また寝てた。もう夕暮れだ。窓から射す日も黄色味がかって、がなにげなくかざした手の影は長細く布団をはみ出した。
 あれほど火照っていた身体なのに汗が冷えた今は肌寒いほど。と銀さんは互いの体温を奪い合うように抱き合っていた。

 窮屈なほどにしっかりと抱きしめられた腕の中から、がよいしょと這いずり出た。銀さんはまだよーく眠っていて、の代わりに空気を抱いているのも気づかないようだ。
「ぎーんーちゃん?」
「…んん…んんん…」
 肩を揺するとくぐもった声を返してくれはしたものの。
「ねえ起きようよ。お風呂いこ。もうからだがべったべた」
 それきり銀さんの返事はない。夕日に顔面を直撃されて、眉間に深いシワまで寄せながらそれでも意地汚く寝ている。
「はやく起きないと今度はがイタズラしちゃうぞ〜?」
 は半開きの口にむちゅっとかぶりついてやった。

 離す時きゅぽんと音がするほど強く吸いついてやったのに、それでも銀さんは起きなかった。
 そうかもしれない。夜と朝と昼に無茶をしたから。
 休みといってもなんだかんだと普段は細かな用事があるのに、今日は一日晴れて自由の身。なんの予定もないの休日に舞い上がってしまったに違いない。
「コドモか」
 そのくせ都合の良いところは男。ここで遊ぼうとおねだりする先は動物園でも遊園地でもなく、敷きっぱなしの布団の中なのだ。


 けれどゆるみきった寝顔を見ているとの顔もつられてほころんだ。幸せそうな笑みを浮かべ、くしゃくしゃ頭をそっと撫でてやる。天パにくすぐられた手のひらがきもちいい。
 本人は気に入らないようだが、はこのくせ毛が大好きだ。いつも自分がされているように、髪の中へ顔をつっこんでキスした。

 そしておでこにも。それからほっぺに。
 もういちど唇にもちゅっと。
「えへへっ。銀ちゃんだーいすき!」
 なんで起きないのかな。起きればいいのに。一緒におしゃべりしたいのに。



「ほーら知らないよ、知らないよ。ほんとにイタズラされちゃうよ」
 えいっ!とは一息に、銀さんが申し訳程度に着ていた布団をひっぺがしてやった。
 と同じく一糸まとわぬ身体が明るみにさらされる。
「あわっ…」
 自分がわざわざそうしたくせに、はとっさに照れた顔を覆った。ちゃっかり指の隙間はあけて、そこからばっちり見てもいるくせに。

 その手をおずおず残らずどけて、はなぜだかきょろきょろと、あるはずもない人目をうかがった。そうしてついにまじまじと均整のとれた身体を見つめる。
 以前に比べれば丸みを帯びたが、それでもほどよく引き締まった身体。全身に古い傷痕が残り、ところどころ色の変わった皮膚や醜く引きつれた縫い跡がある。
 それでも、とても「いい身体」だと、熱いなにかがにこみあげた。

 やがて枕元へ手をつくと、はゆっくり身体を屈めた。頬が火照る。視界が潤む。このまま銀ちゃんも知らないうちに、銀ちゃんをめちゃくちゃにしてみたい。
 高鳴る胸を押さえつつ、首筋へ強く吸いついた。

 しかし残念。と違ってそれほど感じないらしい。寝息はすうすう安らかなままだ。
 次にそこから肩へ走る古傷に唇を這わせようとして、ふとの目はずーっとその下へ下りて留まった。
 普段は意識したこともない、分厚い胸板…の頂点だ。
 訊いても「くすぐったいだけだ」と色気のないことばかり言うので、そういうものかともこれまで気にしたことはなかったのだが。

 ためしに指先で軽くはじいてみると
「あっ」
 銀さんの眉がかすかに寄るのを確かに見た。


 その反応に俄然やる気が出た。つついてみたり撫でてみたり。指でつまんでつぶしてみたり。集中的にがそこを責める。
 そのうち色素の薄い突起が、小さいなりにつんと勃った。
 胸板へ頬を寝かせるように、顔ごと寄せてぺろりと舐めた。口に含んで舌をそよがせると、中でいよいよ突起は硬く凝り、いつの間にかのほうが夢中になっていた。

 反対側の突起にも指をのばそうとした…
 そのときだ。

「ん゛ーっ!!」
 突然飛んできた手のひらが、の頭を張り倒した。
 ばしっ!
「んぎゃっ?!」





 銀さんの大きな身体が盛大に寝返りをうった。こちらへ背を向け、のいじった胸のあたりをわしわし癇症にかきむしっている。
 目の覚めたような様子はない。虫かなにかにするように、くすぐったくてついついを無意識に払いのけてしまったらしい。
 布団へ引っくり返っていたがよたつきながらどうにか起きた。
「あいたたた…」
 首が折れるかと思った。


 けれど楽しい。楽しくなってきた。寝ている人にイタズラするのが。なにかにつけて銀さんがにするわけだ。
 あちらへ向いてしまった身体をよいしょとふたたび転がした。仰向けに倒すだけなのでの力でも簡単だった。
 ごろん。
「うわぁぁぁぁ…」
 さっきの手加減なさから言っても熟睡は間違いないだろう。わくわくと目を躍らせて、は存分に目当ての部分を見た。
 次は乳首よりもっと恥ずかしい場所。
 それほど濃くない毛の陰に、今は大きさも控えめなものが力なくぶらさがっていた。


