ぴくぴくと、まつ毛が数回かすかに震え、それから重いまぶたが開く。身体の覚醒を追いかけて、ゆっくりとは目を覚ました。
 身動きもできず窮屈なのは、銀時の両手両足に身体を抱え込まれているからだ。顔は汗ばんだ胸板にむぎゅうと押さえつけられて、満足に息もさせてもらえない。むにゃむにゃ寝ぼけているくせに、腕から抜け出そうとするたび、銀時はをしっかり抱きなおした。
 ベッドを出るのはいったんあきらめ、はかろうじて自由のきく首を動かしてみた。うんとのけぞると高い天井と、大きな窓がさかさまに目に入る。カーテンの向こうはまだ暗かった。

 夜はまだ明けていないようだ。
 じゃあ眠ったのは2、3時間だろうか。


 昨日眺めた窓の外は、途方もなく高い空だった。贅沢なことにこのフロアにはここしか部屋はなかったから、銀時が眠っている今は、辺り一帯100メートル四方に起きているのはおそらくだけだ。
 そんな静けさの中で、ふと鮮明にゆうべの出来事がよみがえる。たちまちの全身がかぁぁっと熱く火照った。顔はもちろん首も手足も、指の先まで茹ったように真っ赤っ赤だ。
 にー、さん、よん。よせばいいのに思わず指折り数えてしまって恥ずかしさにぐるぐる目が回った。たまらず銀時の胸に顔を伏せる。ぎゃあぁ恥ずかしい!恥ずかしいようぅ!
 せめてひとつだけ、もしも昨日に戻れるのなら、せめてあれだけはなかったことにしたい。
 「もう、こーいうことしなくても、と銀ちゃんはいちばんの仲良しなんだしいいかなーって…」
 我ながらよくもそんな寝言がほざけたものだ。
 にー、さん、よん。何度数えようと昨夜演じた痴態は変わらない。ああもう穴があったら入りたい。違う、性的な意味じゃなくて!
 当分銀時にはそのことを、ねちねち蒸し返されるにきまってる。

 ただだって、格好つけていたわけじゃないのだ。そーいうことをしなくても、不満がなかったのもまた真実。
 なんとなく気持ちが噛みあわなくて何もしない夜が続いていたけれど、それでも必ずひとつ布団で寝ていたし、こうして今もされているように銀時に包まれて眠るだけで、は十分に足りていた。
 つきあいはじめのがっついた時期はもう終わり、ふたりの関係ももっと磐石な、次のステージへ進化したのだと。そのへんの安いカップルと違っていやらしーことなんかしなくても気持ちは深く結ばれているのだと、それはそれで自慢にすら思っていたのだ。


 けれどもそんな澄ました理屈、まさに机上の空論というやつだった。ゆうべはそれをみっちり身体に思い知らされてしまった。
 優しく肌を撫で回され、同じくらいあちこち舐められて、なにもかもさらけ出し繋がることは想像以上の快感だった。大好きな人に体も心も尊重されて、密度の濃い快感を与えられた。きっとあれが「愛される」ってことなのだ。
 硬く反りかえった銀時自身を受け入れさせられたその瞬間、背筋をびりびり貫いた電流にの頭は真っ白になった。
 とっさに心配したとおり、鬼の首でもとったかのように笑われてしまいはしたものの、言わせてもらえばそれを境に銀時の様子もころりと変わった。それまでどこか遠慮がちに、おそるおそるに触れていたのが、晴れて自信を取り戻したというか、調子に乗ってしまったというか。
 「なぁ、今もしかしてイっちまった?なに?よかったの?そんなに?へぇぇぇぇ?挿れた瞬間イっちまうほど溜まってたわけ?そう?へぇぇぇぇ?」
 「やっ、あっ、あっ、いわ、言わないでぇっ…やぁっ、ご…ごめんなさいっ、っ…」
 責めたてる声に鳥肌がたった。執拗にからかわれいたぶられながら、何度も昇りつめさせられた。熱い飛沫を注がれた時の、本当の意味で胎内を犯されてしまった時の、幸福感は他の何にも代えようのないものだった。

「あ…」
 下腹部がきゅうっと甘く疼きだして、はまた銀時の胸に突っ伏した。





 目は閉じてみたが眠れそうにない。頭の上ののんきな寝息が悔しくて、不意に悪戯心が湧いた。はもぞもぞと身をよじり、抱きすくめられて不自由な腕をなんとか下へ伸ばしてみた。
 もサービスしてあげよう。部屋の暗さに励まされてか、いつになくすることが大胆。下半身を這い降りたの指は、銀時のものを探りあて、興味津々もてあそびだした。
 しんなり垂れて眠っていたそれは握っただけでむくむく膨れた。見る間に血液がゆきわたり、勃ちあがるのもすぐだった。
 握りしめては力を弛め…を繰り返しながら手を上下する。少し強めにしごいてやると、初めは余裕のあった皮膚が、ぴんと突っ張り、張りつめていった。
 を触るときの銀時も、こんな気持ちになるんだろうか。思いのままに反応する身体が楽しくて、はついつい加減を忘れた。

