※お姫様コスプレその3 魔法使い様と。
ひゅーどろろー♪でででででー♪ (北の塔のテーマ)
この国の城は周囲に広大な森を持ち、天然の砦としています。冷たい針葉樹に覆われた、森の北の果てにその塔はありました。
塔には王族お抱えの魔法使いが棲んでいます。豊作や雨を天に祈り、戦では敵国の将を呪い、時には王位を手に入れる為に邪魔な人間を始末させ…。
王様にとって魔法使いは欠かすことのできない存在なのです。
ある日のこと。昼でも暗い森の奥深く、獣の声に怯えながら、たったひとりでこの北の塔を訪ねて来た者がありました。粗末なコートを身にまとい、目深にかぶった赤い頭巾で顔を隠してはいましたが、肩にこぼれる艶やかな黒髪は間違いありません。
姫様です。
日頃は訪れる者もない踏みわけ道を延々と歩き、姫様の足は今にも折れそうに疲れきっていました。やっとたどり着いた塔の入り口で案内を乞う声も震えています。
「どなたかいらっしゃいますか。魔法使い様にお願いがあってまいりました」
見る人もないのに人目をしのび、姫様はこつんこつんと扉についた輪を鳴らしました。
待てどくらせど返事はありません。けれど突然扉は開き、むっと甘苦しい香の臭いに姫様は顔をしかめました。
「………?」
向こうをうかがってみましたが、扉を開けてくれた者はないようです。姫様は恐々塔へ足を踏み入れると、順に奥へと灯っていく明かりに案内されるようにして、塔の内壁に造られた螺旋階段を上っていきました。
やがて塔の中腹にさしかかると、姫様を招き入れるように新たな扉が開きました。いよいよ香りも濃厚です。
漆黒に近い暗闇に蝋燭の火がひとつだけ。
ちらちらと揺れる炎の中に姫様は目当ての姿を見つけました。
姫様は床へひざをつき、失礼のないよう頭巾をとって顔を露わになさいます。魔法使いは現世の理とは違う世界に生きるもの。王族とはいえ敬意をもって対さなければなりません。
「お願いがあってまいりました」
鋭い眼光が姫様をぶしつけに眺めまわしています。王族を前に礼もなく、魔法使いは悠然と椅子へ掛けたまま、長く細いパイプをくゆらせていました。ずっと漂っていた香りは、立ちのぼるこの煙の匂いでした。
「どうかお力をお貸しくださいませ。…しんすけ様」
「…言ってみろ」
ようやくもらえた返事の声は意外に若い男のものです。
王室お抱えの魔法使い、しんすけ様の隻眼がじっと姫様を見据えていました。
険しい道のりをたったひとりで塔を訪ねる…ひとまず最初の関は越えたものの、姫の前には新たな、そして最大の難関が立ちはだかっていました。
姫様の望みは明らかです。
けれどもいったい、それをどう言えばよいのでしょう。
遠回しに、やわらかく分厚い絹に包んでこう言うことしかできません。
「夫である勇者ぎんときが、長らく国を留守にしており、たいへん寂しく思っています…」
しんすけ様は相槌もなく、続きを待っておられます。
やはりこれだけでは何も伝わりませんでした。
「それで…あ、あの…。よ、夜が…」
「あン?」
「夜が、大変に長くて…こ、困っております…」
たったそれだけ言うのにも、姫様の胸はどきどきとして恥ずかしさに破裂しそうでした。
…なにかと思えば。しんすけ様はたちまち肩の力を抜いて、煙をゆっくり一服しました。鬼気迫る姫の形相に少なからず身構えていたというのに、彼に持ち込まれる相談の中では、最も罪のないものです。王様に忘れられた側室や、男子禁制の後宮で暮らさねばならない女官たちがここには頻繁に来ますから。
