深く刻まれた。
中のものはぐにゃりと萎れたけれども、かろうじて身体はまだ繋がっている。ふたりともしばらく動く気はなさそうだ。
「…出たね、毒」
から静かなため息がもれた。自分だけ終えてしまったことをきまり悪そうに銀時が見上げたが、もとろんと眠たそうな、すっかり満ち足りた顔でいる。
やがてもたもた頼りない指がベルトをひとつひとつ解きはじめた。すべてほどいて銀時の身を自由にすると、はその胸にぺたんと倒れた。
ずるりと抜ける瞬間は、銀時もも、いつも名残惜しい顔をする。
「…あっ!」
「えっ?なに?!」
飛び上がりそうなの声に、一体何事かと思えば。
「もっと銀ちゃんいじめればよかったんだぁ…」
「はぁぁ?」
「いかせてくださいって、銀ちゃんが泣いて頼むまで、もっともっと焦らしてあげればよかった。いつも銀ちゃんがにするみたく」
「…ばーか、なにいってんの」
そうとは知られないように懸命に息を整えて応えた。
「…おめーにゃムリにきまってんだろ」
「そーかな」
「そーだよ」
そーいうことにしておかなければ。
「挿れたらすぐによくなっちまうくせに」
声にあえて嘲笑を含ませると、ぴくんとが肩を震わせた。
そしてほんの少し頭を持ち上げ
「えへへー。実はそうなのー」
屈託のないはにかみ笑いにはこっちがどぎまぎさせられる。そこで正直になれるが、銀時は心底羨ましかった。
の頭がふたたび落ちた。すべすべの頬が甘えて銀時の胸板を撫でる。
「ぎゅうってしていいよ」
「なんで上から?」
思わず鼻で笑いながら、それでも銀時は腕を上げた。長く血の巡りをせき止められて、腕の痺れがなかなか消えない。邪魔なベルトを布団から放り出すだけでひと苦労だった。
「…ったく覚えてろよコラ。次コレ絶対おめーに使ってやっからな〜…」
「んー…いいよぉ…。でも…もういっかい寝なきゃだめよう銀ちゃん…」
どこかろれつのあぶなっかしい、寝息に変わる寸前の声。
それを最後のひと言に、胸に感じる重みが増した。
毒という毒気を本当に抜かれてしまったらしい。身体を侵していた毒と、それから。
銀時の頭にいつでも回っている毒まで。
恥ずかしながら妙に清らかな気分。悪戯も意地悪も今はしたいとも思わない、ただただに触れていたくて、言われたとおりにぎゅうっとした。
残念。
せっかく自由にしてくれたのに、に意趣返しできるのはしばらく先になりそうだ。