目が覚めた。だがもう昼だ。部屋に唯一の小さな窓から射し込む陽射しがちりちりと布団の皮をあぶっている。
 も銀さんも寝ているうちに暑くて蹴飛ばしていたらしい。掛け布団は部屋の隅っこでくしゃくしゃの塊になっていた。

 重たい身体でごろり寝返りをうってみると、はこちらへ背を向けて、一糸まとわぬ身体を恥ずかしがるように小さく丸まりまだ眠っている。同じく裸の銀さんが後ろからひしっと抱きついても、むにゃむにゃ寝言を言うだけで目を覚ましそうな気配はなかった。
「もしもーし?ちゃーん?起〜き〜ろ〜」
「んー………」
「起きねーとえっちなイタズラされますよぉ〜?」
 ざりざり頬ずりしてやると、はわずかに眉を寄せ、うっすらヒゲの伸びた銀さんを迷惑そうにぱたぱた払った。

 だがそれだけ。ぷるんぷるんの裸のお肉は完全にゆだねきっている。
 緊張感のまるでないその様に声を殺して銀さんは笑った。そんなことだからいつもいいように遊ばれるんじゃね。
「知らねーよ?銀さん知らねーよ?」
 腕の中へ自分から収まってきたを心おきなく抱きしめた。

「くぅぅぅぅ〜!」
 そしてほとばしる感無量のうめき。だらしなくのびる鼻の下。誰が見ているわけでもないのに、にやけた顔を隠そうと銀さんはのうなじへ突っ伏した。

 顔が笑ってしまうのも声が出るのも仕方ない。
 大好物が「どうぞご自由に」と目の前に投げ出されているのだから。
 やわらかくて甘い匂いのするもの。しかもの汗と銀さんのよだれで身体中旨そうにべたついていて、我慢できずに肩へかぶりついた。
「むぅ」
 甘くはない。
 つーかしょっぱい。当たり前か。

 しかし首筋、そして頬。懲りずに次々しゃぶりつき、それから細い糸のような髪をひとふさくわえてかきあげる。
 あらわになった耳もかぷり。
 白玉だんごを作る時「耳たぶくらいの柔らかさ」なんて言うが、本物の耳たぶというやつは案外歯ごたえもしっかりしていた。


「ん…んんっ…?」
 ところががくすぐったそうに身をよじると、イタズラはぱったりと止んで、しばらくの間銀さんは身動きもせず様子をうかがった。
 さいわい目覚める様子もなくて、前へ回した両手のひらで今度は胸を揉みはじめる。
 ふにっ。むにっ。
「ほほう」
 つかめば形を変えるほどやわらかく、けれども張りのある乳房が、食い込ませた指を弾き返してくる。刺激を与え過ぎないように、なおかつのふくよかな肉を存分に楽しめるように、力を慎重に加減した。もうしばらくは起こさず寝かさず、ねちこく味わいたいところだ。
 小刻みに胸をつく息の荒さとは裏腹に、顔はしまりなく笑い通しだった。


 ごらんの通り、銀さんの中に「胸を焦がす愛」だの「熱情」だのいうシリアスな感情は存在しない。
 に感じるのは仔犬を見るのと同種の愛おしさ。回し車を一心不乱にからから走り続けるリスを飽きずに眺める時のような、ほのぼのとした温かさ。
 なのだが。
 なにせその「量」が途方もなかった。基本的には枯れきった銀さんを頭のてっぺんまで満たし、到底足りずにあふれだすほど。時々はこうしてガス抜きしなければ人前でとんだ恥をかきそうだ。

 銀さんは溺れる人がもがくように、を必死でかき寄せた。息をしただけでの匂いが胸一杯に広がって、気絶しそうになりながら、もっともっとと身体を合わせる。
 の身体の後ろ半面と銀さんの前半面が、ぴたりと隙間なくくっついた。
 特に下腹部。ちょうどまーるい尻に当たる。そこでこするととてもイイ。ははは、うひひ、ふへへと笑ってぐいぐい腰をくねらせる。前へ前へとがっつき過ぎて、しまいにごと身体が転げた。
 それをいいことにうつ伏せのの上へそのまま寝そべった。
「ひひっ、ひひひひひっ」
 手は使わずに腰だけ動かし、自身を尻肉の間へ割り込ませる。
 われめに挟んで上下させるうち、銀さんの目が熱を持っていった。腕はの下へねじ込んで、つぶれた乳をやはり恍惚と揉みしだいた。



「あ…、んうぅ…、んにゃ…ん…」
 の声音もそろそろ甘く、漏れる吐息は艶っぽい。起こさず遊ぶのも限界だろうか。銀さんの熱もよりはっきりとカタチになり始めている。尻に当たるとつぶれていたのが、逆にぐにぐにへこませるほど硬く、だ。

 下で身動きされないように、銀さんはをしっかり押さえた。
「よっこいしょ…っと」
 腰だけ浮かさせ位置を合わす。
 が、硬さが若干足りないようで、入り口は十分潤んでいるのにその表面で滑ってばかり。
 しかしそれ自体を楽しむように何度も何度もこすり続け、やがて銀さんとのその場所がちゅくちゅく濁った音をさせだした頃。
 あるときなにかのはずみのように、銀さんはぬるんとへ迎えられた。