少しだけ彼を感慨深くさせるものがあるとすれば、それを訴えに来た者が姫様だということでした。数年前にこの国へ来た魔法使いは、この姫様が犬っころのように森を転げ回っていた頃を知っています。それがしばらくみないうちに、ずいぶんとまあ色気付いてしまったものです。
「夜が長い?」
「は、はい…」
「そういう季節だ。仕方あるめぇな」
夏の盛りもようやくすぎて、確かに今は秋のはじめです。しんすけ様はわざと見当はずれな返事をしました。
思った通り、はぐらかされて唖然とする姫にこっそり口元が笑います。勇者とは名ばかり、お調子者の馬の骨がこの国へ来てからというもの、国のまつりごとは順風満帆、魔法使いの出る幕はなくて退屈でならなかったのです。
「え、ええ…、ええっと…、そうではなくて…。いえ、その通りでございますが、そうではなくて…、」
「なんだ」
「あ、眠りが!眠りが、なかなか訪れなくて…」
しんすけ様は手近にあった布袋を、ぽいと姫様のもとへ投げました。魔法使いはお医者の役目もこなします。
袋の中はよく効くねむりぐすりでした。
「ああ。確か粉ぐすりは苦手だったな。どれ、砂糖水で溶いてやろう」
「い、いえっ!結構です!」
もったいなくも魔法使い様が姫のために自ら立ってくださるとは。それだけは頑と遠慮したものの、姫様は途方にくれてしまいました。
いけません、もっとはっきり伝えなくては。
でも。
いつしか姫のりんごのような頬は熱く火照って汗も浮き、蒸し器で何分も温めたようです。
いっそこのまま逃げて帰りたい。
けれどもそれはできません。夜ごと身を苛む苦痛に耐えかね、心を決めてここへ来たのです。
姫様はひとつ大きく息を吸って、はじめから言い直すことにしました。
「その…、夫である勇者ぎんとき様が、長らく留守にしております」
「それはもう聞いた」
「そのせいで、は大変に寂しくて…」
「女官どもがいるだろう。カードの相手でもさせればどうだ」
「は、はい、それは、おっしゃる通りですが、夜に…」
「夜がどうした」
「床の中で、か、体が…少し、お、おかしく…」
「風邪か」
ああもう!
どうして魔法使い様は察してくださらないのでしょう!
天蓋つきの豪奢なベッドはひとりでいると檻のようです。我が身を懸命に抱きしめていても、胸の鼓動はいつまでも止まず、下腹部は重く疼きます。
姫様はその感覚をまざまざと思い出してしまいました。
それは恐怖すら感じる狂おしさでした。ドレスの中に隠された場所が、この部屋の甘い香にそそのかされ存在を熱く訴えます。何かを食べたそうにして、何度もひくひく、口を開けたり閉じたりしています。
このまま何も言わなければ、この苦しみは続くばかりです。
朦朧としだした頭を抱え、姫様は魔法使いの足に額をこすらんばかりに伏せました。
「このことはどうか、しんすけ様おひとりの胸に納めておいてくださいませ」
のどがからからで痛いほどです。なんとはしたないことを言おうとしているのでしょう。
けれどだんだん心のどこかで、慎み深くあることに、ほとほと倦んでもきていました。
「ぎんとき様が、懐かしく…いえ、慕わしくてならないのです。あ、あの方の手や、唇や、温もりが…あ、それから、たくましい…あれ…」
「アレ?」
「あ、アレです!わたくしを、突き刺してくださる、あれ…、あれが、恋しくて、恋しくて」
姫様はお顔を覆い、ついに叫んでしまいました。
「ぎんとき様が欲しくて欲しくて、頭がおかしくなりそうなのです!」
ふわんと腰の浮いた心地がしました。長らく開けっ放しの口から、恥ずかしい汁が垂れました。
消え入りたいほどの恥ずかしさと、反面すがすがしさのまざった気持ちです。
