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 銀時はを和室に連れ込むと、後ろ手に襖をぴしゃりと閉めた。
 捨て台詞ひとつだけ残し。
「オカズにすんのぁ許してやらあ。そこで聞いてな。沖田クン」



「はー?」
 の口が思わずぽかんと開いた。何を考えているんだろう、この酔っ払い。
「冗談じゃないわよ!バカじゃないのっ?ばか、ばか、ばーかっ!」
 けれど精いっぱいの怒鳴り声もばかばか、ばかしか言えていない。自身あまりに芸がないと思った。
 ひとを罵ることに慣れていないもので、相手をぐっさり傷つけて的確なダメージを与えられて、なおかつ上手い言い回しというのがこんな時とっさに出てこないのだ。
「ばー…っっっ」
 唇にかぷりとむしゃぶりつかれ、それすら簡単にふさがれてしまった。

「ん…んん…っ」
 両肩をきつく掴まれ身動きもできない。遠慮のない舌が口の中をくまなく舐めまわし、熱い息が吹き込まれて苦しかった。
 送り込まれる銀時の唾液は濃い酒の味がして、飲めないはそれだけで気が遠くなりそうだった。

 ぐちゅっ、と大きな音をたて、唇がようやくから離れる。けれど息つく暇も与えられずに繰り返し唇は合わされた。何度も何度も角度を変え強弱をつけ。
 は溜め息にみせかけ息を逃した。誤解されるような声を出すわけにはいかない、まだそこに総悟がいるかもしれないのに。うっかり何か聞かれでもしたらこの次店で顔を合わせる時に、どれだけからかわれることやら。他の客にも大喜びで言いふらされてしまうかも。
 悪い子じゃないのは知っているけれど、なにせ加減というものを知らないのだ。周りの大人が甘やかし過ぎてきちんと叱っていないのだと思う。
 銀時だって総悟のそういうところを知らないわけじゃないだろうに。
 それなのに、銀時はの唇に頬に執拗に口付け、一向に止めてくれる様子もない。
 耳の側へ唇を寄せ、反対側の耳たぶをそのうち抓み、遊び始めた。指は時おり気まぐれに、つー…とあごの線をなぞり、うなじを下りて、また耳へ戻った。

 こっそり内緒話をするように言う。
「なぁ、沖田君がそこで聞いてるよ?」
「わ、わかってんなら、やめなよ…っ」
 意地を張って返すけれども身体は正直に強張っていた。耳も首も触られるのは苦手だ。触れるか触れないかの刺激にも声が漏れてしまいそうになる。今もこうして耳元でささやかれただけで、かすかにかかるその息だけで、背中までぞくぞくと震えが走り止まらない。
 しかもその上銀時はついでだとでもいうように、そのままの耳をしゃぶった。中まで舌を突っ込まれると、水音はぴちゃぴちゃと実際以上に大きく響いて、その「音」にもは感じてしまう。
「ん…ふっ……」

 力の抜けた隙を見て、帯がひょいひょいとほどかれていく。いともたやすくあっという間に。の紐結びにはクセがあって、解く時には自分でも時々苦労するのに。
 とすん、と重たい帯が足元に落ちて、やや楽になった襟元がよりたっぷりと広げられた。
 露わになった鎖骨を吸われて、痛みには身をよじる。痕を残されたら困る。
「だめ…よう、このあとお店に戻るの…っ」
「ん、じゃあ、それはしねぇ」
 それ「は」ってなにー!?

 きつく吸う代わりに首筋をぺろりと舐められた。これなら文句はあるまいと言いたそうだ。一つ譲らせた手前、確かにこれ以上文句は言えない。確かに。
 けれども舌が這うたびに鳥肌がたつ。
 背骨を走っていた震えはやがて腰に。そしてつま先にまで。
 足ががくがくと震えてしまって立っているのもつらくなった。なぜだか肩が痛むと思ったら、足からも腰からもすっかり力が抜けていて、肩をつかんだ銀時の手がやっとのことでの身体を支えてくれているのだった。

 やがて身体の奥が熱く、潤ってきたのがわかった。
「…やっ、ちょっと…」
 とろりとあふれ出すものを、受け止めてくれる布をは身に着けていない。粘度の高いひとしずくが腿の内側を伝い落ちた。
「だめ…、待って……」
 不意討ちに耳を舐められて、身構えていない身体はたやすく快感に流される。
 ぶるるっ、と駆けぬけた強烈な痺れにはとうとう音を上げた。
「もうっ…それっ、だめえっ…!!」



