素肌にたった一枚の柔らかい浴衣を巻いただけ。
 なのに身体は芯まで温か。
 ただしそれがこの布団の中限定の天国だとは知っていた。

 なにもかも雪に吸い尽くされて、あたりにはなんの音もない。自分の寝返りうった衣擦れがやたらと大きく聞こえるほどだ。
 傍らに寝る銀時の胸板にはすり寄った。くっつけた頬からじんわりとぬくもりが肌を伝わってくる。
 布団の温かさのほとんどは銀ちゃんの熱さだとは思った。向こうは向こうで「コドモの体温は高くてイイ」などと意地悪く言うのだが。

 大きくはだけた胸元からじかにほおずりしていると、横からぬっと伸びてきた手に頭を抱え込まれてしまった。
 銀時も起きていたらしい。されるがままに小脇に抱かれ、は小さくつぶやいた。
「…なんか落ち着かないね」


 ここは静かで、それにとても暗い。夜っぴて明かりの射し続けるかぶき町の部屋に慣れた身体には、夜が暗いという当たり前のことが違和感になってしまう。
 昼間は観光地の賑わいにすっかり目をくらまされていたが、ひと皮めくれば実はこの街は辺鄙な田舎でしかなかった。

 無性に寂しさがつのり、は銀時の胸に突っ伏した。
 こんなに近くて温かいのに。何がいったい寂しいんだろう。
 自嘲の笑みを浮かべながら。

 銀時も同じ気持ちなのだろう。こちらはを鼻で笑う。
「なに」
 気にせずはもっともっとと埋めた鼻面をこすりつけた。もっとぴったり多くの面積で触れていたいと思ったら、身体をどんどんよじのぼり、ついには銀時におおいかぶさり上へ寝そべる姿勢になった。

「…好き」
 うっとりとそう口にして、自分の重みを心おきなく、残らずずっしり預けてみる。小柄な娘ひとりとはいえ、そこそこふくよかなが乗っても少しもこたえないくらい、下敷きにした身体はたくましい。平気でに敷かれたまま、そのうえもっと身をゆだねるようしっかりと抱きしめてくれた。

「なんだなんだ急に?ああそーか真っ暗で怖ぇんだろ。へへっ、だらしねーなァ。いつも銀さんがオバケ怖がんのさんざんバカにしてるくせによォ」
「違うもん。なんにも怖くなんかないよ」
「えぇぇ〜?どーだか…」

 なお茶化そうとする口には唇で封をしてやった。
 「好き」「好き」ささやきながら口づける。ぽってり厚みのある唇を思う存分味わってやる。
 唇を合わせやがて離し、角度を変えては深く重ねた。逃がさないよう手のひらでしっかり頬を挟んでいると、銀時を無理矢理犯しているようで不思議にどきどきした。

「好き…」
「ああ」
「大好き」
「うん」
「銀ちゃんは?」

 告白に酔って潤んだ瞳で、は熱っぽく銀時を見つめた。
 冗談で煙に巻かれるのならそれもやむなしかと思っていたが、意外にも銀時は真下からを同じだけまっすぐ見ていて、その目は笑ってはいたものの、決してふざけてはいなかった。
「そーだなぁ…」
 声も穏やか。肌から骨の髄へ染み渡り、ふにゃふにゃと腰がくだけそう。
 それは低くて甘い甘い、の大好きな声だった。

「そーだなぁ。おめーが銀さんを好きで好きで好きで、まわりの連中がどん引くほど好きで。好きすぎてどんなコトやらかしても俺ァ別段気にしねぇから、おめーは好きなだけ好きなよーにやんな」



 回りくどさに真意をはかりかね、はきょとんとなってしまった。
 けれども丸くした目の先にはいたずらっぽく崩れた顔が。
 それを見るうちようやくじわじわ胸に何かがこみあげた。
「銀ちゃん…」

