そうしていると銀時の言う通り、家にいるのと変わらない。
こたつに入ってふたりでべたべた。
違うといえば、こたつが広い掘り炬燵なのと、こたつ布団がふっかふかなのと、ふたりの身体も温泉でぽっかぽかに温まっていることと。
あたりはしんと静まりかえり、明け方まで絶えない酔っ払いの声も、車の飛ばす音も聞こえない。
「…なによ。ぜんぜんちがうじゃない」
たちは今、人里離れた温泉宿にくつろいでいた。渋る銀時をなだめてすかして幼稚な策まで巡らせて、ようやく引っ張り出した旅行だ。
ただし一旦出かけてしまえばこの男気持ちの切り替えは早い。いまや出掛けの仏頂面が嘘のようにこの宿を楽しんでいる。豪勢な食事と上等の酒、部屋に備え付けの露天風呂に心身ともゆるまされていた。
二度目の風呂から上がったあとはを道連れにおこたでのんびり。ひざの間に座らせたふくふくやわらかな身体を、抱きしめてもう離さなかった。
「寒くねぇ?」
「うん」
「マジで?」
「へーきだよう」
くすくすとの喉が転がる。長湯で温まった手のひらが、常にどこかしらの素肌に触れていた。おかげで浴衣の帯はゆるみ、えりも崩れて肩まであらわ。見た目寒々しいのは確かだが、自分が乱しておいてその言いぐさはない。
その手から、さわってどうしてやろうという明確な意志は感じなかった。ただそうするのが自然なように浴衣の中で手は動いている。胸を揉むのはもちろんのこと、筋肉のない腕をさすったり、張りのある太ももを撫で回したり。
もそうするのが当然のように銀時の手に身をまかせている。ただし湯あたりとはたぶん違う理由でほんのり頬が染まっていた。
「はふ。きもちいい…」
やがてぽてんとが折れた。ひんやり冷たいこたつ机が、火照った頬に心地良かった。
「きもちいい…」
「なにが」
「銀ちゃんにさわってもらうの好き」
「ふーん?」
突っ伏したを追いかけるように、銀時が覆いかぶさってきた。
なにやら不思議な気持ちがする。銀時の手がいやに紳士的だ。いや、ふところから手を突っ込んで乳をまさぐっている時点で、紳士も聞いて呆れるだろうが。
けれどもその手は胸の丸みに添うようにあてがわれているだけ。全体を包む力は軽く、揉みあげるペースもゆるやかなものだ。ちょうど中指か薬指の腹が乳首に触れてはいるものの、そこだけ特別イタズラされるということもなかった。
もっとも敏感な部分ばかりを責められ反応させられるのは、てっとり早く身体だけ開かれていくようで、はいつも恥ずかしくてならない。
こうしてゆっくり揉みほぐされるのは、気持ちも同時にとろけるのがいい。現になけなしのの理性は端からほころびはじめていた。
「銀ちゃん今日はやさしいねぇ」
とろんと間延びした声に、ニヤリとされたような気がした。銀時はの首筋にさらさらと唇を這わせていて、その表情は見えなかったが。
「次、どうしてほしい?言ってみな」
「つぎ?つぎはねぇ。そーね、ちゅーしてもらうかな」
「ほいきた」
ちゅっと耳のそばに唇が触れた。
「やん、違うぅ。おくちにするのぉ」
「やりにくいんだよ。ならこっち向きな」
「んー…」
ぐいと身体を引き起こされた。
銀時の身体を座椅子の代わりに、その胸板を背もたれに、はぐったりしなだれかかった。
腰をひねらせのどをそらすと、薄く開いてみせた唇へ封をするようにしゃぶりつかれた。
「ん…む、んふっ…」
這入り込んだ舌がをからめとり、じゅるじゅる涎をすすり上げる。無理な姿勢に眉を寄せながら、けれどの舌も負けじと応えた。深くからませあったあとは、濡れた唇を何度も何度も触れあわすだけの遊びをした。
「は…銀、ちゃ…あ…、あふっ…」
その間も身体をやんわり揉む手は止まらない。気づけば足はだらしなく広がり、浴衣の裾も下穿きもはだけきっている。おかげで銀時の手は易々と、内ももを直に触ることができた。