そして男の言葉にも、いたたまれない気持ちと同時に甘美な痛みを感じたのでした。
「つまり男が足りてねぇと」
「やめて…そんな言い方、おやめください…」
この期に及んでもまだ姫様は自分のことに精一杯で、笑い含みの声に気づきません。
「そうだろう?ぎんときの野郎に毎晩ヤられて、すっかりクセになっちまったんだな?」
「ちが…」
「ナニが欲しくて股ぐらをうずうずさせてんだろう?」
「やめて…、お願い…、それ以上…」
「いいだろう」
しんすけ様は不意に立ち上がると、奥のドアへ姫様をともないました。
いつしか闇に慣れていた目に、壁いっぱいの標本や薬の瓶が映りました。禍々しい術を弄した名残が肌をぞわぞわと粟立たせ、姫様の足は竦みます。けれどもう後戻りはできません。
「あれだ」
壁ぎわの椅子には大きな人形がこちらを向いて座っていました。
ヒトの男と同じ体格で、けれども肌はざらついた素焼きのまま。両の眼窩を思わすへこみとどうやら鼻らしい隆起、唇の切れ目はあるものの、「像」と言えるほどには顔立ちも作り込まれていませんでした。
しんすけ様は手早く床へ描いた陣に泥人形を転がすと、姫様にもそばへ座るよう命じました。
「それなら抱き人形をくれてやろう。野郎の身につけていたものがあれば、ヤツそっくりに変化する」
「え…?」
姫様は困ってしまいました。急に言われてもそのような準備はしてきていません。
けれど魔法使いは言います。
「てめぇがそこにいるじゃねぇか」
姫様の身体以上に、ぎんときの臭いのしみついたものはないと。
しんすけ様が手にした小瓶の水薬を姫様にふりかけると、濡れた部分からしゅうしゅうと臭いの強い湯気があがります。
小さな小さな詠唱で、儀式は始まったようでした。
それからまもなくのことです。
人形が動き出しました。
「きゃっ?!」
「動くな」
思わずしり込みをすると、冷ややかな声に叱られました。表情のない人形はその間に姫様へと迫り、やがて唇をうばいました。
「んむ…っ、む…」
おぞましさに口を結んでいると、後ろから乱暴に髪を引かれます。魔法使いのしわざでした。
「あんっ!あ、がっ…!」
無理やり開かされた口へ、人形が食らいつきました。
不思議なことに素焼きの肌は思っていたよりやわらかで、切り込みでしかなかったはずの口の中から舌が伸び、姫様にわけいってきます。
「あっ…、や…あ…んっ、あ…」
逃げる姫様の舌がすくわれ、唇に強く挟まれました。閉じることを許されない口からは豊富な唾液がとろとろとこぼれ、それも人形は吸い尽くしました。
するとなんということでしょう。その口づけを終えた時、泥人形には顔ができていました。
「…銀ちゃん?うそ…」
隣に人がいるのも忘れて姫様は名を呼んでしまいました。確かに愛しい人の面影です。今は遠くの国へ赴き、交渉の席に居るはずの。
勇者ぎんときによく似た顔が、姫の目の前にいたのでした。
「足りねぇな」
「きゃあっ?!痛っ!痛っ!やめてっ!」
しんすけ様に頬をつねられ、痛くて涙がにじみます。
ぎんときに似た人形は、その目にそっと口をつけました。姫様の露を舐めた人形はまたぎんときに近くなりました。
「もっとだ。おまえの汁がもっと要る」
姫様の流すしずくが、この人形を変えるのです。
今ではくしゃくしゃの銀髪を揺らした人形が、姫様を倒し、組み敷きました。首筋に浮いた玉の汗をすすり、人形はまた変化しました。
「使えるもんだな。悪かねぇ」
魔法使いがしげしげと人形の出来を確かめていました。