 くたりと膝を折り、うなだれて息を整えるを、横たえて銀時が足の間に陣取る。まくりあげた裾から頭を突っ込み、迷いなく太ももに顔を埋めた。
「あ…ん、やぁ…、やだぁっ、銀ちゃん」
 内腿に残る、粘液の流れた名残の筋を温かい舌が舐めあげた。舌は道筋を躊躇なくさかのぼり、腿の付け根にたどり着く。
 そこに唇が触れたとたん、びくんと反射的に閉じかけた膝をしっかりとつかまれ広げ直された。
「いっ、い…はっ、いやっ」
 割れ目に満ちた蜜が吸われる。時々吐かれる銀時の息が、敏感な部分をふわりとくすぐった。
 口に含んでは転がされ、指で剥かれて舌先で優しくつつかれる。声をひそめることもいつのまにか忘れていた。
「んくっ、だめっ、それェ…だめぇ…」
 口先だけは制止しながら、早く銀時が下着を脱いでくれないか、本当はこっそり待ち望んでいる。
 おもむろに顔を上げた銀時にの胸は期待で膨れた。ところが。

 ところがベルトを外しただけで、銀時は先に襖へ手を伸ばした。
 何をしようとしているのか、察してが青くなった。
「やめてっ?!ちょ、ねぇ銀ちゃんやめて!イヤっ!」
 追いすがっても遅かった。
 ぱん、と襖は開け放たれた。
 銀時が身を乗り出して、向こうへおかしそうに声をかける。

「ヌいてもいいけど床汚すんじゃねーぞ」
「あ…っ、アンタなぁ!」



 総悟の声だ。沖田さんいたんだ!!ふわふわ浮き上がっていた気分が一瞬にして地べたに引きずり落とされた。
 胸にぎゅうううっと重たい物が渦巻いて、吐き気がしそう。
 あろうことか銀時が襖をそのままにしようとするので、慌ててはぴしゃりと閉めた。
「………」
 温度のわずかに下がった目がを黙って見下ろした。
 銀時が襖をまた開けて。
 が閉めた。

 ぱしんっ、とやや乱暴に、さらにもう一度襖を開けられると、はそれきり動けなくなった。
 もう一度が逆らえば、きっと怒らせてしまう。それは怖い。
 すくんだに銀時は満足げに頷くと、襖を開けっぱなしにして、敷きっぱなしの万年床にを引っ張っていった。



「聞かせてやれって」
「無理よう…っ」
 寝かされて両足を抱えられても、総悟の方が気になっては気が気でない。銀時に挿入された時も心ここにあらずだった。
 それを見た銀時が悪趣味な悪戯を仕掛けた。
「ほら、我慢しない」
「きゃあああっ指っ!どこに挿れてんのバカあっ!」

 はずみで出かけた嬌声をは懸命に飲み込んだ。
 口を閉じるだけでは絶対に足りないと、息を止め喉の奥まで閉めた。んぐっと大きな唸リ声になってしまったけれど喘ぎ声が聞かれるよりはいい。
 両手で口も押さえたかったが、その手は銀時にひねられて頭の上へまとめてはりつけにされた。
 体ごと揺すぶられ、ぐいぐいと熱い塊をねじ込まれる。えぐるように続けて打ち付けられる。
 努力も空しく、ついに小さな叫び声が弾けた。
「ゃぁっ…」

「あぁんっ、だ、だめぇっ…もう…、んんっんゃっ、や、やはっ…」
 一度行き場を見つけた声は二度と止まらなくなった。銀時が目線を襖の先へ。その視線をが追いかけたのを確かめて、また耳元へ内緒話。
「まだいたよ?」
 ひくっとの奥が反応した。
「お?すげぇ締まった。意識しちゃってんの?やーらしー」
「ば、ばかぁ…っ」
 かあぁぁぁっと首まで赤くして、懸命にが首を振った。違う違う違う違う。反応したのは声の方。ささやかれた銀時の声に。なのに。
 滲んでしまった涙を銀時が嬉しそうに吸い取ってくれた。この人はを泣かすのが本当に好きだ。

「銀さんのこと嫌いになるだろ?」
 は真正面から銀時を見つめた。
 わかってて訊くんだから。何をされても絶対嫌いになんてならないし、冗談でも「キライ」だなんて言ってやらない。
「……………好き」
 一瞬だけたじろいだ顔をして、けれどもすぐに銀時はにやりと笑ってみせた。
「好き…、大好き…」
 口がきちんと閉まらなくて、蕩けてしまったの語尾を気分よさそうに聞いている。

 銀時はの足首をつかんで広げた。に自分自身の姿態を見せびらかすように、なぶるように腰を前後させる。顎を引き気味にしているのは繋がった部分をじっくりと眺めているせいだ。
「ああんっ、あっ、やぁ…っ」
「こんなことされても?」
 泣きそうな目でが大きく頷くと、今度はにっこりと優しい笑顔を見せてくれた。
「んー。いー子だよ」
 こんな格好でもそうして褒めてもらえれば、は素直に嬉しかった。





