夜が明ける頃、の上で銀時は力尽きた。
 数時間後に目覚めてみると、終わった時と何ひとつ変わらない姿勢でいる。一時停止していた動画のように、そこから再び続きを始めた。
 身体の下で押しつぶされて苦悶の表情で眠るに、キスと愛撫を雨のように降らせる。疲労で眠りが浅かったのか、肌をうごめく怪しい指にはすぐ反応しはじめた。二本の指をぷつりと秘裂に埋められ、糸で吊られているかのように弱々しく腰を浮き上がらせた。
 「ふぁ…?やぁ…ぁ……もう…や…寝かせてぇ……」
 だが喉の奥から漏れる息は甘い。物憂げに閉じたまぶたの下では快感にたゆたっているのがわかる。
 「…ひ…んっ…!」
 やがて幾度か声が裏返った。

 まもなく訪れた心地よい睡魔がふたりを布団に深々と沈める。きまり悪そうなの恨み言を子守唄代わりに銀時は聴いた。
 「そーやって…で、あそんでるんでしょぉ…」
 「へへ…っ」

 次はベッドの端と端で寝ていた。銀時にいたっては両手両足を大の字に投げ出し、けれどそれでも気がつくと、手だけはしっかり握り合っている。それがなんとも青臭く甘酸っぱく見えて、いたたまれずに銀時は起きた。



 分厚いカーテンに遮られていても、はっきりわかるほど外は明るい。色濃い陽射しの波長から見るに、昼はとうに過ぎおそらくは午後ももう遅い時間帯だ。
 頭を掻きむしりながら、銀時はのそのそと身体を起こした。腰が鉛を貼ったように重たい。ベッドを出る前に布団の上であぐらをかいてひとやすみした。
 傍らのを見下ろすと、銀時以上にぼろぼろにくたびれきっている。「死んだように眠る」とはまさにこのことだ。さすがにこれをたたき起こすのはしのびなくて、今度ばかりは起きるまでゆっくり寝かしておいてやろうと。
 殊勝にも思った、その時だ。が寝返りをうった。

 横向きに小さく丸まっていたのが、ややくつろいだ仰向けになる。両手もくたりと投げ出され、銀時のそばへぽてんと落ちた。
 軽く空気を握った形で触れそうな間近に転がる手のひら。その手を銀時はまじまじ見つめた。
 仕事柄、爪は短く切りつめて飾り気もなく整えられている。肉付きの良い短い指はまるで子供の手のようだ。寝顔はむしろ表情がない分、起きている時より大人びているのに。
 そうしていると、子供の昔を思い出す。今よりずっと小生意気で背伸びしていた頃のを。
 銀時はの手をとると、ツボを押すように手のひらを撫でた。指の腹がふにっと沈む柔らかさ。表面もさらりと乾いてなめらか、室内飼いの猫の肉球といつか誰かに喩えてみせた。

 眠った顔も小さなお手々も、「可愛らしい」と確かに心から思ったのに。しかし銀時に起きた変化は、きゅんと甘い胸のときめきではなく、股間の激しい自己主張だった。原始人とそしられても仕方がない。

 口の奥に溜まった唾液を飲み込む。胸は期待に張り裂けそうだ。
 起こさないよう、そっと握っていたの手を、ゆっくりゆっくりためらいがちに引き寄せる。
 そして銀時はの指先に、自分自身をひと撫でさせた。


 ぞくぞくぞくっ!と脳を凍らすような寒気がそこから腰へ走りぬけた。息が止まる。吸って吸ってこれ以上吸えなくて、止まった。
 正体もなく眠る子供を道具のように使用している、背徳感が銀時の興奮に火を注いだ。
 何をしようとは目を覚ましそうにない。いや、起きるなら起きてくれてもかまわない。自分のされている仕打ちを知って、怯えて涙する顔も見たい。さぞかし可愛い泣き顔になるはず。泣いて嫌がり、顔をそむけて、けれど結局銀時の言いなりにされるが、脳裏に鮮やかに浮かぶ。その途端怒張はぴくぴくと脈打った。