「ででででっ、痛い痛い、もちっと優しく…」
 くぐもった唸り声に驚かされる。
「あ、起きちゃった」
「上も下も起こしちゃいましたってか?女の子がなんつーはしたないこと言うの」
 起きるなりその下品な言い草はどうなんだろう。



「ねぇねぇ」
 の手はまだ銀時で遊ぶのをやめない。銀時も止める気はなさそうで、けだるい身体をベッドにぐったり投げ出したままだ。
「なに」
がいないあいだ誰かとした?」
「怒るぞ」
「だって」
 の頼りない握力など弾き返してしまうほど、手の中のものはぱちんぱちんにみなぎっているのに。
「…それ見てわかんねぇ?」
「でもぉ…」

 なにか言いたそうなふくれっつらが、あどけなく可愛らしかった。その顔に免じて銀時も、今日ばかりは素直に言わされてやろうかと。乱れた髪をぽりぽりかきむしり、ひとつあくびをしてさりげなく。
「おめーとするのがイイの」

 意表をつく言葉にきょとんとさせられ、またしてもうっかり力が入った。
「てててて!こらそれ痛いってっ」
「ご、ごめんなさい」


「ほんと?ほんとにがイイの?以外の女の子にはモテないから仕方なくとかじゃなくて?」
「なんなんだおめーは朝から銀さんを気持ちよくしてーのかへこませてーのか」
 ごろんと横へ半回転。その勢いで銀時はの身体を組み敷いた。
「ヤりてぇだけなら当てはいくらでもあるけどな。よけーな気ィ使うだろめんどくせぇ」
「?」
「こーいうこと」


 無防備にさらされた喉を甘噛みするとそれだけでふわふわ腰が浮く。ほら、の悦ぶ場所なんて、考えるまでもなくわかる。
「ふあ…ん、銀ちゃん…」
 せつない声に気をよくして、首筋を上へ遡った。しきりにもれる喘ぎ声を心地よく聴きながら、たどり着いた耳を口に含んだ。ぽってり厚い耳たぶを舌の上で軽く転がしてやると、閉じていた足はゆるゆると力を失った。
「ほーらもう欲しくなってきた」
 冷やかすように笑うわりには目も口ぶりもとても優しい。目の中まで真っ赤に染めながら、も大人しくうなずいた。

「どこ触んのがイイのかな〜?とか。あーでもないこーでもない考えながら、好きでもねぇおねーちゃん抱くなんてな」
 今さらめんどくせーんだよ。
 聞きようによっては失礼な物言いもには甘い告白に思えた。口づけられた部分からじんじんと周囲へ広がる痺れに意識をさらわれそうになりながら、夢見心地で声に聞き惚れる。そのめんどくさがりの銀時が、で遊ぶことにはこんなにも熱心なのだ。


「ふぅ…ん…女の子が気持ちいいかどうか、そんなの見てわかんないの…?」
「演技かもしれねーじゃん」
「だったらぁ、のも、えんぎかも、しれないじゃぁん…」
 くしゅっと鼻で笑い飛ばされた。
「そっかそっか、演技か。そっか演技ね、なるほど」
「や…っ?」

 両ひざをいきなり掴まれ広げられた。奥まで丸見えの恥ずかしい格好をさせられても、羞恥心より期待が勝った。入り口近くでぬちぬち音をさせ、熱くて湿ったモノが蠢いている。これがまた挿れてもらえるのだと思うと骨の中を虫が這うようだった。
 知らず知らずに腰が浮ついて銀時を懸命に誘っている。
「それも演技?」
「そ…だよう」
 そのくせすぐに手のひらを返しておねだりする矛盾には少しも気づいていない。
「は…っ、はぁ…ね、銀ちゃん、はやく、それ、ぎんちゃんの、ちょーだい、ねー、はやく…」


 昨夜の名残も乾ききっていない、の身体は銀時をなんなく呑みこんだ。くぅんと甘えた鼻声をもらし、ベッドの上で弓なりにのけぞった。その身体を銀時は抱き起こし、自分に向き合う形で座らせる。
 自身の重みで結合は深まる。奥の奥を楽しみ味わいながら、けれどその先を突き過ぎないよう銀時は慎重に加減した。
「あ…ふっ、そこ…、やだ、やだぁ…」
 抱きしめた腰を引き寄せて、ゆっくり腰を送りだすとが次第に髪振り乱した。いやいやと抵抗しているようで、まるで違うのが笑わせる。目は完全に快楽で霞み、ふらふらと宙をさまよっていた。内側の壁のとある場所、そこをこすられるのがは一番好き。指でなくコレで。
 銀時だけがそれを知っている。


「も…、やぁ…っ、ずるい、そこばっかりぃ…」
 がぺたりとしなだれかかった。何の気なしに受けとめてやったが、力尽きたわけではないらしい。むしろ銀時をぐいぐい強く押してくる。不思議に思いつつもの望みどおり、ベッドに倒されてやった。
「おっ?なに、なに?」
 今度はが銀時にまたがり、攻守ところを変えた形だ。
だって、銀ちゃんのイイとこ、知ってるよぉ…?」
「へーえ?」
 真上からに見下ろされるとその視線は重さを持つようだった。赤い唇が目の前でささやく。ぬらぬらとしたあやしい光になぜか気後れして目をそらした。