あの荒仕事をこなしてきたとはとても思えない肌触りのいい手が、を中心に向けて撫で上げる。
「は…ん、ん…っ、あんっ…」
陰毛をくすぐり期待をさせて、がもどかしげに腰を浮かせると、待っていたように奥をかきわける。
そうしてついに指先が、ひだの合わせ目を縦になぞった。
「う…っ…」
はとっさに身を竦ませた。指はとろりとなめらかにの表面をすべっていった。きっとささやかれるはずだ。消えたくなるほど意地悪く、銀時はを辱めるはず。
『なんだこれ?もう濡れてんの?』
自分がをそんなにしたくせに、知らん顔でを笑うはず。
…ところがなにも言われなかった。
「…?」
代わりに黙ってくるくると、ぬかるみの中で指は動いた。反対の手は乳房を今度は強くもみしだき、あごからのどへは唇が這った。
3つの快感が背骨で弾ける。身体が勝手にくんとのけぞった。
「は…っ、あんっ、は…?銀ちゃん、銀ちゃん…っ」
「なに?ココ、よくねぇ?」
すくった潤みが花芯にまぶされる。強く押され、引っかかれ、皮を剥かれた。
「ぅあんっ、い、いいっ、いいようっ…?ふぁ、ああんっ…、んっ、それぇっ…」
ずぶりと指が埋められた。はじめは中指が、それから添えるように2本目が。卑猥な水音をぬちぬちとさせながら激しく前後させられた。
「でも…っ、あ、あ、だめ、もうっ…」
腰が浮き、腹がひくひくひきつる。見れば銀時にもの「状態」がすぐわかるはずだ。にもかかわらず2本の指は、の弱い場所、好きな場所を少しも違えず弄ってゆく。指を引くたび、から垂れるとろみは濃くなった。
は夢中で手に手を添えた。自分では掴んで止めているつもり。
「あ…、それ、そんな、されたら、いっちゃう、いっちゃうようっ?」
「イけば?」
くんくん、子犬のように鼻を鳴らす。
「んっ…でも、でもぉ…」
「いっぺんイったら終わっちまうの?」
精一杯に首を振った。
「だろ?」
股間から水っぽい音がする。銀時がをひと息に昇らせようとしている。焦らすそぶりは少しもない。
今日の銀時はやはりおかしい。はここまでまだ「やめて」も、「やめないで」とも言っていない。
「い、いいの?、いく、いっちゃうよ…?いいの?いっ、いいのっ?う、ううっ、んんんっ!」
喉を反らして唇を求めた。上から下から聞こえる水音に身体が縮み上がっていった。
「かはっ…、あっ、ああっ、らめ、だ、だめ、もうっ、…っ」
「ん?」
の大好きなその声で、そんなふうにそそのかされてしまったら。
「ふぃっ…!…んんんっ!んっ、んんっ!んんっ!」
身体が大きく弓なりに跳ねた。ぎゅううっと自分を抱えた片手には必死でしがみついた。下腹部だけがおもちゃのように、意志と離れて勝手にひきつった。
何度も襲う細かな震えを銀時の腕にすがって逃がし、そうしては、力尽き、沈んだ。
目も口も、足も身体も、呆けて開ききっていた。
ぬるりと吐き出された指は、熱くとろけた入り口周りをなだめるように撫で続けていた。こわばった場所が次第に弛み、同時に頭のもやも薄れる。
それでもくすくす笑い出したのは、正気にはほど遠い状態ということだろう。
「なに」
「もっとぉ」
恥ずかしげもなくねだってみせる。
「もっとォ?」
「うん…」
照れくさそうに唇を噛み、けれどもはっきりうなずいてみせた。笑い含みに聞き返されても、ひとたび回路の切り替わった頭には羞恥心すら快感のひとつだ。
はけだるくこたつを這いだした。
「ん、よいしょ。あれっ?あれっ?」
達した直後の重たい身体はいつにもまして動きが鈍く、何度も尻がつっかえた。そのたびがたがたこたつが揺れて、しまいにも銀時もふたりして笑い出してしまった。
「なにがしてーの」
「えへへへ。あのねぇ」
ようやく身体を引っ張り出しては銀時に向き合った。首に手を回し、腰をまたぐ。
「よいしょ。よしよし、こうだね、よし」
余韻でふちの赤い目が見上げた。
「挿れて」