 それ以上は抑えがきかなかった。ふらふら熱にうかされるように銀時はの顔をまたいだ。既に挿入もできそうなそれをぺたぺた頬にこすりつける。先端をむぎゅっと押しつけると、ふくよかな頬がその形にへこんだ。にじみでた先走りの露ですべすべの肌が光らされていた。
 銀時はもう一度の手に、今度はすっぽり自身を包ませた。その手をさらに包むよう、手をかさねゆっくり上下させる。の頬へくっつけた先端は決して離さないように、間接的に自分の手で、けれど直接にはの手で、ごしごしと竿をしごきはじめた。たちまち勃起は硬さを増し、糸をひく汁がの顔を汚した。
 はやはり何をされても起きない。
「っとに、おめー隙だらけ…。こんなことされても、起きねぇなんて、危なすぎんだろ…」
 自分の目の届かない場所では、絶対雑魚寝などさせまいと心に誓ってみたりして。


 次第に息が荒くなった。ほんの悪ふざけのつもりでいたのに、意志の力でどうにかなる線はとっくに越えてしまっていた。もともとが絡むときには本能に勝てたことのない理性だ。
 せめてに挿れてやろうと思っても、今この瞬間の快楽に負けてそれすらすぐにどーでもよくなる。
 あーもういいか。いいかな、このまま、の手に抜いてもらおーか。
「ん…ん、く…っ…」
 息を逃がすが息は上がった。の手をでたらめに動かした。
「あー、ダメだ」
「マジで…っ、これ…っ」
 ちぎれてしまいそうな力で、にぎゅうぅっと自分を握らせた。
「は……っ…!!」
 頭の芯が白く裂けるのと同時だった。の手の中で銀時は痙攣と収縮を繰り返し、どくどくと白濁を吐き出した。





 ゆるやかに息を整えながら、銀時は自分の真下にあるの顔をぽかんと眺めていた。手のひらで受けきれなかった粘液が、ぼたぼた落ちてを汚していた。とっさにごしごし手で拭いてやったが、するとの顔は精液まみれになってしまった。
「はは…、ばーか、俺ァなにやって…ははは…」
 乾いた笑いが徐々に高くなる。胸の深くから続々とこみあげ、狂ったように銀時は笑いだした。の顔はまだ跨いだまま。ぶらぶらとしなびてぶらさがるものがを叩くのがまたおかしい。
 指ですくった精液を、こじあけたの口へねじこんだ。異物感にシワを寄せる顔もまた、たまらなく可愛くて笑い転げた。

 あーあ。まだまだ長丁場なのにこんなとこで一発抜いちまった。
「まあいーかぁ〜」
 反省も長続きしない。

 前かがみに腰をさすりながら、よろよろと銀時は起き出した。昨日の夜からそういえば飲まず食わずだった。喉が渇ききっている。
 下へ行けば台所になんかあるだろ。








 は布団に沈み込んだまま、首だけぐるりとめぐらせた。ダブルよりさらにひとまわり大きな寝床に今は自分しかいない。独りきりが単純に寂しくて、それと同時に自分を放ったらかしにする銀時が無性に憎たらしくて、たったそれだけのことでじわりと涙が滲んでしまった。
 寝足りないせいか頭を動かすのが面倒くさい。結果動物か赤ん坊のように、人間以前の感情がを突き動かしている。さびしいさびしい。ひとりイヤ。銀ちゃん早く帰ってきて。
 ふかふかの羽根布団を振り回し、いつにもまして甘えた声ではぶちまけた。
「銀ちゃん!ぎんちゃん!ぎんちゃんどこー?銀ちゃんたらっ!!」

 待つ間もなしに銀時は現れた。の起こした癇癪を気にかけるでもなく、がちゃりと開いたドアの向こうにひょっこり猫背で佇んでいる。手にはうっすら露の浮かんだビールの缶。きんきんに冷えた一本をごくごく喉を鳴らして飲んだ。
 ぷはー。
「なんて顔してんのお前!?」
 そしてけたけたを指して笑う。普段より半音高くズレた声。こちらもどこかネジが弛んでいるようだった。

 だがそう言われるのも無理はない。の目も口もとろんと半開きで髪の毛はぼさぼさ爆発している。銀時以外にはとても見せられない姿だ。
 下着姿の銀時が惜しみなくさらす逞しい裸に、瞳は熱く潤んでいた。あの身体にもう一度乗っかられたいと思わず考えてしまったのも、頭が切り替えられていない証拠。気付けにひとくちビールを飲まされ、苦味と炭酸と冷たさでやっと少しだけ正気に戻った。