 うん。銀ちゃんをしんらいして、好きなだけ好きなよーにさせてもらう。






 が動いてまくれた布団を銀時の手が引き上げてくれた。冷えないように肩の上まで。汗がこもった布団の中はさっきよりも温かいが湿っぽい。
 きりがない口づけをさえぎられ、身体をわずかに撫で上げられる。促されるまま前へずれると銀時もの懐へ身体を滑り込ませてきた。重力にまかせぷるんと落ちた胸がちょうど目の前へくるように。

 揺れるふくらみをそっとしゃぶられた。
「ん…っ…」
 突起をやんわり口に含まれ、先端を舌に遊ばれる。ちろちろと思わせぶりな刺激に、頬を染め、眉を寄せ、はぞくぞく腰を震わせた。
 肌にうっすらと汗がにじむ。
「暑い?」
「ん…熱い…」

 腰を撫でられしびれが走った。きゅんと下半身が縮みあがり、は懸命に身をよじった。
「う…、うぅ…、くぅん…」
 喉の奥からは甘いうなり声。その反応に気を良くしてか、股間へ指がしのばされる。
 銀時をまたぐのに大きく広げて、寝間着はすっかり裾もはだけていた。あらわになった内腿を撫で、さらに奥へと伝い、なぞる。茂みをかきわけその指はの中心を探り当てた。
 銀時がとても嬉しそうだ。
「ああ。こりゃ熱いわ」
「んんっ、やだ、もぉっ…」
 曲げた中指がくちゅくちゅと、濡れた割れ目をなぶっていった。


「銀ちゃん…。銀ちゃん大好き…」
 入り口を弄ばれる感覚に頭のほとんどを持っていかれて、吐息のようには漏らした。
 自分の匂いに銀時を染めようと、そんな風にも思えるほど、キスというより唇の周りをべたべたになるまで舐めまわした。

 銀時がくすぐったそうなのは顔中を這う舌もそうだが、そのやり方が自分のするのとまるで一緒だったから。
 先にを染めたのは自分。他の匂いを混ぜた奴もいない。

「はふ、もっと…」
「ん?こうか」
 機嫌良く銀時が応え、深々と中へ指を挿れる。
 けれどもは首を振った。
「ううんもっと…」
「あ?」
「銀ちゃん大好き、…ってもっと言っていい?」



 「駄目」と言われるとは思わなかったし、言われたところでやめるつもりもない。返事も待たずには言った。
「好きよ、好き、好き」
「…ああ。そんで?」
「銀ちゃん、大好き」
「ん?なんだって?」
「銀ちゃん大好き!」
「へぇぇ。そいつはまた」

 合いの手はどこまでも平板そのもの。だがそれがをほどよくそそのかす。
 自分の声では昂ぶった。
 胸板についていた両手が銀時の寝間着を握りしめ、腰は反り、尻がうんと突き出される。
「ん、んふっ、銀ちゃん、銀ちゃん…っ、あっ、ああっ…」
 何を言う代わりに指が増やされた。2本が中で壁を擦り、もう1本は外側から硬い花芯を押しつぶした。
「あ…、ふぁ、ああっ…あんっ…」
「こらこら。お口がお留守になってんぞ」
「う、うん…」

 熱く荒い息をどうにか逃がし、は銀色のくせ毛を抱え、じっと目を見て何度も何度も。
「好き…。好き好き。銀ちゃん大好き」



 銀時がいたく満足そうに指の動きを早めてくれた。激しくしずくをしたたらせ、手首まで蜜にまみれさせ。
 それは従順に言いつけを守ったへのご褒美のつもりなのだろう。
 けれどもには銀時が、もっと「好き」「好き」に言わせたくて、言ってほしくて必死のご奉仕をしているようにしか思えなくて、もうあと少しであふれそうなほど笑いが喉をせりあがってくる。

 が、危ういところをはこらえきった。




 お江戸を離れたあるお宿。しんしんと迫る山の冷気はふたりの抱き合うその場所だけ、超局地的に和らがされていた。