見下ろす銀時は愉快そうだ。からかうようにわざと訊ねた。
「なに、このまんま?あっちに布団敷いてあるけど?」
「いいの。ここでするの。ここがいいの」
も同じくらい愉しそうだった。
「あっそ。そんじゃあおひいさんのおおせのままに」
は銀時に抱きついているだけでよかった。器用に腰を浮かせ下着を脱ぎ、片足に引っかかったそれを銀時がひょいと放り捨てる。
股間にふわりと熱を感じたのは気のせいだろうか。
すでに十分な硬さを持つそれが、先端をの入り口へ添えた。
かたく目を閉じ、銀時の肩に突っ伏して、はその次を待ちこがれている。
腰を撫で下ろす手に従って、は身体をゆっくり落とした。
一度は閉じたの中へ、みりみりと勃起が埋まっていった。
「ん…っ」
銀時もやけに真面目な顔だ。無駄口もなく、自身を沈めきる。に根元まで飲み込ませ、ゆっくりと、強く一度突いた。
「…ほーらっ」
「あは…ぁ…っ」
異物感に眉をしかめながら、だがの口はまぎれもなく、笑う形に開いていた。だらしなく垂れた舌先が唇をひとわたり舐め回した。子供じみた顔がそのときだけは、挑発的に銀時を煽った。
「動いて」
「かしこまりました…よっ」
望み通りに突き上げられる。頭の先へ抜ける快楽にはためらわずにひたりきった。
「あ…っ、は…、あはっ…あっ、あっ…あはっ」
「うれしそーなァ?」
「うん、うんっ、うれ、うれしっ…好き、好きぃ…」
あえぐ顔がよく見えるように、身体を起こし銀時と目を合わす。頬にかかったひとふさの髪を銀時がすくいあげてくれた。その指がの頬を唇を、愛おしそうになぞっていく。
「あーあァ、えろい顔してェ」
「やーだぁ…それは、銀ちゃんがぁ…」
「人のせーにするんじゃありません。ここまでぜーんぶ銀さんおめーのいいなりですぅ〜」
それはにも薄々わかっていたことだ。
どうやら今日の銀時はが気持ちよくなるかどうかより、が求めることかどうか、そちらを尊重してくれている。実際はが嫌がろうが恥ずかしかろうが銀時の思うようになぶるのが、深い快感を得られるとしても。
「んふふ。今日の銀ちゃんはぁ、の好きに動くおもちゃなんだよねー?」
そうして言葉をかわす間もは自分で腰をくねらせ銀時のものを貪っていた。焦らされない、それにはぐらかされない。自分の好きになるのがうれしくて、夢中で一点を擦り続けた。
じっと観察する銀時に手の内をさらす真似をしていると、考えなくもなかったが。
「あーあー、止まらねぇの?それ」
「うゅん、きもちいの、ここ、好き、これ、ここ、ここっ…」
「ここ?」
「ふぁあんっ、そこぉっ…!」
下から揺らされぎゅんとのけぞった。
もはや浴衣も袖がかろうじてからまるだけ。重たい胸も放り出し、突起を摘んでひねって潰されても恥じらうどころか銀時を締めつける。
「さ、次は銀さんにどうして欲しい?」
「つぎぃ?ん、あのねぇ…」
ぐちゅぐちゅとやけに濁った音は、摩擦での水分が泡立てられている証拠だ。
けれど卑猥なその音と裏腹に、口から出た声は愛らしく澄んでいた。
「銀ちゃんもで気持ちよくなって」
見合わせた顔が同時に笑み崩れる。
「ぜってー言うと思った」
「でしょぉ?」
言うと思われてると思ってた。
姿勢はひとつも変わらないのに銀時の意識の変わったのがわかった。息も止まるほどに強く強く、腰を抱きしめ引き寄せられる。肩口に顔を埋められる。押しつけられた唇はの肌にいくつも跡をつけた。
「あっ、あれぇ…?このまま?うしろからするんじゃないんだぁ…」
「それじゃあ、銀さんがよくなってんのがおめーにちーとも見えねーだろぉ?」
「うふっ、見えなくたって、わかるよう…ん、んんっ…」
んんっ?!とが反りかえる。それまで畳についていたひざを、持ち上げ、抱えられたのだ。
自分の重みで挿入が深くなった。
「あんっ!」
支えを奪われ宙に浮いた身体が恐ろしくなって銀時にしがみついた。