 はゆうべからたっぷりと銀さんにもてあそばれどおしで、身体はへとへと、あそこも痛いほど。もうぜんぜん、まったく、カケラも、欲情してなどないのだけれども。
 明るい日の下で見た「それ」に、自分でも不思議なほどどきどきした。
「もぉ…バカ」
 どちらが。

 もちろん見たことがないわけじゃない。一緒にお風呂へ入ったこともこれまで何度となくあった。明るい下で舐めあうことも。
 なのに初めて見たかのように胸が騒ぐのはどうしてだろう。屈託のない夕陽の波長?それともぐっすり寝ている銀さんがあまりにあけっぴろげにしていて、少しも隠していないから?
「あ、そうか…」
 ひとつ思ったのは、がこんなにも興味津々いやらしい目で見つめているのを、銀さんは知らないということだ。


 しんなりした棒をつまんでみた。根元を持ってぶるぶる先を振ってみる。
「わわ、わわわ、あはは…!」
 ぎゅっと手の中に握りこみ、付け根へ向けて押したりゆるめたり。するたび赤く剥けた頭が見え隠れするのが面白かった。
 続いて竿を持ち上げて、逆の手のひらに袋を乗せてみる。指で外側からやんわり探ると、中にぐりぐり転がるような手応えがある。
「ぷぷ。銀ちゃんのたまたま〜」

 中心に走る縫い目を伝い、やがて後ろの穴へたどりつく。
 いつの間にやらは銀さんの股ぐらへうずくまっていた。やってることはともかくとして、眼差しだけは真剣そのもの。謎を追究する研究者のよう。
 ふむ、と入り口をくすぐってみる。
「ほうほう、ひくひくしてますね!」
 男同士でいたす時にはここへ挿入するらしい。人差し指なら入るだろーか。そういえば前に細いおもちゃは入ったはず。
 挿れたらきもちいいのかな。挿れちゃおーかな。朝のお返しだ。
 「目が覚めてみると犯されていた」
 というあの感じをぜひ銀さんにも、一度味わわせてやりたくて…。



 しかしそのあたりで、は頭の上へちりちりとふりそそぐ不穏な圧力を感じた。
「………」
「………」

 言いようのない不安に顔を上げると、銀さんが首だけを起こし、じぃぃぃぃぃっと自分の股間を…すなわち、の所業を眺めていた。
「………」

 まさしく死んでいたようだった目が、の視線とかち合うと、にたぁっと歪んだ。
 は青ざめた。
 大変だ。









「あああああああっ!ごっ、ごめ、ごめんなさい!!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」
「は?えっ?なにが?なんで銀さんが怒んの?キモチイイ夢見てるな〜って思ってたらコレだよ。なにこれ最高の目覚めってヤツぅ?」
 銀さんは心底愉しそうで、はかえって絶望にうちのめされた。
 逃げる間もなく足首が捕まり、ずるずる引きずり上げられる。左右の肩にひざを担がれ、つまり広げた股の間に銀さんの顔を挟む格好だ。
 さらに身体を持ち上げられるとの中心が銀さんのすぐ目の前まで近づいた。
「はい、ご開帳〜」
「きゃああああああああっ!いやああああああああっ!ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?」


「お、白いの垂れてら。これどっちの?やっぱ出てたんだなー。そりゃもう勃たねーわ」
 人差し指でそこを広げ、「お礼」によーく観察して聞かせる。
 声は弾んでいた。
「あーららぱっくり口開けちゃって。奥まで真っ赤っ赤になってんぞ?感覚ある?これわかる?」
「わっ、わか…、わかる、わかんな…、もももももうやめ、やめてよぉぉぉっ!」
 入り口へ舌を突っ込まれた。びくりと腰が浮き上がったが、そんなことより
「やっ!だめだめだめきたないったら!」
 今からお風呂と思っていたくらいなのに。

 必死になって腰をよじると面倒くさそうに押さえつけられた。身動きできなくなったのそこを好き放題に銀さんがしゃぶりだす。大きく開けた口で全体をぱっくり食べるように。ずるっじぷっずるるっ、と聞こえよがしに卑猥な音をさせて。
「うほ、やーらけぇ。よーくほぐれてんなァ」
「あふ、や、ああんっ、やだぁっもぉぉっ…!」
 一応の両手は空いている。けれどその手で恥ずかしい場所を隠せばいいのか、いたぶる声が聞こえないように自分の耳を覆うべきなのか。

「ひっん?!」
 動かないはずの腰が跳ねた。
 違うところに指が一本。
「やああああっ?!ちょ!やだっ!やだやだしないで!しないでしないでっ!」
「えぇぇ〜?だっておめーふしぎそーに銀さんのイジってたじゃん。そりゃ身をもって体験しねーと」

 芯をつつきだした舌に気を逸らされ、けれど一方で逸らしようのない後ろの異物感にも苛まれ、「体験」どころの話ではない。
「いやいやいやだめっ!ああああっ!ごめんっ!ごめんなさいもうしないぃぃ…っ!」



 ひとつだけ骨身に沁みたのは
「もうしない…っ」
 銀ちゃんにイタズラなんかしない!

 は涙目で心に誓った。