「じゃーさ、名前、あいつの。呼んでみねぇ?」
「………………」
 …バカじゃないの。

 口の中でつぶやいただけのはずが耳ざとく聞かれてしまっていた。
「やーっ、うそっ、うそ、ごめ…っごめんなさいっ、しないでっ、し…っ、いやあぁぁんっ」
「ほら、サービスしてやりな?仲良しの、ともだちなんだろ?」
「む、無理ぃ、むりっ、むりようっそんなのっ」
「あーそう」
 の予想した通り、中のものが取り上げられそうになった。
「あああっやだっ、やだぁっやだあっ!」
「言わねぇならこのままやめちゃうよ?」
「ん…っ」
 は情けなくてまた泣きそうだ。いつだってそれで何でも言うこときかせるんだから。


「………くん」
「ん?」
 聞こえるか聞こえないかの小さな声では許してくれる気はなさそうだった。腰を引かれて先端だけで、焦らすように入り口をかき回される。もう、どうにでもなればいいと思った。
「そー…ご、くんっ!」
 言ってしまうと、次からは不思議と抵抗もなくなった。

「んっ、んんっ、あんっ、そ、……ご、君…」
「あっ、ああっ、そうご、君っ」
「総悟君、総悟、くぅんっ…」

「ふ…あっ…銀ちゃぁん…」
 良すぎて名前を間違えたらお仕置きされた。なんか変。普通は逆じゃない?
「あんっ、そ、そー…、そ、ごくんっそうごくんっ」

 銀時の動きが小刻みになり、を着実に追い詰めていく。
「そうご、くんっだ、だめっ、んんっ、、もう、いっちゃ…」
「おー、ちゃんとイけるんだ?それで」
「やっ…、ん、だって…」
「違う男の名前呼びながらでもイけるんだ?お前怖いわー」
「やだぁ…」
 やらせておいて何言うのこの人。わかってるそれが言いたかったんだ。そういう趣向だ、もうわかった。
 はそれでも銀ちゃんにされるのが大好きで大好きでどうしようもなくて、逆らえずにいっちゃえばいいんだね?


 両足を肩に担がれて、ぴったり二つに身体を折られた。自分では自由に動けないし、胸が不自然に締め付けられて息もできないほどに苦しい。
 でもこれ以上ないほどに深くつながることができる。銀時の顔が近いのも嬉しい。恥ずかしいけれど嫌いな姿勢じゃない。

「ねー…、ねえ、、もう、いっちゃう…」
「んー?そーご君て言いながら?イっちゃうのお前」
「だって、もう…、もう、がまん、できないよぅ…」
「そこで聞かれてるかもしんねーのに」
「だって、だって…、も…、だめ、ねー…、いかせて…お願い」
 しょーがねーな。にんまりと笑った顔は世にも得意げだ。
「お前顔赤い。酔っちまった?」
 ああそうか、そうかもしれない。は酔っ払ってしまっているのか。だからか。だったらしょうがない。
 は銀時にしがみついた。ただでさえ近い頭を抱き寄せると、クセのある毛先が思うさま頬をくすぐった。
「は…っ、あ…、ね、、もう…」
「ああ、こう?」
「ん…っ」
 中で窮屈に膨れ上がったものが、激しく突き上げを無我夢中にさせる。切なげに裏返った声が訊ねた。
「ね?まだ?まだ、そーご君て、言う?」
 銀時に笑われた。お許しが出たのだと思った。


 どちらの名前を呼びながら落ちたのか、はよく覚えていないけれど。
 銀時の顔を見ていれば多分。










 腰紐一本でかろうじて襦袢は身体に巻きついている。ずいぶんな格好だ。こんなになるまでされてしまうとは思わなかった。
 息をきらせてが恨みがましく銀時を見上げた。
「あーあ。もう…、当分お顔、あわせられないよう…」
「いいんじゃね」
 襖の向こうを覗いた銀時はけろりとした顔で戻ってきた。
「なんだ、もういねーわ」
「…ったりまえ、でしょー?」
 普通隣で始まったら出てくだろ。



 布団の上に座りなおすと銀時が手招きをした。
 言われた通りに上に跨り、はまだ硬いままの銀時のものに手を添えゆっくりと腰を沈める。
「ぁ…ふっ」
 奥まで深く侵されて、気持ちよくて頭が馬鹿になりそう。酸素の足りない頭に浮かぶのは都合の良い考えばかりだ。

 だいたい最初から、銀ちゃんは少しわざとらしかったような気がする。
 もしかして沖田さんなんかさっさと帰ってしまってて、ずーっと居なかったんじゃないのかな。
 きっとそう。ぜーんぶ銀ちゃんの大好きな意地悪にきまってる。
 が男の子なんか連れて帰ったから。

「銀ちゃん…」
「ん?」
「ものすごーく怒ってたんだね」

 答える代わりに、笑顔で深く口付けられてほっとした。もう気が済んだようだった。
 は銀時の首にくたりと腕を巻きつけて、身体をすっかり預けきった。もう一度だけ、今度はの好きなように優しく優しくしてもらって。


 そしたら急いでお店に帰ろう。