それまでよりもずっと近く、ぶつかりそうなそばに顔がある。唇を合わせるのは当然のことだった。
「んっ、好き、すきぃ…」
唇の次は頬を寄せる。やや眉を寄せた銀時の怖い顔。それが快感を懸命に散らそうとしている時のものだと知っているはうれしくてたまらない。
「ふあ…、もっとぉ、もっとよ、ずーっとして、ずーっと」
銀時をいつまでも離したくなかった。は懸命にそこを引き締めた。
「こらこら。そーいうことすると終わっちまうぞ」
「あ…ごめ…」
でも、締まるものはどうしようもない。諦め顔で失笑された。
「きもちよさそーな顔しちまってもう」
ふとが腰を揺らすのを止めた。快感の波に流されるダメな頭でちらりと思ったのだ。
「こんなにきもちよくなったらだめ?がえろいと銀ちゃんつまんない?銀ちゃんは、もっといやがるおんなの子のほーがすき?」
ろれつも回らない口が言う。自分が口にしている意味も果たしてわかっているのかどうか。
「ばーか、つまんねーこと気にしてんじゃねーの」
「だってぇ、銀ちゃんどえすだしぃ…」
だからと不安顔になるのでなく、ふくれっつらをしてみせるのが心底らしいと思った。銀時はにやにやニタつきながら、のとがらせた唇をついばんだ。
「そーとも。ドSの銀さんはなァ、おめーが本気でイヤがることくらい、いっくらでも用意できんだよ。心配しなくても次は思いっきりおめーのイヤがることしてやっから。銀ちゃんこわいっておめーが泣くくらい」
「う…」
それを思ってぞくりとしたのが繋がった部分から筒抜けだ。
「ははっ、よろこんでんの?お前想像してよろこんでんの?」
二度目の限界が近かった。額をぴたりとくっつけて、まつ毛とまつ毛の重なる間近には銀時の目を見つめた。
「もっと。銀ちゃんもっとよくなって」
「ばーか、おめーがもっとよくなれっつーの」
「よくなる。よくなるよう、銀ちゃんがでよくなるの、見てたら、は…うっ、んんっ…」
歯を食いしばり、息を逃がす。全身に薄く汗が浮いていた。
こっそりと銀時はひとりごちた。
「あーすげぇ…。ほんとだ。どうなってんのコレ」
「んふ、うふふっ…、なんだかたち、お得だねぇ…」
気をそらそうとは考えてみた。がよくても銀ちゃんがよくてもも銀ちゃんも気持ちいいんだから、たちのセックスは2倍楽しい。
「んー?ちょっとちがう?」
が泣いても銀ちゃんは気持ちよくて、はそんな銀ちゃんを見ても気持ちよくて…、
だから3倍?それとももっと?
「なにイミわかんねーコト言ってんのっ」
「ひやっっ?!」
ぐい!と突かれて喉がつまった。知らない内に声にしていたのつまらない呟きで銀時のほうが波を越えたらしい。それまでおそるおそるだった上下運動に遠慮がなくなった。
「あはっ!あっ、ああっ、も、ああっ、またぁ…っ…」
目の細まった、口は半開きの、白痴めいた笑みが引っ込まない。
「あーその顔」
銀時にもそれをまじまじ見られた。
「うんっ…」
「その顔な」
「うんっ…」
「銀さんも1個だけお願いすっかな」
『その顔銀さんによく見せて』
その「お願い」が声になる前に、はとろんとかすんだ目の中に銀時の顔をまっすぐとらえた。
銀時からは望みどおり、のよがる顔が真正面に見えたはずだ。
ごくりと喉を塊が落ちた。
銀時の赤い目が回った。
「ああああもうなー!おめーはなァ!」
上から頭を押さえつけ、下からは激しく腰を突き上げる。内臓を破かれそうな衝撃がの頭をいよいよ蕩かした。
「かはっ、むあっ、あっ、ああっ!銀ちゃんっ、それも、それも好き、好き、好きっ」
「へぇ?これ?これが?こう?こうか?」
限界を試すように突かれる。の中はきつく引き締まり、の中で熱は膨れ上がる。
「あはっ、あははっ、うん、好き、それ、好き、きゃはっ…!」
ふたり同時に達する瞬間、声はほとんど哄笑に近かった。
雪見酒のお宿はこんなところでした