 銀時の手から奪ったビールをひと息に飲み干してしまってから、は自分がずいぶん渇いていたことを知った。おなかもぺこぺこ。今何時だろう。夜中に起きて?明け方に寝て…違うその次一回起きてる。時間の感覚がなくなりそう。
 時計でもないかと部屋を見渡し、しかしそのとき、かすかに漂う異臭に気づいた。
「?」
 眉をよせあたりを見回すが、どこにもおかしなものはない。枕や布団をふんふん嗅いでもわからない。むしろなにもしていない時に生臭い臭いは最も濃い。

 そういえば手のひらもなにかヘン。
「…なにこれ」
 おそるおそる触れると顔もかぴかぴ。寝てる間にいったい何をされたんだろう…。
「…銀ちゃん?」


 じっとり睨まれているというのに口の端はにんまり吊りあがり、銀時はとても意地悪く、それでいて幸せそうに笑った。
「まぁ、ナニとはいわねーけども。美容にイイって俗説あるけどありゃウソだから。早いとこ風呂で顔洗うことをおすすめするぜ」
 「するぜ、じゃねェェェェェ!」…と大声でツッコみたかったけれどもそんな余力もないのが悔しい。にはせいぜい仏頂面で銀時をぺちぺち叩くのが精一杯。子供じみた反撃はかえって喜ばせてしまうだけなのに。
 にまにま、そしてむにむにと、銀時はさも愉快そうにのほっぺたを挟んでつぶした。かと思えばを抱きしめて、もろともにベッドへなだれ落ち、ごろごろ左右に転がりながら、やはり調子外れに笑った。

 反対にの口元はむすっとへの字に引き結ばれている。
「ちゅーしてよ」
「………」
「して!」
「むがっ!?」
 むむむむむむむ!やけっぱちで唇を奪ってやった。
 舌で唇をこじあけて、唾をたっぷり流し込む。銀時の目はしろくろとして、を剥がす力もかなり本気だった。ごろーん!とついに、をベッドへひっくり返して
「ちょちょちょちょ!共食いさすなシュミ悪ぃっ!」

 「シュミが悪い」はこっちのセリフだ。寝込みならもっとふつーに襲え。そんで共食いとかゆーな。
 けれどもにできることは、ぺちぺち!力もろくに入らない手で叩くだけ。
「ぎゃはははは、なになに、痛い、痛いって」
 まるで痛くもなさそうに言うのだ。もうも怒った。かちーんときた。
「帰る」
「そうかそうか」
「もー帰る」
「はいはい、銀さんがきれーにしてやろ」
 ひょいと軽々抱き上げられた。手足を必死でばたつかせるのをものともせずに浴室へ。湯船にじゃぶんと浸からされた。


 頭から湯をかけられて、はぷくっと頬をふくらせた。ほんきだったら。もう帰るんだから。
 お休みももうすぐおしまいだ。明日からまた一週間が始まる。もう少ししたらどっちみち帰り支度をしなきゃいけない。
 それを思うとはうんざりした。口をきくのもめんどくさいほど疲れているのに、これの後始末をしなきゃならないのか。部屋中の窓をすべて開けて、澱んだ空気を掃きだして、びしょ濡れの床をよーく拭いて。ベッドメイクもしなければ。
 でも。

「…まぁいーかぁ」
 熱々のお湯に肩までひたされ、汗と体液をきれいに流され、銀時の手で顔と体を隅々ぬぐわれていくうち、はどーでもよくなってきた。
 最悪明日の朝一番にこの部屋を出てもいいかなぁ。窓だけ開ければ掃除はいいかな。この部屋汚れた?汚れてないよね?そうだ掃除は銀ちゃんにさせて、だけ先に帰ってもいいよね。どーせこのひと毎日暇にしてんだから。


 ん!とは晴れ晴れ微笑んだ。
 だったらはなにも気にせずゆっくり銀ちゃんといちゃいちゃしてよう。
 面倒なことはぜーんぶ忘れて。





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