「…っ?!ふぁ、?あ、あぇっ?あっ…!」
 から突然おかしな声が出た。
 それもそうか。
 起きるなりとんでもない場所に異物感。反射的に身体を起こそうとしても、やたらと重たいものに乗られて腕も肩も首も上がらない。
 なのに腰だけは不自然に高く掲げさせられているときた。
 驚くのも当然。
「は…入っ…?」
 なにか入ってる。
 おまけに耳のすぐそばからはうきうきうれしそーな声まで。
「びっくりした?なぁびっくりした?」

「あ、あたりまえ、でしょ、あっ、ああんっ?やめ…はっ、ひゃふっ!?」
 できる限りの奥まで挿れたまま、さらに押すように腰を使われた。
「やめ…、やめて、やめて…、い、いみわかんない…あっ、ああっ、なにっ?なにが、どうなっ…んんんんっ」
「それがァ、銀さんはァ、優しく抱っこしてたのにぃ〜、なんかのはずみで入っちまったみたいでぇ?」
 いけしゃーしゃーと。
「ばっ、ばかぁっ…!」

 怒るの耳がふうっと吹かれた。
「ひゃんっ!」
 耳の上側の薄いところを甘噛みされた。
「ああああああんっ!もぉぉっ?!」
 わけがわからない。


 けれどにはおかまいなしに、の身体だけがずいぶんと先へ行かされてしまっていた。頭がようやく動き出した時には、そこはうれしそうにうごめいて、くわえこんだものを何段にも締めつけている有様だ。
「は…ぁっ、もぉ…っ、もぉぉっ…」
 恨みいっぱいなじっても、中で銀さんをむくむくと元気にしているのはなのだ。
 挿れてさえしまえばこうなることは最初から銀さんの計算のうちだった。



「へへっ…」
 銀さんは軽く笑っただけだ。なのにそれだけで、は銀さんの言おうとしたことすべてを察して下で震えた。
「やっ、やめて…、やめてよう…、違うもん、違うから…」
「なにが?なにが違うって?なんのハナシ?」
「違うもん、感じてない、よろこんでないよ、もういい、いいの、もう、今日は、無理なんだからぁ…っ」
 それでもどこか媚びるように、少ししゃがれた声が訴えた。


 窓から射した明るい日が、たちの身体を隅から隅まで余さずさらけ出していた。
 もう昼だ。
 休みだからとこんな時間まで朝寝坊するではない。一度はちゃんと早起きしたとも。

 にもかかわらず、うっかり二度寝をしてこんな時間。
 それというのも。
 喉が嗄れたのも。

「朝もしたじゃない…」
 もちろん夜も。
「銀ちゃんなんでそんなに元気なのよう…」



「えぇぇぇ〜?」
 銀さんはここぞとニヤついてやった。
「いやなに。銀さんはイってねーし?」
 下でどきりとが硬直した。
「誰かさんが自分だけ満足して〜、ぐーすか寝ちまったもんだからぁぁ〜?」
 かあああ!と耳まで真っ赤になった。

「う、うそうそ!違うもん!だってがんばったもん!だけど銀ちゃんが…ああっ、んふっ、い、ややっ、ああああんっ!」
 中をえぐればを黙らせるのは簡単。
 だがも粘る。ゆうべからそれだけ何度もされていれば感覚も鈍ろうというものだ。

「…うそ、うそだもん…。銀ちゃんもったいないって言った…っ、んっ、ふっ、出したら終わっちゃ…から、って、だからだけ、ん、んんんっ…」
「全くだわぁ。いいよな、女は何回だってイケんだもんなァ?」
「ちがー…、ちがう、違う、ああっ、ああんっ、や、やだ、やだぁっ、だめぇ…」
 ゆるやかに、だがいつまでも、ゆすってやるとやがては黙った。


「なぁ?」
 銀さんが耳元で訊くと、が観念して正直にうなずいた。こくこく細かに何度も揺れるのがいかにも余裕のないことを露呈していて笑ってしまう。
「これは?」
 深い部分へ届くよう、の腰のほうを強く引き寄せた。今度はは返事もせず、身体の横で布団を握っている。
「聞いてる?」
「ひゃんっ!き、聞いてるよ、聞いてる、ようっ…!」
「うそつけ」
 すっかり気もそぞろだ。

 良くなりだしたはすぐわかる。余計なことを言わなくなるし、気づいているのかいないのか好みの角度にぐいぐい下から腰を突き上げようとする。
「バカ、抜ける抜ける」
「いやぁ、銀ちゃんもぉ、銀ちゃんももうイって」
「イヤでぇす」

 銀さんは笑いまじりでも、聞いたのほうは泣きそうだった。
「よ、夜もまたする気なんでしょ…!」
「甘いな。その前に夕方ヤる」
「ばかぁぁぁ…」




 とは言ったものの叶うかどうか。の粘膜はひくひく縮んで刺激し続けてくれているのに、銀さんに昨夜のはじめの勢いはいつまでも戻りそうになかった。
 はっきり射精はしていなくても、ここまでずっととろとろと垂れ流していたに違いない。

 挿入しただけで精一杯。
 今ではに包まれているだけだ。

 ただ、不満かと訊ねられれば違った。
 悪くはない、むしろこのまま一生居たいくらい。
「…ぷっ」


 その図を想像して笑ったら、を勘違いで怒らせた。





裏返し>>>