 やがてが身体をよじらせはじめる。が、好きな場所を一度も過たずまっすぐに、たったいま言ったことも忘れて自分だけ銀時を貪っている。
「なんだよ、銀さんのイイとこ責めてくれんじゃねーの?」
「んっ…、うん…ま、待って…っ、あっ、下から、しちゃっ…あっ、だめ…っ」
「ほら」
 早く、と腰を突き上げ急かした。
「やっ!ん、だって…ぇ、銀ちゃんのがすっごく…きもちいいからぁ…」
 びくんと大きく痙攣したのは銀時のものかの中か、いったいどちらだっただろうか。


「あーあ、なんだよおめーはよぉ、すーっかりエロくなっちまってぇ。ゆうべもナニ?なんつったっけ『もうしないかも』?んなこと言って何回イった?」
 ほーらやっぱり、蒸し返された。だがもうは照れも取り乱しもしない。いかにも意地の悪そうに優越感をにじませ笑って、銀時はつまり精一杯、自分が上に立っていたいのだ。可愛いことに。

 はかすれた声を搾りだした。銀時に上気した顔を良く見せながら。
「…うん。いーよ、…、えろくていーよ…」
 乾ききっていた唇を、ちろりと出した舌でたっぷりと濡らした。
「もっとぉ…」
「もっと?」
「ん…。もっと、たくさん…、突いて…んっ」
「こう?」
「ん…っ!」
 眉を寄せ一度はつらそうに。しかしはそれから歪んだ顔に、妖艶ともいえそうな笑みを浮かべた。視線は銀時の目に据えて、決してそこから逸らさない。銀時の方が喰われている気分。甘い声と欲望のたぎった瞳に、魅入られてしまいそうだった。

、ねぇ、銀ちゃんのせーえき、いっぱい、中に、出して、もらって…、中から、あふれてくるのが、だいすき…」

「あのね、あそこの、中から、ね…。どろどろしたのが、こぼれるときってね…」

「それだけで、きもちよくて、イっちゃうんだよぉ…」

 ぶるる、と肌が細かく震える。がそれを頭に思い浮かべているのがわかった。


 遅まきながら銀時はようやくの思惑に気づいた。
 逃がさないよう腰を掴み、を奥深くまで突き刺した。そのひと突きがまるで結界を破ったように、に傾きかけていた空気があえなく霧とはじけて消えた。
「きゃんっ!?やぁっ?!やだぁっ?!ああっ!あっ、ああっあっ!」
「この…っ、エロマンガみてーなセリフ言ってんじゃねーのっ!」
「やあぁっ!ま、まんがじゃ、ないよう…っ、やっ、あっ、だめ、だめっそれっ…!」
 の全身が引き攣った。銀時を包んだ膣内がひくひくうねり縮み上がる。は最初から銀時に絶頂を見せつけるつもりでいたのだ。勢いづいていた身体は落ちてしまうのもたわいなかった。





 胸の上にぱたんとが倒れた。憎らしいことに、くふぅ、と漏らした声だけはえらく可愛らしい。
「あーあぶね。まさかそーいう手で来やがるとは」
「ばれちゃったぁ…」
 にっと歯を見せた生意気な顔を、ぺちんと指で弾いてやった。
 思えばどこを触られるより、の顔が銀時の泣き所だった。他には何も見えなくなるほど銀時に酔わされきっているの。危うく耳と目でイかされてしまうところだった。


「銀ちゃんは?いってないよねぇ?もういいのぉ?」
 達した直後の弛みきった顔ではとろんと銀時を見上げた。上手に口も回らない。返さずにいると、眠たそうな眼が猫のようにもっと細くなった。
 まだ夜も明けきってはいない。昨夜もかなり遅かったから、ろくに眠っていないのだろう。
「銀ちゃんのえっち。起きたらもういっかいするつもりでしょ」
「は?起きたら?ってなに言ってんの。今起きたばっかりじゃねーか」

 寝かせたの足の間へ、銀時は膝でにじり寄った。よいしょ、と色気もなく挿入する。前戯は要らない。銀時のものは十分硬さを残しているし、は今もとろけてしまったままだ。
 立て続けにされ、かなり鈍ってはいたが、それでもやがてゆるやかにはふたたび感じはじめた。
「や…。やぁ…ちょっとだけ…寝かせて…朝まで、寝る…ねむぃ…」
「あぁ寝てな。銀さん勝手にさしてもらうから」
「バカ。んなことされたら寝られないよう…」
「あ、そう?」
「ああんっ!」


 ぎしぎしとベッドが軋みはじめる。寝起きにしたのと同じように、銀時の下で動けないが、唯一自由のきく首を反らした。
 寝起きに見たのと同じ窓。レースと二枚かさなったカーテンが振動でゆらゆら揺れている。
 布の裾から射しこむ光がだんだん明るくなっていくのを、はそれからずっと見せられることになった。





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