人形は巧みな手さばきで、姫様の身体をあらわにしていくところです。分厚いコートはとうに脱がされ、ドレスのすそは下着もろとも腹までたくしあげられていました。
力も思いのほか強く、つかまれた足は閉じることができません。
「いやっ!いやいやいや!それはっ…!ああんっ!」
人形の顔は姫様の恥ずかしい場所へ埋められました。
どこよりも、姫様の粋が精製されたその場所の蜜を舌がすくいます。ぴちゃぴちゃと上へ舐めあげる舌先は時々敏感な花芯をつつき、姫様のため息を誘いました。
人形の手は姫様の身体にもなじんだやり方で、彼女を優しくこじ開けるのでした。
「仕上げだ。おまえの中を教えてやれ」
「や…、やだ…それは、だめ…」
わかっていても身体がおびえます。
でも、ずっとこれが欲しかったのも本当です。
人形はもう、並べてもわからないくらいぎんときの姿をしていました。
顔も、身体も、その部分もです。
灼けた火箸よりも熱い棒が、ずぶぶと姫を突き刺しました。
「は、あっ…あぁぁぁ…」
身体の開かされていく感覚に姫様は腰を突き上げます。
びりびりと目玉の裏側が痺れて何も考えられなくなりました。天井がごりごりこすりあげられると、姫様の慎ましいお口からは別人のような声が出ました。
魔法使いが忌々しげに舌を鳴らします。この塔で見てきた彼はよく知っています。王家の女はどれも例外なく淫らな本性を隠し持っているのです。
おかげでその鬱屈した情動が彼の糧にもなるのですが。
しんすけ様はつま先を伸ばし、つんと姫様の肩をつつきました。
「おい、礼をいただくぞ」
「は、ぁ?あっ、ああっ、あっ…」
わずかに目線をよこしたものの、姫様はお人形に夢中です。
どこかに袋いっぱいの金貨を携えてきていたはずですが、どのみち魔法使いへの謝礼は黄金だけで賄えません。
魔法使いが軽く首を振ると、重たいカーテンの隙間から、彼と同じ一つ目が怪しく光りました。
「やれ」
短く命じた声に応えて隙間から一本の太い触手がうねうねと床を這ってきました。触手は床に積まれた本の、中心をなんなく通り抜けます。すり抜けられた後の本には穴らしきものも開いていません。
ただ「それ」が這ったあとの床には、ぬるぬると光る粘液で蛇行する軌跡が残っていました。
ぴくぴくと表面を脈打たせ、姫様を犯す作りものの男根へ存在自体を重ねるように、瘤だらけの触手は挿入を果たしました。
「あああああっ?!」
姫様の小さな身体がくんと浮き上がり、弓なりに反りました。
実体ではない肉茎は行き止まりも突き抜け、神経に添って、さらにその身を貫きます。
「あんっ!?あっ、ああっ、あっ、ああっ、銀…、銀ちゃんっ!銀ちゃんっ!だめ、だめ、だめ、だめ、あああああっ!」
ぎんときとのいとなみで達する絶頂、もっとも高いその瞬間が姫に訪れ、訪れ、また訪れ、
いつまでも去ってゆきません。
「んひっ?んぐ、んっ、んあっ…あっ…?!ああんっ!?」
つま先はひきつり、ありえない形に指は反り返り、悲鳴をあげっぱなしの口からはだらだらとよだれがこぼれます。
姫様はぎんときにしがみつき、狂ったように跳ねました。永遠に続く絶頂はもはや苦行と言っていいものでした。
「ゆっ、許し、もう…っ、死…っ」
「死にゃあしねぇよ。狂いもな。てめえらそんなにヤワじゃねぇ」
ですが魔法使いもその様を見て、微かに目のふちを赤くしていました。
昼も夜も失われた闇の中に、姫様のよがる声は響きます。
満腹になったその生き物がカーテンの向こうへ帰るまで、この世のものとも思えぬ快感は果てもなく続いたのでした。
ちゃららっちゃっちゃっちゃー!(ファンファーレ)
『はふしぎなにんぎょうを手に入れた』